ご注意ください
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弁護士 上原 幹男
第二東京弁護士会所属
この記事の監修者:弁護士 上原 幹男
司法修習後、検事任官(東京地方検察庁、奈良地方検察庁等)。捜査・公判の両面で多数の刑事事件 を担当。検事退官後、都内法律事務所を経て個人事務所を開設。2021年に弁護士法人化し、新宿・ 横浜・立川に展開。元検事(ヤメ検)として、捜査機関の思考・動き方を熟知した立場から、逮捕前 の対応・示談交渉・公判弁護まで一貫してサポートしている。
企業にとって、顧客情報は信用・売上・競争力の源泉となる極めて重要な情報です。
しかし、従業員や退職者が顧客情報を不正に持ち出し、転職先で利用したり、独立後の営業活動に使ったりする事案が少なくありません。
顧客情報は、従業員が担当していた顧客に関する情報であっても、従業員個人のものになるわけではありません。会社が取得し、管理している顧客情報を無断で持ち出す行為は、民事上の損害賠償責任にとどまらず、事案によっては犯罪として刑事事件となる可能性があります。
もっとも、従業員が業務を通じて得た一般的な知識・経験や、適法に形成された人的関係のすべてが会社に帰属するわけではありません。問題となるのは、会社が取得・管理している顧客リスト、取引履歴、契約条件、商談記録などを、会社の許可なく持ち出し、利用・提供する行為です。
本記事では、元検事’(ヤメ検)の弁護士が、顧客情報の持ち出しが犯罪となるケース、発覚時に企業が取るべき対応、再発防止策、事前の予防策、弁護士が提供できるサポートや顧問契約のメリット等について解説します。
目次
顧客情報の持ち出しとは、会社が管理する顧客の氏名、住所、電話番号、メールアドレス、取引履歴、相談内容、購買履歴、担当者情報、見積金額、契約条件などの情報を、正当な権限なく社外に持ち出す行為をいいます。
持ち出しの対象は、デジタルデータに限られません。紙の顧客名簿、契約書の写し、名刺、営業資料、スクリーンショット、スマートフォンで撮影した画像なども含まれます。
典型的な持ち出し方法としては、次のようなものがあります。
特に問題になりやすいのが、退職予定者や退職者による顧客情報の持ち出しです。
営業担当者が「自分が担当していた顧客だから、自分の人脈として使ってよい」と考えているケースもあります。しかし、会社が業務として取得・管理している顧客情報は、会社の事業活動上重要な情報です。退職者であっても、会社の許可なく顧客情報を持ち出し、転職先や独立後の営業活動に利用すれば、違法行為や犯罪となる可能性があります。
顧客情報の持ち出しがあったとしても、その全てにおいて犯罪が成立するわけではありません。
もっとも、持ち出された顧客情報の内容、会社での管理状況、持ち出しの方法、利用目的、第三者への提供の有無などによっては、犯罪が成立する可能性があります。
特に重要なのは、次の2つです。
さらに、持ち出し方法によっては、窃盗罪や横領罪、不正アクセス禁止法違反などが問題になることもあります。
顧客情報や取引先リストは、一定の要件を満たす場合、不正競争防止法上の「営業秘密」として保護されます。
不正競争防止法上の営業秘密にあたるためには、次の3つの要件が必要です。
顧客情報も、営業活動に役立ち、一般に公開されておらず、会社内で秘密として適切に管理されていれば、営業秘密に該当し得ます。
たとえば、次のような顧客情報は、営業秘密として保護される可能性があります。
このような顧客情報が不正競争防止法上の営業秘密に該当し、不正の利益を得る目的または会社に損害を加える目的で取得・使用・開示された場合には、営業秘密侵害罪が成立する可能性があります。
たとえば、次のような事案です。
営業秘密侵害罪に該当する場合、個人には最大で10年以下の拘禁刑または3,000万円以下の罰金が科される可能性があり、これらが併科される可能性もあります。法人についても、事案の類型に応じて最大で10億円以下の罰金が科される可能性があります。海外での営業秘密の使用やその目的での取得の方が、より重い法定刑となっています。
