会社(個人事業主の場合も同様ですが、便宜上、この解説記事では会社といいます)がビジネスを遂行する過程において、顧客からクレームを受けることがあると思います。顧客からのクレームには、商品やサービスの問題・改善点を気付かせてくれる有益なものもあれば、クレームと称して理不尽な要求をする悪質なケースもあります。
このとおりクレームには様々な種類がありますが、どのように対処すれば良いのでしょうか。
この記事では、顧客からのクレーム対応時に注意すべきポイントと、具体的な対応方法について解説します。
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会社に非がある点については謝罪すべきですが、それが無い場合には、不当な要求には応じないのが基本的に正しい態度です。不当な要求に屈すると、非を認めたものと受け取られ、顧客の不当な要求がさらにエスカレートしがちです。
次のような観点から検討してみましょう。
・クレームの原因は、会社のミスか否か 例:製品が不良品であれば会社のミスですが、購入者が正しい使用方法をしないことにより不良が生じたのであれば、会社のミスではありません。
・顧客に何らかの不利益が発生しているか、それとも感情を害しているだけか 例:ファミリーレストランの店員が配膳で料理をこぼして客の洋服が汚れたなら、クリーニング代または洋服代の実害が発生していますが、お皿の置き方が雑で気に入らないというなら、感情だけの問題です。
・顧客の要求内容や要求方法が社会通念上相当なものか 例:通販で届いた中古タブレットの画面が割れていたから返金しろというなら要求内容として相当ですが、新品のタブレットと交換しろというなら不相当です。
例:電話、メール、手紙などで要求を伝えたり、常識の範囲内の時間で面談したりするなら相当ですが、要求を受け入れるまで居座ったり、執拗に電話をかけて他の業務に支障を生じさせたりするなら不相当です。
クレームの原因が会社にあるのか、顧客にあるのかを判断することは最も重要です。
会社としてクレームに対応し、何らかの改善を検討する必要があるのかを判断するにあたって、重要なポイントになるからです。
一方で、クレームの原因が会社にあるのか、顧客にあるのか、あるいは双方にあるのかは、簡単に判別できるとは限りません。会社のミスにもかかわらず、顧客に責任があると判断を誤れば、顧客をさらに怒らせてしまいます。会社内での慎重な調査が重要になります。
クレームの中には、商品・役務に対する正当な苦情とはかけ離れた、悪意のあるものもあります。たとえば、以下のような不合理な要求や脅迫に近い行為が見られる場合には、これに従うことにより、ますます相手の言動をエスカレートさせる危険があります。状況によっては、毅然とした対応を取ることが必要です。対応する従業員には過度な負担となり、日常業務が停滞することも考えられますので、クレーム対応は弁護士に委任することが適切かもしれません。
■「本日中に対処しろ」、「この場で結論を出せ」
顧客からのクレームには迅速に対応するべきですが、多くの場合、クレームを受けたその日、その場で処理するのは困難です。現場で対応する従業員の一存では決められない事項もあるはずですので、そうした場合には、持ち帰って検討する必要がある旨をはっきりと伝える必要があります。
■「謝りに来い。来ないと、こちらから乗り込むぞ」
会社に非があり、誠実に謝罪すべきケースでは、謝罪のために顧客を往訪することもあります。他方で、明らかに悪意のあるクレームの場合に、執拗に謝罪のための往訪の要求を受けたり、往訪しない際には会社に乗り込むといった脅迫じみた言動が見られるケースもあるかもしれません。そのような場合に往訪しても、顧客の言動はエスカレートするだけのことが多いですし、往訪する従業員に危険が及ぶ可能性もあるので、安易にこれに応じるべきではないと思われます。
万が一、顧客が本当に会社に乗り込んで来て、退去要求に従わず居座ったり、他の業務に支障を生じさせたりした場合は、刑法上の不退去罪(刑法130条)や威力業務妨害罪(刑法234条)に該当するケースもありますので、警察に通報することも考えられます。
上記のような局面では対応を弁護士に委ねることも選択肢の一つです。
■「返金や同等品との交換ではなく、最高級品に交換しろ」
仮に、不良製品であっても、返金や同等品との交換で、顧客の損害は補填できますから、それ以上の高級品を求めるのは過剰かつ不当な要求であり、これに応じる必要はありません。
■執拗に電話をかけてきて、数時間通話を続け、電話を切らない
クレームの電話が長時間にわたり、なかなか電話が切れないこともあるかもしれません。通常業務を犠牲にしてまで電話対応に応じる義務はありませんので、常識の範囲内で話を聴取したら、「十分ご趣旨は伺いました」、「回答は書面でお送りします」などの対応をして打ち切ることも選択肢の一つです。
■「要求に応じないなら、ネットやマスメディアに暴露するぞ」
