身近なコンプライアンス違反事例10選

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弁護士 上原 幹男

弁護士 上原 幹男

第二東京弁護士会所属

この記事の監修者:弁護士 上原 幹男

司法修習後、検事任官(東京地方検察庁、奈良地方検察庁等)。検事退官後、都内法律事務所にて弁護士としての経験を経て、個人事務所を開設。 2021年に弁護士法人化し、現在、新宿事務所の他横浜・立川にも展開している。元検事(ヤメ検)の経験を活かした弁護活動をおこなっている。

近年、「コンプライアンス」という用語が定着し、コンプライアンスの徹底が、企業活動における重要事項として強調されています。

「コンプライアンス違反」は、一般に、企業における法令違反を意味する用語として使われることが多いようです。

もっとも、本来、コンプライアンス(compliance)とは「服従・従順・遵守」などを意味し、遵守対象は、法律に限らず、道徳などの社会的規範、団体内部の約束事なども広く含みます。したがって、正確には、コンプライアンス違反=ルール違反と理解できます。

企業活動において何らかの不祥事が発生した場合、たとえそれが法律に違反する行為ではなくとも、社会一般には「守るべき」と受け止められているルールを逸脱する行為であれば、激しく糾弾され、企業活動に大きな支障を生じる危険があります。そのため、決して軽視はできません。

この記事では、最近のコンプライアンス違反について代表的な10の事例を紹介し、その内容などを解説したうえで、コンプライアンス違反を避ける方法にも言及します。

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1.【2024年版】身近なコンプライアンス違反事例

1-1. 第1例「しゃぶ葉」バイトテロ事件

2024年2月、株式会社すかいらーくレストランツが運営する飲食店「しゃぶ葉伊奈店」のキッチン内で、廃棄予定である食材のホイップクリームを、アルバイト従業員が直接に口に流し入れる行為が動画撮影され、その動画がインターネット上で拡散されるという事件が発生しました。動画視聴者から不衛生であるなどとの批判が殺到し、同社は謝罪する事態となりました(※)。

※株式会社すかいらーくレストランツ「当社従業員による不適切な行為とお詫びについて」(2024年2月6日)

コンプライアンス違反という面からみた場合、この不祥事は、同店舗の食材管理ルールに違反したものと思われますが、飲食店に衛生管理の徹底を求める一般国民の規範意識にも反しています。それだけでなく、行為に及んだ従業員は、同社の営業を妨害する行為として偽計業務妨害罪(刑法233条:3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金刑)で刑事罰を受ける可能性や、同店舗が休業などを余儀なくされ損害が発生した場合に、同社から、不法行為(民法709条)として損害賠償を請求される可能性があります。

会社にとってはもちろん、従業員個人にとっても単なる悪ふざけでは済まされない事態となる可能性があるコンプライアンス違反といえます。

1-2. 第2例:東京証券取引所職員のインサイダー取引

2024年12月、東京証券取引所の従業員が、業務中に知るに至った未公開の株式公開買い付け情報に基づき、その父親に利益を得させる目的で株式取引を促した金融商品取引法違反の容疑で、証券取引等監視委員会によって、東京地検特捜部に刑事告発されました。この株式取引で600万円超の利益を得た父親も、同法違反容疑で刑事告発されています(※1)。

※1日本経済新聞記事(2024年12月23日)「インサイダー疑いの東証元社員を告発 監視委、裁判官も」

株式の公開買い付けに関する重要な事実を知った一定の立場の者が、その情報が公表される前に、他人に利益を得させる目的で、情報を伝達したり、その株式取引を薦めたりする行為はいわゆるインサイダー取引として禁止されており(金融商品取引法167条の2)、これに違反すると、5年以下の懲役刑、500万円以下の罰金刑となり、その両方の刑が科される場合もあります(同法197条の2第15号)。また情報を受けた者が株式取引を行うことも禁止されており(同法167条3項)、違反すると同様の処罰を受けます(同法197条の2第13号)。

本事件では、当該従業員は、父親から未公開情報を伝達するよう要求され、当初は拒否していたものの、やがて情報を伝えるようになったと報道されています(※2)。家族という関係もあって犯罪行為に及んだものかもしれませんが、東京証券取引所の社員という立場にある者のこのような行為には厳しい処罰も想定されるところであり、安易なコンプライアンス違反や犯罪行為は身を滅ぼすこととなります。

