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富士そば運営会社による雇用調整助成金不正受給問題に関する解説

概要について

首都圏でチェーン店「名代富士そば」(以下「富士そば」といいます。)を運営する「ダイタンミール」が、雇用調整助成金(雇調金)を不正に受給したとして、厚生労働省から、助成金と違約金で計約300万円の返還を命じる処分を受け、これらを返還していたことが判明した。

昨年7~8月の1カ月分について、従業員の1人が実際は有給休暇を取得していたのに、会社が休業を命じて休業手当を支払ったとの虚偽の申請を行ったということが厚労省の調査で判明。

この1カ月分の雇調金全額と違約金を合わせた約300万円の返還を命じた。

また今後5年間の助成金の利用を禁止する処分を行った。

「ダイタンミール」を傘下に持つ「ダイタンホールディングス」(東京都)は当時の担当常務取締役が責任を取り退任したことを明らかにし、「コンプライアンス体制の確立に向けて引き続き努力する」としている。

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不正受給とは

どのような行為が不正受給になるのか、すなわち不正受給の定義については、厚生労働省発出の「雇用関係助成金支給要領」に定めがあります。

この要領によれば、「不正受給」とは、「偽りその他不正の行為(詐欺等に触れる行為のほか、犯罪を構成するに至らない場合であっても、故意に支給申請書に虚偽の記載を行い又は偽りの証明を行うことが該当する。ただし、支給申請書に事実に反する記載があった場合であっても、当該記載誤りが故意によらないものと認められる場合は不正の行為には該当しない。)により本来受けることのできない助成金の支給を受け、又は受けようとすること」を言うとされています。

不正受給の典型例は、①自らが利益を得るために、従業員を全く休業させていないにもかかわらず休業させたとことにして申請したり、②休業の日数や時間を真実よりも多く(水増し)申請したりして、不当な金額を受給するというものですが、③従業員に休業手当を支払っていないのに支払ったことにして申請し、企業だけが支給された休業手当分の利益を得ているという事案もあり、富士そばの件は、この③のケースに属するものと思われます。

不正受給が発覚した場合の制裁等

不正受給に該当すると判断された場合、どうなるのでしょうか。

この点については、雇用保険法施行規則や前述の「雇用関係助成金支給要領」に定めがあります。

この要領では、労働局による措置として、①不支給決定又は支給取消決定、②返還命令(不正受給額+不正受給額の20%相当額+延滞金)、③不支給措置(今後5年間助成金の受給不可)、④公表などが定められています。また、刑事訴訟法に基づき、⑤労働局が捜査機関に対して刑事告発を行うこともあります。

富士そばについては、報道を見る限り①②③の処分を受けているようです。

労働局による公表(④)や刑事告発(⑤)は、今後の厚労省や捜査機関の対応次第ということになるでしょうか。

企業の場合は、報道対応や関係者の処分等も問題になりますが、ダイタンホールディングスでは、担当常務取締役が責任を取り退任したとのことです。不正受給に関する指示の有無や関与の程度、当該取締役の認識等にも関わってくると思いますが、もう少し軽い処分もあり得たのではないかという印象です。

報道の分析

上記報道の概要は、2021年9月2日付け読売新聞オンラインの記事(https://news.yahoo.co.jp/articles/ab8760c3aeb49439b9d4a120f6bb91e1703705e2)等を参考にし、内容を整理したものです。

報道では従業員1人の1か月分について不正受給が認定されたかのように読めますが、従業員1人あたりの雇用調整助成金は月額上限33万円とされており、これに違約金(不正受給額の20%です)を足しても300万にはなりません。

ですので、おそらく、従業員1人ではなく複数名について不正受給が認定されていて、それらの違約金と併せて300万円ということと推測しています。

有名チェーンでなぜこのようなことが起きてしまったのか、もう少し調査してみると、朝日新聞の記事(https://www.asahi.com/articles/ASNDS5D7PNDGUUPI001.html)を見つけました。

この記事によると、去年の12月頃、名代富士そばの運営会社(ダイタンミールのことでしょうか)が、退職予定の従業員複数名について、国の支給要領に反して、退職が決まった後の休業日を対象に雇調金を受給していたことが判明し、東京労働局が調査していたそうです。

この朝日新聞の記事と昨今の報道に関係があるとすれば、富士そば側が違約金を含め合計300万円を返還したというのは合点がいきます。

また、厚労省による処分の内容は、他の不正受給事案との均衡からしても適当なものといえるでしょう。

もっとも、このケースは、退職前の有給の消化を休業として申請してしまったというものかもしれません。そうであれば、申請担当者の知識不足ないし助成金制度の理解不足が原因で、(結果的に)不正受給をしてしまったということも考えられ、その場合であれば違約金の返還までは求められずに済む余地があったのではないか、と考えています。

なお、本件については、企業のコンプライアンス体制にも着目すべきです。

富士そばの運営会社が「コンプライアンス体制の確立に向けて努力する」とコメントしているとおり、昨今、企業には一層のコンプライアンス体制の確立が求められており、令和3年6月からは、従業員数300人以上の企業について、内部通報の対応窓口設置が義務化されます(改正公益通報者保護法)。

企業価値を損なわないためにも、今後は今まで以上に、企業における「不正の早期発見や適切な対応」が求められる時代になっていくものと思われます。

不正受給事案に関して当所ができること

上原総合法律事務所では、雇用調整助成金の不正受給案件に力を入れており、全国どこからのご相談でもお受けしています。ご相談者のご不安をできるだけ早く解消するため、なるべく即日、遅くとも翌日と、迅速にご相談をお受けすることを心がけています。

皆様のご状況に応じて、不正の実態調査、コンプライアンス体制の整備支援、労働局、厚労省、会計検査院への対応、自首同行、刑事弁護等、様々な活動をしていきます。

上原総合法律事務所では不正受給事案のご相談を多数お受けしておりますので、豊富な対応ノウハウがございます。雇用調整助成金の不正受給でお困りの方は、お気軽に弊所までお問い合わせください。

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弁護士 上原 幹男

弁護士 上原 幹男

第二東京弁護士会所属

この記事の監修者:弁護士 上原 幹男

司法修習後、検事任官(東京地方検察庁、奈良地方検察庁等)。検事退官後、都内法律事務所にて弁護士としての経験を経て、個人事務所を開設。 2021年に弁護士法人化し、現在、新宿事務所の他横浜・立川にも展開している。元検事(ヤメ検)の経験を活かした弁護活動をおこなっている。

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