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弁護士 上原 幹男
第二東京弁護士会所属
この記事の監修者:弁護士 上原 幹男
司法修習後、検事任官(東京地方検察庁、奈良地方検察庁等)。捜査・公判の両面で多数の刑事事件 を担当。検事退官後、都内法律事務所を経て個人事務所を開設。2021年に弁護士法人化し、新宿・ 横浜・立川に展開。元検事(ヤメ検)として、捜査機関の思考・動き方を熟知した立場から、逮捕前 の対応・示談交渉・公判弁護まで一貫してサポートしている。
「相手を陥れるために嘘の被害届を出したら犯罪になるのか」「痴漢や性犯罪のでっち上げは処罰されるのか」と疑問に思われる方もいるでしょう。
単なる嘘であればすべてが虚偽告訴罪になるわけではありません。
虚偽告訴罪は、他人に刑事処分や懲戒処分を受けさせる目的で、事実に反する申告を行った場合に成立する重大な犯罪です。場合によっては、虚偽の申告をした側が刑事責任を問われることになります。
本記事では、虚偽告訴罪の成立要件や刑罰、具体的なケース、関連する犯罪との違いについて、元検事の弁護士が解説します。
目次
第1 虚偽告訴罪とは
虚偽告訴罪は、刑法172条で定められている犯罪です。
刑法172条では
人に刑事又は懲戒の処分を受けさせる目的で、虚偽の告訴、告発その他の申告をした者
を処罰すると規定しています。
簡単に言えば、他人を犯罪者に仕立て上げたり、懲戒処分を受けさせたりする目的で、事実に反する内容を警察や検察などに申告する行為です。
虚偽告訴罪の法定刑は、
3月以上10年以下の拘禁刑
です。
罰金刑はありません。
比較的重い犯罪に分類されており、悪質な事案では実刑判決となる可能性もあります。
特に、虚偽申告によって相手が逮捕・勾留された場合には厳しい処分が予想されます。
第2 虚偽告訴罪の成立要件
虚偽告訴罪が成立するためには、主に以下の要件が必要です。
1 他人に刑事処分または懲戒処分を受けさせる目的
最も重要なのが「目的」です。
例えば
- 相手に刑事罰を受けさせたい
- 相手に少年法の保護処分を受けさせたい
- 相手に懲戒処分を受けさせたい
という意図が必要です。
単なる悪口や愚痴だけでは成立しません。
なお、ここにいう懲戒処分とは公法上の監督関係に基づき科される制裁のことで、国家公務員や地方公務員に対する懲戒、議員に対する議員に対する懲罰、裁判官に対する懲戒等のことを意味しますが、民間企業における懲戒処分を含みません。
2 虚偽の事実を申告したこと
申告内容が客観的に事実と異なっている必要があります。
例えば
- 実際には痴漢されていない
- 実際には暴行されていない
- 実際には性交に同意していた
にもかかわらず、犯罪があったと申告する場合です。
3 故意があること
「嘘だと知りながら申告したこと」が必要です。
そのため、
- 勘違い
- 記憶違い
- 思い込み
などの場合は成立しない可能性があります。
刑事事件では、故意の有無が重要な争点になります。
第3 虚偽告訴罪の具体例
1 不同意性交等罪の虚偽申告
近年、社会的関心が高い事例の一つです。
例えば
- 交際相手との性交渉があった
- 当時は同意していた
- その後に交際トラブルになった
にもかかわらず
「無理やり性交された」
と虚偽の被害申告を行うケースです。
もちろん、実際の被害者が被害を申告することは正当な権利です。
しかし、同意があったことを認識しながら虚偽の申告をした場合には、虚偽告訴罪が成立する可能性があります。
2 痴漢のでっち上げ
電車内で
「この人に触られました」
と虚偽の申告をするケースです。
示談金を得る目的で実際には存在しない痴漢被害を訴える場合などがこれにあたります。
痴漢事件は現行犯逮捕に発展しやすく、社会的影響も大きいため、虚偽申告による被害は深刻です。
実際には接触していないにもかかわらず、意図的に犯人扱いした場合には虚偽告訴罪が問題となります。
3 DV・暴行被害の捏造
離婚や男女トラブルに関連して
- 殴られていないのに暴行されたと申告する
- DV被害をでっち上げる
といったケースも考えられます。
近年はLINEの履歴や録音データ、防犯カメラ映像などによって真実が明らかになるケースも少なくありません。
4 窃盗被害の捏造
会社内の人間関係や金銭トラブルから
「お金を盗まれた」
と虚偽の被害届を提出するケースです。
もし捜査が開始されれば、名指しされた人物は重大な不利益を受けるため、虚偽告訴罪の成立が問題となります。
第4 虚偽告訴罪に関連する類似犯罪
1 名誉毀損罪との違い
名誉毀損罪は、公然と事実を摘示して他人の社会的評価を低下させる犯罪です。
例えば
- SNSで「〇〇は痴漢をしていた」と投稿する
- インターネット上で事実無根の噂を流す
といったケースです。
一方、虚偽告訴罪は警察や検察などの捜査機関に対して虚偽申告をする場合に成立します。
つまり
- SNSへの投稿 → 名誉毀損罪
- 警察への虚偽申告 → 虚偽告訴罪
という違いがあります。
2 偽証罪との関連性
偽証罪は、法律による宣誓した証人が虚偽の証言を行う犯罪です。
虚偽告訴罪は捜査の入口における虚偽申告を処罰するものですが、偽証罪は裁判などでの虚偽証言を処罰するものです。
もっとも、虚偽告訴の後に裁判で虚偽証言を行った場合には、両方の犯罪が成立する可能性があります。
第5 虚偽告訴罪で疑われた場合の弁護活動
虚偽告訴罪は、故意や目的の有無が争点になることが多い犯罪です。
そのため、弁護人は以下のような活動を行います。
1 虚偽告訴をしてしまった場合
もし虚偽告訴をしてしまった場合、早期に自白することが有用です。
刑法173条は「前条の罪を犯した者が、その申告をした事件について、その裁判が確定する前又は懲戒処分が行われる前に自白したときは、その刑を減軽し、又は免除することができる。」と規定しており、虚偽告訴をした人が自白することでより軽い処分にすることを認めています。
自白するとともに、虚偽告訴をした理由や経緯、事件発覚後の情状等を適切に捜査機関に伝え、不起訴処分を目指すこととなります。
2虚偽告訴をしていない場合
(1)故意を争う
申告時点で
- 本当に被害があったと思っていた
- 記憶違いだった
- 誤解していた
などの事情があれば、故意が否定される可能性があります。
(2) 目的要件を争う
相手を処罰させる意図がなかったことを主張します。
虚偽告訴罪は目的犯であるため、この点は重要な争点になります。
(3) 客観的証拠を収集する
故意や目的を争うために、事実を明らかにしていく必要があります。
- LINEの履歴
- メール
- 防犯カメラ映像
- 通話録音
などを分析し、申告内容や認識状況を検討します
第6 お気軽にご相談ください
虚偽告訴罪は、他人を犯罪者に仕立て上げる行為を処罰する重要な犯罪です。
一方で、実際には勘違いや認識の相違であったにもかかわらず、虚偽告訴罪を疑われるケースもあります。
また、痴漢や不同意性交等罪、DVなどについて虚偽の申告を受け、冤罪の危険にさらされている方も少なくありません。
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