
弁護士 上原 幹男
第二東京弁護士会所属
この記事の監修者:弁護士 上原 幹男
司法修習後、検事任官(東京地方検察庁、奈良地方検察庁等)。検事退官後、都内法律事務所にて弁護士としての経験を経て、個人事務所を開設。 2021年に弁護士法人化し、現在、新宿事務所の他横浜・立川にも展開している。元検事(ヤメ検)の経験を活かした弁護活動をおこなっている。
不同意わいせつ罪について、成立要件や弁護活動のポイントなどを、元検事(ヤメ検)の弁護士が詳しく解説します。
目次
1 不同意わいせつ罪とは
⑴ 不同意わいせつ罪とは
令和5年7月13日に施行された改正刑法(令和5年法律第66号)により、従前の強制わいせつ罪に代わるものとして定められた罪になります。
刑法176条により定められている罪です。
次に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、六月以上十年以下の拘禁刑に処する。
なお、法務省は、同改正について、改正前の強制わいせつ罪の処罰範囲を拡大したものではなく、より明確で判断にばらつきが生じない規定とすることによって、より的確に処罰されるようにするものであると説明しています。
しかし実際には
13歳以上16歳未満の人と性交等をした者が、相手より5歳以上年長(年上)であった場合には、その相手の同意の有無を問わず、不同意わいせつ罪が成立する
こととなり、性交同意年齢が16歳に引き上げられていますので、この点では処罰範囲が拡大したといえます。
⑵ 不同意わいせつ罪の構成要件
「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて」わいせつな行為をすることを処罰する罪です。
つまり、3つのいずれかに、「させ」る、又は「その状態に乗じ」ることが要件とされています。
ア 同意しない意思を「形成」することが困難な状態
イ 同意しない意思を「表明」することが困難な状態
ウ 同意しない意思を「全う」することが困難な状態
ア 同意しない意思を「形成」することが困難な状態
性的行為をするかどうかを考えたり、決めたりするきっかけや能力が不足していて、性的行為をしない、したくないという意思を持つこと自体が難しい状態をいいます。例えば眠っている場合などが考えられます。
イ 同意しない意思を「表明」することが困難な状態
性的行為をしない、したくないという意思を持つことはできたものの、それを外部に表すことが難しい状態をいいます。
例えば、被害者が相手のことを恐れていたり、人間関係等から拒否することが難しい状況などが考えられます。
ウ 同意しない意思を「全う」することが困難な状態
性的行為をしない、したくないという意思を外部に表すことはできたものの、その意思のとおりになることが難しい状態をいいます。
例えば暴力的な手段によって抵抗ができなくなったり、薬物等の影響で抵抗を続けられないような場合などが考えられます。
⑶ 原因となり得る行為や事由
被害者がそのような状態にあったかどうかの判断を行いやすくするため、刑法176条1項は、その原因となり得る行為や事由として、以下の8つの類型を例示しています。
一 暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと。
二 心身の障害を生じさせること又はそれがあること。
三 アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること。
四 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること。
五 同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと。
六 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕させること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること。
七 虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること。
八 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。
一 暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと
「暴行」とは、人の身体に向けられた不法な有形力の行使をいい、簡単に言えば暴力です。「脅迫」とは、他人を畏怖させるような害悪の告知をいい、簡単に言い換えれば相手を脅すことです。
二 心身の障害を生じさせること又はそれがあること
「心身の障害」とは、身体障害、知的障害、発達障害及び精神障害であり、一時的 ものを含みます。
被害者が傷害を抱えていて抵抗できない、しようとも思わないような場合にこれに乗じてわいせつな行為を行えば、この類型に当たるものと思われます。
三 アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること
「アルコール若しくは薬物」の「摂取」とは、飲酒や、薬物の投与・服用のことをいいます。
