職場・会社における従業員(社員)の盗撮被害への対応策を元検事の弁護士が解説

[投稿日]2022.09.26
[更新日]
弁護士 上原 幹男

弁護士 上原 幹男

第二東京弁護士会所属

この記事の監修者:弁護士 上原 幹男

司法修習後、検事任官(東京地方検察庁、奈良地方検察庁等)。検事退官後、都内法律事務所にて弁護士としての経験を経て、個人事務所を開設。 2021年に弁護士法人化し、現在、新宿事務所の他横浜・立川にも展開している。元検事(ヤメ検)の経験を活かした弁護活動をおこなっている。

職場・会社での盗撮被害にどう対応すべきか

職場や会社において、従業員の盗撮被害が発生した場合、どのように対応すべきでしょうか。

接客中のお客様による盗撮被害といったパターンのほか、取引先や関係者、はたまた従業員によって、従業員が被害者となる盗撮事件が発生してしまう可能性があります。

このような場合、被害に遭った従業員としては、1人で抱え込んだり、自分だけの判断で対応するのではなく、まず会社や職場の同僚や上司に相談すべきでしょう。

言い出しにくいこともあるかもしれませんが、防犯カメラ等の証拠の保全が必要になったり、配置換え等の対処が望ましい場合もあり、まずはその職場や会社を管理している側にも事情を把握してもらうべきでしょう。

他方、職場側・会社側としては、被害状況の把握はもちろん、被害者へのケアや再発防止の施策、加害者への対処など、様々な対応を行っていかなくてはなりません。

対応を間違えれば、従業員からの信頼はもちろん、対外的な信用も失い、大きな損失にも繋がりかねません。

この記事では、元検事(ヤメ検)の弁護士が、職場や会社で従業員が盗撮被害を受けた場合について、どう対処していくべきかを解説します。

カスハラ的な盗撮被害も?

従来、「盗撮」と言えば性的な目的で行われ、小型カメラ等で行われることが多かったと考えられます。

ただ、スマートフォンが普及して誰しもが高画質なカメラを常に持っている状況となったこと、またSNS等で「バズる」「炎上する」などの事態も珍しくなくなったことなどから、トラブルめいたことがあれば、カスハラや炎上させる目的で盗撮(あるいはおおっぴらに撮影)し、それをネット上にアップするなどといった事例も散見されます。

従業員としても会社としても、そのような被害についても注意しておく必要があるでしょう。

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そもそも盗撮とは?

盗撮とは、一般的に、撮影の対象の了承を得ずに、他人の姿等を撮影する行為のことを言います。

刑事事件になる盗撮行為としては女性の下着姿や裸の撮影が多く見られます。

他にも、顔や服を着た状態の後ろ姿の撮影も「盗撮」にはなりえますし、映画やライブなどの撮影もある種の「盗撮」と言えるでしょう。

このように、 盗撮にも色々な種類があり、行為態様によって法的規制や罰則の有無は異なります。

例えば、

  • 公の場所で衣服の上から執拗に盗撮した・・・
    都道府県の迷惑防止条例
  • 他人の性的な部位や下着などを盗撮した場合・・・
    性的姿態等撮影罪

などで規制され、刑罰の対象となることがあります。

また、刑罰の対象になる他、盗撮被害者は盗撮加害者に対して損害賠償請求などの形で金銭の支払いを求めることができます。

以下では、会社の従業員に対して盗撮された場合の対策を、下着など明らかに性的な盗撮された場合と、それ以外の盗撮された場合に分けて説明します。

会社内での盗撮は犯罪となる?

会社内における盗撮行為も、それ以外で行われる場合と同様、性的姿態等撮影罪や各都道府県の迷惑防止条例違反として、犯罪となりえます。

ただ、職場や会社における盗撮の場合、加害者も従業員や顧客であったりすること、被害者自身も職場で大々的な問題になることを望まない場合があることなどから、被害申告するなどして刑事事件化するのが本当に望ましいかについて、慎重な検討が必要です。

