執行猶予とはなにか?元検事の弁護士が拘禁(懲役・禁固)で実刑となる場合との違いなどついて解説

執行猶予にしてほしい

執行猶予とは

刑事裁判においては、多くの場合、執行猶予付判決を得ることが目標になります。

執行猶予とは、拘禁刑(懲役刑・禁固刑)の有罪判決を受けたときに、すぐに刑務所行きにならずに一定期間刑の執行を待ってもらう(猶予してもらう)ことができ、その間に新しく罪を犯すなどしなければ刑務所に行かなくてよくなる、という制度です。

なお、執行猶予なしですぐに刑務所に行きなさいという判決のことを「実刑(じっけい)」「実刑判決」などとも呼びます。

執行猶予にするとき、裁判官は判決で「被告人を懲役3年に処する。この判決確定の日から5年間その執行を猶予する。」などと言います。

「拘禁(懲役)3年、執行猶予5年間」というのは、「3年間の刑務所行かなければならない、ただし、5年の猶予期間に新しく犯罪をするなどして執行猶予を取り消されなければ、刑務所に行かなくてよくなる」という意味です。

実刑にするときは、裁判官は「被告人を懲役3年(拘禁3年)に処する。」とだけ言い、執行猶予については何も言いません。

※罰金についても執行猶予制度がありますが、この記事では刑務所行きが問題になる拘禁(懲役・禁固)刑について説明しています。

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この記事の内容 「執行猶予がいつ終わるのか?」など,よくある質問にお答えします。 こちらをご覧ください。 執行猶予は…[続きを読む]

執行猶予の意味

「執行猶予」の意味は、まさに刑の「執行」を「猶予」する、すなわち刑務所に収監することなどを先送りにする、という意味です。
あくまで「先送り」ではありますので、執行猶予判決の時点で「刑務所に行かなくていい」と決まったわけではありません。
執行猶予が取り消されずに執行猶予期間が経過して初めて、刑務所に行かずに済むことが確定するのです。

刑法第27条:刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消されることなくその猶予の期間を経過したときは、刑の言渡しは、効力を失う。

執行猶予と実刑(拘禁・懲役等)との違い

執行猶予と実刑(拘禁・懲役等)との違いは、まさに「すぐには刑務所に行かなくて済む」という点です。
執行猶予付きの判決が言い渡された場合は、裁判中も勾留されていたとしても、その場で釈放となり、通常の生活に戻ることができます。
他方で実刑となれば、勾留されていれば身柄拘束が続き、確定すれば刑務所に収監されることになりますし、身柄が拘束されていなくても、拘禁等の実刑判決が確定すれば後日拘束されて刑務所に収監されます

執行猶予の期間

執行猶予の期間は刑法第25条1項本文に定められており、「1年~5年」です。
ただ、実務上は執行猶予1年や2年、あるいは「執行猶予〇年〇月」といった判決はほぼなく、3年、4年、5年のいずれかとなる場合がほとんどという印象です。

刑法第25条1項本文:次に掲げる者が三年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から一年以上五年以下の期間、その刑の全部の執行を猶予することができる。

「懲役1年 執行猶予3年」や「懲役3年 執行猶予5年」とは

「懲役1年 執行猶予3年」「懲役3年 執行猶予5年」(改正後であれば「拘禁1年 執行猶予3年」「拘禁3年 執行猶予5年」)といった判決を見聞きすることはよくあります。これらは、実務上よくある執行猶予判決の中で一番軽いものと重いものといってよいでしょう。
起訴猶予や略式手続、罰金では済まない中で、最も軽い範疇の事件が「懲役(拘禁)1年 執行猶予3年」といった判決になることがよくあります。ただ、その中でも特に軽微な事案などでは、「懲役(拘禁)6月 執行猶予3年」といった判決もありえます。
また、覚せい剤や大麻等の単純な所持や使用の初犯では、「懲役(拘禁)1年6月 執行猶予3年」となるケースが多いという印象です。
反対に、すぐに刑務所に収監するまではいかない中で、最も重い範疇の事件が「懲役(拘禁)3年 執行猶予5年」といった判決になります。執行猶予となる中で最も刑期も執行猶予期間も長い判決で、まさに実刑とならないぎりぎりの判決と言えるでしょう。
なお、こういった場合、「付保護観察」といい、執行猶予期間中保護観察が付されることもよくあります。

執行猶予がつく条件

執行猶予となるための条件は刑法で定められており、具体的には以下のようなものです。

※執行猶予を獲得するための具体的なポイント等については執行猶予を獲得するにはの記事をご参照ください。

判決自体が拘禁3年以下であること

執行猶予となるためには、そもそも判決が拘禁(懲役・禁固)3年以内である必要があります
拘禁3年を超える判決であれば、そもそも法律上執行猶予の対象とはなりません。
なお、再度の執行猶予の条件は2年以下の拘禁(懲役・禁固)とさらに厳しい条件となっています。