顧客リストを転職先に持ち込んだケース、退職前に顧客情報を大量にダウンロードしたケース、競合会社で利用する目的で情報を取得したケースなどでは、営業秘密性や取得・使用・開示の態様によって、不正競争防止法違反が問題となることがあります。
顧客情報には、氏名、住所、電話番号、メールアドレスなどの個人情報が含まれることが多くあります。そのため、顧客情報の持ち出しは、個人情報保護法違反が問題となる可能性があります。
個人情報取扱事業者である企業には、個人データの安全管理措置を講じる義務があります。顧客情報の漏えい等が発生した場合、個人情報保護委員会への報告や本人への通知が必要になるケースもあります。また、顧客情報が漏えいした場合には、企業として、顧客対応、問い合わせ対応、再発防止策の公表、行政対応などを行わなければならないことがあります。漏えいの規模や内容によっては、企業の信用が大きく損なわれる可能性もあります。
また、個人情報保護法上、従業員等が業務に関して取り扱った個人情報データベース等を、自己または第三者の不正な利益を図る目的で提供・盗用した場合などには、個人情報データベース等不正提供罪が成立する可能性があり、刑事責任が問題となります。
つまり、顧客情報に個人情報が含まれる場合には、企業側の安全管理措置義務、漏えい等発生時の報告・本人通知義務が問題になるほか、従業員等の行為態様によっては、個人情報保護法上の刑事責任が問題となることがあるのです。
なお、個人情報データベース等不正提供罪には両罰規定が存在し、従業員の行為が個人情報データベース等不正提供罪に該当する場合は、情報を持ち出された被害者である企業も刑事責任を問われる可能性があります。
顧客情報の持ち出しは、単なる社内ルール違反ではありません。個人情報の漏えいとして企業の信用を損ない、行政対応、顧客対応、再発防止策の検討、損害賠償対応などが必要になることがあります。事案によっては、刑事事件対応を検討しなくてはならない場合もあります。
顧客情報の持ち出し方によっては、次のような犯罪が成立する可能性もあります。
顧客情報が記載された紙資料、USBメモリ、外付けHDD、会社貸与のパソコンなどを無断で持ち出した場合には、窃盗罪や横領罪が問題になります。
ただし、情報そのものは通常、窃盗罪等の客体である「財物」には当たりません。そのため、データをコピーしただけで直ちに窃盗罪が成立するわけではありません。
他方で、顧客情報が記載された紙資料、USBメモリ、外付けHDD、会社貸与パソコンなどの有体物を無断で持ち出した場合には、窃盗罪や横領罪が問題になります。
退職後に会社の承諾なく社内システムへアクセスした場合や、他人のID・パスワードを利用して顧客情報にアクセスした場合には、アクセス制御機能の有無や権限の有無などの事情により、不正アクセス禁止法違反が問題となる可能性があります。
特に、他人のID・パスワードを無断で使用した場合や、本来アクセス権限のないシステムにログインした場合には、刑事事件化する可能性があります。
このように、顧客情報の持ち出しは、単に「退職者とのトラブル」では済まないことがあります。会社としては、刑事事件化の可能性も踏まえた初動対応が重要です。
※無料相談は警察が介入した事件の加害者側ご本人、逮捕勾留されている方のご家族・婚約者・内縁関係の方が対象となります。
その他のご相談は原則有料相談となりますので、ご了承ください。
※刑事事件の無料相談は一部対象を限定しておりますので、予めご了承ください。詳細は弁護士費用ページをご覧ください。
顧客情報の持ち出しが疑われる場合、企業の初動対応がその後の結果を大きく左右します。
対応が遅れると、データが削除されたり、外部に拡散されたり、証拠が失われたりする危険があります。反対に、証拠を適切に保全し、事実関係を整理できれば、民事請求や刑事告訴を検討しやすくなります。
最初に行うべきことは、証拠保全です。
確認すべき証拠には、次のようなものがあります。