会社内の盗撮の具体例

「盗撮」の典型的なものは性的な意図に基づくものですが、犯罪となるものに限定しなければ、会社内だけでも様々なパターンの「盗撮」がありえます。

  •  「パワハラ」を記録するために小型カメラ等で盗撮
  •  部下の仕事ぶりを監視するため盗撮
  •  従業員が会社の更衣室やトイレに隠しカメラを設置して盗撮
  •  顧客がカバンや靴にカメラを忍ばせ、店員のスカート内を盗撮
  •  従業員が試着室にカメラを仕掛け顧客を盗撮
  •  営業上の秘密や顧客情報を流出させる目的でデータや資料を盗撮
  •  従業員の個人情報を取得するため人事情報等を盗撮

例としてはこれらに限りませんが、ここでは従業員が盗撮被害に遭った場合について、明確に性的なものといえる場合とそれ以外に大別して解説していきます。

対応方法1 スカートの中などの盗撮の場合

性的姿態等撮影罪や各都道府県の迷惑防止条例違反になりうる

性的姿態等撮影罪

性的姿態等撮影罪は近年の法改正で設けられたもので、「人の性的な部位」や「人が身に付けている下着のうち現に性的な部位を直接若しくは間接に覆っている部分」を、正当な理由がないのにひそかに撮影する行為などについて、3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金に処すると定めています。

この犯罪が設けられたことにより、従前、迷惑防止条例違反で処罰されていた「盗撮」の大半は性的姿態等撮影罪で処罰されることとなるでしょう。

スカートの下からスマホを差し入れるなどして下着を撮影する行為は、まさに性的姿態等撮影罪で処罰対象となるものと考えられます。

※性的姿態等撮影罪については撮影罪(性的姿態撮影罪)とは何かの記事もご参照ください。

他方、性的姿態等撮影には該当しない場合についても、各都道府県の迷惑防止条例で処罰対象となる可能性があります。

各都道府県の迷惑防止条例違反等

スカートの中など、人の通常衣服で隠されている下着又は身体を盗撮した場合には各都道府県の迷惑防止条例(※)ともなりえます。

迷惑防止条例は各都道府県で異なりますが、盗撮に関する規制は類似しています。参考までに、東京都の迷惑防止条例の盗撮について規定した部分は以下の通りです。

次のいずれかに掲げる場所又は乗物における人の通常衣服で隠されている下着又は身体を写真機その他の機器を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置すること

イ 住居、便所、浴場、更衣室その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所

ロ 公共の場所、公共の乗物、学校、事務所、タクシーその他不特定又は多数の者が利用し、又は出入りする場所又は乗物(イに該当するものを除く。)

                           (東京都迷惑防止条例第5条第1項第2号)

ここにいう「公共の場所」は、同条例第2条第1項に以下のように規定されています。

道路、公園、広場、駅、空港、ふ頭、興行場その他の公共の場所(乗車券等を公衆に発売する場所を含む。)

公共の場所で、人の通常衣服で隠されている下着又は身体を盗撮された場合、都道府県条例違反が成立し得ます。

また、犯人が盗撮をした場所が 室内であれば、犯人が盗撮目的で室内に侵入したことについて住居侵入罪建造物侵入罪が成立し得ます。

※撮影にまで至らなくとも、盗撮目的での侵入自体が犯罪となる可能性があります。建造物侵入等については悪意なしでも不法侵入(住居侵入・建造物侵入等)で逮捕される?対処法について元検事の弁護士が解説の記事もご参照ください。

上記の条例は「次のいずれかに掲げる場所又は乗物における人の通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機その他の機器を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置すること」を規制しています。

下線を引いておいた「撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置すること」の部分があるため、人の通常衣服で隠されている部分にカメラを向けたり、人の通常衣服で隠されている部分を写そうとしてカメラを置いたりしただけでも条例違反になります。

そのため、盗撮犯人が「撮影できていない」 と言ったとしても、条例違反にならないわけではありません。

ただ、このような場合、撮影データという証拠が残らないため、犯人がカメラを向けたり設置したりしている様子を立証するための証拠が必要になります。

店内の防犯カメラ映像などに犯人の行動が記録されていればベストの証拠ですが、そのようなものがなくても、 犯人の行動を見ていた人の証言が証拠となります。

※迷惑防止条例の名称

いわゆる迷惑防止条例の正式名称は、都道府県によって異なります。

例えば、東京都の条例は「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」ですし、神奈川県の条例は「神奈川県迷惑行為防止条例」です。

