ご注意ください
弁護士 上原 幹男
第二東京弁護士会所属
この記事の監修者:弁護士 上原 幹男
司法修習後、検事任官(東京地方検察庁、奈良地方検察庁等)。検事退官後、都内法律事務所にて弁護士としての経験を経て、個人事務所を開設。 2021年に弁護士法人化し、現在、新宿事務所の他横浜・立川にも展開している。元検事(ヤメ検)の経験を活かした弁護活動をおこなっている。
上原総合法律事務所では、会社や事業主の方から、会社や会社役員が刑事事件の被疑者となってしまい、外国人の雇用を継続できるのか心配である、雇用する外国人労働者が不法就労等の犯罪行為に及んでしまったなどといった、外国人の雇用に関連する刑事事件についてのご相談をいただきます。
会社(個人事業主を含む。以下同じ。)や会社役員が刑罰を受けた場合、技能実習(令和9年からは育成就労)や特定技能の在留資格で日本にいる外国人労働者を雇い続けられなくなる可能性があります。
なぜなら、会社や役員が特定の刑罰を受けると、技能実習実施者/育成就労実施者(技能実習生/育成就労外国人を受け入れている会社のこと)または特定技能所属機関(特定技能外国人を雇用している会社のこと)としての基準を満たさなくなる場合があるためです。
基準を満たさなくなると、技能実習(育成就労)や特定技能の外国人労働者を雇えなくなり、解雇せざるを得なくなります。
また、会社やその役員が刑事罰を受ける場合でなく、雇用している外国人が犯罪に関与してしまった場合についても、当該外国人が退去強制となるなどのリスクのほか、後記のとおり実地検査を受けたり、外国人の就労計画の認定の取消に繋がるおそれも否定できません。
外国人の雇用を継続できないとなると、貴重な労働力を失うだけでなく、昨今の人手不足の状況から、代替要員がすぐに確保できず、会社の存続自体に影響を与えかねません。
この記事では、どのような場合に技能実習実施者(育成就労実施者)または特定技能所属機関としての基準を満たさなくなるのか、また、外国人労働者が罪を犯した際に企業が受ける影響等を説明します。
不法就労助長罪とは何かや罰則、外国人を雇用する際の注意点について詳しくは不法就労助長罪とは?罰則や外国人を雇用する際の注意点をご参照ください。
不法就労助長罪で摘発された場合の不利益と不起訴にする方法について詳しくは不法就労助長罪で摘発された場合の不利益と不起訴にする方法をご参照ください。
目次
特定技能の外国人労働者を受け入れる企業が満たすべき要件
特定技能外国人を受け入れる特定技能所属機関には、以下の主要な基準に適合していることが求められます。
- 特定技能雇用契約の適正な履行
特定技能雇用契約が、労働基準法、社会保険法、租税関係法などの法令を遵守している必要があります。 - 非自発的離職者を発生させていないこと
特定技能雇用契約を締結する日の前1年以内および締結した日以降に、当該業務と同種の業務に従事していた労働者を、会社の都合で離職(解雇や退職勧奨など)させていないことが条件です。 - 行方不明者を発生させていないこと
特定技能雇用契約を締結する日の前1年以内および締結した日以降に、受入れ機関の責めに帰すべき事由による行方不明者を発生させていないことが求められます。 - 会社や役員が法令違反等の欠格事由に該当していないこと
会社や役員が、刑事罰や過去の出入国・労働関係法令に関する不正行為などの欠格事由に該当していない必要があります 。
育成就労の外国人労働者を受け入れる企業が満たすべき要件
育成就労制度は、特定技能1号水準の技能を有する人材を育成することを目的としています。
育成就労外国人を受け入れる育成就労実施者は、特定技能所属機関に記載した基準に加え、以下の要件を満たす必要があります。
- 育成就労計画の認定
育成就労外国人ごとに、期間(原則3年)、目標(技能、日本語能力)、内容などを定めた育成就労計画を作成し、外国人育成就労機構による認定を受ける必要があります。 - 監理支援機関による監理支援
育成就労制度では、従来の監理団体に代わり、要件が厳格化された監理支援機関の監理を受ける形態が中心となります。 - 適切な送出し費用の確認
育成就労外国人が送出機関に支払った費用の額や内訳を理解し、不当に高額な費用を支払っていないことを確認する義務があります。
会社・法人役員が刑事罰を受けると、外国人雇用の要件を満たさなくなる
会社や法人が刑事罰を受けると外国人雇用の要件を満たさなくなり、原則として5年間、外国人雇用が不可能となります。
(1)対象となる刑事罰