※2:時事ドットコムニュース記事(2024年12月25日)「東証元社員、違法性認識か 当初は情報伝達拒否―インサイダー事件」

1-3. 第3例:ビッグモーター保険金不正請求事件

2023年7月、中古車販売・修理の大手企業である株式会社ビックモーターが自動車保険の保険金を水増し請求していた事実が、同社の特別調査委員会によって報告されました。具体的には、故意に車体を傷つけ、事故による傷とみせかけて修理代金の保険金を請求するなどの手口を用いていたとされ(※1)、2024年7月までの調査では、判明しているだけで計6万5000件もの不正があったと公表されています(※2)。

※1:朝日新聞2023年7月20日記事「ビッグモーター悪質な不正の手口、弁護士は『根底揺るがす大事件』」

※2:朝日新聞2024年7月22日記事「旧ビッグモーター不正『6.5万件』と損保認定・会社は調査打ち切り」

修理のために顧客から預かった車に、わざと傷をつけ、事故による損害を装って損害保険会社に保険金を水増し請求し、本来は不要な修理代金を得ていたというのです。

社内ルールや社会規範への違反を問題とする以前に、明白な犯罪行為であり、車の所有者を被害者とする器物損壊罪(刑法261条:3年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金刑もしくは科料)はもとより、損害保険会社を被害者とする詐欺罪(刑法246条1項:10年以下の拘禁刑)等に問われる可能性があります。

本件は、店舗を全国展開する大手企業による悪質なコンプライアンス違反という面で有名になりました。しかし、例えば「もらい事故で傷ついた車体の板金修理をするついでに、事故前から気になっていた凹みも直してしまい、それも保険金で払ってもらった」という話を耳にすることがあります。これも紛れもない詐欺行為ですから、厳に慎むべきです。

1-4. 第4例:助成金・補助金等の不正受給

2024年2月、虚偽の申請で国の持続化給付金100万円、雇用調整助成金約1000万円を不正受給したとして、福井市の建設会社社長が逮捕されました。雇用調整助成金については、2020年から2023年にかけて、新型コロナの影響で売上が減少し、従業員を休ませたという虚偽の申請を福井労働局に行ったと報道されました。

国や自治体に対して、虚偽の事実を申請し、補助金や助成金を不正受給する行為は、詐欺罪や補助金適正化法違反等に該当する犯罪です。厚生労働省や経済産業省は、不正受給に厳しく対応する方針を示しています(※1、※2)。

※1:厚生労働省:「雇用調整助成金(不正受給関係)不正受給及び自主申告について」

※2:経済産業省:「不正受給及び自主返還について(持続化給付金・家賃支援給付金・一時支援金・月次支援金・事業復活支援金)」

例えば、雇用調整助成金(雇用保険法62条1項1号、同施行規則102条の2、102条の3)の不正受給については、次の措置を受けることとなります(※3)。

  1. 不正受給額(本来適法に受給できるはずであった額も含まれえます。)、20%の加算金及び年3%の延滞金の返還命令
  2. 事業主などの氏名公表
  3. 支給決定の取消日から5年間の不支給措置
  4. 刑事告発

※3:厚生労働省:雇用関係助成金支給要領(令和6年4月1日)共通要領、0701「不正受給のあった助成金の取扱い」、0702「不支給措置」

厚生労働省の全国労働局が2024年12月に公表したところによると、雇用調整助成金の不正受給は、2020年4月以降、累積で1500件超となり、不正受給の総額は約500億円にのぼります(※4)。不況とコロナ禍が重なり、安易に不正な申請を行ってしまい、不安で後悔している経営者の方からのご相談やご依頼も実際に多くいただいています。厚生労働省も経済産業省も、自主的な返納をすれば延滞金や加算金を課さない、事業所名を公表しないといった配慮を示していますから、万一、不正受給の懸念がある場合は、早々に返納手続を行うべきです。上原総合法律事務所では、各種助成金・補助金等の当局対応についても幅広く対応しています。

※4:株式会社東京商工リサーチ・TSRデータインサイト(2025年1月22日)「『雇用調整助成金』の不正受給公表1,545件 愛知県が200件超、サービス業他が半数占める」

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1-5. 第5例:不正競争防止法違反(営業秘密の侵害)

