ご注意ください
弁護士 上原 幹男
第二東京弁護士会所属
この記事の監修者:弁護士 上原 幹男
司法修習後、検事任官(東京地方検察庁、奈良地方検察庁等)。捜査・公判の両面で多数の刑事事件 を担当。検事退官後、都内法律事務所を経て個人事務所を開設。2021年に弁護士法人化し、新宿・ 横浜・立川に展開。元検事(ヤメ検)として、捜査機関の思考・動き方を熟知した立場から、逮捕前 の対応・示談交渉・公判弁護まで一貫してサポートしている。
「SNSで『口座を売ってくれたら数万円』という募集を見て、ついキャッシュカードを渡してしまった」 「『指定された口座に振り込むだけの送金バイト』をしてしまったが、警察に捕まるのだろうか」
このような軽い気持ちで行った行為は、「犯罪収益移転防止法(通称:犯収法)」違反という重大な犯罪に該当し、処罰されて前科がつく可能性が高い危険な行為です。
近年、特殊詐欺やマネーロンダリングへの対策として犯収法の規制は年々厳しくなっており、令和8年(2026年)の法改正により、口座の売買に対する罰則はさらに強化され、いわゆる送金バイトに対する罰則も設けられました。
本記事では、犯罪収益移転防止法の目的や犯罪収益の意味、口座売買、口座譲渡や送金バイトの罰則、特定事業者に課される義務、そして万が一違反してしまった場合の対応方法について、元検事(ヤメ検)の弁護士がわかりやすく解説します。
目次
第1章 犯罪収益移転防止法の目的と改正点
1 犯罪収益移転防止法の目的
犯罪収益移転防止法(正式名称:犯罪による収益の移転防止に関する法律、通称:犯収法)は、犯罪によって得られた利益(犯罪収益)が社会で利用されることを防止し、組織犯罪やテロ資金供与を抑止することを目的としています。
特殊詐欺や薬物犯罪、マネーロンダリングなどでは、不正に得た資金を銀行口座や暗号資産、第三者名義の口座などを利用して隠そうとします。このような資金の流れを把握し、犯罪を未然に防止するために制定された法律が犯罪収益移転防止法です。
そのため、銀行などの金融機関だけでなく、クレジットカード会社、不動産業者、士業などの一定の事業者には、本人確認や疑わしい取引の届出などの義務が課されています。
また、マネーロンダリング防止などの観点から、銀行口座(通帳、キャッシュカード、ネットバンキングのIDやパスワード等)や暗号資産に関するID等の売買、譲渡やその勧誘、いわゆる送金バイト(依頼されての送金やその依頼、募集など)が犯罪として定められています。
2 令和8年の改正内容とその影響
令和8年の改正では、特殊詐欺などに利用される口座売買や送金代行への対策が強化されました。主な改正内容は以下のとおりです。
- 口座(通帳やカード、ID等)の不正譲渡等に対する罰則の引上げ
- 「送金犯罪」に関する罰則の創設
- いわゆる「架空名義口座」を利用した新たな措置(捜査手法)の創設
このうち①②については、令和8年7月10日から施行されています。
※③については、公布の日(令和8年6月10日)から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日から施行されることになっています。
近年では、SNSやインターネット上で「送金バイト」「口座貸してください」などと募集されるケースが増えています。このような行為は、犯罪組織による資金洗浄(マネーロンダリング)に利用される危険性が高く、社会問題となっています。
改正法では、これらの行為に対する規制や罰則が強化され、犯罪収益の移転を防止するための制度がより実効性の高いものとなりました。
今後は、口座や暗号資産の管理を軽く考えた行為であっても、刑事責任を問われる可能性がこれまで以上に高まることが予想されます。
第2章 犯罪収益とは何か?
