刑事裁判においては、多くの場合、執行猶予付判決を得ることが目標になります。
執行猶予とは、懲役刑や禁固刑などの有罪判決を受けるときに、すぐに刑務所行きにせずに一定期間待ってもらうことができ、その間に新しく罪を犯さなければ刑務所に行かなくてよくなる、という制度です。
なお、執行猶予をつけずに刑務所に行きなさいという判決のことを「実刑(じっけい)」「実刑判決」などと呼びます。
執行猶予にするとき、裁判官は判決で「被告人を懲役3年に処する。この判決確定の日から5年間その執行を猶予する。」と言います。
このように「懲役3年、執行猶予5年間」という刑が言い渡された場合、5年が執行猶予期間です。
「懲役3年、執行猶予5年間」というのは、「3年間の刑務所行かなければならない、ただし、5年の猶予期間に新しく犯罪をしなければ、刑務所に行かなくてよくなる」という意味です。
実刑にするときは、裁判官は「被告人を懲役3年に処する。」とだけ言い、執行猶予については何も言いません。
執行猶予付きの判決が言い渡された場合は、裁判中に勾留されていたとしても、その場で釈放となり、通常の生活に戻ることができます。
執行猶予にしてもらうためには、前科等の条件が執行猶予にできるものであり、かつ、情状が良い場合です。
以下、2つに分けて詳しく説明します。
執行猶予はいつ終わるのか、執行猶予中の注意点などについて詳しくはこちらをご参照ください。
執行猶予付きの判決を受けられるためには、まず、被告人の前科関係が、以下どちらかに該当しなければなりません(刑法第25条第1項)。
・「前に禁錮以上の刑に処せられたことがない」場合
・「禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない」場合
裁判官は、被告人がこの条件のどちらかを満たしている場合で、かつ、執行猶予にすべき情状と考えた場合に、執行猶予にします。
逆に言うと、禁錮以上の刑に処せられたことがあって、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑になる場合には、執行猶予がつくことはありません。
そのため、前に禁錮以上の刑で刑務所に服役してから5年未満の事件など、執行猶予にはならない事案では、不起訴もしくはなるべく短期間の服役期間にする、というのが弁護目標になります。
また、裁判官の言い渡す判決が「3年以下の懲役若しくは禁錮」よりも重い場合、執行猶予にすることができません。
言い渡される判決が3年を超える懲役若しくは禁錮の場合は決して執行猶予はつかない、ということです。
執行猶予の期間は、1年以上5年以下の範囲内で、裁判官が決定します。
懲役期間や執行猶予期間が長いほど刑罰は重いと言えます。
そのため、懲役3年執行猶予5年は、執行猶予付判決の中で最も重い、実刑にならないギリギリの判断だということになります。
※罰金についても執行猶予制度がありますが、この記事では刑務所行きが問題になる懲役刑や禁固刑について説明しています。
前科等の条件をクリアした場合、裁判官に「執行猶予にしてよい情状だ」と考えてもらえれば、執行猶予をつけてもらえます。
ここにいう「情状」とは、事件に関する様々の事情のことです。被告人にとって有利な事情も不利な事情も考慮されます。
情状において考慮すべき内容としては、まず、「何をしたか」と「犯行に至る経緯」(動機や計画性など)という事件自体が検討されます。
「何をしたか」というのは、傷害事件であれば、行なった暴力の内容や怪我の程度など、詐欺事件であれば被害金額、薬物犯罪であれば、所持したり売ったりした薬物の量です。
これらは、程度がひどかったり怪我が重かったりするほど、「悪い」事件だったということになります。
この部分が情状の中心部分になるため、犯行に至る経緯や被告人が何をしたかについては、被告人に有利な事情をしっかり説明する必要があります。
注意しなければならないのは、、捜査段階から、安易に捜査機関の言いなりになるのではなく、被疑者被告人に有利な事情をしっかりと伝える必要があることです。
例えば、同じようにナイフで被害者を5cmの深さまで刺したという事件も、「脅すつもりで浅く刺すだったのに刺す直前に被害者が転んでナイフに倒れ込んだため深く刺さってしまった」という場合と、「怒っていたため思いっきり強く刺した」という場合では、印象が異なります。
