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弁護士 上原 幹男
第二東京弁護士会所属
この記事の監修者:弁護士 上原 幹男
司法修習後、検事任官(東京地方検察庁、奈良地方検察庁等)。検事退官後、都内法律事務所にて弁護士としての経験を経て、個人事務所を開設。 2021年に弁護士法人化し、現在、新宿事務所の他横浜・立川にも展開している。元検事(ヤメ検)の経験を活かした弁護活動をおこなっている。
顧客等からのクレームには、商品やサービスの問題・改善点を気付かせてくれる有益な意見もあります。
一方で、電話応対で何時間も通話を余儀なくされたうえ、脅迫めいたことを言われるなど、不当、悪質なクレーム(いわゆるカスタマーハラスメント)も多く存在します。
カスタマーハラスメントが社会的な問題として取り上げられた結果、2025年6月に改正労働施策総合推進法が公布され、2026年10月1日より、すべての事業主に対して、カスタマーハラスメントへの対応(雇用管理上の措置)が法律で義務付けられることになりました。
この記事では、カスタマーハラスメントの定義や具体例、法改正によって事業主に義務付けられるカスタマーハラスメントへの対応策等について、説明します。
目次
カスタマーハラスメントとは?
カスタマーハラスメントの定義
カスタマーハラスメントの定義について厚生労働省は、「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」において、
「顧客・取引先からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、従業員の就業環境が害されるもの」
と述べています。
もっとも、「カスタマーハラスメント」は法律において定義された用語ではなく、「パワーハラスメント」等と同様、社会的に使われている用語であり、その外延も明確ではありません。上記の定義は参照されるべきですが、これに当てはまらない場合であっても、事業主がカスタマーハラスメントとして対応すべきケースは多くあると思われます。
正当なクレームとカスタマーハラスメントの違い
正当なクレームとカスタマーハラスメントの違いを見極めるポイントは、「要求の内容の妥当性」と「要求の伝え方(手段・態様)」にあります。
正当なクレームとは、商品やサービスに実際の問題があり、顧客がその改善や補償を求める妥当な理由がある苦情であり、目的は「サービスの向上や問題の解決」にあります。
たとえ顧客が感情的になっていても、主張が常識の範囲内であれば真摯に対応すべきです。一方で、過度な要求を行ったり、暴言等の社会通念上不相当な手段を用いたりして「相手を攻撃すること」自体が目的となっている場合は、カスタマーハラスメントに該当します。
カスタマーハラスメントの具体例
カスタマーハラスメントの主要な具体例は次のとおりです。
| 類型 | 具体例 |
|---|---|
| 1. 時間拘束型 | ・数時間にわたって電話や面談をやめず、一方的に話し続ける。 ・要件の話が終わっても、店舗や事業所から出て行かず居座る。 |
| 2. リピート型 | ・足繁く店舗を訪れてクレームをつける。 ・繰り返し電話をかけてくる。 ・A部署だけでなく、B部署、C部署に問題があると、複数部署に対し何度もクレームをつける。 |
| 3. 暴言型 | ・対応した電話オペレーターに暴言を吐き、責めたてる。 ・他の客もいる店舗内で、大声を出して文句を述べる。 |
| 4. 脅迫型 | ・「言うとおりにしないと、殺すぞ」等と脅迫する。 ・「ネットやマスメディアに暴露するぞ」と脅迫する。 |
| 5. 暴行型 | ・殴りかかったり、胸ぐらをつかんだり、突き飛ばしたりする。 ・店員に唾を吐きかける。 ・店舗の備品を投げたり、蹴ったりする。 |
| 6. インターネット上での公開 | ・対応した従業員の氏名等の個人情報をインターネット上で公開する。 ・会社に不当な対応をされたと事実をねつ造し、それをインターネット上で公開し、会社の信用を毀損する。 |
| 7. 正当な理由なく過剰な要求をする | ・言いがかりをつけて金銭を要求する。 ・土下座を求める。 ・(元々壊れていたにもかかわらず)預けていた物品が故障したとして修理代金を請求する。 ・サービスが悪いから、宿泊代を返せと迫る。 |
カスタマーハラスメントが関連する法律
事業主にカスタマーハラスメント対応を義務付ける労働施策総合推進法の改正
