
弁護士 上原 幹男
第二東京弁護士会所属
この記事の監修者:弁護士 上原 幹男
司法修習後、検事任官(東京地方検察庁、奈良地方検察庁等)。検事退官後、都内法律事務所にて弁護士としての経験を経て、個人事務所を開設。 2021年に弁護士法人化し、現在、新宿事務所の他横浜・立川にも展開している。元検事(ヤメ検)の経験を活かした弁護活動をおこなっている。
逮捕は突然やってきます。
犯罪の現場で現行犯逮捕されたり、過去に犯した犯罪について、ある日突然警察官が自宅にやってきて逮捕されたりします。
警察官が事前に「明日逮捕します」 などと予告してくることはありません。
逮捕された方の家族は、 逮捕される時に一緒にいたり、 事後的に警察官や弁護士から連絡が来たりして逮捕の事実を知ることになります。
この記事では、逮捕とは何かから、逮捕から起訴までの流れ、各時点での対応策について、元検事(ヤメ検)の弁護士が詳しく解説します。
1では逮捕とは何かなどについて、2では流れの概要を説明し、3以下でそれぞれの詳細を説明します。
逮捕された方やご家族がどうすれば良いのかについてはこちらの記事をご覧ください。

目次
1 逮捕の種類と流れ
逮捕の種類
逮捕には現行犯逮捕、通常逮捕、緊急逮捕の三つの種類があります。
⑴現行犯逮捕
現行犯逮捕は、今まさに犯罪が行われている場合や、犯罪が終わってすぐの場合にのみ、逮捕状なしでできる逮捕です。
また、警察官や検察官でない一般の方でも逮捕状なしに逮捕(いわゆる私人逮捕)をすることができます(刑事訴訟法第213条)。
万引きの犯人を被害店舗の店員さんが捕まえたり、痴漢の犯人を被害者や目撃者が捕まえることがありますが、これが現行犯逮捕です。
もちろん警察官が現行犯逮捕することもあり、職務質問や所持品検査で危険物や違法薬物が見つかった場合に現行犯逮捕される場合があります。
⑵通常逮捕
通常逮捕とは、裁判官が発付する逮捕状によって捜査機関が逮捕する場合を言い、最も一般的な逮捕の類型といってよいでしょう。
逮捕状は、捜査機関が証拠と共に逮捕状請求書を裁判官に対して提出し、書類を見た裁判官が逮捕する必要があると考えた場合に発付されます(刑事訴訟法第199条1項,2項※)。
逮捕状は、どのような事件でも発布されるわけではなく、犯罪の疑いはもちろん、逃亡のおそれや罪証隠滅(証拠隠滅)のおそれなどがあることが必要であり、捜査機関はそれらの要件があることを示す証拠を裁判官に提出して発布を得ます。
⑶緊急逮捕
緊急逮捕は、一定の要件がある場合に,今まさに犯罪が行われている場合や犯罪が終わってすぐの場合でなくても、逮捕状がない状態で逮捕をすることができるものです(刑事訴訟法第210条1項)。例えば、職務質問をきっかけに採尿等で違法薬物の使用が発覚した場合などが考えられます。
現行犯逮捕と違い、一般人が緊急逮捕をすることはできません。
また、緊急逮捕することができるのは一定の重罪についてであり、かつ、「急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができない」などの要件があります。
緊急逮捕は、現行犯でないのに令状なしに逮捕できるという特別な制度ですので、捜査機関は緊急逮捕した後はただちに逮捕状を請求する手続きを行います。
逮捕状を請求された裁判官において逮捕状を発付するか否かの判断がなされ、逮捕状を発付しないとの判断がなされると被疑者は釈放されます。
逮捕の種類や対応策の詳細についてはこちらの記事もご参照ください。
おはよう逮捕とは
「おはよう逮捕」という言葉を目や耳にしたことがある方もいるかもしれません。
これは法律用語ではなく俗称に過ぎませんが、逮捕状の発布を受けて通常逮捕を行われる場合、突然朝早くに自宅に警察がやってきて逮捕されることがしばしばあることからこのような表現がなされています。
通常逮捕の場合、捜査機関は事前に逮捕状の発布を受けており、ではいつ実際に逮捕するか、ということになります。
その中で、平日朝早くであれば
- 被疑者(容疑者)が自宅にいることが多い
- 逮捕後の手続を行う十分な時間や人員を確保できる
- 検察庁への送致や、送致後の検察庁の手続もスムーズに行う時間や人員が確保できる
