緊急避難とは何か?成立要件や正当防衛との違い・具体例を元検事の弁護士が解説

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弁護士 上原 幹男

弁護士 上原 幹男

第二東京弁護士会所属

この記事の監修者:弁護士 上原 幹男

司法修習後、検事任官(東京地方検察庁、奈良地方検察庁等)。捜査・公判の両面で多数の刑事事件 を担当。検事退官後、都内法律事務所を経て個人事務所を開設。2021年に弁護士法人化し、新宿・ 横浜・立川に展開。元検事(ヤメ検)として、捜査機関の思考・動き方を熟知した立場から、逮捕前 の対応・示談交渉・公判弁護まで一貫してサポートしている。

「他人の財産を壊した」
「他人の敷地へ立ち入った」

このような行為は、本来であれば犯罪に該当する可能性があります。

もっとも、その行為が、差し迫った危険から生命・身体・自由・財産を守るために、やむを得ず行われたものである場合には、刑法上の「緊急避難」が成立し、処罰されない可能性があります

この記事の結論

緊急避難が成立するためには、主に次の4つの要件が必要です。

  1. 現在の危難があること
  2. 危難を避けるための(危難を避ける意思での)行為であること
  3. やむを得ずにした行為であること
  4. 生じた害が避けようとした害の程度を超えないこと

ただし、「危険を避けるためだった」と説明すれば当然に緊急避難が認められるわけではありません。

危険が本当に差し迫っていたのか、他に回避手段がなかったのか、与えた損害が過大ではなかったのかなど、具体的な事情をもとに慎重に判断されます。

そこで本記事では、元検事(ヤメ検)の弁護士が、緊急避難の要件、正当防衛との違い、具体例、過剰避難となってしまう場合、弁護士に相談すべき場面やメリットについて、分かりやすく解説します。

※緊急避難と類似するものとして、正当防衛があります。正当防衛についてはこちら( 正当防衛とは何か?成立要件や過剰防衛との違いを元検事の弁護士が解説|上原総合法律事務所)の記事をご参照ください。

第1 緊急避難とは

緊急避難とは、自己または他人の生命、身体、自由、財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ず行った行為について、一定の要件を満たす場合に処罰しないとする制度です。

刑法37条1項は、次のように定めています。

自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない。ただし、その程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。

簡単にいえば、緊急避難とは、差し迫った危険を避けるために、やむを得ず別の法益を侵害した場合に、一定の範囲で処罰しない制度です。

例えば、次のようなケースが典型例です。

  • 火災から逃げるために、他人の家の敷地に入った
  • 溺れている人を助けるために、他人のボートを無断で使った
  • 暴走車を避けるために、他人の庭に逃げ込んだ
  • 猛犬に襲われそうになり、他人の建物に避難した

ただし、これらの行為が常に緊急避難として認められるわけではありません。具体的な状況に応じて、刑法37条の要件を満たすかが判断されます。

緊急避難が成立すると認められた場合、捜査段階であれば不起訴(嫌疑不十分など)となりうるほか、裁判段階で明らかになれば無罪となりえます

※不起訴(嫌疑不十分)については嫌疑不十分とは?不起訴となるためのポイントや処分までの流れについて元検事の弁護士が解説の記事もご参照ください。 

※無罪の獲得についてはこちら(無罪を勝ち取りたい|上原総合法律事務所)の記事もご参照ください。

第2 緊急避難が成立する4つの要件

緊急避難が成立するためには、主に次の4つの要件が必要です。

  1. 現在の危難があること
  2. 危難を避けるための(危難を避ける意思での)行為であること
  3. やむを得ずにした行為であること
  4. 生じた害が避けようとした害の程度を超えないこと

それぞれ詳しく見ていきます。

要件1 現在の危難があること

緊急避難が成立するためには、まず現在の危難が存在する必要があります。

「危難」とは、生命、身体、自由、財産に対する危険をいいます。

対象となる法益は、刑法37条に明記されているとおり、次の4つです。

  • 生命
  • 身体
  • 自由
  • 財産

刑法37条は「自己又は他人の」と定めており、自分自身の法益に対する危険のみならず、他の人の生命・身体等に危険がある場合も含みます。

例えば、火災、洪水、交通事故、動物による襲撃、急病人の救助などの場面で緊急避難の成立が問題となり得ます。

ここで重要なのは、危難が「現在」のものでなければならないという点です。

つまり、次のような場合には、「現在の危難」があるとはいえず、緊急避難が成立しない可能性があります。

  • 将来、危険が起きるかもしれないという程度にとどまる場合
  • 危険がすでに去った後である場合
  • 危険の存在が客観的に確認できない場合

緊急避難は、あくまで差し迫った危険を回避するための制度です。

そのため、「怖かった」「危ないと思った」という主観的な説明だけでは足りず、客観的な状況から危難が存在したといえるかが重要になります。

なお、現在の危難があると認識していたものの、実際にはそのような状況がなかった(現在の危難があると誤信していた)場合には、緊急避難とはならないものの、「誤想避難」として故意が否定される可能性があります。

