上原総合法律事務所では、顧問先企業などから、雇用契約書に関するご相談をいただきます。
パート社員(パートタイム労働者)を雇用する際にも、正社員と同様に雇用契約書を締結することが望ましいです。労働基準法その他の法令のルールを踏まえて、適切な内容・形式により雇用契約書を締結する必要があります。
本記事ではパート社員(パートタイム労働者)の雇用契約書について、法律のルールや注意点などを解説します。
Contents
パート社員(パートタイム労働者)とは、正社員に比べて労働時間が短い労働者をいいます。
パートタイム・有期雇用労働法※では、1週間の所定労働時間が通常の労働者(正社員)よりも短い労働者を「短時間労働者」と定義し、待遇面に関する保護を行っています。
※正式名称:短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律
パート・アルバイトなどの呼称にかかわらず、通常の労働者(正社員)よりも1週間の所定労働時間が短ければ、短時間労働者としてパートタイム・有期雇用労働法が適用されます。
パート社員を雇用する際に、会社とパート社員の間で取り交わされる主な書類は、「労働条件通知書」と「雇用契約書」の2種類です。
「労働条件通知書」とは、会社が労働者に対して、労働条件を明示するために交付する書面です。
会社は労働者を雇い入れる際、以下の事項を記載した労働条件通知書を交付することが義務付けられています(労働基準法15条1項、同法施行規則5条1項、パートタイム有期雇用労働法6条1項、同法施行規則2条1項。ただし⑦~⑭については、定めがない場合は不要)。
<すべての労働者に対して明示すべき事項>
<短時間労働者に対して明示すべき事項>
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労働条件通知書は、労働者が希望する場合に限り、ファクシミリや電子メールによって送信・交付することも可能です(労働基準法施行規則5条4項)。
「雇用契約書」とは、会社と労働者の間の雇用関係に関して締結される契約書です。
雇用契約書には、労働条件通知書に記載すべき事項のほか、労働条件の詳細やトラブル発生時の処理方法などが定められます。
労働条件通知書は、会社が労働者に対して一方的に交付する文書です。これに対して雇用契約書は、会社と労働者が共同で作成・締結する文書です。
労働条件通知書の交付は会社に義務付けられていますが、雇用契約書の締結は法律上必須ではありません。しかし、労働条件についての合意内容を明確化するためには、雇用契約書を締結することが望ましいでしょう。
会社がパート社員と雇用契約書を締結する際には、特に以下の事項に注意した上で労働条件等を決定しましょう。
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雇用契約には、期間の定めがない「無期雇用契約」と、期間の定めがある「有期雇用契約」の2種類があります。
無期雇用契約は、期間満了によって終了することがなく、解雇の要件を満たさなければ会社が一方的に契約を終了させることはできません。
これに対して有期雇用契約の場合は、原則として期間満了時に、会社の判断で契約を終了させることができます(=雇止め)。
パート社員とは有期雇用契約を締結するケースが多いですが、雇用の目的に応じて、雇用契約の種類を選択しましょう。
なお、有期雇用労働者の雇止めは必ず認められるわけではなく、「無期転換ルール」(労働契約法18条)や「雇止め法理」(同法19条)によって制限される場合がある点に注意が必要です。
実際に雇止めを行う際には、厚生労働省が公表している雇止め基準を参考にして、トラブルの防止に努めることが望ましいです。
参考:
有期雇用契約の締結、更新及び雇止めに関する基準(厚生労働省告示第357号)|厚生労働省
正社員とは異なり、パート社員の労働時間は、個々の労働者ごとに定めることが多いです。
始業・終業・休憩時刻などを、雇用契約書に明記しておきましょう。また、シフト制を採用する場合には、シフトの決定方法や最低ラインなども雇用契約書に定めましょう。
パート社員の待遇については、就業規則に定める基準以上とする必要があります。就業規則に達しない労働条件を雇用契約書において定めても、その労働条件は無効となり、就業規則の基準が適用される点に注意が必要です(労働契約法12条)。
また、パート社員の賃金は、最低賃金以上の金額としなければなりません。都道府県ごとに定められた「地域別最低賃金」と、都道府県および業種ごとに定められた「特定最低賃金」のうち、いずれか高い方が適用されます。
地域別最低賃金は、毎年10月をめどに改定されます。特に近年では、地域別最低賃金が大幅に引き上げられる傾向が続いているので、パート社員の賃金についても定期的に見直しを行いましょう。
パート社員の待遇を、正社員に比べて不合理に低く設定した場合は、「同一労働同一賃金」(パートタイム・有期雇用労働法8条、9条)に違反して違法となります。
実際には、パート社員は正社員の補助的な業務を担うことが多いでしょう。この場合、業務内容・責任・配置転換の範囲等の観点から、正社員とパート社員の間で待遇差を設けることは認められます。
これに対して、パート社員が正社員とほぼ同様の働きをしているにもかかわらず、「パートだから」という理由だけで待遇を低く抑えることは、同一労働同一賃金違反となるので注意が必要です。
「特定適用事業所」または「任意特定適用事業所」においては、一定の要件を満たすパート社員を社会保険に加入させる必要があります。
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<社会保険加入義務の要件>
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なお、2024年10月1日以降は、短時間労働者を除く被保険者の総数が常時50人を超える(=51人以上の)事業所が「特定適用事業所」となり、新たにパート社員を社会保険に加入させる義務の対象となる点にご留意ください。
契約書は、適切に作成することでトラブルを予防するとともに、揉め事が起きそうになった時に会社を守る役割を果たします。会社がパート社員を雇用する際には、不備のない雇用契約書を取り交わし、トラブルを未然に防ぐ必要があります。
上原総合法律事務所では、労働問題に詳しい弁護士が、企業からのご相談をお受けしています。必要な契約形態のご相談をお受けすることもできますし、ご想定の労働条件を適切に反映し、実態に合わせた雇用契約書の作成やリーガルチェックを行います。
お困りの方は、お気軽にご相談ください。
弁護士 上原 幹男
第二東京弁護士会所属
この記事の監修者:弁護士 上原 幹男
司法修習後、検事任官(東京地方検察庁、奈良地方検察庁等)。検事退官後、都内法律事務所にて弁護士としての経験を経て、個人事務所を開設。 2021年に弁護士法人化し、現在、新宿事務所の他横浜・立川にも展開している。元検事(ヤメ検)の経験を活かした弁護活動をおこなっている。
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