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就業規則違反に対する懲戒処分とは?元検事の弁護士がわかりやすく解説

労働者が就業規則に違反した場合、会社はどのような対応をとることができるのでしょうか。

就業規則は職場のルールであり、違反行為を放置すれば労働環境を悪化させ、他の労働者の意欲を低下させるばかりか、業務の重大なミスにつながり、使用者に大きな損害を及ぼす危険もあります。

他方、就業規則違反を理由とする制裁は、適正を欠けば労働者との間で紛争を招き、会社運営に様々な支障をきたす恐れもあります。

この記事では、就業規則違反の内容と、企業の適切な対応策について説明します。

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1.就業規則とは

就業規則とは、使用者が定める職場規律や労働条件に関する規則類です。従業員規則、工場規則など、名称の如何を問いません。

常時10人以上の労働者を使用する使用者は、法定の事項を就業規則に定めて、労働基準監督署長に届け出る義務があります(労働基準法89条)。

また、使用者は、就業規則を常時各作業場の見やすい場所に掲示又は備え付け、書面交付等の方法で労働者に周知させなければなりません(労働基準法106条1項)。

2.就業規則の服務規律とは

2-1. 就業規則の内容は多岐にわたる

就業時間・休日・休暇に関する事項、賃金に関する事項、退職に関する事項、服務規律に関する事項など、労働条件の基準に関する事項はもとより、その事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合は、必ず就業規則に定めることが求められています(労働基準法89条10号)。

2-2. 就業規則が定める服務規律とは

就業規則の規定のなかで重要なのは、職場の秩序を維持するための約束事である服務規律です。

就業規則における服務規律条項の具体例をいくつか紹介しましょう。

誠実義務
「労働者は会社の指示命令に従い、誠実に職務を遂行し、職場秩序の維持に努めなければならない。」

職務専念義務
「勤務中は職務に専念し、正当な理由なく勤務場所を離れてはならない。」

無断使用の禁止
「会社の施設、物品等を、許可なく職務以外の目的で使用してはならない。」

不正行為の禁止
「職務に関して自己の利益を図ること、又は他より金品を借用し、若しくは贈与を受けること等の不正行為を行ってはならない。」

秘密保持
「在職中及び退職後においても、業務上知り得た会社、取引先等の機密を漏洩してはならない。」

セクシャルハラスメントの禁止
「性的言動により、他の労働者に不利益や不快感を与えたり、就業環境を害してはならない。」

パワーハラスメントの禁止
「職場内の優越的な地位、人間関係を背景とした、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により、他の労働者の就業環境を害する行為をしてはならない。」

個人情報保護 「労働者は、会社及び取引先等に関する情報の管理に十分注意を払うとともに、自らの業務に関係のない情報を不当に取得してはならない。労働者は、職場又は職種を異動あるいは退職するに際して、自らが管理していた会社及び取引先等に関するデータ・情報書類等を速やかに返却しなければならない。」

始業及び終業時刻の記録 労働者は、始業及び終業時にタイムカードを打刻し、始業及び終業の時刻を記録しなければならない。」

遅刻・早退・欠勤 「労働者は、遅刻、早退又は欠勤をする際は、事前に会社に申し出て承認を受けなければならない。ただし、やむを得ない理由で事前の申し出ができなかったときは、事後に速やかに届出をし、承認を得なければならない。」

就業規則に定められた、これら服務規律条項に違反する行為は、就業規則違反となります。

3. 服務規律違反への対応方法

就業規則に定める服務規律に違反する行為があった場合、使用者が労働者に科す制裁が懲戒処分です。懲戒処分の内容も、就業規則に定めることが必要です(労働基準法89条9号)。

懲戒処分の主なものとして、①戒告、けん責、②減給、③降格、④出勤停止、⑤懲戒解雇、⑥諭旨解雇があります。

3-1. 戒告、けん責

戒告とは、将来を戒めることです。始末書の提出を伴いません。

例えば、就業規則違反の具体的な事由、反省と今後の改善を求めることを記載した戒告通知書を作成し、当該労働者を別室に呼び出して、上司が戒告通知書を読み上げ、これを交付します。