個人事業主・法人または法人役員が以下の刑に処せられた場合、その執行を終わり、または執行を受けることがなくなった日から5年間(※執行猶予が付いた場合はその猶予期間中)は、特定技能や育成就労の外国人を受け入れることができなくなります。
- 拘禁刑(懲役・禁錮を一本化した刑罰)以上の刑(執行猶予付き判決を含む)
- 労働関係法、出入国管理法違反による罰金刑
- 暴力団排除法違反や特定の刑法犯(暴行、脅迫、監禁など)による罰金刑
事業主や役員が刑事裁判で執行猶予付きの判決を得られたとしても、その猶予期間中は技能実習実施者または特定技能所属機関としての基準を満たさなくなりますので注意が必要です。
それ以上に実務上重要な点が、「略式起訴」への対応です。「略式起訴」とは、被疑者が書面により合意していることを前提に、通常の刑事裁判のような法廷での審理を行わず、検察官が提出した書類や証拠のみの書面審査で、簡易裁判所裁判官が略式命令で罰金刑を科す非常に簡易迅速な手続きです。
※略式手続(略式命令)については略式起訴・略式命令でも前科?手続の流れ、罰金の相場等を元検事の弁護士が解説の記事もご参照ください。
労働安全衛生法違反や入管法違反の疑いをかけられた際、「早く事件を終わらせたいから」「罰金を払えば済むから」と、会社や事業主が安易に略式起訴(罰金刑)に応じてしまうケースが散見されます。しかし、罰金刑が確定したその瞬間に欠格事由に該当し、現在雇用している外国人労働者を含め、一切の外国人雇用ができなくなってしまいます。
つまり、外国人雇用を継続するためには、いかにして起訴されないか(不起訴処分を獲得するか)が企業にとっての生命線となります。
※不起訴処分(起訴猶予)の獲得については起訴猶予とは?元検事の弁護士が不起訴との違いや起訴猶予獲得のポイントを解説の記事もご参照ください。
(2)対象となる犯罪の具体例
ア 労働基準法違反
長時間労働(36協定違反)・過重労働
賃金未払い(最低賃金を下回る賃金の支払い、残業代の未払い)
など
※労働基準法違反については労働基準法違反で通報されたらどうなる?対処方法について弁護士が詳しく解説の記事もご参照ください。
※36協定違反については36協定とは?違反すると罰則はある?の記事もご参照ください。
イ 入管法違反
不法就労助長(技能実習生や特定技能労働者の資格外活動を黙認または助長する行為、偽造在留カードの確認不足など)
虚偽申告(虚偽の内容で技能実習計画を申請したり、特定技能の在留資格を申請したりする行為)
など
※不法就労助長については不法就労助長罪で摘発された場合の不利益と不起訴にする方法の記事もご参照ください。
ウ 労働安全衛生法違反
安全対策の不備(職場での安全対策を怠り、労働者が危険にさらされる状況を放置する行為)
労災隠し(労災が発生したことを労働基準監督署に報告しない行為)
など
※労働安全衛生法違反については労働安全衛生法とは? 違反した場合の罰則などを元検事の弁護士が解説の記事もご参照ください。
エ その他の違法行為
偽装請負(本来の雇用関係を偽装して請負契約を結ぶことで、労働法規を回避する行為)
ここで重要なポイントは、外国人労働者が関係していない事案の刑罰でも、技能実習や特定技能の労働者を雇用し続けられなくなる場合があるという点です。
例えば労働災害(労働安全衛生法違反)を例にしますと、育成就労外国人や特定技能外国人が労働災害を起こした場合でなく、別の日本人労働者が労働災害を起こし、その管理体制に関して会社が労働安全衛生法違反で刑事罰を受けた場合でも、外国人雇用の継続が不可能になりますので、注意が必要です。
会社・法人役員の刑事罰を避ける方法
法令違反をしてしまった場合、会社、法人役員が刑罰を避けるためにすべきことは主に3つです。
(1)事実を明らかにして適切に対応する
まず、社内で起きている事実を正確に把握することがスタートです。
経営陣や責任者が社内で何が起きているのかを正確に把握できているとは限らないため、事実調査自体に時間がかかることもあります。
事実が把握できたら、その事実に応じた適切な対応をしなくてはなりません。
被害弁償をしなければならないこともありますし、違法行為が継続しているのであればその状態を解消する必要があります。
被害弁償等を行った場合、そのこと自体も被疑者(会社)にとって有利な事情となりますし、被害者側と示談が成立していること、また示談の内容として宥恕されている(許されている)のであればさらに有利な情状となりえます。
(2)再発予防体制を構築し、捜査機関に伝える
事実を明らかにして喫緊の対応ができたら、再発予防体制を構築していく段階となります。