- 逮捕と併せて捜索差押え(いわゆる家宅捜索)を行う時間や人員を確保できる
といった捜査機関にとってのメリットが大きいため、「おはよう逮捕」と言われるような通常逮捕が多く行われているのが実情です。
また、検察庁への送致は翌日や翌々日になることや、勾留後の満期や捜査計画などを考え、週末や連休前は避ける場合が多いといえるでしょう。
とはいえ、上記のような傾向はあっても、常に平日朝に逮捕されるわけでもありません。また、捜査機関は通常逮捕の前には被疑者の行動確認等を行う場合がほとんどでしょうが、当然ながら被疑者等には分からないように捜査を進めますので、やはり逮捕は突然やってくるものであり、基本的にはいつ逮捕されるかは分からないものと言わざるを得ません。
2 逮捕後の流れをフローチャート図でわかりやすく解説
刑事事件で逮捕されたら、警察官による取調べを受けた後、逮捕から48時間以内に検察庁に連れて行かれます。これを検察官送致といいます。
検察官送致されると、検察官から取調べを受けます。
検察官は、取調べを踏まえて身柄拘束が必要であると判断すれば、検察官送致から24時間以内に裁判所に勾留を請求します。
他方で、検察官が勾留の必要がないと判断し、勾留を請求せずに釈放する場合もあります。
勾留請求されると、検察官送致された日のうちもしくは翌日に裁判所に連れて行かれます。
裁判所では、裁判官から話を聞かれます。
これを勾留質問といい、この勾留質問や事件記録を踏まえ、裁判官が勾留するかを判断します。
裁判官は、身柄拘束する必要があると考えれば、勾留を決定します。
示談ができていたり身元引受人を用意できているなどすれば、勾留されないこともあります。
勾留や勾留延長に対しては、準抗告という異議申し立てをすることができます。
弁護士による異議申し立てが認められれば、身柄が釈放されたり勾留延長期間が短くなったります。
勾留されると、勾留請求の日から10日間身柄が拘束されます。
また、最大で10日間勾留が延長されます。
勾留している間、検察官が捜査をし、事件を起訴するのかどうかを決めます。
公判請求する場合は、裁判が行われることになります。この場合、保釈という手続で釈放されるまで、身柄拘束が続きます。
公判請求しない場合、身柄は釈放されます。
起訴はするけれども公判請求ではなく略式手続(罰金を求める手続。詳しくは5で記載します。)にする場合にも、身柄が釈放されます。
このように、検察官による勾留請求や裁判官による勾留決定を回避できれば、その時点で身柄を釈放してもらうことができます。
そのために、 弁護士は検察官や裁判官に対して面会を求めるなどし、勾留する必要がないという意見を伝えます。
ただ「勾留しないでほしい」とお願いするのでは不十分で、 検察官や裁判官が勾留する必要がないと判断してもらえるような証拠収集や行動をしておくことが大切です(詳しくは3以下で記載します)。
3 STEP① 逮捕から勾留請求まで
逮捕から検察への送致
警察官は、逮捕後、48時間以内に検察官送致します。
警察官は、身柄拘束する必要があると考えたために逮捕しています。
特に、逮捕状を取得して行う通常逮捕については、逮捕状を取得するという手続を行ってまで逮捕しているので、 警察官は身柄拘束の必要性があると考えていると言えます。
そのため、警察官としては、検察官に勾留を請求してもらいたいと考えながら検察官送致をします(※)。
稀に、警察官において身柄拘束の必要性がないと判断して検察官送致前に釈放されることがあります。
送致から勾留の請求
送致を受けた検察官は、事件記録に目を通すほか、検察官送致された被疑者と会い、 事件に関する言い分を聞きます。
この言い分を聞く手続を弁解録取手続と言います。
事案によりますが、弁解録取手続は、長いと数時間に及びます。
検察官は、必ずしも警察官の意見に拘束されず、送致された証拠や弁解録取を踏まえて勾留の要否を考え、必要に応じて裁判所に勾留を請求します。
ここにいう勾留の必要性とは、主に証拠隠滅のおそれと逃亡のおそれです。
証拠隠滅については、物的証拠と人的証拠の2つに分けて考えることはできます。
物的証拠というのは、証拠となる物のことです。
被害者を騙すメッセージを送った携帯電話、被害者を殴ったバットなどをイメージしてもらうと分かりやすいと思います。
