上原総合法律事務所では、事業者が税理士に偽造の証票を渡して税理士を脱税の道具にしていたり、税理士に粉飾決算をさせて本来得られない融資を得ていたという融資詐欺の案件についてご相談をいただきます。
さらに、悪質な事業者は、自らは故意であるにもかかわらず「税理士のミスで脱税になった」などと言って税賠(税理士損害賠償請求)や懲戒請求をしてくる、という事案のご相談をいただいています。
脱税となった税額自体は高額でなくても、税賠や懲戒に対応しなければならないとなると、税理士のコストは大きくなります。
このように、税理士には、顧客に利用されて意図せず脱税や融資詐欺に巻き込まれるリスクがあります。
このような事案でも、事前に予防策を講じておけば磐石ですし、脱税や不正融資が疑われた場合には、速やかに対策を始めることが大切です。
本記事では、故意では脱税幇助をしない税理士が、万が一にも脱税に巻き込まれないようにするために、まず、脱税の典型的な手口と契約段階までのリスク回避策を説明し、その後、契約後におかしいと思った場合にどうすれば良いか、という対策を解説します。
脱税捜査の流れや脱税幇助だと疑われている場合の対策について詳しくは、こちらをご覧ください。
Contents
脱税の手口は、大きく分けて、架空経費・売上除外(所得隠し)の二つです。
このうち、売上除外(所得隠し)については、顧客は売上を税理士に知られたくないため、隠したい売り上げを顧客が税理士に対して報告してこず、原則論としては、売上除外に気がつくことができない立場にあります。
ですが、税理士が把握していないのですから、責任を持たなければいけなくなる可能性も低くなります。
これに対して、架空経費については、顧客がその架空経費を税理士に経費として処理して欲しいため、税理士に伝えます。
税理士としては、その経費を処理しているため、架空であることに気が付き得る立場にあります。
そうすると、「なぜ気が付かなかったのか(過失)」もしくは「架空だとわかっていて処理したのではないか(故意、脱税幇助)」という問題が生じ得ます。
この時、税理士は懲戒処分や刑事事件での責任追及をされるリスクが生じます。
当然ですが、信頼できる顧客を選定することが、不正リスクを防ぐ第一歩です。
対処法としては、以下のようなものが考えられます。
紹介案件に限定する:信頼できる人からの紹介案件に限り仕事を受けるという顧問先として関与してよく知っている顧客に限ってを取り扱う。
信用調査を実施:公的データベースやネットでの評判をチェックし、リスクを軽減する。
面談でのヒアリング:顧客の事業内容を詳細に確認する。
などなど
ですが、顧客選定を厳密にすれば仕事は減ってしまいますし、適正な処理をしたい顧客すら逃すことは避けたいものです。
顧客選定の段階でリスクを完全に排除することはできません。
契約時に以下の二つをすることで、不正受給への巻き込まれリスクを減らせます。
1 経理・税務について顧客の担当する行為について、よく説明する
2 契約書にリスク回避のための条項を記載しておく
(1)制度説明
制度説明においては、業務処理において顧客に担当してもらう部分について、どのようなことをしてはいけないか、などを十分に説明します。
また、説明したことを証拠に残しておくことがとても大切です。
税理士が脱税に利用された場合、後から事業者が国税などに「税理士に言われたとおりにやっただけだ。」などと言い、懲戒処分や共犯者扱いされるというリスクが生じます。
この時、実際にはどんなにしっかりした説明をしていたとしても、証拠がないと、正しい説明をしていなかった判断されるリスクがあります。
そのため、資料を用いて制度説明し、その資料を契約書に添付するなどの形で、証拠にする必要があります。
なお、説明に用いる資料は、顧客に注意したい事項を自社で作成するのがベストですが、労働局などの作成したパンフレットなどでも証拠になります。
また、説明資料に「説明を受けました」という署名欄を記載しておいて顧客のサインをもらうと、より確実に「サインした人がその資料で説明を受けた」ことの証拠になり、より良いです。
(2)契約書の記載
脱税リスク対策という観点からすると、契約書を作成する目的は、トラブルになった場合の処理方法を記載して不利益が生じないようにすることです。