要件2 危難を避ける意思があること

緊急避難が成立するためには、行為者に危難を避ける意思が必要です。

これを一般に「避難意思」といいます。

行為の目的が危難の回避ではなく、報復、嫌がらせ、利益獲得などであった場合には、緊急避難は成立しません。

例えば、車上狙いの目的で駐車中の自動車の窓ガラスを割ったところ、たまたま車内に生命の危険がある乳幼児がいて、結果的にその乳幼児が助かったというケースを考えます。

この場合、行為者はあくまで窃盗の目的で窓ガラスを割ったのであり、乳幼児を助けるために行動したわけではありません。そのため、緊急避難は成立しにくいと考えられます。

また、避難意思については、本人が「助けるつもりだった」と述べれば直ちに認められるものではありません。

捜査機関や裁判所は、現場の状況、行為の態様、行為前後の言動、周囲の証言、防犯カメラ映像などをもとに、危難を避けるための行為だったのかを総合的に判断します。

要件3 やむを得ずにした行為であること

緊急避難が成立するためには、その行為がやむを得ずにした行為である必要があります。

これは、簡単にいえば、その状況の下で他に適切な回避手段がなかったことを意味します。

例えば、建物で火災が発生し、そこから逃げなければならない場面を想定します。

火を避けて通れる場所が他人の敷地しかなく、しかも窓を割らなければ避難できないという場合には、他人の敷地に入る以外に自分の生命や身体を守る方法がないため、住居侵入などの罪について緊急避難が成立しやすいといえます。

一方で、他に安全に通行できる経路が複数存在した場合や、あえて窓ガラスを壊さなくても敷地内に入ることができた場合、そもそも他人の敷地に入る必要がなかった場合には、「やむを得ずにした行為」とはいえない可能性があります。

例えば、犬に追われて逃げる際に、近くに安全な避難場所があったにもかかわらず、あえて遠くにある他人の車の窓を割って逃げ込んだような場合には、「やむを得ずにした行為」とは認められ難いでしょう。

要件4 生じた害が避けようとした害の程度を超えないこと

緊急避難では、避けようとした害と、実際に生じた害とのバランスが重要です。

刑法37条1項は、緊急避難が成立するためには、生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合でなければならないと定めています。

例えば、次のような場合には、害の均衡が認められやすいでしょう。

  • 人命を守るために、他人のフェンスを壊した
  • 火災から逃げるため(身の安全のため)に、他人の敷地へ一時的に立ち入った

一方で、次のような場合には、害の均衡が否定されやすくなります。

  • 自分の財産を守るために、無関係の第三者に重大な身体被害を与えた
  • 軽微な財産上の危険を避けるために、人の生命・身体に重大な危険を生じさせた

緊急避難では、法益の比較衡量が行われます。

特に、生命・身体に対する危険を避けるための軽微な財産侵害であれば認められやすい一方、財産上の危険を避けるために人の生命・身体を大きく害するような行為は、認められにくいといえます。

もっとも、この均衡が認められない場合にも、以下に説明する「過剰避難」で刑の減免の対象となる可能性があります。

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第3 過剰避難とは

避けようとした害よりも、実際に生じた害の方が大きい場合には緊急避難は成立しません。

ただし、刑法37条1項ただし書は、その程度を超えた行為について、情状により刑を減軽し、または免除することができると定めています

これを一般に「過剰避難」といいます。

過剰避難は、「罰しない」とされていて完全に処罰されない緊急避難とは異なり、刑の免除や減軽が「できる」とされているに留まります。

もっとも、危険を避けようとした事情があるため、裁判官の判断で、刑が軽くなったり、免除されたりする可能性があります。

例えば、危険を避ける必要性はあったものの、行為の程度が必要な範囲を超えていた場合には、過剰避難として情状が考慮されることがあります。

過剰避難が成立する場合、裁判官の判断で判決において刑の減軽や免除がありうるほか、起訴されるか否かの段階で、検察官が過剰避難の事情も考慮して不起訴(起訴猶予)とする可能性もあります。