被害にあったらどう対処すればいいのか

盗撮行為を発見したら、まず、 逃げられないように犯人を確保する必要があります。

犯人に逃げられてしまうと、どこの誰かがわからなくなってしまい、警察に通報してもなかなか捕まえられない可能性があります。

また、盗撮したデータを消したり隠されたりして証拠がなくなってしまうかもしれませんし、最悪の場合、盗撮されたデータがインターネットで拡散されてしまう可能性があります。

犯人の身柄を確保したり、人定事項を確認したら、基本的には警察に通報すべきでしょう。

警察に通報すれば、駆けつけた警察官が犯人の逃亡を防いでくれますし、証拠も保全される可能性が高く、多くの場合、最終的に盗撮データが消されたことまで確認してくれます。

また、犯人を捕まえた後に警察に通報せずに犯人と交渉をすると、開き直った犯人から「脅迫された」「恐喝された」などと言われて無用のトラブルになる可能性もあります。 

なお、 様々な事情から警察を呼ぶことに抵抗がある場合には、「脅迫された」「恐喝された」などと言われないよう、弁護士に相談しながら対処することを強くお勧めします。

このような現場での至急対応が済んだら、被害にあった従業員の心のケアをするとともに、犯人に対する損害賠償請求等を検討する必要があります。

従業員のケアや損害賠償請求については、後述しています。

対応方法2 顔や着衣の上から身体を盗撮されたなどの場合

住居侵入罪や迷惑防止条例違反になりうる

スカートの中などを盗撮した場合と違い、通常衣服で隠されている場所以外の部分を盗撮された場合には、 撮影行為自体が犯罪と言えるかどうかについて慎重な検討が必要になります。

他方、店舗内などで盗撮された場合、盗撮目的で店舗等に入る行為が住居侵入罪や建造物侵入罪に当たり得ることは先述のとおりです。

また、服の上からでもお尻などを執拗に盗撮した場合には、迷惑防止条例で取り締まられることがあります。

迷惑防止条例には、人の通常衣服で隠されている場所の盗撮でなくても、「卑わいな行為」を規制しています。

例えば、東京都の場合、「公共の場所又は公共の乗物において、卑わいな言動をすること」が禁止されています。(東京都迷惑防止条例第5条第1項第3号)

北海道の迷惑防止条例についてですが、ズボンの上から執拗に臀部を撮影する行為について「卑わいな行為」に当たると判断した判例もあり、通常衣服で隠されている場所以外の部分の盗撮であっても、その撮影行為が「卑わいな行為」と言える場合、条例違反で刑事事件とすることができます。

被害にあったらどう対処すればいいのか

顔などを盗撮された場合、犯罪に該当するのであれば、まず犯人を捕まえて警察に通報しその後に、被害従業員の精神のケアをするとともに犯人に対する損害賠償請求を検討する、という基本的な流れはスカートの中などの盗撮の場合の対応方法と同様です。

これに対し、犯罪に該当しない場合刑事事件として警察の手を借りることができないためより慎重な対応が必要になります。

特に、盗撮行為が被害従業員に対する愛情や憎悪・逆恨みなどに基づく場合、被害従業員がさらに被害に遭う可能性が高くなります。

盗撮等が繰り返される場合には、ストーカー規制法違反となる可能性もあり、そういった観点から警察に相談するという方法もあるでしょう。

会社には従業員が安全に働けるよう配慮する義務があります(※)。

そのため、業務中に盗撮被害にあった従業員がさらに被害に遭う可能性がある場合、会社は、更なる被害を防ぐために適切な対応を講じる必要があります。

安全配慮義務違反の結果として従業員がさらに被害にあった場合、従業員は犯人だけでなく会社に対して損害賠償請求することが可能になります(※※)。

そのため、更なる被害を防ぐことは、会社にとって必須であると言えます。

参考 更なる被害を防止する価値

安全配慮義務といった法的観点以外からも、会社は更なる被害を防ぐよう対策を講じるべきです。

事件があったときに守ってくれる会社なのかどうかは、従業員の会社に対する信頼に大きな影響を与えます。

この影響は、被害従業員本人だけでなく、会社の対応を見ている他の従業員にも及びます。

会社が従業員を守るための行動を取るかどうかは、会社が従業員のことを大切に思っているかどうかをはっきりと示します。

会社が従業員を守る姿勢を見せることができれば、盗撮被害という嫌な事件をきっかけに会社の結束を強くすることも可能です。

安全配慮義務

以下のように、法律上、会社(使用者)は従業員(労働者)に対する安全配慮義務を負っています。

労働契約法第5条
 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

労働安全衛生法第3条第1項
 事業者は、単にこの法律で定める労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない。また、事業者は、国が実施する労働災害の防止に関する施策に協力するようにしなければならない。

 

※※会社が安全配慮義務を果たさなかったらどうなるか?