この段階で重要なのは、本人へのヒアリングを行う前に、可能な範囲で客観的な証拠を保全しておくことです。先に本人に事情を聞くと、データ削除、端末初期化、外部アカウントの削除などの罪証隠滅行為により、証拠が失われる可能性があります。
また、会社貸与端末を確認する場合には、就業規則や社内規程、プライバシーへの配慮、調査範囲の相当性にも注意が必要です。必要に応じて、弁護士やデジタル・フォレンジックの専門業者と連携し、適法かつ証拠価値を損なわない形で調査を進めるべきです。
持ち出しが疑われる従業員や退職者については、追加の流出を防ぐため、必要に応じて速やかにアクセス権限を停止・制限します。
具体的には、次の対応が考えられます。
退職者については、退職日以降もアカウントが残っていたことが問題になるケースがあります。退職時のアカウント削除・権限停止の運用は、平時から整備しておくべきです。
持ち出しを行った従業員本人へのヒアリングは重要ですが、慎重に行う必要があります。
準備が不十分なまま感情的に追及したり、証拠を示しすぎたりすると、しらを切られてしまったり、本人が警戒して証拠を隠滅するおそれがあります。また、退職者に対する連絡方法や内容によっては、後の交渉や訴訟に影響することもあります。
場合によっては追及して事実を認めさせるに足りるだけの根拠を用意するほか、可能な限りの証拠等の保全も行った上、戦略的にヒアリングを実施することが重要です。
ヒアリングでは、次の点を確認します。
企業側は、ヒアリング内容を記録化し、後の民事・刑事対応に備える必要があります。
顧客情報が社外に流出した場合、顧客対応や行政対応が必要になる可能性があります。
特に、個人データの漏えい等に該当する場合には、個人情報保護委員会への報告や本人通知が必要となる場合があります。漏えい規模、情報の内容、二次被害の可能性を確認し、速やかに対応方針を決める必要があります。
また、顧客への説明内容や公表内容を誤ると、かえって信用を失ったり、法的責任を拡大させたりする可能性があります。外部公表や顧客通知を行う場合には、事実確認の程度、通知対象者、通知内容、再発防止策を慎重に検討する必要があります。
顧客情報の持ち出しが確認された場合、企業は民事・刑事の両面から対応を検討します。
顧客情報を持ち出した従業員や退職者に対して、損害賠償請求を行うことが考えられます。
請求対象となり得る損害には、次のようなものがあります。
もっとも、損害額の立証は簡単ではありません。どの顧客が流出したのか、持ち出し行為と売上減少に因果関係があるのか、どの程度の損害が発生したのかを、客観的資料に基づいて整理する必要があります。
また、これらの損害がすべて当然に認められるわけではなく、持ち出し行為との因果関係や損害額を具体的に立証する必要があります。
悪質な事案では、刑事告訴を検討することがあります。
たとえば、次のようなケースでは、刑事事件化を視野に入れることがあります。
刑事告訴では、警察や検察が「どの犯罪が成立し得るのか」「どの証拠で立証できるのか」「被害の重大性はどの程度か」を重視します。
そのため、単に「顧客情報を持ち出された」と訴えるだけでは不十分です。持ち出された情報の内容、営業秘密性、アクセス権限、持ち出し方法、利用目的、被害状況を整理し、証拠に基づいた告訴状を作成した上、捜査機関に説得的に説明するほか、補充が求められればそれにも対応していく必要があります。
元検事の弁護士であれば、捜査機関が重視するポイントを踏まえて、立件可能性や起訴不起訴の判断、裁判での立証まで意識した告訴準備を行うことができます。
顧客情報の持ち出しを防ぐには、技術的対策と人的対策の両方が必要です。
特に、不正競争防止法上の営業秘密として保護を受けるためには、「秘密として管理されていた」といえる状態を整えておくことが重要です。
どれほど重要な顧客情報であっても、社内の誰でも自由に閲覧・ダウンロードできる状態であったり、秘密情報として扱われていることが従業員に明確に示されていなかったりすると、営業秘密性が争われる可能性があります。
技術的対策としては、次のような方法があります。