2024年7月、西日本電信電話株式会社(NTT西日本)の子会社である「NTTビジネスソリューションズ株式会社」で勤務していた派遣社員が、サーバーに保管されていた顧客の個人情報3万7000人分を、およそ7年間にわたり、不正にダウンロードし、名簿業者に送信して漏洩し、多額の報酬を得ていたとして不正競争防止法違反で逮捕され、懲役3年、執行猶予4年、罰金100万円の有罪判決を受けました(※1、※2、※3)。

※1:日本経済新聞2023年10月17日記事「NTT西系元社員、個人情報900万件流出 名簿業者に渡る」

※2:JIJI.COM(2024年07月11日)元派遣社員に有罪判決 NTT西子会社、顧客情報流出―岡山地裁支部

※3:日本経済新聞2024年7月11日記事「NTT西系情報流出、元派遣社員に有罪判決 岡山地裁支部」

不正の手段で営業秘密を取得する行為、その営業秘密を第三者に開示する行為等は、不正競争防止法が禁止する「営業秘密の侵害行為」に該当します(不正競争防止法2条1項4号)。
営業秘密とは、①秘密として管理され②事業活動に有用な情報で、③公然と知られていない情報であり、顧客の個人情報はこれに該当します(同法2条6項)。

営業秘密の侵害行為が、不正の利益を得る目的で行われたときは、10年以下の懲役刑または2千万円以下の罰金刑が科され、この両方の刑が併科される場合もあります(同法2条1項4号、21条1項、2項)。

借金の返済資金や遊興費稼ぎのつもりで、最初は魔が差してクリックしてしまったという場合もあるでしょうが、アクセスの履歴等が管理されているなどの事情から発覚する可能性も高く、到底、割に合う行為ではありません。

1-6. 第6例:下請法違反(不当な経済上の利益の提供要請)

2024年11月、住友重機械工業株式会社の子会社である「住友重機械ハイマテックス株式会社」が、船舶の「いかり」の鎖を製造するための金型など約180個を、自社が所有するものであるにもかかわらず、複数の製造下請業者に無償で保管させていたとされ、下請法(下請代金支払遅延等防止法)に違反するとして、公正取引委員会から是正勧告を受けたと報道されました(※1、※2)。

※1:NHK愛媛NEWS WEB記事(2024年11月21日)「住友重機械工業の子会社『金型』保管で下請法違反」

※2:公正取引委員会「(令和6年11月21日)住友重機械ハイマテックス株式会社に対する勧告について」

物品の製造を委託する事業者が、取引上の優越的な立場を利用して、受託した下請事業者に対して、何らかの経済的な利益を提供させて、下請事業者の利益を不当に害する行為は「不当な経済上の利益の提供要請」として禁止されています(下請法4条2項3号)。

自社が所有する金型などを下請事業者に保管させることは、下請事業者を倉庫代わりにして、保管のための経費負担を押し付けるもので、この禁止行為に該当します。禁止行為に対しては、公正取引委員会から是正や再発防止の勧告がなされ(同法7条3項)、企業名などを公表されてしまいます。

1-7. 第7例:著作権法違反(著作権侵害行為)

2024年2月、経済情報提供サービスを行う株式会社ユーザベースが、同社が運営する、スマホのアプリ・ウェブでのニュース配信「NewsPicks」において、新聞記事等の写真の無断使用などがあり、新聞社などの著作権を侵害していたと認めて謝罪しました(※1、※2)。

※1:株式会社ユーザベース「NewsPicksの編成に関する、報道機関・メディアの皆様へのお詫びとお知らせ」(2024年2月29日)

※2:朝日新聞2024年2月29日記事「NewsPicksが著作権侵害・報道機関の写真など無断使用し謝罪」

写真は「写真の著作物」として、著作権の保護対象となり(著作権法10条1項8号)、その著作者には、無断でインターネットなどを通じて公衆に送信されることのない公衆送信権(同法2条1項7号、23条2項)や、その意に反して著作物の変更、切除その他の改変を受けることのない同一性保持権(同法20条1項)が権利として認められています。著作権者の許諾を得ずに、これらの権利を侵害した場合は、著作権法違反として刑事罰を受けたり(同法119条1項、2項)、著作権者から損害賠償を請求されたりする可能性があります(民法709条)。

「NewsPicks」では、利用許諾を得ずに写真を掲載したり、掲載にあたって無断で写真をトリミングしたりして、公衆送信権や同一性保持権の侵害があったと認めています。