「脅すつもりで浅く刺すだったのに刺す直前に被害者が転んでナイフに倒れ込んだため深く刺さってしまった」という事情は、捜査機関にすんなり受け入れられるとは限りませんし、供述調書に書いてもらえるかわかりません。
しっかりとアピールし、必要に応じて上申書などを作成して証拠に残しておく必要があります。
また、被害弁償や被害者の気持ちも「何をしたか」に関連します。
被害弁償は、、詐欺事件であれば被害金額を返還しているのか、傷害事件であれば治療費・休業損害や慰謝料を支払っているのか、というものです。
起訴前に被害弁償が済んでいれば不起訴になることもよくあるほどに大切なことであり、被害弁償はとても重要な情状です。
被害者の気持ちも重要な情状です。
もし捜査が開始される前に被害者が加害者を許して被害申告をしなければ捜査がなされませんので、被害者の気持ちは事件にとって決定的に重要な要素を持ち得ます。
「犯行に至る経緯」については、計画性や常習性、被害者に落ち度があるか、などが考慮されます。
常習性や計画性があるほど「悪い」ということになりますし、被害者が挑発して起きた傷害事件のように被害者側の落ち度があれば悪さの程度が下がる、ということになります。
このような「何をしたか」と「犯行に至る経緯」といった事件自体の情状に加え、環境、反省や再犯予防といった被告人についての情状も考慮されます。
環境については、被告人を支えてくれる家族や職場があったり、犯罪組織との縁を切る行動をしていることをしているなどすれば、再犯を防ぎやすくなるという意味で情状が良くなります。
また、再犯予防の観点から、被告人が十分に反省(※)していたり、再犯予防のための仕組みを整えられている場合(※)、良い情状となります。
逆に、前科があることは「一度刑罰を受けて二度と犯罪をしないようにすべきだったのにまた犯罪をした」という意味で、悪い情状になります。
薬物事犯では「この薬物は何も悪くない」と力説する被告人を目にすることがありますが、これも反省していないと受け取られて情状が悪くなると考えられます。
これらの情状により、総合的に考慮して執行猶予にするかどうかが決まります。
殺人という重い結果であっても情状によっては執行猶予になることもありますし、小額の窃盗でも繰り返せば懲役の実刑になります。
※どのように反省すべきか・再犯予防体制の構築はどうすべきか、についてはこちらをご覧ください。
上原総合法律事務所は元検察官の弁護士集団で、被疑者・被告人やそのご家族からの依頼で弁護人をします。
上原総合法律事務所は、「罪を犯してしまったけれどもベストの対応してやり直したい」という方のお力になります。
犯した罪は無かったことにはなりません。しかし、その罪にどのように向き合うかは、その後の人生に大きく影響するといえます。
被害弁償し、反省を深め、もう二度と犯罪をしない環境を作ることで、結果として執行猶予を得ることが可能になります。
もう刑務所に行くしかないのかもしれない、というところから、不起訴になったり罰金になったりし、刑務所に行かずに再起した方もいます。
やむなく刑務所に行くとしても、反省や被害弁償を尽くして最善の状況で行くのと、諦めて漫然と刑務所に行くのでは、出所後が違います。
どんなに厳しい状況でも、人生を諦めないでください。
上原総合法律事務所では、刑事事件の経験豊富な元検事の弁護士が、直接事件を担当し、依頼者のためにしっかりと寄り添います。
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執行猶予はいつ終わるのか、執行猶予中の注意点などについてはこちらをご参照ください。
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弁護士 上原 幹男
第二東京弁護士会所属
この記事の監修者:弁護士 上原 幹男
司法修習後、検事任官(東京地方検察庁、奈良地方検察庁等)。検事退官後、都内法律事務所にて弁護士としての経験を経て、個人事務所を開設。 2021年に弁護士法人化し、現在、新宿事務所の他横浜・立川にも展開している。元検事(ヤメ検)の経験を活かした弁護活動をおこなっている。
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