物的証拠の隠滅は、物を捨てたり隠したりする、あるいは記録を消去するという形で行われます。
これに対して、 人的証拠というのは、事件に関する情報を知っている人の話のことです。
証人として裁判所で証言することで証拠となることもありますし、警察官や検察官が話聴取して調書にまとめるという形で証拠になることもあります。
人的証拠の隠滅は、事件に関する情報を知っている人の話を歪めるという方法で行われます。
事件に関する情報を知っている人の代表例は、被害者、目撃者、共犯者です。
また、事件に関する情報を知らない人に嘘の話をさせて事実を歪めるということもあります。
被疑者にとって味方の人に対しては口裏合わせをすることで話を歪めることがあります。
頼んだだけでは口裏合わせに協力してくれない人に対しては、買収したり脅したりするということもあり得ます。
人的証拠は人の記憶に基づく証拠で、そもそも正確性が問題になりやすかったり、記憶が薄れてしまう危険性が高い、という特徴があります。
これに加えて被疑者の働きかけで人の話を歪められてしまうと、事案の真相を把握することが難しくなります。
そのため、特に人的証拠について証拠隠滅の恐れがあると、勾留の必要があるという判断がなされやすいです。
逃亡のおそれについては、重い犯罪であるために実刑の可能性があるときや、被疑者に家族や仕事がなくて逃亡を妨げる環境があまりない時に、特に考慮されます。
また、逮捕される前に実際に隠れたり逃走したりしていたという事情があると、逃亡のおそれがあるため勾留の必要があるという判断がなされやすくなります。
勾留請求されずに釈放される具体例
検察官は逃亡や罪証隠滅のおそれがあると考えるがゆえに勾留を請求するのですから、勾留請求を避けたいと考えたら、このような検察官の心配を取り除くことが有益です。
例えば、満員電車内の痴漢事件などにおいては、 実際に痴漢をしていても、とっさに「私は痴漢をしていません」と自分をかばう嘘を言ってしまい、 検察官送致に至るということはよくあります。
検察官の視点からすると、「このままでは被疑者が被害者に接触して脅して証拠隠滅を図る可能性があり、それを防止するために勾留を請求した方がいい」と考える可能性があります。
このような場合、早い段階で弁護人が動き出せていれば、勾留請求を防げる可能性が高まります。
実際に痴漢をしたのであれば、痴漢をしたことを認めて事実を詳細に書いた上申書を作成し、 勾留請求前に検察官に提出します。
こうすることにより、すでに事実を認めるに至ったのだからわざわざ被害者に接触して事実を歪めたりしないだろう、と検察官に考えてもらえれば、勾留請求を避けられる可能性があります。
また、 勾留請求までに示談の申し入れをしたり示談を成立させたりすることも有益です。
示談というのは被害者に許してもらうことを目的とするものです。
検察官に「このような示談を申し入れているということは、被害者に許してもらいたいのだから、被害者の感情を逆なでするようなことはしないだろう」と考えてもらうことができれば、勾留請求を避けられる可能性があります。
4 STEP② 勾留請求から勾留まで
勾留請求されて裁判所に連れて行かれると、裁判官から事件についての質問を受けます。
これを勾留質問と言います。
検察官の弁解録取手続とは異なり、勾留質問は通常、10分程度といったとても短い時間で終わります。
勾留質問を経て裁判官が勾留する必要があると考えれば、勾留決定がなされます。
勾留決定がなされると、勾留請求の日から数えて10日間身柄が拘束されます。
逆に、勾留する必要がないと判断されると勾留請求が却下されます。
勾留決定や勾留請求却下決定に対しては準抗告という異議申し立てができます。
準抗告をすると、勾留決定・勾留請求却下決定をした裁判官ではない別の裁判官3名が話し合い、勾留決定が正しかったのかどうかを判断します。
勾留する必要がなく、勾留決定が間違っているという判断がなされると、勾留決定が覆され、釈放されます。
逆に、勾留する必要があり、勾留請求却下決定が間違っているという判断がなされると、勾留請求却下決定が覆され、勾留されます。