執行猶予と前科との関係

執行猶予の条件として、前科も関係してきます。条文は複雑ですが、単純化すると

  • 拘禁刑(懲役・禁固)の前科がない場合
  • 拘禁刑等の前科があっても、服役等を終えて5年が経過している場合(≒累犯前科がない場合)
  • 保護観察なしの執行猶予中の再犯であるものの、拘禁2年以下となり特に酌量すべき場合

と理解いただければと思います。

執行猶予となるための条件「情状酌量」とは

前科等の条件をクリアした場合、裁判官に「執行猶予にしてよい情状だ」と考えてもらえれば、執行猶予をつけてもらえます。

ここにいう「情状」とは、事件に関する様々の事情のことです。被告人にとって有利な事情も不利な事情も考慮されます。

情状において考慮される内容としては、まず、「何をしたか(犯行態様と被害結果)」と「犯行に至る経緯」(動機や計画性など)という事件自体に関する事情があります。

「何をしたか」というのは、傷害事件であれば、行なった暴力の内容や怪我の程度など、詐欺事件であればだます方法や被害金額です。

これらは、程度ややり方がひどかったり、怪我や金額が重かったりするほど、「悪質」な事件だということになります。

この部分が情状の中心部分になるため、被告人が何をしてどのような被害が生じたかについては、被告人に有利な事情をしっかり説明する必要があります。

また、被害弁償や被害者の気持ちも「何をしたか」の被害結果の点に関連します。

被害弁償は、詐欺事件であれば被害金額を返還しているのか、傷害事件であれば治療費・休業損害や慰謝料を支払っているのか、というものであり、被害が補填されているかは執行猶予となるかにおいても非常に重要です。

また、被害者の気持ちも重要な情状であり、謝罪や被害弁償を経て被害者が被告人を宥恕してくれているか(許してくれているか)も執行猶予となるか否かに影響します。

「犯行に至る経緯」については、計画性や常習性、被害者に落ち度があるか、などが考慮されます。

常習性や計画性があるほど「悪質」ということになりますし、被害者が挑発して起きた傷害事件のように被害者側の落ち度があれば悪質さの程度が下がる、ということになります。

このような「何をしたか」と「犯行に至る経緯」といった事件自体の情状に加え、環境、反省や再犯予防といった被告人についての情状も考慮されます。

環境については、被告人を支えてくれる家族や職場があったり、犯罪組織との縁を切る行動をしていることをしているなどすれば、再犯を防ぎやすくなるという意味で情状が良くなります。

また、再犯予防の観点から、被告人が十分に反省(※)していたり、再犯予防のための仕組みを整えられている場合(※)、良い情状となります。

逆に、前科があることは「一度刑罰を受けて二度と犯罪をしないようにすべきだったのにまた犯罪をした」という意味で、悪い情状になり、だからこそ「再度の執行猶予」は「情状に特に酌量すべきものがあるとき」だけ認められているのです。

これらの情状について、総合的に考慮して執行猶予にするかどうかが決まります。

※執行猶予を獲得するための具体的なポイント等については執行猶予を獲得するにはの記事をご参照ください。

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執行猶予中の生活への影響

執行猶予中であることそれ自体で生活が大きく変わるわけではありません。
しかし、執行猶予中においては特に留意すべき点もあります。

  • 再犯をしないこと
    執行猶予中でなくとも当然のことではありますが、執行猶予期間中は特に犯罪をしないように注意しなければなりません。
    法律上は執行猶予中の再犯でも「再度の執行猶予」となる場合もありますが、極めて例外的ですし、再犯で有罪となれば基本的には実刑となり、執行猶予も取り消されて長期間服役することになってしまいます。
  • 交通事故にも注意
    執行猶予が取り消されるのは故意の再犯の場合に限られません。交通事故であっても、内容次第では有罪となり、執行猶予も取り消される可能性があります。
    ですので、執行猶予期間中は運転を控えたり、特に注意して運転すべきでしょう。
  • 保護観察について
    保護観察に付されている場合、保護司等と定期的に面談したり、遵守事項を守って生活していかなくてはなりません。
    再犯がなくとも、遵守事項を破った場合、執行猶予が取り消される可能性もあるため、注意が必要です。

執行猶予をつけてもらう方法

執行猶予を獲得するためには、まず判決の内容として拘禁(懲役・禁固)3年以内の判決となる必要があります。
また、それに加えて、執行猶予とすべきといえるような情状酌量の余地があることも示さなければなりません。

いずれにせよ、情状面が非常に重要であり、情状酌量の対象となるような事実をピックアップするほか、被害者がいる犯罪であれば示談の成否やその内容も重要になってきます。
また、社会内で更生できる、再犯を防止できると思ってもらえるような環境の整備や指導監督体制の構築が必要な場合もあります。
さらに、これらの事情について、公判(刑事裁判)の場で的確に主張・立証して裁判官や裁判員に理解してもらわなければなりません。