最も想定されるトラブルは、事業者がとにかく節税したいがためにわざと不正確な資料を税理士に提出し、不正確であることを税理士が見抜けずに申告したところ、否認された、というものです。
このようなトラブルを想定すると、契約書には、以下の内容の条項を記載しておくことをお勧めします。
A 事業者は税理士から手続きの説明を受けたことを確認する
B 事業者は正確な提出資料を提出するものとし、提出資料の内容が不正確だったことを理由として否認されるのなどの不利益処分を被ったとしても、税理士は損害賠償責任を負わない(※)
C 事業者が税理士に故意に不正確な資料を提出したことにより否認されるなどした場合には、税理士報酬は返金しない
契約後、平時の業務処理や決算や申告の準備をしている段階で、税理士ご自身やスタッフさんが「この会社の処理はおかしいかもしれない」と思うことがあります。
例えば、提出される証憑が不自然に多い・少ない、例年に比べると数字がおかしい、などが挙げられます。
このような場合、万が一に備えて対策を始めるべきです。
対策の具体的内容は事案次第ですが、目的は同じで、事実の調査と証拠の保全です。
例えば、事業者の提出した書類の内容がおかしいと思ったら、そのおかしいと思った理由を事業者に伝えながら書類が正しいのか確認してください(事実の調査)。
このような調査をすると、不正をしようとしていない事業者は、ちゃんと書類に目を通している信頼できる税理士だと思ってくれるはずです。
他方、不正しようとしている事業者は、誤魔化したり無視したり怒ったりと、おかしな反応をするかもしれません。
また、このような調査は、メールですれば記録が残りますし、電話でする場合には録音して記録を残すのも有益です。
また、現地調査をするのであれば、写真やビデオに残すことで証拠にできます。
もし不正をしようとしている事業者が、調査においても嘘や誤魔化しをしている場合、調査で気がつくことができなくても、調査して気を付けていたこと、事業者が嘘や誤魔化しをしていたことが証拠にできます。
税理士がどんなに注意をしていても、事業者が税理士を騙そうとしていたら、脱税になる申請をさせられてしまう可能性があります。
国税局などの当局が脱税を疑ってきた場合、税理士には、脱税幇助なぢの刑事事件や、懲戒処分などのリスクがあります。
税理士に嘘を言って不正受給をした事業者は、調査においても嘘を言い、税理士の責任にしようとする可能性が高いです。
税理士としての業務処理に問題がないからといって国税局などの調査に非協力的な対応をしていると、事業者の嘘を信じられてしまう可能性があり、危険です。
国税局に対して適切に説明し、税理士として注意義務を果たしていたと理解してもらう必要があります。
また、仮に税理士が不正に気づき得たという落ち度があったとしても、故意でなければ、責任は重くありません。責任の大半は、故意に脱税をした事業者にあります。
そのため、落ち度があると考えられる場合でも、適切に事実説明・主張をしていくべきです。
脱税に巻き込まれることは、税理士にとってとても大きな危険です。
ですが、事前に対応を講じておけば損害を防ぐことができますし、トラブルが生じた後でも、迅速に対処することでベストの解決に導くことができます。
上原総合法律事務所は、元検察官弁護士8名(2024年12月現在)が所属し、独自の専門ノウハウで様々な解決をしているプロ集団です。
脱税に巻き込まれた税理士からのご相談をお受けしています。
新規のご相談者様には、1時間25000円でご相談をお受けしています。
業務のリスクを下げたい、すでに依頼を受けた仕事におかしいことがある、国税局等に脱税だと言われているなど、あらゆるご相談をお受けします。
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※事案の性質等によってはご相談をお受けできない場合もございますので、是非一度お問い合わせください。
弁護士 上原 幹男
第二東京弁護士会所属
この記事の監修者:弁護士 上原 幹男
司法修習後、検事任官(東京地方検察庁、奈良地方検察庁等)。検事退官後、都内法律事務所にて弁護士としての経験を経て、個人事務所を開設。 2021年に弁護士法人化し、現在、新宿事務所の他横浜・立川にも展開している。元検事(ヤメ検)の経験を活かした弁護活動をおこなっている。
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