窃盗未遂になる事例や刑罰について、元検事(ヤメ検)の弁護士が解説

[投稿日]2022.07.28
[更新日]
弁護士 上原 幹男

弁護士 上原 幹男

第二東京弁護士会所属

この記事の監修者:弁護士 上原 幹男

司法修習後、検事任官(東京地方検察庁、奈良地方検察庁等)。捜査・公判の両面で多数の刑事事件 を担当。検事退官後、都内法律事務所を経て個人事務所を開設。2021年に弁護士法人化し、新宿・ 横浜・立川に展開。元検事(ヤメ検)として、捜査機関の思考・動き方を熟知した立場から、逮捕前 の対応・示談交渉・公判弁護まで一貫してサポートしている。

当事務所では、万引きをはじめ、窃盗罪に関するご相談もよくいただいており、その中には未遂に終わった事案に関するものもあります。

この記事では、どのような場合に窃盗未遂にあたるのか窃盗未遂の量刑(刑の重さ)窃盗未遂で逮捕されたらどうすれば良いかなどについて説明します。

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窃盗未遂とは何か

刑法における窃盗未遂の定義

窃盗未遂とは、読んで字のごとく、窃盗の「未遂犯」のことです。

窃盗には、万引きをはじめ、侵入盗(空き巣)、職場盗(ロッカー荒らしやレジ荒らし)、賽銭盗、下着盗、ATMからの引出し盗、車上荒らしや自動車盗など、多種多様な類型があります。

「未遂犯」とは、刑法第43条において、「犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者」(は、その刑を減軽することができる)と定義されています。

したがって、「犯罪の実行に着手し」た、つまり実行の着手が認められる段階に至っていなければ、未遂犯すら成立しないことになります。そして、この実行の着手があるかどうかは、(意図する犯罪の)結果が発生する危険性が明らかに認められるかを具体的に判断するとされています。

窃盗罪の場合、その「結果」とは物を盗むことです。

物を盗むという結果が発生する危険性が明らかに認められる段階に至っていれば、窃盗の実行に着手したということになります。

そして、その後、物を盗めなかった(盗まなかった)場合には窃盗「未遂」となり、実際に物を盗んだ場合には窃盗「既遂」となるのです(どの段階で既遂となるのかについては後述します)。

以下では、どのような場合に実行に着手したとして窃盗未遂になるのか、具体例を挙げながら、詳しく説明します。

窃盗未遂(実行の着手時期)に関する具体例

実行の着手については、前述のとおり具体的に、すなわち、事案に応じて個別具体的に判断されることになります。

窃盗罪について判断する場合には、盗む対象となる物の形状、盗む行為の態様、犯行日時・場所など、様々な事情が考慮されることになります。

ただし、一般論としていえることがあります。

それは、窃盗をしようと思っただけであったり、窃盗をしようと思ってその道具を準備しただけでは、実行の着手があったとは認められないということです。

例えば、お店の中で「万引きをしよう」と思ったとしても、実際に商品を手に取ってすらいなければ、窃盗の実行の着手があったとはいえず、窃盗未遂にはなりません。

また、留守宅に侵入して盗みをしようなどと考えた者が、犯行に使用しようと思って道具を買ったというだけでは、実行の着手があったとは認められません。

以下、実行の着手が認められる具体例を挙げます。

事例1(侵入盗)

泥棒が、他人の家の中に侵入して物色していたところ、家人に発見されたため、何も盗めないまま逃げたという事例では、家人に発見されなければ金目の物等を盗むに至っていたおそれが明らかに認められるため実行の着手があったと評価され、窃盗未遂罪が成立します

※別途住居侵入等も成立する可能性があります。

事例2(キャッシュカードの不正使用)

他人からだまし取るなどしたキャッシュカードを使用してATMで不正にお金を引き出す行為は、(ATM管理者から現金を盗む)窃盗罪にあたります。

そのように他人のキャッシュカードを使用して不正にお金を引き出そうと考え、ATMに他人のキャッシュカードを挿入したものの、既に(同カードの詐取等に関する)被害届が出されるなどして同カードが無効化されていたため、ATMから現金を引き出せなかったという事例では、他人のキャッシュカードを挿入した時点で、(たまたま当該キャッシュカードが無効化されていたにすぎず)お金が引き出される危険はあったといえるため、実行の着手があったと評価され、窃盗未遂罪が成立します

※キャッシュカードをだまし取った点については詐欺も成立しえます。

事例3(特殊詐欺グループによるキャッシュカード窃盗)

昨今、特殊詐欺に似た窃盗の事案が多発しています

これは、犯行グループの者が警察官になりすまして、高齢者などに電話をかけ、「あなたは詐欺の被害に遭っている。この後行く金融庁職員にキャッシュカードを見せてほしい。」などとだました上、別の者が同職員になりすましてその高齢者に会いに行き、キャッシュカードを提示させるなどしてから、その高齢者に同カードから目を離させた隙に、偽物のカードとすり替えて盗むという犯行です。

※特殊詐欺等には、上記のようなものに限らず様々なパターンがありえます。被害に遭わないよう、十分にご注意ください。

このような事案において、実行の着手に関する判断をした最高裁決定(令和4年2月14日)が出されています。

同最高裁決定の事案は、前記のような犯行において、犯行グループの者が、金融庁職員になりすまして被害者に遭うべく、同人方に向かったものの、同人方の約140メートル手前に至った時点で、警察の尾行に気付き、犯行を中止したというものです。

かかる事案において、最高裁は、「被告人が被害者宅付近路上まで赴いた時点では、被害者が間もなく被害者宅を訪問しようとしていた被告人の説明や指示に従うなどし・・・被告人が・・・すり替えてキャッシュカードの占有を侵害するに至る危険性が明らかに認められ・・・窃盗罪の実行の着手が既にあったと認められる。」と判示して、窃盗未遂罪の成立を認めています