1 犯罪収益の定義と具体例
犯罪収益とは、犯罪行為によって得られた財産や利益をいいます。
厳密に言えば、犯収法で規制対象となっているのは「犯罪による収益」(犯収法2条1項)であり、そこには組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(組織犯罪処罰法、組処法)で定義される「犯罪収益等」(さらにこの中に「犯罪収益」「犯罪収益に由来する財産」「混和財産」が含まれます。 )と麻薬特例法で定義されている「薬物犯罪収益等」が含まれます。
犯罪による収益には、例えば、次のようなものが該当します。
- 特殊詐欺でだまし取った現金
- 覚せい剤などの違法薬物の売上金
- 闇金による違法な利息
- 横領や詐欺によって得た利益
- 犯罪収益を運用して得られた利益
犯罪収益そのものだけでなく、それに由来する財産や、犯罪収益などとそれ以外が混ざり合って区別できなくなった状態の財産(混和財産)も対象となるため、犯罪収益を別の口座へ送金した場合のその口座の預金や、犯罪収益を不動産や暗号資産へ換えたりした資産も犯収法の規制対象となる場合があります。
2 特殊詐欺や闇金業者との関連
犯罪収益移転防止法が特に重視しているのが、特殊詐欺や闇金融などの組織犯罪です。
特殊詐欺グループは、多数の他人名義口座を利用し、それを被害金の入金口座にするほか、だまし取った犯罪収益を多数の口座にを分散させるなどすることで捜査や犯罪収益の追及を困難にしています。
また、闇金業者も複数の口座を利用して違法な貸付金や利息を管理するケースが少なくありません。
そのため、金融機関などが本人確認を徹底し、不自然な取引を警察へ届け出ることによって、犯罪組織の資金の流れを把握しやすくするほか、これらの犯罪に利用される口座の譲渡等も規制しているのです。
第3章 特定事業者に課せられる義務
1 特定事業者の定義と範囲
犯罪収益移転防止法では、「特定事業者」にさまざまな義務が課されています。
代表的なものは次のとおりです。
- 銀行などの金融機関
- 保険会社
- クレジットカード会社
- 証券会社
- 不動産業者
- 宝石・貴金属取引業者
- 弁護士、司法書士、行政書士など(一部業務)
これらの事業者は、犯罪収益の移転を防止するための重要な役割を担っています。
2 取引時確認と本人確認の重要性
特定事業者は、一定額以上の取引や継続的な契約を行う際には、本人確認を行う義務があります。
本人確認は単なる形式ではなく、他人名義口座や架空名義の利用を防止するための重要な制度です。
3 疑わしい取引の届出義務
取引内容に不自然な点がある場合には、特定事業者は「疑わしい取引」として当局へ届け出る義務があります。
例えば
- 高額な現金取引を繰り返す
- 本人確認を極端に嫌がる
- 短期間で多数の送金を行う
といった事情があれば、届出の対象となる可能性があります。
より詳細な具体例としては金融庁のサイト( 疑わしい取引の参考事例:金融庁 )もご参照ください。
この届出は利用者へ通知されるものではなく、犯罪捜査の端緒ともなる重要な制度です。
通帳やキャッシュカード、IDなどを譲渡してしまった場合、その口座が犯罪に利用されれば、疑わしい取引として警察庁に報告がなされ、そこから口座の譲渡等が発覚するといったケースもあります。凍結や問い合わせなど、金融機関から疑われていると思われる状況があった場合には、このような流れで事件が発覚する可能性も高いと考えておいたほうがよいでしょう。
第4章 犯罪収益移転防止法違反の事例と罰則
1 典型的な違反事例の紹介
近年増加傾向にある犯収法違反の事例としては、
- 他人へ銀行口座(通帳やキャッシュカード)を譲渡する
- インターネットバンキングのID・パスワードの情報を提供する
- SNSで募集される送金バイトに応募し、実行する
などがあります。
「自分は詐欺グループの一員ではないから大丈夫」「犯罪に使われるとは知らなかったから大丈夫」と考えるのは大きな間違いです。詐欺グループへの譲渡なのだといった事実を知らなくても、以下のような行為をした時点で犯収法違反が成立し、厳しい罰則の対象となりえます。
※お心当たりがある方は、事態が悪化する前に是非一度ご相談ください。相談のご案内は本記事末尾に記載しています。
2 罰則の種類と具体的内容
犯罪収益移転防止法では、本人確認義務違反などの事業者に対する罰則のほか、預貯金通帳やキャッシュカード、インターネットバンキングのアカウント等を不正に譲渡・譲受けする行為などについて刑事罰が定められています。
犯収法の罰則に係る条文は非常に複雑なため、以下では簡略化して説明します。
〇銀行口座等の売買・譲渡等
譲渡等が規制対象となるのは
- 通帳
- キャッシュカード
- ネットバンキングのIDやパスワード
- 暗号資産のIDやパスワード
などです。
これらについて
- 譲渡する・売る
- 譲り受ける・買う
- SNSなどで売買等の勧誘・誘因をする
といった行為は犯罪とされています。
令和8年の改正で法定刑は3年以下の拘禁刑もしくは500万円以下の罰金またはその併科(拘禁刑と罰金の両方が科される)に引き上げられており、業としてこれらの行為を行った場合には5年以下の拘禁刑もしくは1000万円以下の罰金またはその併科と、さらに重く処罰される可能性があります。
法律上、口座の持ち主として口座を使う(使わせる)目的や、正当な理由がないのに有償で譲渡等する(売買する)などの要件もありますが、口座等の売買や譲渡についてはこれらの要件も満たす場合がほとんどであると考えられます。
また、いわゆるヤミ金からの借入に際し、貸付や返済に必要などと言われて通帳やキャッシュカードを送ったというケースでも犯罪となることもあり、通帳やカード、ID等は決して他人に譲渡したり伝えたりしないということが重要です。