準抗告をしたとしても勾留決定や勾留請求却下決定が間違っていないと判断されると、元々の決定が維持されます。これを準抗告棄却(反対に、準抗告が認められる場合を準抗告認容といいます。)と言います。
裁判官が勾留する必要があると考える考慮要素は、3で記載した検察官の考慮要素と同じです。
ですが、検察官は、捜査機関であり、事案の真相を解明するべき立場にある、という特徴があります。
また、検察官は日々捜査と裁判を通して犯罪と戦い続けているので、どうしても犯罪やその疑いに対して厳しくなるという傾向があります。
これに対し、裁判官は、あくまで証拠に基づいて公正な判断すべきである、という中立性が求められる立場です。
そのため、同じ事案についても、検察官における勾留の必要性の判断と裁判官における勾留の必要性の判断は、大きく異なる場合があります。
検察官が勾留請求する事案についても、勾留請求される前の段階の弁護活動から、裁判官による勾留請求却下や勾留決定に対する準抗告認容を狙って行動し、弁護士から意見書を提出したり、裁判官と面談するなどの活動をすることで、釈放を勝ち取ることができることがあります。
勾留請求却下で釈放された具体例
初対面の女性に対するわいせつ事件で、 被害者が警察に被害申告をしました。
被害者は加害者と面識もなく、警察は、加害者が誰なのかを調べるところから捜査をしなければいけない事案でした。
この加害者が弁護士に相談したところ、放っておけばいずれ身元を特定され、逮捕・勾留される事は間違いないので、早急な対処が必要だという判断に至りました。
わいせつ事件では事件そのものも重大ですし、当初犯人が特定されていないことなどからも、そのままでは当然逮捕され、勾留もされることが想定される事案でした。
ですが、弁護士は、逮捕前に上申書を作成して自首すれば、裁判所の判断で釈放してもらえる可能性がある、と考えました。
そこで、加害者と相談しながら犯行の詳細を記載した上申書を作り、自分が加害者であることを示す証拠も持参した上で、警察に出頭しました。
また、 弁護士は警察官に対し「被害者に謝罪と賠償をしたい」ということを伝え、そのことも証拠に残しました。
自首後、想定通り、逮捕や勾留請求はされました。
ですが、勾留請求を受けた裁判官は、上申書や証拠を提出したことや示談を申し入れていることを考慮し、勾留請求を却下し、加害者は釈放されました。
犯行後何もせずに逮捕まで至っていたら勾留決定されて20日間以上身柄拘束されたと推測される事案ですが、加害者が自主的に行動をしたことで、身柄拘束は約2日間に留まりました。
逮捕前からあらかじめ裁判所を視野に入れた弁護活動をしておくことで勾留を回避できた事の一例というべきでしょう。
上原総合法律事務所の自首サポートについて詳しくはこちらをご覧ください。
勾留決定に対する準抗告認容で釈放された具体例
夫婦が量販店において一緒に万引きをした共犯事件において、 口裏合わせのおそれがあるなどとして逮捕・勾留された事案があり、勾留後にご相談を受けました。
接見に行ってご本人から事情を把握してみると、共犯者である夫婦がお互いをかばいあっている状況でした。
この状況を把握した弁護士は、夫婦が二人とも正直な事実を書いた上申書を作成し、身元引受人などを用意した上で勾留決定に対する準抗告をしました。
そうしたところ、準抗告は認容され、弁護士に依頼してから2日後に身柄が釈放されました。
この事案は、適切な弁護活動により勾留の必要性をなくすことができた事案ということができます。
5 STEP③ 勾留から起訴不起訴の決定まで
勾留は、原則は勾留請求の日から10日間ですが(刑事訴訟法第208条第1項)、裁判官は、検察官の請求により、この勾留期間を最大で10日間延長することができます(同条第2項)。
この勾留期間中に起訴しない限り、検察官は被疑者を釈放します(同条第1項)。
刑事訴訟法第208条
第1項 (前略)被疑者を勾留した事件につき、勾留の請求をした日から十日以内に公訴を提起しないときは、検察官は、直ちに被疑者を釈放しなければならない。
第2項 裁判官は、やむを得ない事由があると認めるときは、検察官の請求により、前項の期間を延長することができる。この期間の延長は、通じて十日を超えることができない。
勾留が延長されるかについて
法律上、勾留期間を延長できるのは「やむを得ない事由がある」場合とされています。