実際にご相談等も多くいただくパターンであり、一緒に飲酒した後に関係を持った場合などで問題となりえます。ただ、飲酒等があるからといって必ずしも不同意わいせつになるというわけでもないと思われます。
四 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること
「睡眠」とは、眠っていて意識が失われている状態をいい、「その他の意識が明瞭でない状態」とは、例えば、意識がもうろうとしているような、睡眠以外の原因で意識がはっきりしない状態をいいます。
相手が眠っているのに乗じてわいせつな行為を行った場合などは、まさにこの類型に当たるものと考えられます。
五 同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと
性的行為がされようとしていることに気付いてから、性的行為がされるまでの間に、その性的行為について自由な意思決定をするための時間のゆとりがないことをいいます。
単純に突然わいせつな行為を行った場合などはこれに該当するものと思われます。
六 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕させること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること
いわゆるフリーズの状態、つまり、予想外の事態や予想を超える事態に直面したことから、自分の身に危害が加わると考え、極度に不安になったり、強く動揺して平静を失った状態をいいます。
行為者から見ると判断が難しい面もあるかもしれませんが、予想外にわいせつな行為を行われた場合に抵抗もできず固まってしまうという状況はまま見られるところであり、そのような場合を想定したものと考えられます。
七 虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること
「虐待に起因する心理的反応」とは、虐待を受けたことによる、それを通常の出来事として受け入れたり、抵抗しても無駄だと考える心理状態や、虐待を目の当たりにしたことによる、恐怖心を抱いている状態などをいいます。
わいせつ事件の中には保護者から継続的な被害を受けるといった場合もあるところ、そのような状況下で抵抗できない中で犯行が行われた場合などがこれに該当するものと思料されます。
八 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること
「経済的・・・関係」とは、金銭その他の財産に関する関係を広く含み、「社会的関係」とは、家庭・会社・学校といった社会生活における関係を広く含みます。また、「不利益を憂慮」とは、自らやその親族等に不利益が及ぶことを不安に思うことをいいます。
上司と部下、指導者と生徒等など、上下関係等から断れずに被害に遭うといった状況などがこれに当たるかと考えられます。
⑷ 誤信や人違いによるわいせつ行為
上記のとおり例示された8つの類型に加え、刑法176条2項は、“行為がわいせつなものでないとの誤信”や“人違い”をさせ又はその状態に乗じてわいせつな行為をした場合にも、同様に不同意わいせつ罪が成立することを定めています。
稀有な例かもしれませんが、宗教団体やこれに類する団体で、儀式などと称してわいせつな行為に及んだケースなどもあり、2項によって捕捉されうるパターンかと思われるところです。
⑸ 16歳未満に対するわいせつ行為
刑法は、一定の年齢に達していない相手方に対してわいせつな行為をした場合、上記類型等に該当するかどうかを問わず、わいせつな行為をしたことだけで不同意わいせつ罪が成立することを定めています。
すなわち、13歳未満の人に対してわいせつな行為をした場合には、上記類型等に該当するかどうかを問わず、不同意わいせつ罪が成立します。
かつても13歳がいわゆる性行同意年齢(性的な行為に有効な同意をすることができる年齢)とされていたところであり、相手が13歳未満であれば、その相手が同意していたかなどとは無関係に不同意わいせつ罪が成立します。
また、13歳以上16歳未満の人に対してわいせつな行為をした者が、相手より5歳以上年長(年上)であった場合にも、上記類型等に該当するかどうかを問わず、不同意わいせつ罪が成立します。
従前は各都道府県の青少年健全育成条例等(いわゆる淫行条例、青条例、ピンク条例などと呼ばれるもの)で18歳未満の者に対するわいせつな行為等は規制されていた(これらの規制がなくなったわけではありません。)ところ、真摯な交際であれば処罰対象にはならない場合もありましたが、相手が16歳未満で年の差が5歳以上あれば、真摯な交際か、同意があったかにかかわらず不同意わいせつ罪が成立します。
具体例を挙げますと、13歳と18歳が、あるいは16歳と21歳が(当事者としては)真剣に交際していた中であっても、わいせつな行為がなされれば、同意の有無に関係なく、例え年少者から求めたような場合であっても年長者に不同意わいせつ罪が成立しうることになります。
また、年齢差が5歳未満であっても、先述のパターンに該当するなどの場合には当然不同意わいせつ罪が成立します。
⑷ 「わいせつな行為」とは
