上原総合法律事務所では、しばしば、事件を起こした公務員の方からご相談をいただきます。
どのような行為に対し、どのような処分が下されるのでしょうか。
安定した身分で羨望される公務員ですが、ひとたび不祥事を起こせば、世間から強い非難を浴びます。
この記事では、国家公務員、地方公務員、それぞれにつき、どのような行為が懲戒処分の対象となり、これに対し、どのような処分が下されるべきなのかについて、その基準・目安を、具体例とともに解説します。
Contents
懲戒処分とは、国家公務員、地方公務員の非違行為の責任を追及し、制裁として実施される処分です(国家公務員法82条1項、地方公務員法29条第1項)。
犯罪を犯した公務員や、勤務態度等に問題がある公務員に対しては、懲戒処分の他にも、法律上、次の各対応が定められています。
①失職…公務員が、禁錮刑以上の刑罰を受ける等の「欠格条項」に該当したときに、当然に職員の身分を失うことです(国家公務員法76条、38条1号、地方公務員法28条4項、16条)。
②分限…その職に就かせることが、行政運営の上で不適切なときに行われる処分で、懲戒処分と異なり、責任追及や制裁の意味は持ちません。理由に応じて、降任・休職・免職・降給があります(国家公務員法75条、78条、79条、80条、地方公務員法27条、28条)。
懲戒処分の種類は、①戒告、②減給、③停職、④免職です(国家公務員法82条1項、地方公務員法29条1項)。
①戒告は、職員の責任を確認し、将来を戒めることです。
②減給は、一定期間、給与を減額して支給することです。
国家公務員の場合、1年以下の期間、その発令の日に受ける俸給の月額の5分の1以下に相当する額を、給与から減じるとされています(人事院12-0第3条)。
地方公務員の場合、その地方公共団体の条例によりますが、例えば東京都では、1日以上6ヶ月以下の期間、その発令の日に受ける給料及び地域手当の合計額の5分の1以下を減ずるものとされています(東京都「職員の懲戒に関する条例」第3条1項)
③停職は、職員の身分を有したまま、職務に従事させず、無給とすることです。
停職期間は、国家公務員の場合、1日以上1年以下の範囲です(人事院規則12-0第2条)。
地方公務員の場合は、その地方公共団体の条例によりますが、例えば東京都では、停職期間は、1日以上6ヶ月以下とされています(東京都「職員の懲戒に関する条例」4条1項)。
④懲戒免職は、制裁として公務員の身分を奪うことです。
懲戒免職されると、国家公務員の場合、処分から2年間を経過しない間は欠格条項に該当し、人事院規則で定める場合を除くほか、官職に就くことができません(国家公務員法38条2号)。
地方公務員の場合、条例で定める場合を除くほか、職員となり、又は競争試験若しくは選考を受けることができません(地方公務員法16条2号)。
懲戒事由は、次のとおり定められています(国家公務員法82条1項、地方公務員法29条第1項)。
①法令等の違反
・国家公務員の場合:国家公務員法、国家公務員倫理法、又はこれら法律に基づく命令に違反したとき
・地方公務員の場合:地方公務員法、同法第57条の特例法、又はこれらに基づく条例、規則、規程に違反した場合
②職務上の義務に違反し又は職務を怠った場合
③全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあった場合
上記のとおり、懲戒事由は法定されていますが、いずれも抽象的な定めに過ぎません。
このため、どのような行為が懲戒対象となるか、どのような内容の処分がなされるのか、不公正な運用となる危険性があります。
そこで、国家公務員、地方公務員のいずれについても、「懲戒処分の指針」が設けられています。
・国家公務員 「懲戒処分の指針について」人事院事務総長発・平成12年3月31日職職-68)
・地方公務員の例 東京都「懲戒処分の指針」(令和4年11月11日改正)
公務員に対する懲戒処分は公表される場合があります。
国家公務員の場合、①職務遂行上の行為又はこれに関連する行為への懲戒処分、②職務に関連しない行為への懲戒処分でも、免職又は停職である懲戒処分については、公表されることが原則です(人事院事務総長発「懲戒処分の公表指針について」平成15年11月10日総参-786(※))。
ただし、被害者又はその関係者のプライバシー等の権利利益を侵害する恐れがあるとき等、全部又は一部の公表を控える場合もあります(人事院事務総長発「懲戒処分の公表指針について」平成15年11月10日総参-786(※))。
地方公務員の場合、例えば東京都では、①地方公務員法に基づく懲戒処分、②管理監督者の職にある者の非違行為に対して、懲戒処分と併せて行った分限降任処分、③これら以外でも、特に都民の関心の大きい事案又は社会に及ぼす影響の著しい事案は公表されることが原則です(東京都「懲戒処分の指針」)。
ただし、やはり被害者等のプライバシー等の権利利益を侵害する恐れがあるとき等は、一部又は全部の公表を控える場合もあります(東京都「懲戒処分の指針」)。
国家公務員でも、地方公務員でも、懲戒処分を受けた個人が識別できない内容で公表することを原則としますが、事案の内容に応じ、別途の取扱いとされる場合があります。
例えば、東京都では、免職を行った場合や、争議行為等、社会に及ぼす影響が大きい事案は、所属、職名及び氏名等の個人情報を公表する場合があるとされています(東京都「懲戒処分の指針」)。
実際に、公表された最近の懲戒処分をいくつかご紹介しましょう。
【交通事故】東京都 懲戒免職
福祉局職員は、公務外で自家用車を運転中、自転車と接触し、傷害を負わせたのに、救護等することなく現場を離れた。
【わいせつ行為】東京都 懲戒免職
