弁護士 上原 幹男
第二東京弁護士会所属
この記事の監修者:弁護士 上原 幹男
司法修習後、検事任官(東京地方検察庁、奈良地方検察庁等)。検事退官後、都内法律事務所にて弁護士としての経験を経て、個人事務所を開設。 2021年に弁護士法人化し、現在、新宿事務所の他横浜・立川にも展開している。元検事(ヤメ検)の経験を活かした弁護活動をおこなっている。
駅やコンビニ、路上などで財布やスマートフォンなどの落とし物や忘れ物を見つけた場合、自動販売機や精算機におつりが忘れられていた場合など、「拾っただけだから自分のものにしてしまっても問題ないのではないか」と考える方もいるかもしれません。
しかし、落とし物や忘れ物を自分のものとして持ち帰ったり使用したりした場合、遺失物等横領罪という犯罪が成立する可能性があります。
防犯カメラの映像やスマートフォンの位置情報などから行為が発覚し、後日警察から連絡が来るケースも少なくありません。遺失物等横領罪は比較的軽い犯罪とされていますが、有罪となり前科が付く可能性もあります。
この記事では、元検事の弁護士が、遺失物等横領罪の概要、成立するケース、刑罰、逮捕の可能性、罪に問われた場合の流れや対処法について分かりやすく解説します。
目次
第1 遺失物等横領罪とは
遺失物等横領罪とは、落とし物や忘れ物など、本来の持ち主の占有を離れた他人の物を自分のものとして取得する犯罪です。
刑法254条では次のように定められています。
遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は、1年以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金若しくは科料に処する。
ここでいう「占有を離れた物」とは、持ち主の管理が及んでいない状態の物を指します。例えば、路上に落ちている財布や、電車内に忘れられたスマートフォン、公園のベンチに置き忘れられたバッグ、ATMに忘れられた現金などが典型例です。
これらの物を見つけた場合、本来は警察や施設の管理者に届ける必要があります。しかし、届け出ずに持ち帰ったり、自分の物として使用したりした場合には、遺失物等横領罪が成立する可能性があります。
なお、法律上の正式名称は「占有離脱物横領罪」ですが、一般には「遺失物横領罪」と呼ばれることが多いため、本記事でもこの名称を用いて解説します。
第2 遺失物横領罪の構成要件
遺失物横領罪が成立するためには、いくつかの要件を満たす必要があります。
〇遺失物(占有離脱物)であること
まず、対象となる物が占有を離れた他人の物であることが必要です。
占有を離れた物とは、持ち主の管理が及んでいない状態の物を指します。例えば、路上に落ちている財布や、駅のホームに置き忘れられたスマートフォンなどがこれにあたります。
もっとも、落とし物や忘れ物であっても、持ち主がすぐ近くにいる場合などは、まだ持ち主の占有が及んでいると評価される可能性があります。この場合には、遺失物横領罪ではなく窃盗罪など別の犯罪が問題となることもあります。
どのくらいの距離や時間が空けば占有がなくなったと判断されるかは事案の状況によって様々であり、判断は容易ではありません。
また、占有を離れたことが占有者の意思によらない場合にのみ、遺失物横領は成立します。
意図的に捨てた物、放置した物は遺失物横領の対象にはなりません。
さらに、その物についていまだ誰の占有にも属していない場合のみ、遺失物横領となります。
本来の持ち主の占有から離れても別の主体の占有が及んでいる場合には、遺失物横領ではなく窃盗となる可能性があります。例えば、旅館や公衆浴場に置き忘れられたものについて、本来の持ち主の占有は離れているものの、旅館等の占有があると判断された例もあります。
〇故意について
犯罪が成立するのは、その犯罪を行うことについての故意がある場合であり、遺失物横領についても同様です。
遺失物横領の対象は、占有者の意思によらずその占有を離れ、いまだ誰の占有にも属さない物ですから、捨てられた物と信じていたような場合、遺失物横領は成立しない可能性があります。
ただ、故意は未必的なものであってもよいとされており、「捨てられたものだろうかど、もしかしたら落とし物や忘れ物かも」といった認識であっても、理論上は故意があると判断されることになります。
また、客観的には持ち主の占有や第三者の占有があるという場合には、「遺失物だと思った」と主張しても、客観的な状況を認識していれば、「占有の有無」についての評価を誤っただけであるとしむしろ窃盗の故意があると判断される可能性も否定できません。
〇横領行為
遺失物横領における「横領行為」とは、「不法領得の意思」をもって遺失物を自分の支配内に置くことです。
