弁護士 上原 幹男
第二東京弁護士会所属
この記事の監修者:弁護士 上原 幹男
司法修習後、検事任官(東京地方検察庁、奈良地方検察庁等)。検事退官後、都内法律事務所にて弁護士としての経験を経て、個人事務所を開設。 2021年に弁護士法人化し、現在、新宿事務所の他横浜・立川にも展開している。元検事(ヤメ検)の経験を活かした弁護活動をおこなっている。
近年、「AV新法違反で逮捕」「契約書を渡していなかったとして立件」といった報道を目にする機会が増えています。
これらの事件で適用されているのが、いわゆるAV新法です。
AV新法は、正式には
「性をめぐる個人の尊厳が重んぜられる社会の形成に資するために性行為映像制作物への出演に係る被害の防止を図り及び出演者の救済に資するための出演契約等に関 する特則等に関する法律 」といいますが、一般的には「AV新法」や「AV出演被害防止・救済法」などと呼ばれています。
以下では単に「AV新法」といって説明します。
本記事では、元検事(ヤメ検)の弁護士の立場から、AV新法とは何か、どの条文がどのような義務を定めているのか、どのような場合に解除等が可能なのか、またどのような場合にAV新法違反の犯罪になり、刑事事件としての立件や逮捕に至るのかなど、罰則が適用される製作者側、AV新法で保護を受ける出演者側双方にとって重要な内容を解説しています。
目次
第1 AV新法とは何か
1 AV新法の基本的な定義
AV新法は、性行為を伴う映像作品(AV新法では「性行為映像制作物」と呼ばれています。)、すなわちいわゆるAV、アダルトビデオへの出演契約について、通常の契約とは異なる特別な規制を設けた法律です。
端的に言うと、AV出演にまつわる「だまされて契約」「急かされて撮影」「撤回したいのに止められない」「莫大な損害金を請求された」「ネット拡散が止まらない」といった被害を減らし、出演者が救済を受けられるよう、契約・撮影・公表(販売/配信)までのルールを定めた法律です。
同法はまず、いわゆるAVの製作者(AV新法では「制作公表者」と定義されています。)の義務として
「性行為映像制作物の制作公表により
出演者の心身及び私生活に将来にわたって取り返しの付かない重大な被害が生ずるおそれがあり、また、現に生じていることを深く自覚して、出演者の個人としての人格を尊重し、あわせてその心身の健康及び私生活の平穏その他の利益を保護し、もってその性をめぐる個人の尊厳が重んぜられるようにしなければならない。」
と定めています(同法第3条)。
このような出演者の利益の保護のため、AV新法は、具体的には
- 契約の締結方法
- 契約時の出演者への説明義務
- 撮影・公表までの期間制限
- 出演者の取消権・解除権
- 製作者側の義務違反に対する刑事罰
などを包括的に規定しています。
2 AV新法の成立背景
AV新法の成立背景には、AV出演をめぐる被害の長期的な蓄積があります。
特に問題とされてきたのは、
- 撮影内容について十分な説明がないまま契約が締結される
- 撮影直前・撮影現場で内容が変更される
- 一度出演すると取り消せないという誤った認識を与えられる
といった構造です。
いわゆるAVに出演する者の「被害」に着目して立法されたこの法律であるといえるでしょう。
これに対して、一部の制作者や出演者からは、職業選択の自由を制限するものである、AV制作の地下化が進みむしろ出演者を害することに繋がるなどとして批判があったことも事実です。
第2 AV新法の主要な規定
1 契約に関する新たな義務(第4条〜第6条)
(1)書面による契約締結義務等(第4条)
AV新法においては、
AV出演契約は必ず書面または電磁的記録で締結しなければならないと定めています(第4条)。
口頭のみの合意や、SNS・メッセージアプリ上のやり取りだけでは、 法が求める契約要件を満たさず、契約は無効です。
また、複数の作品について包括的な契約書を締結することもできず、作品ごとに個別の契約を締結する必要があると定めています。
当該契約の内容としては、出演すること及び撮影の日時場所や報酬のみならず、当該出演者の性行為に係る姿態の具体的内容(AVの内容としてどのような性行為をするか)や性行為に係る姿態の相手方を特定するために必要な事項(AVにおいて性行為をする相手方の情報)などの事項についても明らかにしなければなりません。
