弁護士 上原 幹男
第二東京弁護士会所属
この記事の監修者:弁護士 上原 幹男
司法修習後、検事任官(東京地方検察庁、奈良地方検察庁等)。検事退官後、都内法律事務所にて弁護士としての経験を経て、個人事務所を開設。 2021年に弁護士法人化し、現在、新宿事務所の他横浜・立川にも展開している。元検事(ヤメ検)の経験を活かした弁護活動をおこなっている。
従来の「(準)強制性交等罪」「(準)強制わいせつ罪」は、令和5年7月13日施行の改正刑法により、それぞれ「不同意性交等罪」「不同意わいせつ罪」に名称が改められました。
もっとも、同改正は、規定をより明確で判断にばらつきが生じないものへと変更するものにすぎず、一部の行為を除いて処罰範囲を拡大するものではないとされています。
不同意性交と不同意わいせつはどちらも「同意のない性的行為」を処罰対象としていますが、どのような行為があった場合にどちらの犯罪が成立するかや、それぞれの犯罪で科される刑罰の重さには明確な違いがあります。
この記事では、不同意性交等罪と不同意わいせつ罪の定義や刑罰、刑法改正の内容、不起訴や執行猶予を獲得するための、示談交渉などの弁護活動のポイントなどについて、元検事(ヤメ検)の弁護士がわかりやすく解説します。
目次
第1 「不同意」とは
1 定義
不同意性交等罪・不同意わいせつ罪とも、「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて」(=「不同意」で)、性交等又はわいせつな行為を行うことを処罰する罪です。
つまり
- 同意しない意思を「形成」することが困難な状態
- 同意しない意思を「表明」することが困難な状態
- 同意しない意思を「全う」することが困難な状態
の3つのいずれかに、「させ」ること、または「その状態に乗じ」ることが要件とされています。
「①同意しない意思を「形成」することが困難な状態」とは、性的行為をするかどうかを考えたり、決めたりするきっかけや能力が不足したりしていて、性的行為をしない、したくないという意思を持つこと自体が難しい状態をいいます。例えば、薬物やアルコールの影響下にある場合や寝ている場合などはこの状態に当たりうるでしょう。
「②同意しない意思を「表明」することが困難な状態」とは、性的行為をしない、したくないという意思を持つことはできたものの、それを外部に表すことが難しい状態をいいます。恐怖心や相手との力関係から嫌だと言い出せないといった状態がこれに当たりうるでしょう。
「③同意しない意思を「全う」することが困難な状態」とは、性的行為をしない、したくないという意思を外部に表すことはできたものの、その意思のとおりになることが難しい状態をいいます。薬物等の影響で身体を十分に動かせないような場合や、力づくで無理やり、といった場合などがこれに当たりうると思われます。
これらの状態に「させ」ることはもちろん、これらの「状態に乗じ」ることも要件を満たし得るので、被害者側が自発的に飲酒して酩酊した場合なども、その状態に乗じれば不同意性交や不同意わいせつが成立することがあります。
なお、同意については当該行為について必要と解され、一定の性的な行為については同意があったとしても、性交や特定の行為については同意がなかったといった場合に不同意性交等や不同意わいせつとなる可能性もあります。
このため、性風俗店やマッサージ店を利用していたという場合にも不同意性交等や不同意わいせつなどとして事件化することもあるのです。
2 8類型の例示
そして、被害者がそのような状態にあったかどうかの判断を行いやすくするため、刑法は、その原因となり得る行為や事由として、以下の8つの類型を例示しています。
一 暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと。
二 心身の障害を生じさせること又はそれがあること。
三 アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること。
四 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること。
五 同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと。
六 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕させること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること。
七 虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること。
八 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。
「一 暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと」につき、「暴行」とは、人の身体に向けられた不法な有形力の行使をいい、「脅迫」とは、他人を畏怖させるような害悪の告知をいいます。