具体的には、被害者からの事情聴取が終わっていない、証拠である電子機器の解析が終わっていない、被疑者の取調べが終わっていない、などの理由で勾留期間を延長されます。
事案によっては本当に「やむを得ない事由がある」といえないにもかかわらず勾留期間延長決定がなされる場合もあり、そのような場合には、弁護人が勾留期間延長決定に対する準抗告をすることで、勾留期間延長決定が取り消されたり、延長期間が短縮されたりすることがあります。
勾留期間中の釈放について
検察官は、勾留期間中であっても、事件を不起訴にすると決めたら、被疑者を釈放します。
この釈放は、検察官の判断で行うことができ、裁判官の判断を必要としません。
検察官が不起訴にすることを決める場合とは、例えば、被害者による告訴が取り消されたり、示談が成立して被害者が被疑者を許している場合などです。
また、ごく稀に、被疑者のいわゆるアリバイが明白になったり、事件の犯人が別にいるなどの事情から被疑者が犯人ではないと明らかになった場合にも、被疑者を不起訴にすべきことは明らかですので、検察官は被疑者をすぐに釈放します。
被害者と示談をして告訴等を取り消してもらうこと、被疑者が犯人ではないと示す証拠を収集して捜査機関に提出することなどは、通常弁護士がいて初めてできることであり、迅速に弁護士が活動することが必要です。
不起訴処分について
検察官は、勾留期間中に捜査し、事件を起訴するかどうかを判断します。
検察官は、起訴したら確実に有罪になるといえるだけの証拠がある、と考える場合に起訴します。
また、起訴したら有罪になる証拠がある場合であっても、検察官は起訴猶予という形で不起訴にすることもできます。
検察官は、事件の個別具体的な事情や他の事案との公平などを考慮し、起訴するかどうかを決めます。
被疑者による犯行とはいえないという証拠や被疑者にとって有利な情状を示す証拠の提出、また意見書の提出や検察官との面談など、不起訴処分を目指し、迅速かつ適切な弁護活動が求められるところです。
略式手続か正式裁判か
検察官は事件を起訴するとして、公判請求にするか略式手続にするか、を判断します。
公判請求というのは、公開の法廷で行われる裁判にするものです。検察官が公判請求すれば、特別な事情のない限り裁判が開かれます。
初回の裁判は、公判請求の日から1−2ヶ月程度後になることが通常です。
ニュースやテレビドラマで写っているような法廷で、一般の方やメディアが傍聴(※)できる状態で裁判が行われます。
傍聴は誰でもすることができ、マスコミ関係者が傍聴してその内容が報道されることもあり事件が世間や関係者に知られるリスクがあります。被告人のご家族が傍聴したい場合、事前に弁護人から裁判所に調整することで傍聴席を確保できることがあります(特別傍聴席、などと呼ばれます)。
略式手続は、検察官が罰金で良いと考えた場合に、書類上のやり取りだけで刑罰が決定されるもので、刑罰は罰金のみです。
略式手続で事件を処理することについて被疑者の同意がある場合にだけ行われます。
略式手続による場合、通常、勾留期間の最終日に略式手続が行われ、その日のうちに罰金額が決まるとともに、釈放されます。
公開の法廷での裁判や重い刑罰を避けることができ、釈放もされるため、略式手続は被疑者にとっても有利となりえます。
※勾留期間と土日祝日について
検察庁や裁判所の職員は、基本的に平日に勤務していて、土日祝日は、日直の一部の職員だけが勤務しています。
勾留期間満了日が土日祝日になる場合、通常、事案の処理は、勾留期間満了日直前の平日に行われます。
例えば、勾留期限が日曜日までだという場合、起訴不起訴の決定は基本的にその前の金曜日までに決まります。
このような場合、金曜には起訴されてしまう可能性があるため、それよりも前に示談等をしなければならず、迅速な対応が必要です。
示談で釈放や不起訴となる場合
窃盗・暴行・傷害・痴漢・盗撮など、被害者がいて、かつ被害者が許していれば処罰しなくても良いと考えられる事件については、示談できれば多くの場合不起訴になりますし、早期に示談できれば勾留期間中の釈放もありえます。
反対に、一度起訴されてしまえば、後に示談等が成立しても起訴が取り消されるわけではありません。