さらに、契約の内容については
- どのようなAVを作成するかを特定せずにするAVへの出演契約
- 出演者の債務不履行の場合における損害賠償や違約金の定め
- 製作者の責任を免除するような定め
など、出演者の利益を一方的に害するような契約や条項については無効とされています。(第10条)
(2)説明義務(第5条)
制作側には、契約締結に際し、当該契約内容(撮影内容や映像の公表方法等も含む)だけでなく、
- 出演者が有する取消権等(後に説明します。)
などについて、分かりやすく説明する義務があります(第5条)。
単に契約書を渡すだけでは足りず、
出演者が内容を理解できる形で説明することが求められますし、出演者を誤認させるような説明等は禁じられています。
また、説明も口頭のみでなく、一定の時効については説明書面等を交付又は提供して説明しなければならないともされています。
(3)契約書の交付義務(第6条)
契約締結後、制作側は契約書を遅滞なく出演者に交付又は提供しなければならないとされています(第6条)。
2 撮影・公表に関する規制(第7条〜第9条)
(1)撮影までの待機期間、撮影時の拒否権・安全配慮義務(第7条)
同法は、出演契約締結後(正確には契約書等の交付等の後)、
1か月間は撮影を行ってはならないと定めています(第7条)。
これは、出演者が冷静に契約を再考するための「熟慮期間」を確保する趣旨です。
また、出演者は、契約で定められた内容であっても、 撮影時に性行為等を拒否する権利を有します。
そして、出演者が拒否した場合について、これにより製作者側に生じた損害については出演者が負うことはないと定められています。
さらに、制作側には、出演者の心身の安全や衛生、出演者が拒絶することが可能な状況を確保するよう配慮する義務が課されています。
いずれの定めも出演者の心身や自己決定権を保護するための規定だと考えられます。
(2)撮影された映像の確認(第8条)
撮影された性行為映像制作物については、公表の前に、出演者に対して内容を確認する機会が与えられなければなりません。
(3)公表までの待機期間(第9条)
撮影が終了した後も、
直ちに作品を公表することは禁止されています。
具体的には、撮影終了後4か月間は公表してはならないとされており、 この期間内に出演者が解除の意思表示をした場合、公表は許されません。
3 契約の取消し・解除(第10条〜第13条)
AV新法ではいくつかの場合、通常の民法の定めとは異なる場合にも出演者による契約の取消や解除を認めています。
また、出演契約に基づくことなく性行為映像制作物の制作公表が行われたとき又は出演契約の取消し若しくは解除をしたときは、出演者は、当該制作公表の停止や予防を請求することができます(第15条)
(1)取消権(第11条)
製作者側の説明義務違反などがあった場合、 出演者は出演契約を取り消すことができるとされています(第11条)。
(2)法定義務違反による解除権(第12条)
AV新法の特徴の一つが、
一定の義務違反がある場合に、損害賠償等なしに出演者から解除できる制度です(第12条)。
- 契約から撮影までの1か月の熟慮期間が守られていない場合
- 撮影時の出演者に対する安全配慮義務違反がある場合
- 作成された制作物について、出演者が確認することなく公表された場合
- 撮影終了後、4か月の待機期間を待たずに制作物が公表された場合
などについては、出演者は無条件で契約を解除することができます。
この解除について、制作側は損害賠償を請求することができません。
(3)任意解除(第13条)
以上の場合に当たらなかったとしても、出演者は、制作物の公表から1年以内であれば原則として契約の解除が可能です。
またこの場合も、出演者が製作者から損害賠償を請求されることはありません。
4 罰則規定の詳細(第20条〜第22条)
AV新法は、義務違反に対して刑事罰を明確に定めています。
(1)契約書不交付・説明義務違反等(第21条)
出演者に対して契約書や説明書面を交付しなかったり、書面等に契約内容などについて正しく記載されていなかった場合などがこれにあたります。
この場合の罰則は
- 6か月以下の拘禁又は100万円以下の罰金
- 法人には100万円以下の罰金
と定められています。
(2)不実告知・威迫等(第20条)