いわゆる「強姦」や「強制わいせつ」といった過去の罪名から一般的にイメージされるのはこういった類型ではないかと思われますが、改正によってより明らかにされたとおり、犯罪となるのはこのような暴行脅迫等がある場合に限られません。
「二 心身の障害を生じさせること又はそれがあること」につき、「心身の障害」とは、身体障害、知的障害、発達障害及び精神障害であり、一時的なものを含みます。
知的障害等につけこむような場合がこれに当たり、どの程度から「心身の障害」とされるかについては明確な基準があるとは言い難く、注意が必要です。
「三 アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること」につき、「アルコール若しくは薬物」の「摂取」とは、飲酒や、薬物の投与・服用のことをいいます。
昨今、最も多くご相談やご依頼をいただいているのがこのパターンかもしれません。食事をして飲酒した上で関係を持った場合などにこの類型で問題となってしまう場合がしばしば見受けられます。特に、マッチングアプリやSNS等で出会い、そのまま関係を持ってしまったような場合にトラブルになるパターンが顕著です。
「四 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること」につき、「睡眠」とは、眠っていて意識が失われている状態をいい、「その他の意識が明瞭でない状態」とは、例えば気絶したり意識がもうろうとしているような、睡眠以外の原因で意識がはっきりしない状態をいいます。
「五 同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと」とは、性的行為がされようとしていることに気付いてから、性的行為がされるまでの間に、その性的行為について自由な意思決定をするための時間のゆとりがないことをいいます。
突然抱きついてわいせつな行為をして走り去るといったパターンはこれに当たるかと思われます。
「六 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕させること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること」とは、いわゆるフリーズの状態、つまり、予想外の事態や予想を超える事態に直面したことから、自分の身に危害が加わると考え、極度に不安になったり、強く動揺して平静を失った状態をいいます。
「七 虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること」につき、「虐待に起因する心理的反応」とは、虐待を受けたことによる、それを通常の出来事として受け入れたり、抵抗しても無駄だと考える心理状態や、虐待を目の当たりにしたことによる、恐怖心を抱いている状態などをいいます。
「八 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること」につき、「経済的・・・関係」とは、金銭その他の財産に関する関係を広く含み、「社会的関係」とは、家庭・会社・学校といった社会生活における関係を広く含みます。また、「不利益を憂慮」とは、自らやその親族等に不利益が及ぶことを不安に思うことをいいます。
この類型もしばしばご相談等を受けることがあるパターンです。部下や後輩と関係を持ってしまい、上下関係があったがゆえに断れなかったが不同意であったなどとして問題になることがあります。
3 8類型以外
ア また、刑法は、“行為がわいせつなものでないとの誤信”や“人違い”をさせ又はその状態に乗じて性交等・わいせつな行為をした場合にも、同様に「不同意」であると定めています。
イ さらに、刑法は、一定の年齢に達していない相手方と性交等・わいせつな行為をした場合には、上記類型等に該当するかどうかを問わず、性交等やわいせつな行為をしたことだけで不同意性交等罪・不同意わいせつ罪が成立すると定めています。
すなわち、13歳未満の人と性交等をした場合には、上記類型等に該当するかどうかを問わず、不同意性交等罪・不同意わいせつ罪が成立します。
また、13歳以上16歳未満の人と性交等をした者が、相手より5歳以上年長(年上)であった場合にも、上記類型等に該当するかどうかを問わず、不同意性交等罪・不同意わいせつ罪が成立します。
第2 「性交等」と「わいせつな行為」
上記のとおり「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて」、「性交等」をすれば不同意性交等罪、「わいせつな行為」をすれば不同意わいせつ罪で、それぞれ処罰されることになります。
1 「性交等」
「性交等」とは
- 男性の陰茎を女性である被害者の膣内に挿入する「膣性交」
- 男性の陰茎を被害者(男女を問わない)の肛門に挿入する「肛門性交」
- 男性の陰茎を被害者(男女を問わない)の口腔内(口の中)に挿入する「口腔性交」