再発予防策としては、「もう二度としません」という意思だけのものとせず、捜査機関等から見ても効果的なものとなっているよう注意が必要です。
また、その時だけの対応ではなく、事件から時間が経過したのちにも再発予防が効果的であるために、仕組みとして整える必要があります。
そして、再発予防体制を構築したことを捜査機関に効果的に伝える必要もあります。
捜査機関は、再犯の防止もその目的としているため、再発予防体制を構築していることを被疑者(会社)にとって有利に評価してくれます。
再発予防体制の構築は、捜査機関から見ると、会社に刑罰を受けさせなくとも再犯のおそれはないだろうと評価される根拠となりえ、処罰の必要性を減少させる事情といえます。
(3)刑罰が会社や関係先に及ぼす影響を捜査機関に伝える
前記のように、会社や役員が刑罰を受けると、外国人労働者を雇えなくなる可能性があります。
外国人労働者が雇えなくなると、場合によっては事業の全部または一部が停止し、日本人労働者の雇用も維持できなくなるかもしれません。
また、事業が急に停止すれば、会社の取引先にも悪影響を与えます。
このように、一つの会社が刑罰を受けることは、その会社や処罰の対象となる個人のみならず、従業員や業務委託先、取引先等にまでとても大きな影響を生じさせる場合もあります。
捜査機関としては、処分を考える際、処罰がどのような影響を及ぼすか、過大な制裁や悪影響を生じさせないかも考慮します。
そのため、会社が処罰を受けた場合の影響について整理した上、それを効果的に捜査機関にも伝えることも重要です。
発生した違法行為に即した適切な対応がなされている上、効果的な再発予防策も講じられていれば、さらに処罰することによる影響の大きさも考慮され、不起訴という判断に繋がる可能性は高まります。
※不起訴処分(起訴猶予)の獲得については起訴猶予とは?元検事の弁護士が不起訴との違いや起訴猶予獲得のポイントを解説の記事もご参照ください。
外国人労働者が犯罪に及んだ場合の企業への影響
最後に、雇用している外国人労働者が犯罪行為に及んでしまった場合について解説します。
外国人労働者が逮捕・起訴された場合、本人だけでなく企業側も重大な影響を受けます。
警察庁や入管庁の統計・発表等によれば、外国人労働者が関与しやすい罪として、以下のような事例が報告されています。
- 窃盗罪:生活苦などからくる店舗での万引きや、放置自転車の持ち去り(占有離脱物横領罪)
- 入管法違反:実習先からの失踪に伴う不法残留(オーバーステイ)や、許可されていないアルバイト(資格外活動)
- 犯罪インフラ事犯(ネット犯罪):帰国前や小遣い稼ぎ目的での「自分名義の銀行口座の売買・譲渡」、偽造在留カードの所持など
- 組織犯罪への加担:SNSを通じて勧誘され、組織的な空き巣・自動車盗難や詐欺の末端(引き出し役など)に組み込まれてしまうケース
これらの犯罪が発覚した場合、企業には以下のような影響が及びます。 - 外国人育成就労機構(現・技能実習機構)による実地検査
外国人労働者が罪を犯したことを端緒として、企業の管理体制(過酷な労働環境や賃金不払いが犯罪の引き金になっていないか等)を確認するため、機構による臨時検査が行われることがあります。 - 計画の認定取消しと5年間の受入れ停止
外国人労働者の犯罪が、会社側の不適切な管理や法令違反(人権侵害、賃金不払いなど)に起因すると判断された場合、外国人の就労計画の認定が取り消される可能性があります。
認定が取り消されると、その後5年間は新たな外国人を受け入れることができなくなります。
このように、外国人労働者が企業外で犯罪に及んでしまった場合でも、企業が影響を受ける可能性がありますので、十分に注意してください。
会社・法人役員の刑事罰については、元検事の弁護士にご相談ください
上原総合法律事務所では、会社・個人事業主・会社役員などからの刑事事件のご相談をお受けしています。
上原総合法律事務所では、元検察官(ヤメ検)の弁護士と労働事件に詳しい弁護士が、外国人労働者を雇用している会社のための弁護活動をしており、外国人労働者を雇い続けたい会社のための最適解を提供します。
お困りの方は、お気軽にご相談ください。
■LINEでのお問い合わせはこちら
■メールでのお問い合わせはこちら
※事案の性質等によってはご相談をお受けできない場合もございますので、是非一度お問い合わせください。
※令和7年6月施行の刑法改正により、懲役刑・禁錮刑は拘禁刑に一本化されました。作成日により、当サイトの記事中の記載がなお懲役・禁錮となっている場合がありますのでご留意ください。



LINEで