製作者が出演者に対して、出演契約の任意解除等を妨げるために、任意解除等について不実の告知をしたり威迫すること、つまり、「一度契約したんだから出演しなくてはならない。」とか「もし解除するなら違約金として1億円支払ってもらう必要がある。」などと嘘をついたり、「もし出演しないならこのことを家族にばらす。」などと脅したりした場合などがこれにあたります。
この場合の罰則は
- 3年以下の拘禁又は300万円以下の罰金
- 法人には1億円以下の罰金
と定められています。
これらの条文が、実際の逮捕事例等で適用されています。
第3 AV新法上の出演者の保護
AV新法では、その制定の経緯等からも明らかなように、出演者の権利が守られるよう様々な定めが置かれています。
その方法として、製作者側には様々な義務が課されており、時には刑事罰を科されることもあります。
他方、義務違反があった場合はもちろん、製作者側に特段の問題はない場合にも、出演者者側には出演や公表(出演しているAVの販売等)を回避するための様々な手段があります。
1 契約や条項の無効を主張する(第10条)
AV作品が特定されていない契約や、出演者の損害賠償義務や違約金を定める規定、出演者の解除権を制限する規定、製作者側の責任を免除したり限定する規定など、出演者の利益を一方的に害するような規定はAV新法上無効とされています。
こういった契約等に基づく主張には、法律上無効であると反論することができます。
2 契約を取り消す(第11条)
製作者側の義務(契約時の説明や説明書面の交付、契約書の交付等)違反や、出演者を誤認させるような説明等があった場合には、出演契約を取り消すことができます。
3 契約を解除する(第12条、第13条)
製作者側に義務違反(熟慮期間経過前の撮影、公表前の確認機会の付与漏れ、待機期間中の公表等)があった場合、出演者は直ちに契約を解除することができます。
また、義務違反等がない場合でも、一定の期間内であれば解除が可能です。さらに、いずれの場合であっても、出演者は制作公表者から損害賠償を受けることもありません。
4 公表の差止請求(第15条)
出演契約なしに撮影や公表がなわれたり、契約の取消や解除がなされた場合には、公表の停止や予防を請求することができます。
5 刑事告発等をする
製作者側に罰則付きの義務違反、すなわちAV新法違反の犯罪があった場合には、捜査機関に刑事告発等をすることもできます。
ただ、その後の捜査等には協力していくことが求められますし、刑事事件化自体で公表の差止め等の具体的なメリットがあるわけでもないため、これを行うべきかには慎重な判断が必要です。
6 その他
その他、契約内容の不履行や不法行為に該当する行為があった場合には、民事上の請求として損害賠償請求等を行うという選択肢もありえます。
また、出演しているAVが不法に拡散されるなどしている場合には削除請求等が可能な場合もあります。
第4 AV新法による逮捕の可能性
AV新法は、「悪質な業者だけを取り締まる法律」と思われがちですが、実際の運用を見ると、かなり幅広いケースで刑事事件として扱われているのが実情です。
実際に報道されている事件を見ても、脅したといった分かりやすい強要があったケースばかりではありません。
契約書をきちんと渡していなかった、出演者に説明したつもりでも十分ではなかった、撮影や公表を急いでしまったなど、こうした一見「手続き上のミス」に見える行為が、そのまま逮捕につながっています。
AV新法の怖さは、本人の認識と、法律上の評価が大きくズレやすい点にあります。
制作側としては「本人も納得していた」「嫌なら断れたはずだ」「今までも同じやり方だった」と思っていても、捜査機関はそうは見ません。
AV新法は、出演者の自由な意思決定を制度で守る法律であり、「本人が同意していたかどうか」ではなく、「法律で定められた手続きを守っていたかどうか」で犯罪の成否が変わってきます。
そのため、明確な欺罔や脅迫等がなくても、条文で求められている説明や書面交付といったルールを欠いていれば犯罪が成立し、逮捕という形で突然身体を拘束され、さらには報道されたりその後も一定期間の拘束が続くなどの大きな不利益が生じる可能性があります。
特に注意が必要なのは、出演者が後から「書面を貰った記憶がない」「実は怖かった」などと訴えた場合です。
捜査機関は、契約書の有無、説明の内容、やり取りの記録などを細かく確認しようとしますが、その多くは制作側が思っている以上に厳しく見られます。