- 男女を問わず、陰茎以外の身体の一部(例えば指など)を、被害者(男女を問わない)の膣又は肛門に挿入するわいせつな行為
- 男女を問わず、何らかの物を、被害者(男女を問わない)の膣又は肛門に挿入するわいせつな行為
の全てをいうとされています。
したがって、陰茎を膣に挿入するいわゆる「性交」のみならず、指等の身体の一部や何らかの物を膣や肛門に挿入した場合なども、「性交等」として(不同意わいせつ罪ではなく)不同意性交等罪により処罰されることになります。
2 「わいせつな行為」
「わいせつな行為」とは、「性欲を刺激、興奮又は満足させ、かつ、普通人の性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反する行為」をいうものとされており、例えば
- 乳房をもむ
- 陰部を手指で触る
- キス
などが該当するものと思われます。
第3 不同意性交等罪と不同意わいせつ罪の刑罰
1 不同意性交等罪
不同意性交等罪の法定刑は、5年以上の有期拘禁刑です。
また、不同意性交等罪を犯した場合において、性交等自体やその手段である暴行等によって被害者にけがを負わせたときや、被害者が被害を免れようとしたためにけがを負ったとき等には、更に重い不同意性交等致傷罪が成立し、その法定刑は、無期又は6年以上の拘禁刑となります。
2 不同意わいせつ罪
不同意わいせつ罪の法定刑は、6月以上10年以下の拘禁刑です。
また、不同意わいせつ罪を犯した場合においても、前同様に被害者にけがを負わせたとき等には、更に重い不同意わいせつ致傷罪が成立し、その法定刑は、無期又は3年以上の拘禁刑となります。
3 執行猶予との関係
拘禁刑で執行猶予が付されるのは、刑期が3年以下(再度の執行猶予については2年以下)の場合だけです。
このことからすると、不同意性交等や致傷の場合には、特に斟酌すべき情状があるなどで減軽されて法定刑未満の判決とならない限り、初犯でも実刑となって刑務所に収監されることになります。
また、不同意わいせつの法定刑も長期10年とかなり重く、事案次第では実刑のおそれも否定できませんし、致傷となればなおさらです。
「初犯だから」などとたかをくくっていてはいけません。まずは不起訴を目指すべきでしょうし、起訴されてしまったという場合には、減軽や執行猶予を狙った的確な対応が不可欠です。
第4 令和5年7月13日施行の刑法改正
不同意性交等罪・不同意わいせつ罪は、令和5年7月13日に施行された改正刑法(令和5年法律第66号)により、(準)強制性交等罪・(準)強制わいせつ罪が改められたものです。
膣又は肛門に陰茎以外の身体の一部又は物を挿入する行為は、改正前は「性交等」に該当せず(準)強制性交等罪は成立しない(法定刑が低い「わいせつな行為」にしか該当せず(準)強制わいせつ罪しか成立しない)とされていましたが、改正後は「性交等」に該当することとされ不同意性交等罪が成立することになりました。
また、13歳以上16歳未満の人と性交等・わいせつな行為をした者が、相手より5歳以上年長(年上)であった場合に、その相手の同意の有無を問わず、不同意性交等罪・不同意わいせつ罪が成立することとなり、性交同意年齢が16歳に引き上げられました。
これらの点は、改正前後での特に大きな違いと言えるでしょう。
もっとも、上記の2点を除くと、同改正は、改正前の(準)強制性交等罪・(準)強制わいせつ罪が本来予定していた処罰範囲を拡大して改正前のそれらの罪では処罰できなかった行為を新たに処罰対象に含めるものではないとされています。
改正の趣旨は、処罰されるべき“同意していない性交等・わいせつな行為”がより的確に処罰されるようになることを意図したものであるとされているのです。
すなわち、性犯罪の本質的な要素は、「自由な意思決定が困難な状態で行われた性的行為」であるとされているところ、改正前の(準)強制性交等罪・(準)強制わいせつ罪では、そのような本質的な要素を満たすかどうかを、「暴行」・「脅迫」、「心神喪失」・「抗拒不能」といった要件によって判断していましたが、これに対しては、それらの要件の解釈により犯罪の成否の判断にばらつきが生じ、事案によっては、その成立範囲が限定的に解されてしまう余地があるのではないかとの指摘がなされていました。
そこで、それらの要件を改め、「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態」という表現を用いて統一的な要件とすることとし、また、被害者がそのような状態にあったかどうかの判断を行いやすくするため、その原因となり得る行為や事由についても、具体的に例示されることとなったのです。
これらにより、不同意性交等罪・不同意わいせつ罪は、(準)強制性交等罪・(準)強制わいせつ罪と比較して、より明確で、判断のばらつきが生じない規定になったとされています。
第5 不同意性交等罪・不同意わいせつ罪が成立しない例
相手の方が真に同意をして性的行為に応じていたのであれば、後になって相手の方から「あのときの性的行為は同意していなかった」と主張されたとしても、不同意性交等罪・不同意わいせつ罪が成立することはありません。