報道に関わる企業が、同じく報道機関に対する権利侵害に無関心であったというコンプライアンス違反の事案であり、報道企業としての信頼を大きく失墜させる結果となりました。

1-8. 第8例:業務上横領行為

2024年9月、電気設備工事などの大手企業である株式会社関電工の元従業員が、工事現場の責任者として在職中に、複数回にわたり、会社に納品された電線ケーブルを持ち出して売却し、利益を得ていたとして、業務上横領罪(刑法253条:10年以下の拘禁刑)で逮捕されました(※1、※2)。

※1:読売新聞オンライン記事(2024年9月14日)「電線ケーブル横領した容疑、工事現場の元責任者を逮捕『競馬などに使った』…ほかの現場でも横領し計3000万円得たか」

※2:関電工リリース(2024年9月17日)「当社元従業員の逮捕について」

これは企業の不祥事というよりも従業員による会社に対する犯罪ですが、会社の備品や資材は言うまでもなく会社の所有物であり、これを勝手に持ち出したり、売却したりしてしまえば、当該従業員は窃盗罪(刑法235条:10年以下の拘禁刑また50万円以下の罰金刑)業務上横領罪に問われますし、このような犯罪が発生したということ自体が、被害者であるはずの企業の評判の低下にも繋がりかねません。

1-9. 第9例:ハラスメント行為

2024年11月、早稲田大学は、同大学の男性教授が、その指導する学生に対して、身体接触や性的発言によるセクシャルハラスメント行為を行ったうえ、当該学生の学術的発表の機会を阻害するなどのアカデミックハラスメント行為も行ったとして、同教授を停職1ヶ月の懲戒処分としました(※1)。

※1:ヤフーニュース(2024年11月22日)「早稲田大学・文学学術院50代教授 セクハラなどで停職1か月処分」

早稲田大学では、「ハラスメント防止ガイドライン」(※2)を設定し、セクハラ、アカハラを含む、各種ハラスメント行為の防止に努めることなどを明らかにしており、本事案は、明らかに同ガイドラインに違反するものです。

※2:「早稲田大学におけるハラスメント防止に関するガイドライン」

また、セクシャルハラスメント行為は、不同意わいせつ罪(刑法176条:6月以上10年以下の拘禁刑)や侮辱罪(刑法231条:1年以下の拘禁刑、30万円以下の罰金刑、拘留、科料)、名誉毀損罪(刑法230条1項:3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金刑)等に該当する犯罪となる場合もあるほか、不法行為として損害賠償責任を負うことにもなりかねません。

また、アカデミックハラスメント行為も、多くの場合、不法行為として慰謝料などの損害賠償責任を負担することとなり、態様によっては侮辱罪名誉毀損罪に該当することもあります。

1-10. 第10例:過失による個人情報の漏洩

2024年3月、クラウドサービスによる人材管理システムを提供する企業たる株式会社カオナビは、その子会社「ワークスタイルテック株式会社」における個人情報の漏洩を発表しました。

アクセス権限の設定ミスによって、同子会社のクラウドで管理していた、氏名・性別・住所・電話番号の個人データから、マイナンバーカードや運転免許証の画像までもが、4年以上もの間、外部から閲覧できる状態となっており、さらに15万人以上の情報が第三者によってダウンロードされたということです(※1、※2)。

※1:日本経済新聞記事(2024年4月2日)「カオナビ子会社で15万人情報漏洩か クラウド誤設定」

※2:株式会社カオナビ「当社子会社における個人データの漏えいに関する調査結果及び再発防止策に関するお知らせ」(2024年5月31日)

このような過失による個人情報の漏洩に対する罰則は現状見当たりません。しかし、過失による漏洩であっても、財産的な被害の発生など、個人の権利利益を害するおそれが大きい場合は、漏洩の事態を個人情報保護委員会に報告しなくてはなりません(個人情報保護法26条1項、同法施行規則7条)。さらに、個人情報の本人の権利・利益保護の機会を与えるべく、本人にも速やかに通知する義務があります(同法26条2項本文、同法施行規則10条)。

また、従業員の過失による個人情報の漏洩で、本人に損害が発生した場合は、会社も使用者責任(民法715条)による損害賠償責任を負担しなくてはなりません。

【個人情報漏洩で会社に総額1300万円の損害賠償を命じた裁判例】
通信教育会社ベネッセコーポレーションの顧客情報が大量に漏洩した事件の被害者ら約5700人による集団訴訟です。裁判所は、1人当たり3300円の損害(慰謝料3000円、弁護士費用300円)を認め、会社に総額約1300万円の支払を命じました(東京地裁令和5年2月27日判決

クラウドサービスでは、何よりも情報管理の確実性・安全性が重要なはずであり、単純なミスによるデータ漏洩が企業の根幹を揺るがすコンプライアンス違反となってしまう危険があります。

2.コンプライアンス違反はなぜ起こるのか?