どのような場合に窃盗既遂になるのか(窃盗の完成時期)

窃盗は、当然ながら、物を盗み終えた時点で既遂となります。

法律用語では、「目的となる物の占有の移転が完了した時」などという言い方をします。

「占有」とは、物に対する事実上の支配のことをいいます。

例えば、現金を入れた財布を手で持っていれば、その人が財布や現金を占有していることになりますし、店が商品を棚に陳列していれば、店がその商品を占有していることになります。

逆に、万引き犯人が商品を盗んで店から立ち去った場合には、盗まれた商品の占有はその万引き犯人に移ったということになります。

物を誰が占有しているのかは、具体的な事情に応じて個別に判断されます

例えば、宝石店で商品の指輪を店員に隠れてポケットの中に隠した場合、既に店側は当該指輪がどこにあるか把握することができなくなっていることなどからして、犯人が店の外に出る前であっても当該指輪の占有は犯人に移った、といえます。

他方、スーパーマーケットで、客がかごの中に商品を入れて持ち運んでいる段階では、客が当該商品を持ち運んではいるものの、店としてもレジで精算するまでの間は客が商品をかごに入れて持ち運ぶことを許容しているということや、かごの中という他者が見られる状態で持ち運ばれていることなどからして、当該商品はまだお店の占有下にあると考えられます。

なお、いわゆる万引きGメンがお店での万引きを検挙する際には、多くの場合、万引き犯人がお店を出たところで声をかけています。

これは、「確実に万引きする故意があった」と言えるタイミングまで声をかけるのを待っているという側面と、万引きが確実に既遂になったタイミングを待っているという側面があると考えられます。

万引きの場合、どの時点から未遂になるのか、またどの段階で既遂となるかについては個々の事情に基づいた慎重な判断が必要です。また、「盗むつもりはなかった、この後会計するつもりだった」などという弁解もよくなされます。だからこそ、万引きGメンとしては確実なタイミングまで待って声をかけるなどするのです。

窃盗未遂の量刑(刑重さ)

窃盗未遂は既遂の場合よりも刑が軽くなるか、という質問をいただくことがあります。

まず、未遂であれば、物を盗むという結果が発生していないのですから、その意味で、既遂よりも刑は軽くなります。

また、以下のとおり、なぜ未遂になったのかという経緯によっても、量刑が変わります。

中止未遂

実行には着手したけれども自己の意思で犯行を止めた(中止した)という場合には、やむを得ず犯行を止めた(未遂に終わった)場合と比べ、刑が軽くなります

法律用語では、これを「中止犯(中止未遂)」といい、刑法第43条但書で「自己の意思により犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する。」と定められています。

障害未遂

他方、やむを得ず犯行を止めた場合、例えば被害者に見つかったため犯行を遂げられなかったような場合には、犯人が窃盗を完遂できなかったのは、被害者に見つかったという外部的な事情=犯行を完遂するにあたっての障害があったからにすぎないため、通常は(未遂ではあっても)中止未遂よりは刑が軽くなりません

法律用語では、そのように外部的な事情=障害によって未遂に終わった場合のことを「障害未遂」といいます。

窃盗未遂で逮捕された場合の弁護活動

窃盗事件一般の弁護等については窃盗について元検事(ヤメ検)の弁護士が徹底解説:想定される処分や刑罰、対応方法等の記事もご参照ください。 

身柄の解放に向けた活動

もし逮捕されてしまった場合、まずは1日でも早い釈放を望むのが通常でしょう

早期に弁護士にご依頼をいただければ、身柄の解放に向けた活動をすることが可能です。

具体的には、身柄引受人の準備と引受書の作成や提出、勾留等されないための捜査機関や裁判所への意見書提出、準抗告などを行っていくこととなります。

※身柄の解放については釈放、保釈について元検事の弁護士が解説の記事もご参照ください。 

被害者との示談交渉

窃盗未遂の場合、何も盗んではいないわけですが、例えばカバンの中の物を盗もうとしたときにそのカバンを壊すなどして物理的損害を与えているといったような場合もありますし、食品の万引きを試みた場合などは、対象となってしまった商品は再販売しないという扱いをしている店舗もあるでしょう。また、そうでなくとも、窃盗未遂の犯行自体によって被害者に実質的な負担や精神的苦痛を与えたとも考えられます。

そこで、窃盗が未遂の場合であっても、被害者に慰謝料を支払うなどして示談をするということは1つの選択肢です。

示談ができて被害者に宥恕して(許して)もらえれば、不起訴処分を得られる可能性が十分にあります

したがって、弁護人としては、被害者との示談成立に向けて交渉することが重要な活動となります。

※不起訴(起訴猶予)の獲得については起訴猶予とは?元検事の弁護士が不起訴との違いや起訴猶予獲得のポイントを解説の記事もご参照ください。 

窃盗未遂をしていない場合

また、そもそも、窃盗未遂となるような行為をしていないのであれば、その旨をきちんと主張するなどし、嫌疑不十分での不起訴処分を獲得することが目標となります。

容疑を晴らす証拠を収集したり、しっかりと準備をして取調べに臨んだりする必要があります。

身に覚えのない疑いで逮捕されてしまった場合は可能な限り早く弁護士にご相談ください。

※不起訴(嫌疑不十分)については嫌疑不十分とは?不起訴となるためのポイントや処分までの流れについて元検事の弁護士が解説の記事もご参照ください。

窃盗未遂でお悩みの方は、元検事の弁護士にご相談ください

上原総合法律事務所では、元検察官の弁護士相談者のために何がベストかを個別の事情に応じて考え、より良い未来へのサポートを行います。

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