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社労士が助成金不正に巻き込まれないためにすべきことを元検事の弁護士が解説

助成金制度は、中小企業や起業家の成長を支援するための重要な仕組みですが、これを悪用して不正受給するケースが後を絶ちません。

社会保険労務士として、顧客に利用されて意図せず不正行為に巻き込まれるリスクがあります。

上原総合法律事務所でも、社労士に嘘をついて助成金受給に利用した事業者が、それにもかかわらず「社労士のミスで不正受給になった」などと言って事業者から社労士への損害賠償請求や懲戒請求をしてくる、という事案のご相談をいただいています。

不正受給となった助成金自体は高額でなくても、事業者が「不正受給になったため、その他の助成金の受給資格も得られなくなったから、その分の損害も補償しろ。」と言ってきますので、事業者の請求する金額は大きくなります(※)。

このような事案でも、事前に予防策を講じておけば磐石ですし、不正が疑われた場合には、速やかに対策を始めることが大切です。

本記事では、まず、不正受給の典型的な手口と契約段階までのリスク回避策を説明し(1・2・3)、その後、契約後におかしいと思った場合や、労働局などの調査が入った場合の対策、不正受給となった場合の対策を解説します(4以降)。

※実際の裁判で助成金の受給資格も得られなくなったことによる損害(逸失利益)が認められるとは限りません。事案にもよりますが、逸失利益についての損害賠償を否定することは可能です。
しかし、社労士を不正受給に利用しようとしてくる会社は、逸失利益まで請求してくる傾向にあり、高額な請求をされれば弁護士をつけて対応せざるを得ず、請求されること自体が、時間的・金銭的に大きなコストを発生させます

雇用調整助成金の不正受給について詳しくはこちらをご覧ください

1.不正受給の典型的な手口

不正受給の手口は様々ですが、典型的な手口には以下のようなものがあります。

・不正な書類改ざん:売上や人件費・勤務時間などの数字を虚偽申告する。

・架空の従業員を申請:存在しない従業員を雇用したように装い、助成金を受け取る。

・実態のない事業活動:事業活動を行わず、助成金だけを受給する。

 

このうち、従業員や事業が架空の場合、社労士も気がつくことができますし、事業者も「社労士のミスで不正受給になった」などという言い逃れはできません。

問題は、申請の根拠となる資料について、事業者が、実態と異なる不正確なものを社労士に提出する場合です。

社労士などの士業は、顧客が自分に正直に話をしてくることを前提に仕事をしています。

そのため、事業者が、不正受給に社労士を利用するために、故意に、実態と異なる不正確な資料を提出してくると、気がつくことは容易ではありません

なお、このような悪意ある事業者は、不正受給が発覚した後は、「自分に故意はなかったのに、社労士のミスで不正受給になった。」と責任追及をしてくる可能性が高いと考えられます。

2. 事前にリスクを防ぐための手段1 顧客選定

当然ですが、信頼できる顧客を選定することが、不正リスクを防ぐ第一歩です。

対処法としては、以下のようなものが考えられます。

顧問先に限定する:従前に顧問先として関与してよく知っている顧客に限って助成金申請を取り扱う。

信用調査を実施:公的データベースやネットでの評判をチェックし、リスクを軽減する。

面談でのヒアリング:顧客の事業内容や助成金利用目的を詳細に確認する。

 
ですが、顧客選定を厳密にすれば仕事は減ってしまいますし、適正な申請をしたい顧客すら逃すことは避けたいものです。

顧客選定の段階でリスクを完全に排除することはできません

3.事前にリスクを防ぐための手段2 契約段階

契約時に以下の二つをすることで、不正受給への巻き込まれリスクを減らせます。

申請しようとしている助成金の制度をよく説明する

契約書にリスク回避のための条項を記載しておく

(1)制度説明

制度説明においては、助成金がどのような趣旨のもので、どのような場合に受給できるかを説明します。
そして、説明したことを証拠に残しておくことがとても大切です。

社労士が不正受給に利用された場合、後から事業者が「不正受給になったから損害を賠償しろ」と言われ、裁判になることがあります。
この時に、事業者は「助成金について理解できていなかったので、自社のしていることが不正だと思わなかった。不正だと思えなかったのは、社労士が助成金についてちゃんとした説明をしなかったからだ。」ということを言います。

この時、実際にはどんなにしっかりした説明をしていたとしても証拠がないと、裁判において、説明が不十分だったと言われてしまう可能性があります。

そのため、資料を用いて制度説明し、その資料を契約書に添付するなどの形で、証拠にする必要があります。

なお、説明に用いる資料は、顧客に注意したい事項を自社で作成するのがベストですが、労働局などの作成したパンフレットなどでも証拠になります。

また、説明資料に「説明を受けました」という署名欄を記載しておいて顧客のサインをもらうと、より確実に「サインした人がその資料で説明を受けた」ことの証拠になり、より良いです。

 

(2)契約書の記載

不正受給リスク対策という観点からすると、契約書を作成する目的は、トラブルになった場合の処理方法を記載して不利益が生じないようにすることです。

最も想定されるトラブルは、事業者がとにかく助成金を受給したいがためにわざと不正確な資料を社労士に提出し、不正確であることを社労士が見抜けずに助成金申請したところ、不正受給となった、というものです。

