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淫行とは,18歳未満の少年少女と性交や性交類似行為などの性的行為を行うことです。
18歳未満の人と性行為を行ったことが相手の親や警察に発覚してしまった方は,どうして良いか分からず,お困りだと思います。
また,家族がこのような行為で逮捕されたという方は,信じられないという思いなど,複雑な心境だと思います。
18歳未満の人との性行為で問われる犯罪について説明します。
淫行は各都道府県の条例で規制されています。
青少年育成条例などと言う正式名称の条例であることが多いですが,淫行が規制されているため,淫行条例とも呼ばれます。
東京都では以下のように規定されており,青少年(18歳未満の者)との淫らな性交又は性交類似行為を規制しています。
法定刑は2年以下の懲役又は100万円以下の罰金ですが,条例に違反した者が青少年である場合には罰則を適用しない(処罰しない)と規定されています。
東京都青少年の健全な育成に関する条例
(定義)
第二条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一 青少年 十八歳未満の者をいう。
(青少年に対する反倫理的な性交等の禁止)
第十八条の六 何人も、青少年とみだらな性交又は性交類似行為を行つてはならない。
(中略)
(罰則)
第二十四条の三 第十八条の六の規定に違反した者は、二年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
(青少年についての免責)
第三十条 この条例に違反した者が青少年であるときは、この条例の罰則は、当該青少年の違反行為については、これを適用しない。
では,「みだらな」とはどういう意味なのでしょうか?
この点については,昭和60年に出た最高裁判決が参考になります。
この裁判では,福岡県青少年保護育成条例に規定されている「淫行」 の意味が問題となりました。
ここにおいて最高裁判所は
(淫行を禁じた条例の)「趣旨は、一般に青少年が、その心身の未成熟や発育程度の不均衡から、精神的に未だ十分に安定していないため、性行為等によつて精神的な痛手を受け易く、また、その痛手からの回復が困難となりがちである等の事情にかんがみ、青少年の健全な育成を図るため、青少年を対象としてなされる性行為等のうち、その育成を阻害するおそれのあるものとして社会通念上非難を受けるべき性質のものを禁止することとしたものである」
(この条例における)「「淫行」とは、広く青少年に対する性行為一般をいうものと解すべきではなく、青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか、青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような性交又は性交類似行為をいう。」
と述べました。
この議論は,福岡県以外の都道府県における,いわゆる淫行条例にも妥当するものと思われます。
そのため,一般に規定されている淫行条例に分ける「みだらな」行為とは,「青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか、青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような性交又は性交類似行為」 のことを言うと考えられます。
このような考えを前提としますので,青少年が性的行為をすることに同意していたからといって淫行条例違反とならないことにはなりません。
なお,昭和60年の最高裁判決は,判決文中で「婚約中の青少年又はこれに準ずる真摯な交際関係にある青少年との間で行われる性行為等、社会通念上およそ処罰の対象として考え難いもの」という表現を用いており,婚約中や婚約中と同志できるような真摯な交際関係にある青少年との間での性行為については条例違反にならない,という考え方も示されていると思われます。
児童買春とは,児童(18歳未満)に対して,お金などを払ったり,後で払う約束で,性交あるいは性交類似行為をすること,また,児童自らに性器を触らせるなどすることをいいます。
児童買春は「児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律」という法律で規制されており,法定刑は5年以下の懲役又は300万円以下の罰金です。
淫行条例違反の刑罰は、2年以下の懲役または100万円以下の罰金(東京都の場合)ですので,児童買春の方がより厳しく罰せられると言えます。
また,児童買春は,周旋する行為(当事者間に立って世話をすること)や人に児童買春をするように勧誘する行為も規制されています。
法定刑は,児童買春の周旋や勧誘は5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金(またはこれを併科),業として児童買春の周旋や勧誘をすれば,7年以下の懲役及び1000万円以下の罰金です。
世界的に児童買春に対する規制は厳しくなっており,児童買春の周旋や勧誘は児童買春を助長するため,捜査機関により厳しく追求されることとなります。
児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律
(前略)
(定義)
第二条 この法律において「児童」とは、十八歳に満たない者をいう。
2 この法律において「児童買春」とは、次の各号に掲げる者に対し、対償を供与し、又はその供与の約束をして、当該児童に対し、性交等(性交若しくは性交類似行為をし、又は自己の性的好奇心を満たす目的で、児童の性器等(性器、肛門又は乳首をいう。以下同じ。)を触り、若しくは児童に自己の性器等を触らせることをいう。以下同じ。)をすることをいう。
一 児童
二 児童に対する性交等の周旋をした者
三 児童の保護者(親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に監護するものをいう。以下同じ。)又は児童をその支配下に置いている者