そのため、できる限り早く示談を成立させることが必要です。
【ケース別・職種別】逮捕後の流れや弁護活動等
逮捕後の流れは法律で決まっており、その範囲では基本的にはどのケースでも同様です。しかし、罪名ごとや被疑者の立場等に特に重視すべき点や対応策等にはバリエーションがあります。罪名ごとや職種ごとの詳細については、下記の記事をご参照ください。
【ケース別】
【職種別】
逮捕について弁護士に依頼するメリットとタイミング
逮捕されるかもしれない、あるいは家族や恋人などが逮捕されてしまったという場合には、可能な限り早く、刑事事件について深い知見を有する弁護士に相談し、迅速かつ適切な対応をすることが必要です。
身柄拘束の回避や早期釈放のための活動
例えば逮捕前の段階であれば、予め自首や証拠の提出等を行っておくことで、逮捕自体を避けられたり、あるいは逮捕されても裁判官の判断などで釈放される可能性もあります。
また、身柄の解放は実現しなくても、さらには捜査機関が事件や犯人は把握済だったなどの理由で「法律上の自首」には該当しなくても、早期の段階で捜査に協力的な姿勢を示していたことは、起訴猶予等にもつながりうる有利な情状ともなります。
逮捕はいつされるか分からない以上、とにかく早い対応が必要不可欠です。
また、家族等が逮捕されたという場合にも、とにかく迅速に、適切な対応ができる弁護士に依頼すべきです。
逮捕から勾留請求までは長くとも72時間です。
検察官に勾留請求を思いとどまらせる、裁判官に勾留決定をしないという判断をさせるには、判断の前までに、ご本人と弁護士が接見し、準備をして、意見書の提出や面談等を行う必要があります。
また、勾留決定に対する準抗告を行う場合にも準備が必要ですし、勾留決定から時間が経てば経つほど、いまさら勾留決定を覆しても、という状況になりかねません。
さらに、勾留の延長についても、検察官や裁判官への申入れや準抗告等により身体拘束の期間を短くできる場合もありえますし、早期に示談ができれば、その時点での釈放・不起訴もありえます。
不起訴や略式手続へ向けた活動
さらに、勾留自体は防げなかったとしても、その後も行うべき弁護活動は山積みです。
事実を否認するのであれば、根負けして捜査機関の言われるがままに自白してしまう前に、弁護士が接見を繰り返してアドバイスし、また継続して励ますなどの活動が必要です。
事案次第では、無実であることを示す証拠の収集等も必要となってくるでしょう。
事実を認めつつ不起訴を目指すという場合にも、早期に動き始め、示談や更生のための環境整備、その証拠化などを進める必要があります。
起訴されるか不起訴となるか(起訴されるとして略式手続で済むか)は、その時点において検察官が把握している事実関係で判断されます。そして起訴されれば、99%という極めて高い確率で有罪となります。
例え示談が成立し、被害者が許したとしても、一度起訴されればそれが取り消されることはまずありませんし、正式裁判が略式手続に変わることもありません。
不起訴(あるいは略式手続)を目指すのであれば、迅速に、かつ適切な弁護活動が期待できる弁護士に依頼すべきです。
その他のメリット
早期に弁護士に相談するメリットは上記に限られません。
接見禁止が付されていれば家族もご本人と会うことはできませんが、弁護士が一部解除の申立てをすれば、ご本人に会えたり手紙のやりとりができるようになる場合もあります。
また、極めて重大な事件などで接見禁止自体は解除されなくても、弁護士を通じてご本人の様子などを把握できるというメリットもあります(当然ですが、ご家族等であっても、証拠隠滅に繋がるような内容や接見禁止の趣旨に反するような内容はお伝えすることはできません。)。
さらに、もし起訴されるという場合であっても、事前に準備をしておくことで、起訴後すぐに保釈を請求し、起訴の翌日や数日後には身柄が解放されることもありえます。
元検事の弁護士の強み
逮捕・勾留される刑事事件の弁護活動における元検事の弁護士の強みは、何より検事としての経験と知識を有していることです。
検察官として、手続の実務的な流れを全て実際の経験として把握していますし、勾留請求するか否か、延長請求するか否か、起訴するか不起訴にするか、略式手続にするか否かなどの判断に際し、検察官がどのようなことを考慮し、どう判断するかを身をもって経験しています。