上記で述べたとおり、2025年6月に改正労働施策総合推進法が公布され、2026年10月1日より、すべての事業主に対してカスタマーハラスメントへの対応(雇用管理上の措置)が法律で義務付けられます。企業は相談体制の整備や被害者への配慮など、具体的な措置を講じることが必須となります。
なお、国の法律に先行して、東京都では全国初となる「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」が2024年10月に公布され、2025年4月から施行されています。
このように、カスタマーハラスメントに対する企業の防止体制整備は、「努力義務」ではなく「法的義務」へと移行します。
カスタマーハラスメントは刑事罰に問われる可能性もある
カスタマーハラスメント行為は、刑法や軽犯罪法に抵触し、刑事罰の対象となる可能性があります。抵触する可能性のある法律は次のとおりです。
| 罪名・条文 | 問題となるカスタマーハラスメントの例 | 法定刑(※) |
|---|---|---|
| 暴行罪(刑法208条) | 従業員を殴った | 2年以下の拘禁刑、30万円以下の罰金、拘留、科料 |
| 傷害罪(刑法204条) | 従業員に怪我をさせた | 15年以下の拘禁刑、50万円以下の罰金 |
| 脅迫罪(刑法222条) | 従業員の生命、身体、自由、名誉、財産に対し害を加えると告知した | 2年以下の拘禁刑、30万円以下の罰金 |
| 恐喝罪(刑法249条) | 従業員に暴行、脅迫を加えて、財物を交付させたり、財産的利益を得た | 10年以下の拘禁刑 |
| 強要罪(刑法223条) | 従業員に暴行、脅迫を加えて義務のないことを行わせた | 3年以下の拘禁刑 |
| 名誉毀損罪(刑法230条) | 公然と、従業員の社会的評価を低下させる具体的な事実を摘示した | 3年以下の拘禁刑、50万円以下の罰金 |
| 侮辱罪(刑法231条) | 公然と、従業員を侮辱した | 1年以下の拘禁刑、30万円以下の罰金、拘留、科料 |
| 不退去罪(刑法130条) | 従業員から退去の要求を受けたのに、店舗や事務所から退去しなかった | 3年以下の拘禁刑、10万円以下の罰金 |
| 威力業務妨害罪(刑法234条) | 執拗に電話をかけてくる | 3年以下の拘禁刑、50万円以下の罰金 |
カスタマーハラスメントの民事上の責任
カスタマーハラスメントの加害者は、刑事責任だけでなく、民事上の責任を問われる場合もあります。カスハラ行為により従業員が精神的苦痛を受けたり、会社が業務妨害により損害を被ったりした場合、事案の内容によっては、被害者や企業は加害者に対し、不法行為責任(民法709条)に基づく損害賠償請求や慰謝料請求を行うことが可能です。
会社がカスタマーハラスメントを放置するとどうなる?
会社がカスタマーハラスメントを放置した場合、次のような重大な事態が生じる可能性があります。
1. 従業員の生産性低下、離職等
カスタマーハラスメントの第一の被害者は、応対する従業員です。多くの場合、精神的なダメージ等から、次のような事態が生じることが想定されます。
・顧客対応への恐怖感、苦痛
・睡眠不足、うつ状態、頭痛、耳鳴り、精神疾患等の健康被害
・休職
・配置転換の希望
・退職
カスタマーハラスメントを放置することは、企業にとって大切な戦力である従業員のパフォーマンスを阻害して生産性を下げるだけでなく、貴重な人材を失わせる危険もあるのです。
2. 企業経営上の損失
カスタマーハラスメント対策を軽視して、カスタマーハラスメントが頻発する事態となれば、企業には、次のような事態が生じることが想定されます。
する。
・時間を浪費した分、他の重要な業務が行えなくなる。他の優良顧客へのサービスが不十分と
なり、顧客の満足度が下がってしまう。
・被害を受けた従業員の休職、退職を補充するため、新規の人材採用が不可避となり、その募集
費用、採用後の教育費用がかかる。
・要求に応じて、商品・サービスの金額を値下げしたり、他の商品との交換に応じたり、慰謝料
支払に応じたりすることで、余計なコストが増大する。
・カスタマーハラスメントが横行する企業という評価が定着し、企業イメージが低下する。
3. 従業員から安全配慮義務違反を理由として損害賠償を請求される可能性がある
会社は、労働契約上の義務として、従業員の生命・身体の安全を確保しつつ労働できるよう必要な配慮をする「安全配慮義務」があります(労働契約法5条)。