なお、害の均衡がなく、かつ現在の危難について誤信していたような場合には、「誤想過剰避難」と呼ばれることもあります。

※不起訴(起訴猶予)の獲得については起訴猶予とは?元検事の弁護士が不起訴との違いや起訴猶予獲得のポイントを解説の記事もご参照ください。 

第4 緊急避難と正当防衛の違い

緊急避難とよく似た制度に、正当防衛があります。

正当防衛は刑法36条に規定されています。

刑法36条1項は、急迫不正の侵害に対して、自己または他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は罰しないと定めています。

緊急避難と正当防衛はいずれも、一定の場合に処罰されない制度ですが、要件や考え方は異なります

比較項目緊急避難正当防衛
条文刑法37条刑法36条
危険の内容現在の危難急迫不正の侵害
危険の発生源人、動物、自然災害、事故など幅広い典型的には人による不正な侵害
守る対象自己又は他人の生命、身体、自由、財産自己又は他人の権利
害の均衡厳格に要求される成立要件ではない(防衛行為の「相当性」は必要)
典型例火災から逃げるため他人の敷地に入る殴りかかってきた相手を押し返す

最大の違いは、正当防衛が急迫「不正」の侵害に対する防衛行為であるのに対し、緊急避難は自然災害・事故・動物による危険など、それ自体は「不正」ではない危難にも適用され得るという点です。

また、正当防衛では、不正な侵害をしてきた相手に対して防衛行為を行うのに対し、緊急避難では、何の落ち度もない第三者の財産などを侵害する場面があります。

そのため、緊急避難では、避けようとした害と生じた害のバランスが特に重視されます。

正当防衛に関する記事はこちら
正当防衛とは何か?成立要件や過剰防衛との違いを元検事の弁護士が解説|上原総合法律事務所

第5  まとめと緊急避難を主張すべき場合の注意点

1 緊急避難の理解を深める

緊急避難を主張する場合には、次の点に注意が必要です。

事実と異なる説明をしない

緊急避難を認めてもらいたいからといって、危難の状況等についておおげさに申告するなど、事実と異なる説明をしてはいけません。

虚偽の説明をすると、かえって信用性が低下し、緊急避難の主張が認められにくくなる可能性があります。

感情的な説明だけで終わらせない

「怖かった」「仕方なかった」という説明だけでは、緊急避難の要件を満たすかどうかは判断できません。

重要なのは、客観的に見て、現在の危難があり、他に方法がなく、生じた害が避けようとした害を超えていなかったといえるかです。

感情や印象ではなく、危難や避難行為の内容、程度等に関わる具体的な事実を的確に主張していく必要があります。

被害者対応を軽視しない

緊急避難が成立する可能性がある場合でも、第三者に損害が生じていることがあります。

被害者への説明、謝罪、被害弁償などの対応は、刑事処分の判断に影響する可能性があります。過剰避難の場合や、厳密に言えば要件を満たさず緊急避難は成立しないという場合であっても、緊急避難に近い状況があり、かつ誠実な対応をしているなどと認められれば起訴猶予という形で不起訴となる可能性もあります。

もっとも、対応方法を誤ると、かえって不利な証拠を作ってしまうこともありますし、そもそも示談交渉等は弁護士を介さずに行うことは困難な場合がほとんどでしょう。。

そのため、被害者対応についても弁護士に相談しながら進めることが望ましいです。

※不起訴(起訴猶予)の獲得については起訴猶予とは?元検事の弁護士が不起訴との違いや起訴猶予獲得のポイントを解説の記事もご参照ください

2 緊急避難が問題になる事件では早期の相談、弁護士のサポートが重要

緊急避難とは、自己または他人の生命、身体、自由、財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ず行った行為について、一定の要件を満たす場合に処罰しない制度です。

緊急避難の主な要件は、次の4つです。

  1. 現在の危難があること
  2. 危難を避けるための(危難を避ける意思での)行為であること
  3. やむを得ずにした行為であること
  4. 生じた害が避けようとした害の程度を超えないこと

緊急避難の場合、「危険があったのだから緊急避難になるはず」と安易に考えるのは危険です。緊急避難が成立するかどうかは、具体的な事実関係と証拠によって判断されます。

上記の各要件がどのように判断されるのか、また個別の事案でどのような要件が問題となるかを把握することは容易ではないでしょうし、その事案で問題となる要件につき、具体的にどのような主張をすべきか、主張を裏付ける証拠等にどのようなものがありうるかなどの判断についても専門的な知見が不可欠です。

