怒りの感情などから、感情をコントロールすることができず、つい「殴るぞ」などの言葉を吐き出してしまうことがあります。
これらの言葉が良くないものであることは分かるものの、言動などは受け手側の事情によって捉え方が変わりますから、実際に脅迫罪が成立しているのか分からないと、悩まれている方も多いのではないでしょうか。
この記事では、脅迫罪の成立要件、検挙された場合の逮捕率、不起訴率などの統計情報、そして元検事集団である当事務所にできることなどを説明します。
脅迫罪(刑法222条)は、相手方本人又はその親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対して害を加える旨、脅したり、威嚇した場合に成立します。
脅迫罪の刑罰は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金です(脅迫罪の時効は3年です)。
どのような場合に脅迫罪になるのかについて,以下詳しく説明します。
1 加害対象(誰を害すると言うと脅迫罪となるのか)
相手方本人又はその親族を対象とした脅迫でなければ成立しません。
親族の範囲は、6親等内の血族、配偶者及び3親等内の姻族です(民法725条)。
そのため、内縁関係は含まれません。
例えば、「本人、両親、子供を殺すぞ」と告げることは脅迫罪となります。
一方、「内縁の妻、恋人、友人、職場の同僚を殺すぞ」と告げたとしても、脅迫罪は成立しません。また、法人に対する脅迫罪も成立しません。
2 加害内容(何を害すると言うと脅迫罪となるのか)
相手方本人又は親族の、①生命、②身体、③自由、④名誉、⑤財産、5つを内容とする脅迫でなければ成立しません。
また、告げられた相手を「怖がらせる程度の脅迫」である必要があります。
ただ、同じように脅迫しても、怖がる人と怖がらない人が存在します。
「怖がらせる程度の脅迫」とは、どのように判断されるのでしょうか。
これについて、脅迫文言のほか、告げられた時間や場所などの状況、相手の年齢、体格や職業、相手との関係などから、客観的に判断されます。
例えば、仲が良い友人と遊んでいる中、冗談で「殴るぞ」と告げても脅迫罪は成立する可能性が低いですが、一方、大男が夜の暗がりでトラブルになった見知らぬ相手に対して「殴るぞ」と怒鳴った場合は脅迫罪が成立する可能性が高いというようなイメージです。
脅迫罪の成否は、相手との関係やその時の状況によって変わります。
一般的な脅迫文言は、以下のとおりです。
これらの文言は脅迫罪で問われる可能性が高いですので注意が必要です。
生命:「殺すぞ」
身体:「殴るぞ」、「犯すぞ」、「痛い目にあわすぞ」
自由:「子供を誘拐するぞ」、「ここから出さないからな」
名誉:「不倫を職場に公表するぞ」「裸の写真をネットに晒すぞ」
財産:「車をボコボコにするぞ」
3 告知の方法(どうやって言うと脅迫になるのか)
直接口頭で告げるほか、手紙や電話、メールやLINEでも成立する可能性はあります。
また、ツィッターやインスタグラムなどのSNSや掲示板に投稿する行為でも成立する可能性はあります。
脅迫罪には未遂がないため、脅迫行為を行った時点で犯罪が成立します。
そのことから、頭に血が上って咄嗟に出た言葉であったとしても、その時点で脅迫罪が成立してしまう可能性があります。
令和元2年(2020年)の検察統計年報によると、検察庁で処理された脅迫罪のうち、約60%が逮捕されています。
これに対し、傷害罪は約50%、窃盗罪は32%が逮捕されています。
次に逮捕された人のうち、勾留されたのは約90%です。
傷害罪は70%、窃盗罪は84%が勾留されています。
他の犯罪と比べ、逮捕・勾留される可能性が高いことが分かります。
脅迫をして被害者に警察に行くと言われたり、実際に警察から連絡が来た場合、どうすれば良いか悩むと思います。このような場合、早急な対応が必要です。