企業がカスタマーハラスメントを放置し、その被害から従業員を守るための措置を講じない場合、被害を受けた従業員から、安全配慮義務違反を理由に損害賠償を請求される恐れがあります。
【裁判例】横浜地裁川崎支部令和3年11月30日判決・労働経済判例速報2477号18頁
テレビ局の関連会社Y社の従業員Xは、コールセンターにおいて、視聴者からの電話に応対
する業務(コミュニケーター)に従事していましたが、わいせつな発言や暴言等の被害に遭
遇し、Y社は要注意視聴者のわいせつ発言・暴言等に触れさせないようにすべき安全配慮義
務を負担していたのに、これを尽くさなかったとして、Y社に損害賠償を請求しました。
裁判所は、Y社が視聴者のわいせつ発言や暴言、著しく不当な要求からコミュニケーターの
心身の安全を確保するためのルールを策定した上、これに沿って対処をしていること、Y社
では無料のフリーダイヤルで専門のカウンセラーによるメンタルヘルス相談、提携カウンセ
リング機関で面接による無料のカウンセリング、労働者を対象に毎年ストレスチェックを実
施しており、検査の結果高ストレスと判定され、産業医の面接指導が必要と判断された場合
には、希望により面接指導を受けることができるようになっていること等から、Y社が安全
配慮義務を怠ったとは認められないと判断しました。
同裁判例では、企業に安全配慮義務違反はなかったと判断されましたが、同事案で講じていたような社内体制の整備・運用等を怠っている場合は、企業の安全配慮義務違反が認められ、損害賠償を請求される恐れがあるため注意が必要です。
カスタマーハラスメントへの対策方法
2026年10月の改正法施行に伴い、以下のような対策は単なる推奨ではなく「事業主の義務」となります。厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」や実際の裁判例を踏まえ、企業が講ずべき具体的措置を「事前準備」「現場対応」「事後対応」の3つのフェーズに分けて深掘りして解説します。
【事前対応】明確なトップメッセージの発信、マニュアルの整備と体制構築
1.会社の基本方針の明確化と外部への周知
「カスタマーハラスメントは許さない」「組織として毅然と対応し、従業員を守る」という基本方針をトップメッセージとして明確にします。これにより、従業員が安心して、毅然とした態度でカスハラ顧客への対応をすることができます。
また、最近では多くの店舗内等で見られるようになってきましたが、顧客に対しても、店頭ポスターやウェブサイト等において、自社のカスタマーハラスメントに対する毅然とした方針を周知しておくことが重要です。
2.具体的な対応マニュアル・フローの作成
社内において、「どの程度の要求・暴言があれば、カスタマーハラスメントとして取り扱うか」という基準を設け、具体的な対応フローをマニュアル化します(例:長時間の電話への切電方法、不当な金銭要求への返答例等)。現場の従業員に属人的な判断をさせないことが重要です。
3.研修やロールプレイングの定期的な実施
トップメッセージやマニュアル内容を従業員に浸透させるため、ケーススタディを用いた研修やロールプレイングを定期的に行うことも非常に有用です。
当事務所も含め、カスタマ―ハラスメント対応の研修サービスを提供している法律事務所等も多くありますので、外部の知見を活用し、自社のカスタマーハラスメント対応を底上げしていくことも非常に重要です。
4.従業員(被害者)のための相談対応体制の整備
カスタマーハラスメントを受けた従業員が自分で抱え込まず、ためらわず誰かに相談できるよう、上長や専門部門(お客様相談室等)に加え、人事や法務、あるいは外部の法律事務所などを窓口として指定し、カスタマーハラスメントへの対応策を相談できる仕組みを作る必要があります。
【関連裁判例:甲府地裁 平成30年11月13日判決】
学校の教員が保護者から理不尽なクレーム(カスハラ)を受けた際、校長が教員の言動を一方的に非難し、その場を穏便に収めるため、教員に対して安易に謝罪を強要したという事案で、裁判所は、校長の対応を不法行為と認定し、損害賠償を命じました。
本裁判例は、理不尽なクレームに対するマニュアルが存在せず、上長がその場を収めたいがために事案を的確に判断せず、「とりあえず謝って丸く収めよう」として部下に謝罪を強要したことが、不法行為と認定された事案です。