特に不起訴となった事件では、弁護士は証拠は全く目にしませんし、どのような理由や判断で不起訴という判断に至ったのかの詳細を知ることもできません。
元検事の弁護士であれば、検察官の考え方や重視する点を自らの経験として把握しているため、その判断に影響を与えるであろう点を的確に捉えた弁護活動が可能なのです。
また、特筆すべき点として、検察庁の内部事情も知っているということも挙げられます。
検察庁は組織であり、検察官個人が全てを自由に決めているわけではありません。組織には従前の積み重ねた過去の例がありますし、また上司の決裁も必要なほか、事務手続等のために前倒しで意思決定をすることが求められる場合もあります。
元検事の弁護士であれば、そのような組織の内部的な事情も考慮した弁護活動が可能です。
さらに、刑事事件について、シンプルに豊富な経験を有しています。
通常、現場の検察官は、常に数十件、時には100件を超える刑事事件を抱えています。
事件の内容も多種多様であり、社会の耳目を集めるような重大事件や裁判員裁判の否認事件から、粛々と示談して不起訴となっていく事案まで網羅的に経験します。
検察官は、毎日のように新たな事件の配点を受け、証拠を確認し、取調べを重ね、事件を処理していきます。
その中で、警察と相談し、上司や先輩から指導を受け、時に裁判官や弁護人と主張を戦わせ、日々経験を積んでゆくのです。
このように、量的にも質的にも豊富な経験を積んでいることも元検事の弁護士の強みです。
元検事の弁護士にデメリット等はあるのか。
ネット上では、いわゆるヤメ検は高圧的だ、弁護士としての経験は未熟だなどといった意見も見受けられます。
まず「ヤメ検だから高圧的だ」というのは明らかに誤りです。もちろん検察官にも元検事の弁護士にも、高圧的な人はいるでしょう。ですが、それは弁護士でも裁判官でも同様ですし、その他の職業の方でも同じです。考えてみれば当たり前の話ですが、「ヤメ検だから」ということはなく、「結局はその人次第」です。
他方で、被疑者として検事の取調べを受けた際に高圧的に感じるなどといったことは実際にあるでしょう。ただこれは捜査の一環として取調べを行い追及すべき立場にある中で、半ば必然的に、場合によっては意図的に発生する状況であって、それ以外の場面でも常に高圧的だとか、弁護士として聴取等する場合も同じだというわけではありません。
経験不足という観点からは、例えば離婚案件など特定分野について経験不足な場合はあるかもしれません。ただこれは当初から弁護士である場合も同じで、専門分野に注力していればそれ以外の分野の経験が、反対にジェネラリストとしてやっていれば深い知見が不足してしまうことは必然です。
法曹三者はどの立場であっても事案ごとに何かしら新しく学ばなければならないことがあるものですし、検察官であろうが弁護士であろうが、法律家として通底する能力は日々磨いていくものです。
また、少なくとも刑事事件や不正調査といった分野について、元検事だから経験が不足しているとは考え難いです。不正調査等で行う内容は捜査と共通する部分が大きいですし、刑事事件についても、一見全く立場は逆のようですが、実際はそうではありません。
司法のあり方として議論はありえますが、日本の刑事事件の有罪率は99%以上といわれており、これは検察官において、犯罪を証明するに足りる証拠があるか極めて慎重に判断している結果でもあります。
検察官は、日々、極めて厳しい裁判官や弁護士の目線で証拠や事実関係を吟味し、補充捜査を行い、起訴不起訴を判断し、裁判の戦略を立てているのであって、立場が違うので弁護人としての経験が不足しているとは到底いえないと考えます。
なお、反対にメリットとして「ヤメ検は検察庁に顔がきく」などと言われることもあります。ですが、結論としてはこのような効果を期待すべきではないでしょう。
実際に対応している中で、担当検察官がたまたま同期や先輩後輩であって、事実上腹を割った話がしやすいといった場合があることは否定できません。
ただ、検察官は公益の代表者であり、相手方が知り合いだからといった理由で手心を加えるなどはないはずですし、あってはならないことのはずです。
逮捕中に家族等ができることは?