(中略)
(児童買春)
第四条 児童買春をした者は、五年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。
(児童買春周旋)
第五条 児童買春の周旋をした者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
2 児童買春の周旋をすることを業とした者は、七年以下の懲役及び千万円以下の罰金に処する。
(児童買春勧誘)
第六条 児童買春の周旋をする目的で、人に児童買春をするように勧誘した者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
2 前項の目的で、人に児童買春をするように勧誘することを業とした者は、七年以下の懲役及び千万円以下の罰金に処する。
(後略)
インターネット上で知り合った児童に裸の写真を撮影させて送信してもらったり,児童との性行為の際に裸の児童がうつった写真を撮影したりすると,児童ポルノの所持や製造の問題が生じます。
児童ポルノ所持や製造は,「児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律」で規制されています。
法定刑は,児童ポルノ所持が1年以下の懲役又は100万円以下の罰金,児童ポルノ製造が3年以下の懲役又は300万円以下の罰金です。
また,インターネット上などで児童ポルノを不特定若しくは多数の者に提供すると,5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金(又はこれを併科)となります。
(定義)
第二条 この法律において「児童」とは、十八歳に満たない者をいう。
(中略)
3 この法律において「児童ポルノ」とは、写真、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に係る記録媒体その他の物であって、次の各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいう。
一 児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態
二 他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
三 衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀でん部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの
(中略)
(児童ポルノ所持、提供等)
第七条 自己の性的好奇心を満たす目的で、児童ポルノを所持した者(自己の意思に基づいて所持するに至った者であり、かつ、当該者であることが明らかに認められる者に限る。)は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。自己の性的好奇心を満たす目的で、第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録を保管した者(自己の意思に基づいて保管するに至った者であり、かつ、当該者であることが明らかに認められる者に限る。)も、同様とする。
2 児童ポルノを提供した者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。電気通信回線を通じて第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を提供した者も、同様とする。
3 前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。同項に掲げる行為の目的で、同項の電磁的記録を保管した者も、同様とする。
4 前項に規定するもののほか、児童に第二条第三項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ、これを写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造した者も、第二項と同様とする。
5 前二項に規定するもののほか、ひそかに第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造した者も、第二項と同様とする。
6 児童ポルノを不特定若しくは多数の者に提供し、又は公然と陳列した者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。電気通信回線を通じて第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を不特定又は多数の者に提供した者も、同様とする。
(後略)
教師や雇用主など,児童と特別な関係にある人が児童と性行為を行うと,「児童に淫行をさせる行為」をしたとして児童福祉法違反として厳しく罰せられる可能性があります。
法定刑は10年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金(またはこれを併科)で,淫行条例違反や児童買春よりもさらに厳しい罰が規定されています。
児童福祉法34条1項6号にいう淫行を「させる行為」とは,児童に淫行を強制する行為だけでなく,児童に対し,直接であると間接であると物的であると精神的であるとを問わず,事実上の影響力を及ぼして児童が淫行することに原因を与えたり助長する行為を含む,と考えられています。
教師や雇用主といった立場は児童に対して事実上の影響力を持ち得る立場であり,このような関係性を利用して児童と性的行為を行うと,児童福祉法違反になり得ます。
児童福祉法
(前略)
第四条 この法律で、児童とは、満十八歳に満たない者をいい、児童を左のように分ける。(中略)
第三十四条 何人も、次に掲げる行為をしてはならない。
(中略)
六 児童に淫行をさせる行為
(中略)