主税局職員は、面識のない女性に声をかけ、飲食した後、帰宅する女性につきまとい、嫌がる女性に対し、路上及びマンション外階段において、無理矢理わいせつな行為をした。
福祉局職員(女性・25歳)は、任命権者の許可を得ることなく、マッチングサイトで知り合った男性と金銭を得ての飲食等を行い、約22万円の収入を得た。
地方支分部局長は、部下を含む複数の者に対する威圧的な言動を行ったほか、職員への指導にあたり業務上必要かつ相当な範囲を超える言動で精神的苦痛を与え、職員を心的ストレスによる精神疾患に罹患させた。
環境農政局職員は、勤務場所で同僚職員に暴行し、不適切な発言をした。
教育課職員は、信号機のない直線道路を自家用自動車で走行中、前車との間に適正な距離を確保しなかったため、前車が急停止した際、前車の後方部に自車の前方部を追突させた。その結果、相手方に頸椎捻挫及び腰椎挫傷の傷害を負わせた。
公務員が懲戒免職となった場合、事案に応じて、退職手当の全部または一部が不支給となることがあります。
国家公務員が懲戒免職となった場合、その職員の職務及び責任、行った非違の内容及び程度、非違が公務に対する国民の信頼に及ぼす影響その他の政令で定める事情を勘案して、退職手当の全部又は一部を支給しないとする処分を行うことができます(国家公務員退職手当法12条1項1号)。
地方公務員の場合、例えば、東京都では、その職員が占めていた職の職務及び責任、勤務の状況、行つた非違の内容及び程度、非違に至つた経緯、非違後の言動、非違が公務の遂行に及ぼす支障の程度並びに非違が公務に対する信頼に及ぼす影響を勘案して、退職手当の全部又は一部を支給しないとする処分を行うことができます(東京都「職員の退職手当に関する条例」17条1項1号)。
もっとも、懲戒免職処分を受けたからといって、当然に退職金を不支給とできるわけではありません。
【裁判例】京都地裁平成24年2月23日判決・労働判例1054号66頁
京都市教育委員会が、酒気帯び運転により物損事故を起こした中学校教頭Xに対し、酒気帯び運転をしたことなどを理由として、懲戒免職処分及び一般の退職手当の全部を支給しないことを内容とする退職手当支給制限処分を行ったところ、Xが、退職手当支給制限処分については裁量権の濫用であるなどと主張し、同処分の取消しを求めた事案です。
裁判所は、「そもそも懲戒免職処分は、非違行為をした者に職員としての身分を引き続き保有させるのが相当かという観点から判断されるのに対し、退職手当は、通常であれば退職時に支払われる一時金を支払うのが相当かという観点から判断されるものであって、懲戒免職処分と退職手当の不支給は論理必然的に結びつくものではない」とし、退職手当が「賃金の後払いとしての性格を有することに照らすと、……全額の支給制限が認められるのは、当該処分の原因となった非違行為が、退職者の永年の勤続の功をすべて抹消してしまうほどの重大な背信行為である場合に限られると解するのが相当である」と判示して、退職手当の全部不支給処分が裁量の逸脱濫用に当たるか否かを判断する具体的基準を示しました。その上で、本件非違行為がXの永年の勤続の功績をすべて抹消するほどの重大な背信行為であるとまでは到底言えないとして、本件処分は、社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用したものとして違法であると判断しました。
懲戒処分は、当該職員に対し書面を交付して行われます(国家公務員について人事院規則12-0第5条、地方公務員について、東京都の場合、東京都「職員の懲戒に関する条例」第2条)。
また、当該職員に対し、処分の事由を記載した説明書の交付が必要とされています(国家公務員法89条、地方公務員法49条)。これは本人に懲戒処分の理由を告知し、事後的に争う機会を保障するためです。
懲戒処分に不服がある場合は、国家公務員の場合、人事院に対し、処分説明書を受領した日の翌日から起算して3ヶ月以内かつ、処分日の翌日から起算して1年以内であれば、審査請求をすることができます(国家公務員法90条1項、90条の2)。
地方公務員の場合は、人事委員会または公平委員会に対し、処分があったことを知った日の翌日から起算して3ヶ月以内かつ、処分日の翌日から起算して1年以内であれば、審査請求をすることができます(地方公務員法49条の2第1項、第49条の3)。
審査請求で不服が認められれば、懲戒処分の取消しや処分内容の修正等が行われます(国家公務員法92条、地方公務員法50条3項)。
また、裁判所に対し、懲戒処分の取消訴訟を提起し、救済を求めることができます。
ただし、懲戒処分に不服があっても、いきなり裁判所へ取消訴訟を提起することはできず、必ず不服審査を経ることが必要とされます。これを不服申立前置主義と呼びます(国家公務員法92条の2、地方公務員法51条の2)。
上原総合法律事務所では、事件を起こしてしまった公務員の方からのご相談をお受けしています。
懲戒処分を受けるにしても免職されるかどうかで、後の人生に大きな違いを生じます。 免職され得る事件でも、事案によっては、しっかりと被害弁償などし、情状をよくすることで免職を避けられることもあります。
事件を起こしてしまった公務員の方、そのご家族の方は、お気軽にご相談ください。
弁護士 上原 幹男
第二東京弁護士会所属
この記事の監修者:弁護士 上原 幹男
司法修習後、検事任官(東京地方検察庁、奈良地方検察庁等)。検事退官後、都内法律事務所にて弁護士としての経験を経て、個人事務所を開設。 2021年に弁護士法人化し、現在、新宿事務所の他横浜・立川にも展開している。元検事(ヤメ検)の経験を活かした弁護活動をおこなっている。
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