「不法領得の意思」とは「権利者を排除し他人の物を事故の所有と同様にその経済的用法に従いこれを利用し又は処分する意思」などとされており、簡単に言えば「自分のものにしてしまおう」という考えのことです。
ですので、遺失物を拾ったり手に取ったりしても、交番などに届けるつもりであった場合には横領行為とはなりません。
第3 遺失物横領罪の刑罰
遺失物横領罪の法定刑は
1年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金若しくは科料(1000~9999円)
とされています。
窃盗罪などと比較すると比較的軽い刑罰ではありますが、有罪判決(略式命令を含みます。)が確定すれば前科が付くことになります。
初犯であれば、不起訴処分(起訴猶予)となることがほとんどですし、二回目の場合でも略式手続での罰金ですむ可能性が高いです。
ただし、被害額が大きい場合や悪質な場合には、初犯でも略式手続での罰金や正式裁判となる可能性もあります。
※不起訴(起訴猶予)についてはこちら(起訴猶予とは?元検事の弁護士が不起訴との違いや起訴猶予獲得のポイントを解説 )の記事もご参照ください。
※略式手続(略式命令)についてはこちら(略式起訴・略式命令でも前科?手続の流れ、罰金の相場等を元検事の弁護士が解説 )の記事もご参照ください。
第4 遺失物等横領罪が成立するケース
1 具体的な事例と行為
遺失物横領罪が成立する典型的なケースとして、まず挙げられるのが財布を拾って現金を使用した場合です。路上や駅で財布を拾ったにもかかわらず警察に届け出ず、その中の現金を使ってしまった場合には、遺失物横領罪が成立する可能性が高くなります。
お店の中などに落ちていたり忘れられていたような場合には、防犯カメラの記録等から犯行が発覚することも少なくありません。
また、スマートフォンを拾って持ち帰った場合も問題になります。
スマートフォンは持ち主が遠隔操作で位置を確認できる場合や、警察が防犯カメラを確認することで拾った人物を特定できる場合があり、事件が発覚するケースが少なくありません。
そのほかしばしば見受けられるのが、自動販売機や精算機、ATMなどに置き忘れられた現金を自分のものにしてしまった場合です。
この場合も防犯カメラ等の記録が残っている可能性が高いですし、持ち主がまだ近くにいれば遺失物横領より重い窃盗となってしまうおそれもあります。
※窃盗についてはこちら(窃盗について元検事(ヤメ検)の弁護士が徹底解説:想定される処分や刑罰、対応方法等|上原総合法律事務所)の記事もご参照ください。
2 逮捕される可能性のある行為
遺失物横領罪は比較的軽い犯罪ではありますが、状況によっては逮捕される可能性もあります。
例えば、拾った財布の中に多額の現金が入っていた場合など、被害額が大きい場合には悪質と判断されることがあります。
また、駅や店舗などに設置された防犯カメラの映像から行為が確認され、警察が身元を特定するケースもあります。
さらに、警察から事情聴取のための呼び出しを受けたにもかかわらず正当な理由なく応じない場合には、逃亡や証拠隠滅のおそれがあると判断され、逮捕に至る可能性もあります。
逮捕についてはこちら( 逮捕から起訴までの流れと期間を元検事の弁護士が図でわかりやすく解説|上原総合法律事務所 )の記事もご参照ください。
第5 遺失物等横領罪と他の犯罪との違い
1 横領罪(業務上横領罪)との違い
横領罪や業務上横領罪は、他人から預かっている財物を自分のものにする犯罪です。
例えば、会社の金銭を管理している従業員がその金銭を私的に使用した場合などが典型例です。
これに対し、遺失物横領罪は、もともと預かっていた物ではなく、落とし物など占有を離れた物を自分のものにする点が特徴です。
横領についてはこちら(横領罪とは?逮捕された時・刑罰について元検事の弁護士が解説|上原総合法律事務所)の記事もご参照ください。
2 窃盗罪との違い
窃盗罪は、他人が占有している財物を盗む犯罪です。例えば、店舗の商品を万引きした場合や、他人のバッグから財布を盗んだ場合などがこれにあたります。
一方、遺失物横領罪は、すでに持ち主の占有を離れた物を対象とするため、この点が窃盗罪との大きな違いです。
窃盗と遺失物横領の分かれ目は判断が難しい場合もあり、一見落とし物のように思えても、まだ持ち主の占有が残っている、その場所の管理者の占有が及んでいるなどとして、窃盗が成立する可能性も否定できません。
※窃盗についてはこちら(窃盗について元検事(ヤメ検)の弁護士が徹底解説:想定される処分や刑罰、対応方法等|上原総合法律事務所)の記事もご参照ください。
第6 遺失物横領罪に問われた場合の流れ
遺失物横領罪に問われた場合、通常は警察による捜査から刑事手続が始まります。
多くの場合、まず警察から事情を聞くための連絡があり、任意での事情聴取が行われます。この段階では、逮捕されることなく在宅のまま捜査が進むケースが多いといえます。