けん責とは、戒告に加えて、始末書の提出を求めるものです。

けん責を受けた労働者が始末書を提出しない場合、使用者は始末書の不提出を理由に懲戒処分をすることができるかについては、裁判例が分かれています。

業務上の指示命令に従わないものとして懲戒の対象になるとするものと、始末書の不提出は労働者の任意に委ねられ、その提出を懲戒処分によって強制することはできないとするものとがあります。

3-2. 減給

減給とは、本来ならばその労働者の労務提供に対して支払われるべき賃金から一定額を差し引くことです。「過怠金」や「罰金」と称する例もあります。

減給には、労働者保護の観点から、①1回の額が平均賃金の一日分の半額を超えてはならない、②総額が1賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない、という制約があります(労働基準法91条)。

3-3. 降格

降格とは、役職・職位・職能資格などを引き下げる処分です。

降格は、就業規則違反の事由に対する制裁である懲戒処分として行われる場合だけでなく、通常の人事権の行使として行われることもあります。このため両者の区別がしばしば問題となります。

懲戒処分としての降格の場合には、懲戒処分としての法規制を受けるため、就業規則における根拠事由とその事由への該当性が必要となります。また、懲戒権を濫用したと認められると、降格の処分は無効となります(労働契約法15条)。

これに対し、勤務成績不良を理由として部長を一般職へ降格する場合のように、一定の役職を解く降格について、裁判例は、就業規則の根拠がない場合であっても人事権の裁量の範囲において許容されるとして、人事権の行使が権利濫用にならない限り、降格は有効であるとしています。

【裁判例】

東京地判平成13年8月31日・アメリカン・スクール事件・労働判例820号62頁

学校Yにおいて、施設管理部の部長の地位にあったXが、学校の出入業者から仕事発注の見返りに長期にわたり多額の謝礼を受け取るなどしていたところ、「Yの取引業者から多くの贈答品を許可なく受け取ったことが就業規則に違反し、懲戒処分とする」などの理由により降格・減給されたことから、懲戒処分の無効を主張して、施設管理部長たる地位の確認と、差額賃金及び差額賞与等の支払を請求したケースで、裁判所は、以下のように述べました。

「懲戒処分は企業秩序維持のための労働者に対する特別な制裁であることから、それを行うについて契約関係における特別の根拠が必要とするのが相当であり、就業規則上の定めが必要と解される(労働基準法89条1項9号参照)。したがって、使用者が、懲戒処分として降格処分を行うには、就業規則上懲戒処分として降格処分が規定されていなくてはならない。被告においては、就業規則上懲戒処分として降格の規定はないから、被告は、懲戒処分として降格処分を行うことはできない。

他方、法人は、特定の目的及び業務を行うために設立されるものであるから、この目的ないし業務遂行のため、当該法人と雇用関係にある労働者に対し、その者の能力、資質に応じて、組織の中で労働者を位置付け役割を定める人事権があると解される。そして、被用者の能力資質が、現在の地位にふさわしくないと判断される場合には、業務遂行のため、労働者をその地位から解く(降格する)ことも人事権の行使として当然認められる。したがって、降格処分についての就業規則に定めがない被告においても、人事権の行使として降格処分を行うことは許される。

そして、被告の給与・退職金規定の第9条に各従業員の給料は、地位、能力を考慮して決められる旨の定めがあることからすれば、被用者の降格処分に応じて減給することも許される。

ただし、この人事権の行使は、労働契約の中で行使されるものであるから、相当な理由がないのに、労働者に大きな不利益を課す場合には、人事権の裁量逸脱、濫用として無効となるとするのが相当である。」