具体的な事情を踏まえ、どのような主張をしていくか、どのような証拠を収集するか(あるいは捜査機関に収集を促すか)などについては、早い段階から刑事事件に精通した弁護士のサポートを受けることが重要です。

上原総合法律事務所は、元検事8名を中心とする弁護士集団で、迅速にご相談に乗れる体制を整えており、経験豊富な元検事の弁護士が、迅速かつ的確に対応いたします。

緊急避難、正当防衛、過剰避難、過剰防衛などが問題となる刑事事件でお困りの方は、当事務所までご相談ください。

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弁護士費用について詳しくはこちらをご覧ください。

緊急避難についてよくある質問

Q1 自分ではなく他人を助けるためでも緊急避難は成立しますか?

はい。成立する可能性があります。

刑法37条は、自己だけでなく、他人の生命、身体、自由、財産に対する現在の危難を避ける場合も対象にしています。

そのため、溺れている人を助ける、急病人を搬送する、事故に巻き込まれそうな人を救うといった場面で他の人の権利を侵害してしまった場合も、緊急避難が問題になります。

Q2 財産を守るためでも緊急避難は成立しますか?

はい。財産を守るためという場合も緊急避難が成立しえます。

ただし、財産上の危険を避けるために、他人の生命・身体に重大な被害を与えた場合には、緊急避難成立の要件のひとつである害の均衡が否定されやすくなります。

Q3 危険だと思って行動したが、実際には危険がなかった場合はどうなりますか?

客観的に現在の危難が存在しなかった場合には、緊急避難は成立しません。

もっとも、行為者が危難があると誤信した事情によっては、故意や責任の問題として別途検討され、「誤想避難」として故意が否定され、処罰対象とならない可能性があります。

この点は事案によって判断が分かれやすいため、弁護士による具体的な検討が必要です。

Q4 緊急避難が成立すれば民事上の損害賠償責任もなくなりますか?

民法720条は以下のように定めており、民法でも緊急避難や正当防衛が成立する場合には損害賠償責任を免れ得ます。

(正当防衛及び緊急避難)

第七百二十条 他人の不法行為に対し、自己又は第三者の権利又は法律上保護される利益を防衛するため、やむを得ず加害行為をした者は、損害賠償の責任を負わない。ただし、被害者から不法行為をした者に対する損害賠償の請求を妨げない。

2 前項の規定は、他人の物から生じた急迫の危難を避けるためその物を損傷した場合について準用する。

他方、民事と刑事の判断が必ずしも一致するわけではなく、要件にも差異があるため、刑法上の緊急避難が成立する場合でも、民事上の損害賠償責任がどうなるかは別途検討が必要です。

Q5 緊急避難と正当防衛のどちらを主張すべきか分かりません

どちらを主張すべきかは、危険の発生源とその違法性(「不法」か否か)、行為の目的、被害の内容などによって変わります。

人による不正な攻撃に対応した場合は正当防衛が問題になり、自然災害、事故、動物、第三者の利益侵害などが絡む場合は緊急避難が問題になりやすいです。

実際の刑事事件では、正当防衛、緊急避難、過剰防衛、過剰避難などを慎重に整理する必要があります。

Q6 緊急避難が認められない典型例はありますか?

はい。例えば、危険がすでに去っていた場合、他に容易な回避手段があった場合、避けようとした害よりも大きな被害を生じさせた場合などは、緊急避難が認められないでしょう。

緊急避難は、危険を避けるためであればどのような行為でも許されるという制度ではありません。具体的な状況のもとで、刑法37条の要件を満たすかが判断されます。

Q7 過剰避難になると必ず処罰されますか?

過剰避難は、通常の緊急避難とは異なり、当然に処罰されない制度ではありません。

もっとも、危険を避けようとした事情があるため、情状により刑が減軽されたり、免除されたりする可能性があります。

また、その他の事情も考慮し、起訴猶予という形で不起訴となる可能性もあります。

ただし、実際にどのような処分になるかは、危険の内容、行為の態様、被害の程度、示談の有無などによって変わります。

Q8 車の窓を割って子どもを助けた場合、緊急避難になりますか?

車内に子どもが取り残され、熱中症など生命・身体への危険が差し迫っている場合には、緊急避難が成立する可能性があります。

ただし、危険の程度、警察・消防への通報状況、窓を割る以外の方法の有無、破壊した範囲などによって判断されます。

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