脅迫罪は、まだ行っていない害悪を告知する罪ですので、被害者も警察官も「実際に危害を加えられるのではないか」ということを最も心配します。
そのため、まずは脅迫してしまった事実を認めて謝罪し,危害を加えないことを被害者や警察官に伝えるのが大切です。その後,示談をすることが重要です。
このことは、すでに逮捕されてしまった場合でも当てはまります。
逮捕された後、検察官は、証拠隠滅や逃亡の恐れがあると考えれば、裁判官に対して勾留を請求します。
勾留を請求された裁判官は、証拠隠滅や逃亡の恐れがあるので身柄拘束すべきであると考えれば勾留を決定します。
この判断において,検察官や裁判官は、被害者に働きかけをして口裏合わせをするなどして証拠隠滅しないかということを心配します。この際に,脅迫してしまった事実を認めて謝罪し,危害を加えないことを被害者や警察官に伝えている方が,被害者に働きかけをして口裏合わせなどをする危険性が下がり,勾留すべきという判断をされにくくなります。
また、被害者に対して謝罪や慰謝料の支払いなどを行って示談を成立させて被害届を取り下げてもらうことができれば,より勾留されにくくなりますし,勾留されたとしても早期の身柄解放が期待できます。
また、何らかの事情でこれらができなかったとしても、逮捕や勾留といった身柄の拘束が行われるのは、
➀証拠隠滅の恐れ(物的証拠の破壊、被害者を脅したり、関係者との口裏合わせなど)
②逃亡の恐れがある場合
ですから、家族などの身元引受人を用意したり、上申書を作成して反省の態度を示したり,勾留する必要がない理由を書いた意見書を弁護士から検察官や裁判官に提出することで、勾留を避けることができる可能性もあります。
脅迫罪は、言動により行われることが多いため、誰しも怒りの衝動で犯してしまう恐れが高い犯罪です。
警察に検挙された場合、身柄を拘束される恐れが高いため、早期に対処することが重要な犯罪の1つと言えます。
釈放、保釈について詳しくは,「釈放、保釈してほしい」,示談については「示談について」をご参照ください。
令和元2年(2020年)の検察統計年報によると、検察庁で処理された脅迫罪の起訴率は37.2%です。不起訴率は62.8%です。
不起訴の理由を見ると、不起訴のうち約70%は起訴猶予です。
起訴猶予とは、犯罪が行われたことは明らかであるものの、被疑者の年齢、境遇、犯罪軽重や犯行後の情状などを考慮して起訴をしないという処分のことです。
起訴猶予となるために重要なことは、被害者に謝罪をし、示談を成立させることです。
初犯で、謝罪や示談を成立するなど適切な対処を行えば、不起訴処分になりやすいです。
詳しい示談の内容に関しては「示談について」をご参照ください。
脅迫を受けた場合、実際に危害を加えられる恐れがあるので,まず警察に相談することが重要です。
録音データ、メールやLINE、掲示板のスクリーンショットなどの証拠があるのなら、持っていくことで具体的な話をできることも多いです。
とはいえ、警察に行くことは勇気のいることだと思います。
傷害事件であれば、体の傷という確たる証拠があるため、被害申告もしやすいですが、脅迫罪の場合、主に言動により行わるため、言われた言葉が脅迫罪に該当するか否かの判断がつかず、泣き寝入りされている方も多いのではないでしょうか。
脅迫罪は脅迫内容の悪質性などにもよりますが、適切に対処すれば不起訴処分を獲得できる可能性のある犯罪です。
上原総合法律事務所では、刑事事件を熟知している元検事の弁護士が示談交渉、早期の身柄解放などの弁護活動に加え、逮捕勾留中の勤務先への対応など、刑事事件に伴う困りごとへのアドバイスなど直接対応します。
脅迫罪を犯した方やそのご家族の方、脅迫の被害に苦しんでいる方、是非はお気軽にご相談ください。
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