なお、犯収法25条では、口座開設や契約等の際に本人特定事項について偽った場合にも3年以下の拘禁刑もしくは500万円以下の罰金またはその併科となる旨の罰則が定められていますし、金融機関等に対する詐欺が成立する可能性もあるため、身分を偽ったり、そもそも譲渡等するなどの目的で、口座の開設や携帯電話の契約等をすることも決してすべきではありません。
〇送金犯罪(送金バイト)
令和8年の犯収法改正で設けられたものであり、口座の売買等なしで犯罪収益等を他人名義の口座を経由させる脱法行為への対策という位置づけのものです。
- 有償での送金依頼や募集
- これらの依頼等に基づく送金
- 有償で送金を行う旨の誘因
などは送金犯罪として2年以下の拘禁刑もしくは300万円以下の罰金またはその併科(拘禁刑と罰金の両方が科される)となり、業として行った場合はさらに重い刑罰となりえます。
なお、送金犯罪については「正当な理由」がある場合は成立せず、家族に頼まれて送金する場合や、会合の費用を幹事がまとめて送金する場合などは除外されるものと解されています。
3 罰則強化の背景と目的
特殊詐欺による被害額は依然として高い水準で推移しており、犯罪グループは多数の他人名義口座を利用しています。
そのため、口座売買や送金代行などの行為を厳しく取り締まることで、犯罪組織の資金源を断つことが重要視されています。
近年の法改正も、このような社会情勢を踏まえて行われたものです。
根本的な対策として、特殊詐欺やいわゆるヤミ金の摘発等にも注力されているはずですが、これらの犯罪や事後的なマネロンに利用される口座等の流通を断つということも捜査機関は重視しており、今後さらに口座売買や送金バイトへの取締りは強化されることが見込まれます。
また、金融機関も口座の動きなどを注視しており、疑わしい取引があった場合には警察庁に情報が提供されます。
もし口座の譲渡・売買や送金犯罪に関与してしまったという場合には「バレないだろう」ではなく、いずれ発覚するだろうという想定で行動すべきでしょう。
第5章 犯収法に違反した時の対応と弁護士の役割
1 口座売買・譲渡に関与した場合の対処法
口座を譲渡したり、送金バイトに関与したりした場合には、できるだけ早く弁護士へ相談することをおすすめします。
警察から事情聴取を受ける前に相談することで、今後の対応方針を整理でき、不用意な供述を避けることにもつながりますし、自首という選択肢についても検討すべきでしょう。
また、すでに警察から連絡があった場合でも、早期に適切な対応を行うことが重要です。
※刑事事件の流れについては(刑事事件の流れについて元検事の弁護士が解説)をご参照ください。
2 弁護士相談のメリット
弁護士へ相談することで
- 成立する可能性のある犯罪の見通し
- 逮捕の可能性
- 自首のメリット等
- 今後の捜査の流れ
- 取調べにおける適切な供述
- 被害弁償や示談の可能性
などについて具体的なアドバイスを受けることができます。
特に元検事の弁護士であれば、捜査機関の視点を踏まえた助言を受けられる点が大きなメリットです。
3 自首や示談交渉における弁護士の支援
事件によっては、自首を検討した方がよいケースもあります。
法律上の自首が成立すれば刑の減軽事由となりますし、自首(法律上の自首にはならない場合も含め)した場合、起訴するか否かといた検察官の判断においても有利な事情となります。
※自首については( 自首について元検事の弁護士が解説 )の記事もご参照ください。
もっとも、自首の方法やタイミングを誤ると、期待した効果が得られない場合もあるため、弁護士と十分相談した上で判断することが重要です。
また、被害者が存在する事件では、示談が成立することによって不起訴や量刑に有利な事情となることがあるほか、早期に自首や申告等を行うことで、譲渡してしまった口座が実際に犯罪やマネーロンダリングに使われることを防ぐことができるかもしれません。
弁護士は、自首のサポート、被害者との交渉や示談書の作成、捜査機関への有利な情状の主張なども含め、刑事事件全体をサポートします。
第6章 まとめと今後の展望
1 犯罪収益移転防止法の重要性の再確認
犯罪収益移転防止法は、マネーロンダリングや特殊詐欺などの組織犯罪を防止するための重要な法律です。
金融機関などの特定事業者には本人確認や疑わしい取引の届出義務が課されており、犯罪収益の流れを遮断する仕組みが整備されています。
一方で、一般の方であっても、口座の譲渡や送金バイトなどに軽い気持ちで関与すると、刑事責任を問われるおそれがあります。
2 犯罪収益移転防止法、口座売買や送金バイトでお悩みの方は上原総合法律事務所へご相談を
事業者は、法改正の内容を継続的に確認し、本人確認や社内研修、内部管理体制を適切に整備することが重要です。
また、一般の方も「簡単に稼げる」「口座を貸すだけ」といったSNS上の募集には十分注意し、少しでも不安がある場合には安易に応じないことが大切です。
万が一、犯罪収益移転防止法違反が疑われる状況になった場合には、早い段階で刑事事件に詳しい弁護士へ相談することが、適切な解決への第一歩となります。
上原総合法律事務所は、元検事の弁護士8(令和8年8月31日現在)を中心とする弁護士集団で、迅速にご相談に乗れる体制を整えています。
「自分の行為が犯罪になるか不安だ」「警察から連絡が来る前にどうにかしたい」とお悩みの方は、一人で抱え込まず、一刻も早く当事務所へご相談ください。経験豊富な元検事の弁護士が、迅速かつ的確に対応いたします。
■LINEでのお問い合わせはこちら
■メールでのお問い合わせはこちら
※事案の性質等によってはご相談をお受けできない場合もございますので、まずは一度お問い合わせください。
弁護士費用



LINEで