どのような事実が情状酌量につながるかは事件の内容によって様々であり、闇雲にありきたりな主張をしてもなかなか裁判官らには響かないことも多いでしょう。
また、どのような証拠を提出するか、被告人質問等でどのような話をするかについても、専門的な経験と知識が不可欠であり、刑事事件の知見はもちろん、検察や裁判官の考え方も熟知した弁護人のサポートが非常に重要です。

※執行猶予を獲得するための具体的なポイント等については執行猶予を獲得するにはの記事をご参照ください。

執行猶予についてよくある質問

執行猶予が満了すると前科は消える?

結論から言うと、執行猶予期間が満了しても、前科としては残ります。
執行猶予期間が無事満了すると、刑の言渡しは効力を失い、もうその刑の執行を受けることはなくなります。
しかし、あくまで前科としては残り、「なかったこと」にはなりませんし、満了後でも再犯等あれば、期間の経過によって程度の差はあれど、前科として処分に影響することもあります。

刑法第27条:刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消されることなくその猶予の期間を経過したときは、刑の言渡しは、効力を失う。

執行猶予期間の満了等については執行猶予の満了の記事もご参照ください。 

保護観察付執行猶予とは?

執行猶予に付された場合、社会内での更生や再犯の防止にやや不安があるなどの事情があれば、保護観察となる可能性があります。
また、再度の執行猶予の場合には保護観察に付されます。
保護観察中は保護司との定期的な面談など遵守事項があり、これを破ると執行猶予が取り消される場合もあります。
保護観察付執行猶予中の再犯の場合は、再度の執行猶予の対象とはなりません。

刑法第25条の2第1項:前条第一項の場合においては猶予の期間中保護観察に付することができ、同条第二項の場合においては猶予の期間中保護観察に付する。

再度の執行猶予とは?

執行猶予中の再犯で有罪となった場合に再び執行猶予がつく場合を再度の執行猶予といい、刑法第25条2項に定めが置かれています。
その条件は厳しく、保護観察中でないこと、再犯について2年以下の拘禁(懲役・禁固)であること、「情状に特に酌量すべきものがある」ことが必要です。

刑法第25条第2項:前に拘禁刑に処せられたことがあってもその刑の全部の執行を猶予された者が二年以下の拘禁刑の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがあるときも、前項と同様とする。ただし、この項本文の規定により刑の全部の執行を猶予されて、次条第一項の規定により保護観察に付せられ、その期間内に更に罪を犯した者については、この限りでない。

再度の執行猶予については再度の執行猶予とはの記事もご参照ください。

執行猶予が取り消される場合は?

執行猶予が取り消される場合として、最も多いパターンは再犯をして実刑となった場合でしょう。その場合、新たに実刑となった刑に加え、執行猶予となっていた刑の分も併せて服役することとなってしまいます。
また、執行猶予が取り消されるのはこの場合に限らず、保護観察の遵守事項を破った場合なども執行猶予が取り消される可能性があります。

(刑の全部の執行猶予の必要的取消し)
第二十六条 次に掲げる場合においては、刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消さなければならない。ただし、第三号の場合において、猶予の言渡しを受けた者が第二十五条第一項第二号に掲げる者であるとき、又は次条第三号に該当するときは、この限りでない。
一 猶予の期間内に更に罪を犯して拘禁刑以上の刑に処せられ、その刑の全部について執行猶予の言渡しがないとき。
二 猶予の言渡し前に犯した他の罪について拘禁刑以上の刑に処せられ、その刑の全部について執行猶予の言渡しがないとき。
三 猶予の言渡し前に他の罪について拘禁刑以上の刑に処せられたことが発覚したとき。
(刑の全部の執行猶予の裁量的取消し)
第二十六条の二 次に掲げる場合においては、刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消すことができる。
一 猶予の期間内に更に罪を犯し、罰金に処せられたとき。
二 第二十五条の二第一項の規定により保護観察に付せられた者が遵守すべき事項を遵守せず、その情状が重いとき。
三 猶予の言渡し前に他の罪について拘禁刑に処せられ、その刑の全部の執行を猶予されたことが発覚したとき。

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弁護士 上原 幹男

弁護士 上原 幹男

第二東京弁護士会所属

この記事の監修者:弁護士 上原 幹男

司法修習後、検事任官(東京地方検察庁、奈良地方検察庁等)。検事退官後、都内法律事務所にて弁護士としての経験を経て、個人事務所を開設。 2021年に弁護士法人化し、現在、新宿事務所の他横浜・立川にも展開している。元検事(ヤメ検)の経験を活かした弁護活動をおこなっている。

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