性欲を刺激、興奮又は満足させ、かつ、普通人の性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反する行為をいうものとされており、例えば、以下の行為などが該当します。
・乳房をもむ
・陰部を手指で触る
・キス
なお、「性交等」もわいせつな行為に該当しますが、「性交等」を(同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて)した場合には、更に重い不同意性交等罪が成立します。
⑸ 「性交等」とは
・膣性交(男性の陰茎を女性である被害者の膣内に挿入する行為)
・肛門性交(男性の陰茎を被害者(男女を問わない)の肛門に挿入する行為)
・口腔性交(男性の陰茎を被害者(男女を問わない)の口腔内(口の中)に挿入する行為)
・男女を問わず、陰茎以外の身体の一部(例えば指など)を、被害者(男女を問わない)の膣又は肛門に挿入する行為であってわいせつなもの
・男女を問わず、何らかの物を、被害者(男女を問わない)の膣又は肛門に挿入する行為であってわいせつなもの
の全てをいいます(陰茎のみならず、指等の身体の一部や何らかの物を膣や肛門に挿入した場合も、「性交等」として(不同意わいせつ罪ではなく)不同意性交等罪により処罰され得ます)。
イメージとしては、いわゆるフェラチオや指を陰部に挿入したりといった行為は「性交」そのものではないように感じられるかもしれませんが、改正後では「性交等」に当たり、より重い不同意性交等罪で処罰の対象となりえます。なお、いわゆる男女間の性交に限られないところ、男性を被害者とする場合や、男性同士や女性同士であっても不同意性交等のふみが成立しえます。
不同意性交等罪についての詳細は下記の記事や動画もご参照ください。
2 不同意わいせつ罪の刑罰・時効
⑴ 不同意わいせつ罪の法定刑
不同意わいせつ罪の法定刑は、6月以上10年以下の懲役であり、重い罪です。
また、不同意わいせつ罪又はその未遂罪を犯した場合において、わいせつな行為自体やその手段である暴行などによって被害者にけがを負わせたときや、被害者が被害を免れようとしたためにけがを負ったときなどには、更に重い不同意わいせつ致傷罪が成立し、その法定刑は、無期又は3年以上の有期懲役と非常に重い罪となります。
⑵ 不同意わいせつ罪の公訴時効
不同意わいせつ罪の公訴時効は、12年です(刑事訴訟法250条3項)。
ただし、被害者が被害時に18歳未満である場合、公訴時効の12年は、
被害者が18歳になる誕生日から起算することになります(同条4項)。
例えば、12歳の人に対して不同意わいせつ罪の犯行を行った場合、公訴時効はその被害者が30歳に達する日まで完成しない(30歳になる誕生日を迎えた瞬間=午前0時に完成する)ことになります。
⑶ 同意わいせつ致傷罪の公訴時効
なお、不同意わいせつ致傷罪の公訴時効は、20年です(被害者が被害時に18歳未満である場合には、前同様に、公訴時効は被害者が18歳になる誕生日から起算することになります)。
3 不同意わいせつ罪の弁護活動
不同意わいせつ罪は、重い法定刑が定められている重大な犯罪です。
しかしながら、起訴前に被害者と示談ができ、被害者が宥恕して(許して)処罰を求めないなどの意向となれば、検察官がこれを尊重して不起訴処分とする可能性は十分にあります。
また、起訴された場合、実刑となる可能性が高いといえますが、(起訴前に示談ができていなくとも起訴後に)示談ができ、被害者が宥恕等すれば、裁判官がこれを尊重して執行猶予判決とする可能性は十分にあります。
したがって、弁護人としては、以下を目指し、被害者との示談成立に向けて交渉することが重要な活動となります。
・起訴前であれば不起訴
・起訴後であれば執行猶予判決
もっとも、容疑を否認する場合、被害を主張している方と示談することは考え難いでしょう。
その場合、弁護人としては、嫌疑を掛けられてしまった依頼者様とよく打ち合わせ、主張に沿う証拠を丁寧に収集するなどしながら、検察官に無実であることを訴え、万が一起訴されてしまった場合でも、裁判で依頼者様の主張に沿う証拠の取調べを請求するなどしながら、裁判官に無罪を主張することになります。
そうした証拠としては、例えば、被害に遭ったとされる時点より前の経緯に関するものであれば、被害を主張している方が依頼者様に好意を寄せているメッセージ、依頼者様が被害を主張している方と2人きりになる前に同席していた知人による「被害を主張している方が依頼者様に好意を寄せているようだった」旨の証言、被害を主張している方が依頼者様と積極的に自宅マンション等に入っていく状況が記録された防犯カメラ映像等が考えられるでしょう。
また、被害に遭ったとされる時点より後の経緯に関するものであれば、被害を主張している方がその後も依頼者様に好意を寄せているメッセージ、依頼者様と被害を主張している方との親密な関係が継続していたことが分かる写真や動画等が考えられるでしょう。
ただし、これらは飽くまで一例にすぎず、事案によって異なりますから、よく打合せをさせていただき、事案に応じた証拠を探していくことになります。
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