顧客が脅迫行為に及ぶ場合には対応を弁護士に委任したり、警察に相談すべき局面になります。
顧客からクレームを最初に受けた際、その内容が正当なものかはすぐには分かりません。初動を誤ることにより顧客のクレームが過当なものに変容していくこともありえますので、まずは、クレームの内容について丁寧に聞き取りを行う必要があります。真摯に聞き取りを行うことにより、顧客の不満が解消されるケースもあるでしょう。
顧客の言い分を聴取したら、それが事実か否かを確認する必要があります。製品の故障であれば、技術部門で当該製品を調査する必要があるでしょう。従業員のサービスに問題があったというなら、当該従業員や上司・同僚等から事情を聴取することが考えられます。
会社内の事実調査を踏まえて、対応方法も検討します。会社に非があり、顧客の要求していることがそれに相当する内容であれば、顧客の要求に応じることが基本的な対応になるはずです。
会社に非はあるとしても、顧客の要求内容が不相当であると判断される場合には、会社が合理的と考えられる範囲の条件を提示することになるでしょう。
会社が合理的と考えられる範囲の条件を提示しても顧客が受け入れてくれない場合や、そもそも顧客のクレーム自体が悪意のある内容の場合には、顧客の要求には応じられないことを丁寧に説明したうえで、場合によっては顧客の要求を毅然と断ることが必要になるでしょう。それでも顧客の理解が得られない場合には、対応を弁護士に相談することも選択肢の一つです。
電話での応対は、言葉だけのやりとりのため、どうしても長くなりがちです。顧客は、自分の不満、不平を理解してもらいたいという思いが先走り、饒舌となるからです。
聞く側からすると、無駄な話が多く、手短に要点を伝えて欲しいところですが、顧客の話の腰を折ったり、言葉を遮ったりすることは控えるべきです。前述のとおり、言い分を十分に聞いてもらったと認識してもらうことも重要だからです。
電話で話を聴き終えたら、「お申し出の件を調査して、結果をご報告します」、「ご要望に添えるかどうか、社内で検討して、当方からご連絡します。●日程度、お時間をください。」など、話を聞いて終わりではなく、今後も具体的な対応を進めることを伝え、顧客を安心させるべきでしょう。
メールは多くの場合、無駄がなく、事実関係を早期に把握するのに適しています。顧客からの文面では不明な箇所を質問して、返答を得るやりとりも簡単にでき、効率的です。
他方、面談と違い顧客の表情を知ることはできませんし、電話と異なり顧客の声の抑揚もわかりませんから、メールでは、顧客の感情、不満・怒りの度合いの把握が困難です。淡々とした事務的な文面だったけれど、本当は激しく怒っていたというケースもあり得ますので、丁寧な聞き取りが重要になる点は変わりません。
また、メールの文面は証拠として残りますし、容易にネットに流出しますから、返信に記載する内容は十分に吟味しなくてはなりません。軽々に過失や責任を認める文面を送ることは避けるべきです。内容・表現に不適切な点がないかは会社内で慎重にチェックする必要があります。
対面の場合は、顧客の表情や態度がわかると同時に、こちらの表情や態度も顧客に見られていることを忘れてはいけません。口頭でのやり取りになるので表現には細心の注意が必要になります。
なお、顧客が激昂している場合もあると思いますが、それにつられてこちら側の言動が激しくならないように注意する必要があります。どのような場合であっても会社側の対応は冷静であるべきです。売り言葉に買い言葉や、高圧的・侮辱的な表現を使用すると、クレーム対応が単なる「口論」になってしまうので、そのような事態は絶対に避ける必要があります。
繰り返しになりますが、「今すぐに謝りに来い」といった不当な要求に応じる必要はありません。理不尽あるいは非常識な要求は丁寧にお断りすることが原則です。
顧客がそれでも理不尽な要求を繰り返し、納得しない場合は、弁護士に対応を委任することも選択肢の一つです。第三者である弁護士とやり取りをすることで、顧客が不相当な要求を中止するケースもあります。
顧客が不相当な要求を繰り返す場合でも、弁護士は代理人として冷静に拒絶対応をしますし、それによって会社の通常業務への支障や従業員の精神的な負担を大きく低減することができます。
また、脅迫行為や業務妨害行為があれば、弁護士が適切な法的措置を検討することができます。
クレーム対応は神経のすり減る業務です。判断に迷ったときは、法律の専門家である弁護士に相談することをお勧めします。
弁護士 上原 幹男
第二東京弁護士会所属
この記事の監修者:弁護士 上原 幹男
司法修習後、検事任官(東京地方検察庁、奈良地方検察庁等)。検事退官後、都内法律事務所にて弁護士としての経験を経て、個人事務所を開設。 2021年に弁護士法人化し、現在、新宿事務所の他横浜・立川にも展開している。元検事(ヤメ検)の経験を活かした弁護活動をおこなっている。
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