第六十条 第三十四条第一項第六号の規定に違反した者は、十年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
(後略)
13歳未満の人との性行為は刑法で禁止されており,同意の有無に関わらず犯罪になります。
性交等であれば強制性交等罪(不同意性交等罪)になりますし,わいせつな行為であれば強制わいせつ罪(不同意わいせつ罪)になります。
13歳未満の人との性行為は,淫行と違い,交際が真剣であったとしても関係ありません。
法定刑は,強制性交等罪(不同意性交等)が5年以上20年以下の懲役,強制わいせつ罪(不同意わいせつ罪)は6月以上10年以下の懲役と,とても重いものです。
法は,原則として故意犯を処罰します。
そのため,性行為の相手やわいせつ画像に写った人が18歳未満だと知らず,かつ,18歳未満の可能性があるとも思っていなかった場合,故意がないため,犯罪になりません。
法は,原則として故意犯を処罰します。法律に特別の規定がない限り,故意のない行為は罰せられません。
故意は確定的故意と未必の故意に分けられます。
確定的故意とは,自分のすることが犯罪に該当する行為であると分かっていることです。
淫行等の場合,相手が18歳未満だと知って性行為をしていれば,年齢については確定的故意で犯行に及んだことになります。
未必の故意とは,犯罪に該当する行為かもしれないけれどもそれでも構わない,と思いながら犯行に及ぶ場合です。
性行為の相手が13歳未満だと知らず,かつ,13歳未満の可能性があるとも思っていなかった場合も同様に故意がなく,強制性交等罪,強制わいせつ罪にもなりません。
相手が18歳未満かもしれないけれども構わない,という認識で性行為をしていれば,年齢については未必の故意で犯行に及んだことになります。
これに対し,身分証明書などで年齢を確認して相手が18歳以上であると思って性行為をしていた場合,故意がないこととなります。そのため,この場合は罰せられません。
なお,これは,「18歳以上であると思っていた」と言うだけで故意がないと認めてもらえるというものではありません。故意があるかどうかは,出会い方や性行為前後の事情の客観的事情などから判断されます。
児童と性行為をしたことについて,児童買春・淫行条例違反・児童福祉法違反・強制性交等(不同意性交等)・強制わいせつ(不同意わいせつ)などの罪で警察に逮捕された場合,基本的に,身柄拘束されたまま検察官送致され,勾留を請求されます。
勾留がなされると,最大で20日間の身柄拘束になります。
検察官や裁判官は,被疑者が証拠隠滅したり逃亡したりする可能性があると考えると,身柄拘束する必要性があると考えます。
そのため,身柄拘束を免れるためには,証拠隠滅や逃亡をしないと理解してもらうための行動を取り,その証拠を検察官・裁判官に提出する必要があります。
このための行動は事案に応じて個別具体的に検討する必要がありますが
・罪を犯したことが事実である場合,犯行の詳細を記載した上申書を作成・提出すること
・家族や職場の人の身元引受書を作成・提出すること
・被害児童やその家族との示談交渉を行い,その証拠を作成・提出すること
などは,状況の許す限り行うべきです。
これらの行動は,逮捕された後, なるべく早い段階で行うことが効果的です。
検察官が勾留請求する前や, 裁判官が勾留決定する前に行動を起こし,証拠提出することができれば,早期に釈放される可能性が出てきます。
また,まだ警察から連絡が来ていなかったり,警察沙汰にはなったが逮捕されていない場合でも,児童と性行為をしたり児童ポルノを所持・製造した方が,「後悔している」「夜も眠れない」「逮捕されたらと考えると不安で不安でしかたない」と言ってご相談にいらっしゃるケースが多々あります。
また,児童の親に発覚してトラブルになっているけれどもまだ警察沙汰になっていない,ということもあります。
このような方は,示談交渉を進めることが有効です。
被害児童と示談をすることができれば, 多くの場合,立件を避けられたら不起訴になりますし,逮捕などの身柄拘束を防ぐことができます。
また,警察が事件を把握していない場合には,自首を検討するべきです。
特に,被害児童の連絡先が分からなかったり,示談が成立しないという場合には,自首をする以外に有効な行動がないことがあります。
このような場合でも, 警察が事件を把握する前に自首することができれば,逮捕を避けることができたり,逮捕されたとしても裁判官が勾留しないでくれたりする可能性が出てきます。
そもそも児童との性行為や児童ポルノの所持・製造などをしていない場合や,「みだらな性行為」をしていない場合,さらには18歳未満だと知らずに関係を持ってしまった場合には,犯罪を犯していませんので,そのことを捜査機関に理解してもらう必要があります。
このような場合,「自分は罪を犯していないのだから時間とともに真実が明らかになるはずだ」と考えて事態を放置するのは危険です。
捜査機関や裁判所は収集することができた証拠に基づいて過去の事実を認定しますが,必ずしも常に真実が認定されるとは限りません。
罪を犯したと疑われている場合には,自分で証拠を収集して冤罪被害に遭う可能性を少しでも減らしておくべきです。
時間が経てば経つほど証拠は消えていってしまいますので,早い段階で証拠を収集しておく必要があります。
また,取調べ対応についても,弁護士としっかり打ち合わせをする必要があります。
「無実だから事実を正直に言えば良い」とだけ思って取調べに応じていると,思わぬ形で揚げ足を取られる可能性があります。
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弁護士 上原 幹男
第二東京弁護士会所属
この記事の監修者:弁護士 上原 幹男
司法修習後、検事任官(東京地方検察庁、奈良地方検察庁等)。検事退官後、都内法律事務所にて弁護士としての経験を経て、個人事務所を開設。 2021年に弁護士法人化し、現在、新宿事務所の他横浜・立川にも展開している。元検事(ヤメ検)の経験を活かした弁護活動をおこなっている。
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