もっとも、警察が相手の方から不同意性交等罪・不同意わいせつ罪の被害申告を受けた場合、相手の方の話だけを聞いて捜査を開始せざるを得ません。
そのため、上記のようなあらぬ嫌疑を掛けられることになってしまった場合には、警察がまだ相手の方の話しか聞くことができていない状態であることを念頭に置き、まずは、こちら側の言い分をしっかりと警察に話し、それに沿った証拠を提示するというのが、ベストな選択となることが多いでしょう。
また、被疑者として捜査機関に事実を話したとしても、相手方も主張を曲げない限り、どちらの話が信用できるかという問題になり、冤罪で起訴、有罪となってしまうおそれも否定できません。
基本的には密室で2人きりの状況で発生することが多い類型の犯罪ですので、「被害者」と被疑者の供述が1対1となり、「被害者」の話が信用できると判断されてしまうおそれがあります。
「真実は同意があったのだから分かってくれるはず」と楽観視せず、信用されるべく的確な供述をするとともに、相手方の主張と相反する、あるいは自身の主張と整合する証拠を収集し、冤罪である旨主張していく必要があるでしょうし、状況や意向次第ではあえて示談するという選択肢が有用な場合もあるかもしれません。
第6 不同意性交等罪・不同意わいせつ罪の弁護活動
上記のとおり、不同意性交等罪・不同意わいせつ罪は、重い法定刑が定められている重大な犯罪です。
しかしながら、起訴前に被害者と示談ができ、被害者が宥恕して(許して)処罰を求めないなどの意向となれば、検察官がこれを尊重して不起訴処分とする可能性は十分にあります。
また、起訴された場合、(特に不同意性交等罪では)実刑となる可能性が高いといえますが、(起訴前に示談ができていなくとも起訴後に)示談ができ、被害者が宥恕等すれば、裁判官がこれを尊重して執行猶予判決とする可能性は十分にあります。
したがって、弁護人としては、起訴前であれば不起訴・起訴後であれば執行猶予判決を目指し、被害者との示談成立に向けて交渉することが重要な活動となります。
さらに言えば、捜査機関への被害申告前に「被害者」が直接連絡をしてきている場合などは、そもそも被害申告をされることを回避するための迅速な対応をすべきでしょう。
もっとも、被疑事実(容疑)を否認する場合、被害を主張している方と示談することは難しいでしょう。「同意があるという認識だったが、嫌だったというのであれば謝罪する」といったスタンスでの示談交渉等もありえますが、「被害者」側がさらに憤慨するようなリスクもあります。
その場合、弁護人としては、嫌疑を掛けられてしまった依頼者の方とよく打ち合わせ、主張に沿う証拠を丁寧に収集するなどしながら、検察官に無実であることを訴え、万が一起訴されてしまった場合でも、裁判で依頼者の方の主張に沿う証拠の取調べを請求するなどしながら、裁判官に無罪を主張することになります。
そうした証拠としては、例えば、被害に遭ったとされる時点より前の経緯に関するものであれば、被害を主張している方が依頼者の方に好意を寄せているメッセージ、依頼者の方が被害を主張している方と2人きりになる前に同席していた知人による「被害を主張している方が依頼者の方に好意を寄せているようだった」旨の証言、被害を主張している方が依頼者の方と積極的に自宅マンション等に入っていく状況が記録された防犯カメラ映像等が考えられるでしょう。
また、被害に遭ったとされる時点より後の経緯に関するものであれば、被害を主張している方がその後も依頼者の方に好意を寄せているメッセージ、依頼者の方と被害を主張している方との親密な関係が継続していたことが分かる写真や動画等が考えられるでしょう。
これらはあくまで一例にすぎず、事案によってどのような証拠が有用かなどは異なりますから、よく打合せをさせていただき、事案に応じた証拠を探していくことになります。
早期に弁護士を依頼することで、初期から示談交渉を始めることができ、また、早い段階から証拠の確保(防犯カメラの画像は短期間で上書きされてしまうことなどもありますし、メッセージ等も消去されてしまうなどのおそれもあります。)や取調べの準備も可能となって、不起訴や執行猶予の可能性が高まります。
第7 まとめ
不同意性交罪・不同意わいせつ罪はいずれも「同意のない性的行為」を処罰する重大犯罪です。
その重大さと裏腹に巻き込まれるリスクも大きく、同意不同意という部分については客観的な証拠も残りにくいがゆえに冤罪のリスクも否定できません。
万が一トラブルや事件となってしまった場合、早期に弁護士に相談することで、被害申告自体の回避、不起訴や実刑判決回避の可能性が高まります。
上原総合法律事務所は、元検事8名を中心とする弁護士集団で、迅速にご相談に乗れる体制を整えています。
刑事事件に関するお悩みがある方は、ぜひ当事務所にご相談ください。経験豊富な元検事の弁護士が、迅速かつ的確に対応いたします。



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