事情聴取では、落とし物を拾った状況や、その後どのように扱ったのかについて説明を求められます。その後、警察が捜査結果をまとめ、事件は検察庁へ送致されます(いわゆる書類送検)。
送致を受けた検察官は、証拠関係や被害の状況、被疑者の反省の程度などを踏まえて、最終的な処分を判断します。具体的には
・不起訴処分
・略式命令による罰金
・正式裁判(公判請求)
といったいずれかの処分が決定されます。
特に、被害者への返還や被害弁償が行われている場合には、不起訴処分となる可能性もあります。そのため、早い段階で適切な対応を取ることが重要になります。
※刑事事件の流れについてはこちら(刑事事件の流れについて元検事の弁護士が解説|上原総合法律事務所)の記事もご参照ください。
※不起訴(起訴猶予)についてはこちら(起訴猶予とは?元検事の弁護士が不起訴との違いや起訴猶予獲得のポイントを解説|上原総合法律事務所)の記事もご参照ください。
※略式手続(略式命令)についてはこちら(略式起訴・略式命令でも前科?手続の流れ、罰金の相場等を元検事の弁護士が解説|上原総合法律事務所)の記事もご参照ください。
※公判請求(正式裁判)についてはこちら( 公判請求(起訴)とは?被告人が執行猶予を得るためにするべき裁判の準備について元検察官の弁護士が解説します(罪を認めている場合)|上原総合法律事務所)の記事もご参照ください。
第7 遺失物横領罪における弁護活動の役割
遺失物横領罪の事件では、刑事事件に精通した弁護士が早期に関与することで、事件の結果が大きく変わることがあります。
弁護士は、まず事件の状況を整理し、どのような対応を取るべきかについて具体的な助言を行います。
特に重要になるのが、被害者との示談交渉です。
弁護士が被害者と連絡を取り、拾った物の返還や被害弁償を行い、示談を成立させることができれば、検察官の処分判断に大きく影響する可能性があります。
示談が成立し、被害者が処罰を望まない意思を示した場合には、不起訴処分となる可能性が高まります。
また、弁護士は、被疑者の反省状況や再発防止の取り組みなどを整理した意見書を検察官に提出することもあります。こうした活動を通じて、不起訴処分や処分の軽減を目指すことが弁護活動の重要な役割となります。
※不起訴(起訴猶予)についてはこちら(起訴猶予とは?元検事の弁護士が不起訴との違いや起訴猶予獲得のポイントを解説|上原総合法律事務所)の記事もご参照ください。
事案によっては、窃盗となるか否かや、不法領得の意思があったか否か、故意があるか否かなどが問題となり、犯罪の成立等を争っていく場合もあるでしょう。
そのような場合、まずは事実関係と想定される証拠関係をできる限り正確に把握した上、状況に応じた適切な主張をしていくことが必要です。
黙秘が必ずしもベストな選択とは限りませんし、一方で不用意な発言や不正確な凶日調書への署名等を避けなくてはなりません。
こういった場合には、刑事事件に関する知識や経験はもちろん、捜査機関の手法や考え方も熟知した弁護人と綿密に打合せして取調べに望んだり、不起訴(嫌疑不十分)とすべきであるといった意見書を提出したりといった方法が有益ですし、裁判で争うといった場合も同様です。
※不起訴(嫌疑不十分)についてはこちら(嫌疑不十分とは?不起訴となるためのポイントや処分までの流れについて元検事の弁護士が解説|上原総合法律事務所 )の記事もご参照ください。
※無罪の獲得についてはこちら(無罪を勝ち取りたい|上原総合法律事務所)の記事もご参照ください。
第8 まとめ
遺失物横領罪は、落とし物や忘れ物などを自分のものとして取得した場合に成立する犯罪です。
落とし物を見つけた場合でも、それを警察に届けずに持ち帰ったり使用したりすると、刑事責任を問われる可能性があります。
バレないだろうと安易な考えで犯行に及んでも、防犯カメラや電子決済の履歴などから行為が発覚するケースも少なくありません。
また、法定刑は比較的重くないとはいえ、有罪となれば前科が付くため、軽い気持ちで行った行為が大きな問題につながることもあります。
もし遺失物横領罪に問われる可能性がある場合には、早い段階で弁護士に相談することが重要です。
弁護士が早期に対応することで、示談の成立や不起訴処分につながる可能性があります。
上原総合法律事務所は、元検事8名を中心とする弁護士集団で、迅速にご相談に乗れる体制を整えています。
遺失物横領等の事件についても、捜査機関側弁護側それぞれの立場からの経験を踏まえ、事案の内容や段階に応じた最適な弁護活動を行い、早期の示談や不起訴処分等のための弁護が可能です。
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