安全配慮義務違反の結果として従業員がさらに被害にあった場合、従業員は犯人だけでなく会社に対して損害賠償請求することが可能になります。また、被害に遭った従業員はもちろん、その他の従業員との関係も損なわれることになりかねません。

加害者が従業員だった場合にはどうすればいいか

加害者が従業員だった場合、一般的には、当該従業員を雇用し続けることはできないと考えることでしょう。

従業員との雇用契約を解消する方法は

  • 懲戒解雇
  • 普通解雇
  • 自主退職

など複数存在します。

盗撮をした場合でも、会社側がなんらの制限もなく自由に処分を決めることができるわけではありません。

例えば、懲戒解雇を行おうとしても、そもそも就業規則に懲戒解雇ができる旨の規定がなければ懲戒解雇はできません。

懲戒解雇ができる場合でも、解雇予告が必要であるということもあり得ます。

どのような処分が可能か、また各処分においてどのようなメリットやデメリットがあるかという点は個別具体的な事案と会社の就業規則がどのように定められているかによるということになります。

解雇に際しては、手続を誤ると解雇自体の有効性を争われたり未払い賃金の支払いを求めて訴訟を起こされるというリスクも存在しますので、慎重な対応が必要です。

※従業員の解雇等については解雇や損害賠償をしたいの記事もご参照ください。

被害にあった従業員のケア

盗撮被害にあった方の心理状況は様々です。

実害がないとして全く気にしていないように振る舞う方もいますし、とても深く傷つく方もいます。

本当は傷ついていることに自分で気がついていない方もいますし、気丈に振る舞っていても内心では深く傷ついている方もいるため、安易に事態を軽視することは控えるべきです。

周囲の方は、被害者を支える必要があります。

被害直後は心理的に不安定になっていることもあり得るため、理解して受け入れる必要がありますし、被害状況を思い出すことでさらに傷つくこともあるため、いたずらに被害状況を何度も聞くことは避けるべきです。

また、必要に応じ、医師の診察を受けたり、カウンセリングを受けたりすることが有用です。

どこに相談して良いかわからない被害者本人の方は、都道府県にある被害者支援センターなどにご相談することをお勧めします。

損害賠償

盗撮行為が発覚した場合、犯人に対して損害賠償請求することができます。

被害者から加害者への損害賠償請求

被害者本人の請求できる損害は、慰謝料はもちろんの事として犯行の結果として仕事を休まなければいけなくなった場合の休業損害などです。

前提として請求する相手となる加害者を特定できている必要があるほか、裁判となれば時間や費用がかかってしまう場合は少なくありません。

他方、刑事事件化している場合には、加害者側の弁護人から被害弁償や示談の申出があることも少なくありません。

この場合、早期に、かつ大きな負担がかかることなく、金銭的な補償を得られる可能性が高くなります。

会社から加害者への損害賠償請求

また、会社から犯人に対して損害賠償を請求することが可能です。

会社からのご相談においては、特に以下のような事態に対する請求ができないかをご相談いただきます。

  • 事件の影響で従業員が辞めてしまった
  • 事件の影響でお店を開店できなかった
  • 事件の影響で来客が減った

会社から犯人に対しての損害賠償をする際には、犯行と会社に生じた損害の因果関係を立証が困難になることがあるため、事件直後から証拠を収集しておけるようにしておくことが大切です。

他方、加害者も従業員であった、という場合には、解雇等の際に損害賠償についても合意しておき、場合によっては公正証書を作成しておくことも選択肢となるでしょう。

※従業員への損害賠償請求等については解雇や損害賠償をしたいの記事もご参照ください。

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上原総合法律事務所では、従業員が盗撮被害にあった会社等からのご相談をお受けしています。

上原総合法律事務所は、元検事8名が在籍し、刑事事件に関する独自の専門ノウハウを有し犯罪被害に遭った企業の問題を解決し続けています。

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