人に義務のない行動をさせた場合、状況によっては強要罪で警察に逮捕される可能性があります。
この記事では、元検察官で刑事事件を熟知している弁護士が、強要罪とはなにか、強要罪で逮捕・起訴されないためにどうすれば良いかを説明します。
強要罪とは、暴行又は脅迫を用いて他人に義務のないことをさせたり、他人の権利の行使を妨げる行為をいいます。
刑法223条(強要罪)
1 生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、3年以下の懲役に処する。
2 親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者も、前項と同様とする。
3 前2項の罪の未遂は、罰する。
【具体的な例】
・職場でのパワハラ
命令に従わなかったら解雇や減給にするぞなどと脅して、他の従業員の面前で謝罪文や反省文を読み上げさせたりするなどの行為
・学校でのいじめ
被害者の身体を押さえつける暴行を加えたり、言うことを聞かなければどうなっても知らないぞなどと脅して、無理やり土下座をさせたり、自慰行為をさせたりするなどの行為
・SNSでのトラブル
マッチングアプリで知り合って性交渉を行った相手に対して、性行為中に撮影した写真をSNSで晒されたくなかったら交際しろなどと脅して、交際関係を迫る行為
同じように暴行や脅迫を手段とする罪に脅迫罪は恐喝罪がありますが、以下のように異なります。
項目 | 強要罪 | 脅迫罪 | 恐喝罪 |
定義 | 暴行または脅迫を用いて、他人に義務のないことをさせたり、権利の行使を妨げる行為 | 他人に害を加える旨を告知して、恐怖を生じさせる行為 | 暴行または脅迫を用いて、相手を怖がらせて、財物や財産上の利益を不法に取得する行為 |
行為 | 暴行または脅迫 | 脅迫 | 暴行または脅迫 |
既遂待機 | 他人に義務のないことをさせたり、権利の行使を妨げた時点 | 相手方を畏怖させるに足りる脅迫行為を行った時点 | 相手方から財物や財産上の利益を取得した時点 |
未遂処罰 | あり | なし | あり |
法定刑 | 3年以下の懲役 |
2年以下の懲役 |
10年以下の懲役 |
公訴時効 | 3年 | 3年 | 7年 |
強要罪は、被害者に暴行・脅迫を加えて義務のないことをさせる犯罪であり、そのような行為を行った被疑者が被害者に対して更に接触して被害届の取下げを迫ったり、口裏合わせをするよう迫ったりする危険性が高いと判断されやすいものです。
そのため、強要罪で刑事事件化される場合には、罪証隠滅のおそれがあるとの判断に至りやすく、逮捕・勾留がされるおそれは比較的大きいものといえます。
また、強要罪の法定刑は、3年以下の懲役とされており、懲役刑しか定められておらず、罰金刑の定めがありません。
これは、強要罪で起訴されてしまうと略式命令ということがありえず、必ず公開の法廷において裁判(正式裁判)を受けなければならないことを意味しています。
公開の法廷での裁判を受けることになれば、その裁判は誰でも傍聴することができますし、裁判所の審理表や各法廷の予定表に被告人として名前が記載されることになります。
そのため、強要罪での弁護活動においては、いかに逮捕・勾留されないか、いかに起訴されないようにするかということが極めて重要になります。
強要罪は、被害者のいる犯罪であり、検察官としては、被害者に対して被害回復の措置がなされたか、被害者がどのような処罰感情を抱いているかも重要な考慮要素とします。
とはいえ、過去には戻れませんから、既に行ってしまった強要行為をなかったことにすることはできません。
そのため、刑事事件においては、被害者に対して金銭を支払うことによって、被害回復を行うことが通常です。
既に刑事事件になってしまっている場合において、加害者である被疑者本人が暴行・脅迫を行った相手である被害者に接触して示談を求めることは、罪証隠滅のおそれがあると判断されることにつながり、逮捕・勾留されるリスクを大きくするため、厳に控えるべきです。
そこで、強要罪で刑事事件化されてしまった場合には、速やかに弁護人を選任して、弁護人を介して示談交渉を行うことが肝要になります。
強要罪の被疑事件の送致を受けた検察官は、その被疑者を起訴するか起訴しないかを判断します。
検察官は、起訴・不起訴の判断に当たっては、主として犯情事実、つまり、被疑者がどのような経緯・動機で犯行に及んだのか(経緯・動機)、被疑者がどのような態様・程度の暴行・脅迫を加えたのか(犯行態様)、それによって被害者が無理やりどのようなことをさせられたのか(結果)を考慮します。
例えば、単に被害者のことが気にくわないとか、被害者よりも上の立場にあることを周囲に知らしめたいという理由から強要行為に及んだのであれば、犯情が悪くなる方向に働く事情になりますが、被害者の落ち度に端を発して突発的に強要行為に及んでしまったというのであれば、有利に働く事情になりえます。
また、殺傷能力のあるナイフを首に突きつけて脅迫したのであれば、被害者の自由な意思決定に対して極めて強度の制約を及ぼしたものとして、犯情が悪くなる方向に働きますが、単に言葉でひとこと脅す言葉を発しただけなのであれば、有利に働く事情になりえます。
さらに、被害者があおり運転を受けて高速道路上で車を止めさせられたり、自慰行為をさせられたりしたというのであれば、被害者の生命や名誉に深刻な危険・ダメージを生じさせるものですから、犯情が悪くなる方向に働きます。
逆に、1度だけ立ったまま謝罪させたにすぎないというのであれば、それとは有利に働く事情になりえます。
このように、どのような経緯・動機から、どのような態様・程度の暴行・脅迫を行って、被害者にどのようなことをさせたかによって犯情が大きく異なってきます。
強要罪における弁護活動は、まず、被疑者の方から詳細な事実関係を聞き取り、その中から有利な犯情として主張できる事項をピックアップし、それを意見書に取りまとめるなどして、検察官に提出するということが有効です。
上原総合法律事務所は、元検事8名(令和6年12月13日現在)を中心とする弁護士集団で、迅速にご相談に乗れる体制を整えています。
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弁護士 上原 幹男
第二東京弁護士会所属
この記事の監修者:弁護士 上原 幹男
司法修習後、検事任官(東京地方検察庁、奈良地方検察庁等)。検事退官後、都内法律事務所にて弁護士としての経験を経て、個人事務所を開設。 2021年に弁護士法人化し、現在、新宿事務所の他横浜・立川にも展開している。元検事(ヤメ検)の経験を活かした弁護活動をおこなっている。
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