このようなトラブルを想定すると、契約書には、以下の内容の条項を記載しておくことをお勧めします。

A 事業者は社労士から助成金の制度説明を受けたことを確認する

B 事業者は正確な提出資料を提出するものとし、提出資料の内容が不正確だったことを理由として不正受給となった場合に社労士は損害賠償責任を負わない(※)

C 不正が判明した場合には不正となった助成金に関する社労士報酬は返金するが、それ以上の損害賠償義務は負わない

D 事業者が社労士に故意に不正確な資料を提出したことにより不正受給となった場合には、社労士報酬は返金しない

 

※Bの記載には次の疑問を持つ社労士さんもいるかもしれません。
「事業者から社労士に提出される資料は、間違っていることがあるので、社労士が見つけ、訂正している。事業者は正確な提出資料を提出すると記載することは、顧客から抵抗を受けるのではないか。」という疑問です。

この点、不正受給となるのは、故意がある場合です。
事業者が間違って不正確な資料を提出し、社労士がその間違いに気が付かず、結果として不正確な申請がなされてしまった場合、不正受給にはなりません。

そのため、Bの記載をすることは、顧客にとって重すぎる記載ではありません。

 

4.契約後、途中でおかしいと思ったら

契約後、助成金申請準備をしている段階や、継続的に助成金を申請する中で、社労士ご自身やスタッフさんが「この申請はおかしいかもしれない」と思うことがあります。

例えば、提出される書類の内容が通常では考えられないおかしな内容である、助成金申請ありきの体制になっている、受給要件に当たらないと説明したらどのように書類を変えれば受給できるのか聞かれる、などが挙げられます。

このような場合、万が一に備えて対策を始めるべきです。

対策の具体的内容は事案次第ですが、目的は同じで、事実の調査と証拠の保全です。

例えば、事業者の提出した書類の内容がおかしいと思ったら、そのおかしいと思った理由を事業者に伝えながら書類が正しいのか確認してください(事実の調査)。

このような調査をすると、不正をしようとしていない事業者は、ちゃんと書類に目を通している信頼できる社労士だと思ってくれるはずです。
他方、不正しようとしている事業者は、誤魔化したり無視したり怒ったりと、おかしな反応をするかもしれません。

また、このような調査は、メールですれば記録が残りますし、電話でする場合には録音して記録を残すのも有益です。
また、現地調査をするのであれば、写真やビデオに残すことで証拠にできます。

もし不正をしようとしている事業者が、調査においても嘘や誤魔化しをしている場合、調査で気がつくことができなくても、調査して気を付けていたこと、事業者が嘘や誤魔化しをしていたことが証拠にできます。

5.労働局などに不正を疑われたら

社労士がどんなに注意をしていても、事業者が社労士を騙そうとしていたら、不正受給になる申請をさせられてしまう可能性があります。

労働局などの当局が不正受給を疑ってきた場合、社労士には、不正受給となった場合の公表や、助成金の返還等の連帯責任、懲戒処分などのリスクがあります。

社労士に嘘を言って不正受給をした事業者は、調査においても嘘を言い、社労士の責任にしようとする可能性が高いです。

社労士としての業務処理に問題がないからといって労働局などの調査に非協力的な対応をしていると、事業者の嘘を信じられてしまう可能性があり、危険です。

労働局に対して適切に説明し、社労士として注意義務を果たしていたと理解してもらう必要があります。

また、仮に社労士が不正受給に気づき得たという落ち度があったとしても、故意でなければ、責任は重くありません。
責任の大半は、故意に不正受給をした事業者にあります。

そのため、落ち度があると考えられる場合でも、適切に事実説明・主張をしていくべきです。

雇用調整助成金不正受給の公表についてはこちらをご覧ください

6.お気軽にご相談ください

助成金不正受給に巻き込まれることは、社労士にとってとても大きな危険です。

ですが、事前に対応を講じておけば損害を防ぐことができますし、トラブルが生じた後でも、迅速に対処することでベストの解決に導くことができます。

上原総合法律事務所は、年間100件以上の不正受給のご相談をお受けし、独自の専門ノウハウで様々な解決をしているプロ集団です。

新規のご相談者様には、1時間25000円でご相談をお受けしています。

助成金業務のリスクを下げたい、すでに依頼を受けた仕事におかしいことがある、労働局等に不正受給だと言われているなど、あらゆるご相談をお受けします。

お気軽にご連絡ください。

ご相談までの流れ、持ち物等についてはこちらをご覧ください

 

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弁護士 上原 幹男

弁護士 上原 幹男

第二東京弁護士会所属

この記事の監修者:弁護士 上原 幹男

司法修習後、検事任官(東京地方検察庁、奈良地方検察庁等)。検事退官後、都内法律事務所にて弁護士としての経験を経て、個人事務所を開設。 2021年に弁護士法人化し、現在、新宿事務所の他横浜・立川にも展開している。元検事(ヤメ検)の経験を活かした弁護活動をおこなっている。

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