3-4. 出勤停止

出勤停止は、労働契約は存続させながら、一定期間の就労を禁止することです。「自宅謹慎」や「懲戒休職」と称することもあります。

出勤停止の場合は、労働者の責めに帰すべき事由があって労務提供がなされないため、出勤停止期間中の賃金は支給されないのが通常です。

出勤停止の期間については、明示の法規制はなく、異常に長い場合は公序良俗(民法90条)による制限がなされるにすぎません。

実務上は、出勤停止の期間を、「7労働日以内」といった規定を置く例が多いようです。

出勤停止期間が長期におよぶ場合、労働者に大きな不利益を与えるため、出勤停止処分が懲戒権の濫用に該当するか否か、厳格に審査されることになります。

3-5. 懲戒解雇

懲戒解雇とは、重大な企業秩序違反に対する制裁としての解雇をいいます。懲戒処分のなかで最も厳しい処分です。

懲戒解雇の場合、通常、解雇予告も解雇予告手当の支払いもなく、即時になされ、また退職金の全部または一部が支給されません

懲戒解雇は、懲戒処分の中で最も重い処分であって、労働者の不利益が大きいため、解雇権の濫用となっていないか厳しく審査されます。

そして、懲戒解雇が無効と判断された場合、原則として、使用者は解雇されてから懲戒解雇が無効と判断される時までの賃金を支払わなければなりません。

このため、使用者は、懲戒解雇を行う場合であっても、懲戒解雇の通告と同時に、予備的に普通解雇の通告をすることがあります。

懲戒解雇と普通解雇とでは、有効性に対する基準は懲戒解雇のほうが厳しいと考えられています。万一、懲戒解雇が権利濫用であるとして無効とされた場合であっても、普通解雇としては権利濫用とはいえず、有効とされるケースもあるため、使用者は予備的に普通解雇を通告するのです。

3-6. 諭旨解雇

諭旨解雇とは、懲戒解雇相当の事由があるが、本人に反省がみられる場合に、解雇事由に関し本人に説諭して退職届を提出させ、解雇するものです。

また、退職届又は辞職届の提出を勧告し、即時退職を求めることを諭旨退職と呼びます。

諭旨解雇、諭旨退職は、労働者側の意向という体裁をとりますが、その実質は懲戒処分なので、懲戒解雇に次いで、権利濫用となっていないかが厳しく審査されます。

【裁判例】

京都地裁平成22年12月15日判決・京阪バス事件・労働判例1020号35頁

Y社に雇用されるバス運転手Xは、飲酒感知器の検査で呼気にアルコールが感知され、また、酒の匂いも確認され、乗務の禁止を命ぜられたこと等を理由として、退職金を5割減額した諭旨解雇処分を受けました。Xは、本件解雇は、解雇権の濫用により無効であると主張しました。Y社の賞罰規程には、懲戒方法のひとつとして諭旨解雇を定め、「退職願を提出させ解雇する」、「退職に応じないときは懲戒解雇とする」、「退職金及び退職慰労金は全額又は一部を支給する」等と定めてありました。

裁判所は、「1回目の呼気検査の際、道路交通法上の酒気帯びの状態には至っていなかった可能性があること」、「酒気帯び状態であれば、仮にそのまま運転していれば道路交通法違反で検挙されることになりかねない程度の非違行為があったものとして解雇に値することが明らかだが、そこまでの断定ができない者についても当然に解雇とすることが社会一般の常識であると評価することには躊躇を感じること」、「本件全証拠をもってしても、Y社において道路交通法上の酒気帯びの状態と断定できなかった者であっても諭旨解雇又は懲戒解雇とする運用があったかどうかは必ずしも明らかでないこと」を考慮すると、「道路交通法上の酒気帯びの状態と断定できなかったXについて諭旨解雇とするのは社会通念上重きに失するもの」と評価せざるを得ず、したがって、「本件諭旨解雇は解雇権を濫用した無効なものといわざるを得ない」と判断しました。

4.懲戒処分の手続

懲戒処分が、服務規律に違反する行為の性質、態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、懲戒権を濫用したものとして懲戒処分は無効となります(労働契約法15条)。

懲戒権の濫用かどうかを判断するにあたり、考慮される事情には、懲戒処分の手続が適正になされたか否かも含まれます。

例えば、就業規則や労働協約で、懲戒にあたって、労働組合との協議や労使代表で構成される懲戒委員会の討議が必要と定められている場合は、この手続を遵守しなければならなりません。

また、不利益な処分である以上、事前に労働者に弁明の機会を与えることが必要です。

労働協約や就業規則に弁明の機会を与えることが定められている場合は、これを欠いた懲戒は無効です。そして、そのような定めがない場合でも、弁明の機会を与えない懲戒処分を無効とする裁判例もあるので、必ず労働者本人に弁明の機会を与えるべきでしょう。

【裁判例】

東京地裁平成22年7月23日・ビーアンドブィ事件・労働判例1013号25頁

Y社の総務部人事部長の地位にあったXが、実施を任された社内旅行に関して不正経費の計上を行ったこと等を理由に懲戒解雇されたことに対し、Xが懲戒事由の不存在等を主張して、労働契約上の地位確認および賃金仮払いの仮処分を申し立てました。

裁判所は、「本件懲戒解雇は、Xに対して全く最終的な弁明の機会等を付与することなく断行されており、拙速であるとの非難は免れず、この点において手続的な相当性に欠けており社会通念上相当な懲戒解雇であるということはできない。」と判示しました。

5.副業や兼業に関する就業規則違反で懲戒処分できるか?