本件のような事案を防ぐには、社内のマニュアルを作成し、その場しのぎの対応ではなく、カスタマーハラスメントに対してどのように対応するか、マニュアル等において一律に定めておくという、「組織としての防波堤」が必要不可欠と言えます。
【カスハラ現場での対応】従業員を守る具体的な方法
1.録音・録画等による客観的記録の徹底
カスハラ発生時は、日時や状況の詳細な記録を残すとともに、通話録音や防犯カメラ等で証拠を保全します。なお、クレーム対応のため、企業が自衛手段として録音を行うことは必ずしも違法ではありません。ただし、無断で録音をしたことが更にクレームの種になることがありますので、できる限り、録音や録画していることを自動音声やポスター等で顧客に事前周知しておくことが望ましいです。
2.「限定謝罪」の徹底と不当要求の拒絶
事実関係が不明な段階で全面的に非を認める謝罪をすることは避けましょう。カスタマーハラスメント顧客は、「謝った=責任を認めた」と解釈して更に追及をしてきます。
もし仮に謝罪するとしても、「不快な思いをさせたこと」に対する限定的な謝罪(部分謝罪)に留めるべきです。不当な要求には一切応じず、毅然と断るスキルを研修等で身につける必要があります。
3.複数人対応と担当者の交代(エスカレーション)
カスタマーハラスメント行為に対して、従業員を一人で対応させてはいけません。必ず複数人で応対し、話が通じない場合やヒートアップした場合は、速やかに管理職や専門の担当者に交代(エスカレーション)するようにしましょう。
【事後対応】カスハラを受けた従業員のケアと法的措置、再発防止策の構築等
1.従業員への配慮(メンタルヘルスケア)の措置
カスタマーハラスメント被害を受けた従業員に対しては、直ちに当該従業員を加害者や業務自体から引き離して心身の安全を確保するとともに、上長、産業医やカウンセラーとの面談を実施し、トラウマや精神疾患の予防に努めます。
2.警察との連携・弁護士による法的措置
暴行や脅迫、長時間の不退去などの悪質なケースは、迷わず警察に通報してください。また、不当な要求を繰り返したり、長期化するような事案では、弁護士を代理人に立て、内容証明郵便で警告書を送付したり、電話・面談強要禁止の仮処分を申し立てたりするなど、法的な盾を用いて対応を遮断すべきです。
3.再発防止のための取組み
類似のカスタマーハラスメント再発を防止するためには、発生した事案の情報、対応策等を社内に共有することが有用です。ただし、発生事案を共有することが対応した従業員の心理的負荷になる場合もあります。そのような場合は、対応者の情報や事案内容を抽象化するといった工夫も必要です。
加えて、発生した事例及び対応策を社内の共通認識として蓄積し、再発防止のため、定期的にマニュアルや研修内容をアップデートし、従業員に周知を図っていくことも大切な取り組みとなります。
カスタマーハラスメント対応にお困りの方、法改正対応に不安をお持ちの方は、弁護士にご相談ください。
上記のとおり、2026年10月からは、法令によりカスタマーハラスメント対策が義務化され、会社は一刻も早い社内体制の整備を迫られています。
また、これまで述べたとおり、カスタマーハラスメントは、放置すれば従業員及び会社に多大な損害を与えかねない行為です。
会社がカスタマーハラスメントに対して不適切な対応をとってしまうと、問題が余計にこじれ、解決が遠のいてしまうおそれもあります。更に、従業員、当該の職場内、会社内だけでカスタマーハラスメントに対応しようとしたがために、対応した従業員や専門部署の従業員が疲弊して離職してしまう、精神疾患を発症してしまう等の危険性もあります。
このような事態を避けるためには、上記のとおり、カスタマーハラスメントが発生した場合の対応方針の策定やハラスメントを受けた従業員への支援提供等、社内の体制整備が重要です。そうした社内体制の整備や実際にカスタマーハラスメントが発生した場合の対応については、やはり実務に明るい弁護士への依頼がおすすめです。
上原総合法律事務所では、カスタマーハラスメントの実態や労働問題に詳しい弁護士が、会社からのご相談をお受けしています。
また、カスタマーハラスメント行為は、刑法や軽犯罪法に違反する可能性もありますが、当事務所では、刑事事件に詳しい元検察官の弁護士の知見も踏まえ、カスタマーハラスメントに適切に対応することが可能です。
顧客等からのカスタマーハラスメント対応にお困りの方は、お気軽にご相談ください。



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