家族等からの弁護士の選択・依頼
ご家族や交際相手、友人等が逮捕された場合に、家族等が行うべきは弁護士への相談・依頼です。
早期に弁護士に依頼すべきであることは上記のとおりですし、逮捕は突然のことであり、多くの方は弁護士の宛てもないまま、社会から断絶されてしまいます。
そのような中で、迅速かつ適切な弁護士を探し、依頼することは社会内にいる家族等にしかできません。
身柄拘束されている中でも、当番弁護士の接見を依頼したり、国選弁護人の選任ができたりということはありますが、弁護士を自由に選ぶことはできません。
人生を左右しうる極めて重要な場面において、本当に適切な弁護士を選択するには、家族等の協力が不可欠な場合がほとんどでしょう。
なお、逮捕前の段階で、逮捕に備え弁護士に依頼しておく、あるいは家族にもしもの場合に頼るべき弁護士を伝えておくといった方法はありえますので、逮捕のおそれがある場合には検討いただければと思います。
面会はできる?
ご家族が逮捕された場合、ご本人に会って話をしたいであろうと思います。
逮捕・勾留されている人と面会することを接見といいます。
接見は、テレビドラマなどで表現されているように、 穴のあいた透明な板越しに話をします。
一般の方による接見には制限があります。
一般の方の接見は平日日中のみ、1日1回20分までなどの時間制限がありますし(制限の内容は一律ではありません)、一般の方の接見においては警察官が立ち会います。
事案によっては裁判官が接見禁止という決定をすることがあり、この場合、一般の方は接見することができません。
ご家族が事件に無関係の場合には、接見禁止決定がなされていても、弁護士が接見禁止一部解除の申し立てをすることで、ご家族が接見できるようになることがあります。
また、平日の日中であっても、ご本人が取調べ等のために留置所に不在であれば接見することはできません。
接見の予約といった制度があるわけではないですが、面会に行く時に事前に警察署に連絡を入れておくと、 事実上の予約を取ってくれることがあります。
接見は接見室で行いますが、警察署によっては接見室が少なく、埋まっている場合には順番待ちとなるため、接見には時間に余裕を持って行くことをお勧めします。
なお、弁護人であれば、接見時間に制限はなく、 警察官の立会いもありませんので、事件について包み隠さずに話をすることができます。
弁護人は、 接見禁止決定がなされていても接見することができます。
差し入れのルールは?
ご家族が逮捕された方は、なにかご本人に差し入れてあげたいと考えると思います。
逮捕・ 勾留されている方に対しては、本や服などを差し入れることができます。
また、お金も差し入れることができ、お金があれば留置所の中で買い物することができます。
ただ、本や服などは全てのものを差し入れられるわけではありません。
本は書き込み等のない新品のものであることが求められますし、 服などについては紐がついていないものであるなど、留置施設管理上の細かい規定があります。
規定に合致していないものはせっかく持って行っても差し入れることができません。
警察署によっても取り扱いが違うので、差し入れをする前に警察署に連絡して確認することをお勧めします。
6 逮捕のおそれがある/家族等が逮捕されたなどでお困りの方は上原総合法律事務所へ
長文をお読みくださりありがとうございます。
上に記載したように、刑事事件で逮捕された場合や逮捕されるかもしれない場合、すぐに適切な対応をできるかどうかで、身柄拘束の長さが変わりますし、刑事事件の結論が変わることもあります。
上原総合法律事務所は迅速にご相談いただける体制を整えており、逮捕されている事案については、特段の事情のない限りご依頼いただいた当日に動き出します。
刑事事件でお困りの方は、上原総合法律事務所にご相談ください。