「書面を交付したはずだがそのことをうかがわせるものがない」「丁寧に説明したはずだが実際の状況を詳しく話せない」といった状況では、契約等の際の実際の状況がどうであれ、制作側の言い分が通らないという可能性も否定できません。
また、複数の出演者が同様の被害を訴えている場合や、データが大量に保管されている場合には、証拠隠滅や再発のおそれがあるとして、いわゆる在宅事件としてでなく、身柄拘束を行って捜査を行うという手法が選ばれるケースもあります。
このように、AV新法は、一般的な感覚では犯罪とまではならないだろうというような手続の不備で犯罪が成立し、それと意識しないうちに刑事事件として立件され、さらに逮捕にまで至りうるという、制作者側にとって大きなリスクを含んだ法律だと言えます。
第5 AV新法に関する弁護活動
AV新法は新しい法律であり、その内容がまだまだ広く知られているとは言い難く、運用が固まっていない部分もあるものと思われます。
また、かねてからの「業界の常識」や「慣例」とは一致しない部分も多いのではないかと思われ、製作者側も出演者側も、どのようなリスクがあるのか、どのような権利があってどのような手段をとりうるのかを正確に把握することは難しいかもしれません。
だからこそ、専門的な知識を有した弁護士のサポートを得ることが重要です。
制作側・業者側の場合、「法律のルールはよく分からないけど、説明はしたし納得はしてくれていたから大丈夫だろう」「いきなり逮捕なんてことはないだろう」「任意の事情聴取だから大丈夫だろう」などとと軽く考えてしまいがちかもしれませんが、AV新法違反は法律の定める手続の違反が犯罪となりうるものですし、出演者側の意向次第で捜査が始まり、水面下で進行した上でいきなり逮捕されたり、任意で聴取されていた中、証拠関係が固まってきた段階で身柄が拘束されるというケースも珍しくありません。
特に、警察や検察から資料提出や事情説明を求められた段階で、どう対応するかによって、その後の流れは大きく変わりえます。
不用意な説明をしてしまい、後から「それは製作者としての義務を果たしていなかったのではないか」「それは虚偽の説明や脅しになるのではないか」などと評価されてしまうと、取り返しがつかなくなることもあります。
AV新法は新しい法律で、捜査機関も積極的に運用しているため、初動での判断ミスがそのまま重大な刑事責任につながる危険性があります。
一方、出演者側・被害を受けた側にとっても、早めの法的相談は非常に重要です。
AV新法では、出演契約を取り消したり、作品の公表を止めたり、削除を求めたりするための仕組みが用意されていますが、これらは正しい手順で進めなければ十分な効果を発揮しません。
「もう公表されてしまったから無理だろう」「契約書にサインしてしまったから仕方ない」と諦めてしまう方も多いですが、AV新法の考え方はそれとは逆です。
むしろ、そうしたケースこそ、法律による救済が想定されています。
AV新法に関する事件では、刑事と民事が同時に動くことも多く、感情的に動いてしまうと、かえって不利になることもあります。
どの段階で、どの手段を取るべきかを冷静に整理するためにも、AV新法を理解している弁護士に一度相談することが、結果的に最も安全な選択になります。
第6 まとめ
AV新法は、
- 契約
- 撮影
- 公表
について厳格な手続を定めた法律であり、一定の違反に対しては刑事罰が定められています。
「大きなトラブルにはならないだろう」
「今までなら問題にならなかった」
という感覚は、通用しません。
AV新法をめぐる問題が生じた場合には、
早期に専門的知見を持つ弁護士へ相談することが、最大のリスク回避策となります。
また、出演者側にとっては
- 契約の無効
- 契約の取消
- 契約の解除
- 公表の差止め
等を主張することができる場合が定められており、弁護士を通じて適切に対処することで、損害賠償等の責任も負うことなく、自身の性的な姿が大々的に公表されることを回避することができるかもしれません。
上原総合法律事務所は、元検事8名を中心とする弁護士集団で、迅速にご相談に乗れる体制を整えています。
刑事事件に関するお悩みがある方は、ぜひ当事務所にご相談ください。
経験豊富な元検事の弁護士が、迅速かつ的確に対応いたします。



LINEで