副業・兼業を希望する者は年々増加傾向にあります。

ところが、就業規則で、労働者の副業や兼職の禁止を定めるケースがあります。このような就業規則の定めは有効なのでしょうか。

この点、労働者が就労時間以外の時間をどのように利用するかは、基本的には労働者の自由であることから、労働者の兼業、副業を全面的に禁止する就業規則の規定は、公序良俗(民法90条)に違反し無効です。

他方、裁判例では、例外的に、以下のような場合に、兼業や副業を許可制とする就業規則の条項は有効であると考えられています。以下のような場合、兼業や副業によって企業秩序が乱されたり、労働者の労務提供が不能又は不完全になったりするおそれがあるためです。

  1. ①深夜に及ぶ長時間の副業などで、労務提供に具体的な支障が生じる場合
  2. ②業務上の秘密が漏洩する場合
  3. ③競業により自社の利益 が害される場合
  4. ④自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合

では、就業規則で、使用者の許可なく兼業や副業をすることを禁止する旨定められているにもかかわらず、労働者が無許可で兼業や副業を行った場合に、使用者は労働者を懲戒することができるでしょうか。

多くの裁判例では、就業規則の兼業や副業の禁止規定を限定的に解釈し、企業秩序に影響せず、労務提供に支障がない程度の兼業や副業は、禁止の対象にはならないと判断しています。

【裁判例】

東京地裁平成20年12月5日判決・上智学院事件・判例タイムズ1303号15頁

Xは、昭和57年4月、Yに雇用され、Yが設置するA大学の教員(平成11年4月以降は外国語学部英語学科教授)を務めていました。Xは、Yの許可を得ないで、雇用される前後を通じて同時通訳業、平成10年頃からは土曜日に語学講座の経営を営んでいたほか、平成13年4月から平成18年8月まで夜間に語学学校の講師も務めていました。海外で同時通訳を実施するために、講義を休講したり、代講としたことがありました。Yは、Xに対し、無許可で通訳業などを営んだこと、同時通訳を実施するために休講、代講としたことが、就業規則で懲戒事由に定める無許可兼業、職務専念義務違反に該当するなどとして、Xを懲戒解雇(諭旨解雇)しました。

裁判所は、副業・兼職禁止規定について、概要、以下のとおり述べました。

懲戒事由に定める無許可兼業には、職場秩序に影響せず、労務提供に格別の支障を生じさせない程度・態様のものは含まれず、労働時間外に実施された語学講座の経営・語学学校の講師、同時通訳業のうち授業などの労務提供に支障を生じさせていないものは、無許可兼業に該当しない。

休講、代講とした回数、実施した同時通訳がいずれも政府機関等が実施する国際会議でのものであることなどの事情からすると、同時通訳を実施するために休講、代講としたことは無許可兼業、職務専念義務違反に該当しないし、Yがこれまで同時通訳業を営んでいることや、休講、代講が少なくないことを把握していながら、このことを問題としていなかったなどの経過からすると、これらが懲戒事由に該当するとしても、本件懲戒は解雇権を濫用したものである。

6.まとめ

就業規則の服務規律違反を放置するべきではありませんが、安易な懲戒処分は厳禁です。

懲戒権の濫用とならないか否かは慎重に検討する必要があります。

是非、労使問題に強い弁護士へ事前にご相談ください。

弁護士 上原 幹男

弁護士 上原 幹男

第二東京弁護士会所属

この記事の監修者:弁護士 上原 幹男

司法修習後、検事任官(東京地方検察庁、奈良地方検察庁等)。検事退官後、都内法律事務所にて弁護士としての経験を経て、個人事務所を開設。 2021年に弁護士法人化し、現在、新宿事務所の他横浜・立川にも展開している。元検事(ヤメ検)の経験を活かした弁護活動をおこなっている。

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