コンプライアンス違反が起こる主な原因には、次のようなものがあります。

  1. 法令などルールの知識不足
  2. コンプライアンス意識の低下・欠如
  3. 社内コンプライアンス体制の不備

2-1. 法令などルールの知識不足

法令などルールに関する正確な知識がなければ、その遵守を徹底することは不可能です。例えば、1日8時間、週40時間の法定労働時間規制(労基法32条)を超える時間外労働が許されるのはどのような場合か、例外が許されたとして、それには上限はないのか(同法36条)などの正しい知識がない限り、長時間労働で労基法違反を犯す危険は避けられません。

「NewsPicks」の著作権侵害の事案では、違反の指摘を受けた会社が内部調査したところ、多くの違反を発見したとされており、現場において、著作権法の正確な知識が周知されていなかった可能性が考えられます。

2-2. コンプライアンス意識、モラルの低下・欠如

もっとも、法令などルールの内容を知っていても、それを守らなくてはならないという規範意識が低かったり、そもそも規範を守る意思が欠けていれば、コンプライアンス違反は防げません。

このような事態は、ルールを守るよりも、「ルールに違反してでも得るべき結果に、より高い価値がある」という考えや、「ルール違反をしても発覚する可能性は低い」といった考えに陥っている場合に生じやすいものです。

例えば、ビッグモーターの保険金不正請求事件は、会社の利益至上主義の方針から課されたノルマをこなすために不正行為が常態化した可能性が指摘されています(※)。
コンプライアンス違反を防止するためには、後記のとおり、会社としてそのような事態がないか監視し、発覚した場合には厳しく対応するという方針をとるとともに、そのような方針を従業員に周知しておく必要があるでしょう。

※日本経済新聞記事(2023年7月26日)「ビッグモーター、保険金不正請求の手口は?」

2-3. 社内コンプライアンス体制の不備

企業の経営部門には、従業員に違反行為をさせないよう管理・監督を行う義務があるはずです。現場のコンプライアンス違反は、そのような体制を構築できていない、経営部門のルール不遵守だとも評価できます。

3.コンプライアンス違反の対策

コンプライアンス違反を防止する対策として、一般的には、次のものが挙げられます。

  1. 企業として、コンプライアンス違反を許さない方針であることを明確に宣言して、全従業員に周知します。これによって、利益の追求よりも、ルールを守ることに価値を置くポリシーであることを知らしめるのです。
  2. 就業規則とは別に、コンプライアンスの観点から守るべき行動ルールや、業務にあたって遵守するべきマニュアルを作成します。従うべきルールを明確化することで、従業員が判断に迷う事態をなくし、逸脱行為を抑制できます。
  3. 法令はもとより、上記ルール、マニュアルも含め、その正確な内容を従業員に知らしめるため研修教育の機会を充実させます。
  4. 従業員による、違反行為の発生に関する通報や相談を受ける窓口を設けて、対応責任者を明確に定めるなど、内部通報制度を整備します。整備にあたっては、消費者庁のガイドライン(※)が参考となるでしょう。

※消費者庁「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン」(平成28年12月9日)

4.まとめ

コンプライアンス違反といっても、世間一般のルールや常識に反していることなどから批判の対象となりうるといったレベルのものから、行政機関による処分や刑事罰の対象となる違法行為までその内容やリスクの程度は様々です。しかしながら、どのようなものでも回避すべく努めるべきですし、正しくリスクを理解し、効率的な対策を講ずるためには法令等の理解も重要です。また、コンプライアンス違反の事例を把握した場合には初動対応が重要であることは言うまでもありません。
 上原総合法律事務所は、元検事8(令和7年5月31日現在)を中心とする弁護士集団で、迅速にご相談をお受けできる体制を整えています。コンプライアンス違反の対応策や防止策等でお悩みの方はお気軽にご相談ください。

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