特に退職前後は、顧客情報の持ち出しリスクが高まります。退職申出後のアクセス権限、データ持ち出し、顧客への接触状況は、通常時よりも慎重に管理すべきです。
技術的対策だけでは、顧客情報の持ち出しを完全に防ぐことはできません。
従業員に対して、顧客情報が会社の事業活動上重要な情報であり、無断持ち出しが犯罪になり得ることを教育する必要があります。
具体的には、次のような対応が有効です。
営業担当者は、顧客との関係が深いほど、「自分の顧客」という意識を持ちやすくなります。しかし、顧客情報は、会社の信用、広告費、営業体制、契約関係の中で蓄積された情報です。企業としては、この点を日常的に教育し、誤解を防ぐ必要があります。
退職者による持ち出しを防ぐためには、退職時のチェック体制が重要です。
退職時には、次の事項を確認すべきです。
退職後の顧客接触を一律に禁止できるとは限りません。競業避止義務や顧客接触禁止は、期間、地域、対象顧客、職種、代償措置、企業側の保護利益などに照らして、合理的な範囲である必要があります。
そのため、退職時には、「顧客に一切接触してはならない」といった抽象的・広範な確認ではなく、会社の営業秘密や顧客情報を不正利用しないこと、秘密保持義務に違反しないこと、誓約書や就業規則で定められた義務を遵守することを明確に確認することが重要です。
退職時の対応を形式的に済ませると、後日トラブルが発覚した際に、会社側の管理体制の甘さを指摘される可能性があります。
顧客情報の持ち出しは、発覚後の対応だけでなく、発生前の予防が極めて重要です。
顧問弁護士がいれば、平時から次のようなサポートを受けることができます。
特に刑事事件化が見込まれる事案では、初動対応の巧拙が結果を大きく左右します。
元検事の弁護士であれば、コンプライアンスのポイントを抑えたアドバイスや持出し等の防止体制の構築はもちろん、警察や検察がどのような証拠を重視するのか、どのような事案で立件可能性が高まるのかを踏まえた実効的な対応も検討できます。
企業にとって重要なのは、「問題が起きてから慌てて対応する」のではなく、「問題が起きない仕組みを作ること」です。顧問弁護士を置くことで、日常的な情報管理体制の整備から、有事の対応まで一貫したサポートを受けることができます。
顧客情報の持ち出しは、単なる社内トラブルではありません。
顧客情報が営業秘密に該当する場合には、不正競争防止法違反として刑事責任を問われる可能性があります。また、顧客情報に個人情報が含まれる場合には、企業の安全管理措置義務、漏えい等発生時の報告・本人通知義務など、個人情報保護法上の問題も生じます。
さらに、持ち出し方法によっては、窃盗罪や不正アクセス禁止法違反などが問題になることもあります。
もっとも、顧客情報の持ち出しがあったからといって、常に犯罪が成立するわけではありません。持ち出された情報の性質、管理状況、持ち出し方法、利用目的、第三者提供の有無、会社に生じた損害などを踏まえて、個別に判断する必要があります。
企業としては、顧客情報の持ち出しが疑われた段階で、速やかに証拠を保全し、アクセス権限を停止・制限し、外部流出の有無を確認する必要があります。そのうえで、損害賠償請求や刑事告訴などの法的措置を検討すべきです。
また、平時から、アクセス制限、ログ管理、USB制限、退職時チェック、秘密保持誓約書、就業規則、従業員研修などを整備しておくことが重要です。
顧客情報の漏えいは、企業の信用と事業継続に直結する重大な問題です。従業員や退職者による不正な持ち出しが疑われる場合、または顧客情報管理体制に不安がある場合には、早期に弁護士へ相談することをおすすめします。
上原総合法律事務所は、元検事7名を中心とする弁護士集団で、企業の刑事事件対応、コンプライアンス体制の整備、顧問業務に注力しています。
顧客情報の持ち出し、営業秘密侵害、従業員不正、刑事告訴、情報管理体制の整備でお悩みの企業は、ぜひ当事務所にご相談ください。経験豊富な元検事の弁護士が、迅速かつ的確に対応いたします。
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