危険運転致死傷罪とは?初犯でも実刑になる?元検事の弁護士が該当する行為・量刑・弁護活動を解説

交通事故
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弁護士 上原 幹男

弁護士 上原 幹男

第二東京弁護士会所属

この記事の監修者:弁護士 上原 幹男

司法修習後、検事任官(東京地方検察庁、奈良地方検察庁等)。検事退官後、都内法律事務所にて弁護士としての経験を経て、個人事務所を開設。 2021年に弁護士法人化し、現在、新宿事務所の他横浜・立川にも展開している。元検事(ヤメ検)の経験を活かした弁護活動をおこなっている。

交通事故の中で最も重い刑罰が定められているのが「危険運転致死傷罪」です。

飲酒運転や無謀な運転をするなどして人を死傷させた場合に適用される罪であり、社会的な関心の高い犯罪です。

「初犯でも実刑になるのか」「示談で刑を軽くできるのか」―危険運転致死傷罪に該当し得る行為をしてしまった方やそのご家族の方に向けて、この記事では危険運転致死傷罪が成立するための要件・どのような刑罰となるのかという量刑の傾向・不起訴や執行猶予、減刑のための弁護活動のポイント等を、元検事(ヤメ検)の弁護士が詳しく解説します。

第1 危険運転致死傷罪とは何か

1 概要

危険運転致死傷罪とは、常の運転から逸脱した危険な運転を行い、そのことによって人を死傷させた場合に成立する犯罪です。

自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(自動車運転処罰法、自動車運転死傷処罰法と略されることもあります。この記事では、以下「法」といいます。)によって定められています。

“故意に危険な運転をして人を死傷させた者”を“暴行により人を死傷させた者”に準じて処罰しようとするものであるなどとされています。

例えば、以下のような運転が典型です。

  • 飲酒運転
  • 著しいスピード違反
  • 赤信号を無視して交差点に突入
  • いわゆる「あおり運転」

このような行為によって人を死傷させた場合、通常の過失による交通事故(過失運転致死傷罪)に比して、著しく悪質であるため、「危険運転致死傷罪」としてより重い刑事責任が問われるのです。

2 危険運転致死傷罪に該当する行為

危険運転致死傷罪は、通常の運転から逸脱した危険な運転として、次の類型が定められています。
これらの類型に該当しなければ、危険運転致死傷罪は成立しません

  • アルコール・薬物の影響(法2条1号、3条1項):アルコールや薬物の影響により、①正常な運転が困難な状態での運転、又は、②走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で運転し、よって、正常な運転が困難な状態に陥ったこと
  • 病気の影響(法3条2項):政令所定の病気により、走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で運転し、よって、正常な運転が困難な状態に陥ったこと
  • 速度超過(=スピード違反、法2条2号):進行を制御することが困難な高速度での運転
  • 運転技能欠如(法2条3号):進行を制御する技能を有しないまま運転
  • 妨害運転・あおり運転(法2条4~6号):
    ① 人又は車の通行を妨害する目的で、重大な交通の危険を生じさせる速度のまま、走行中の自動車の直前に進入したり、通行中の人又は車に著しく接近したりすること
    ② (重大な交通の危険を生じさせる速度でなくとも、)車の通行を妨害する目的で、走行中の車の前方で停止すること、若しくは走行中の車に著しく接近することとなる方法での運転
    ③ 高速道路で、②の運転等を行い、走行中の自動車に停止又は徐行をさせること
  • 赤信号無視(法2条7号):赤信号等を殊更に無視して、重大な交通の危険を生じさせる速度で運転
  • 通行禁止道路の進行(法2条8号):道路標識等で通行が禁止されるなどしている道路を、重大な交通の危険を生じさせる速度で運転

これらの類型に該当する運転行為をして、人を死亡させた場合には「危険運転致死罪」人にけがを負わせた場合は「危険運転致傷罪」として処罰されることとなります。

第2 危険運転致死傷罪の法定刑

危険運転致死傷罪の法定刑は、以下のとおりです。

  • 危険運転致死罪:(法2条)1年以上20年以下の拘禁刑
            (法3条)15年以下の拘禁刑
  • 危険運転致傷罪:(法2条)15年以下の拘禁刑
            (法3条)12年以下の拘禁刑

過失運転致死傷罪の法定刑は、7年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金ですから、これと比べて、格段に重い刑罰が定められています

※過失運転致死傷罪についてはこちら(人身事故・死亡事故について元検事の弁護士が解説|上原総合法律事務所)の記事もご参照ください。

なお、無免許運転であった場合には刑罰が加重されます(法6条)。

第3 危険運転致死傷罪の量刑―初犯でも実刑?

1 危険運転致“死”罪の量刑

危険運転致死罪で起訴された場合、執行猶予が付されるケースは非常に少なく、初犯でも原則として実刑が科されることが多いでしょう。
なお、危険運転致死罪の事案は、裁判員裁判で審理されることになります。

2 危険運転“傷”罪の量刑

危険運転致傷罪で起訴された場合には、執行猶予が付されるケースも比較的多く見られます(令和6年版犯罪白書によると、令和5年中に第一審で言い渡された危険運転致傷罪の判決のうち、約9割が執行猶予付きであったとされています(ただし、無免許危険運転致傷罪では執行猶予となった判決は約7割でした))。

以下のような事情が認められる場合には、執行猶予が付される余地があると言えるでしょう。

  • 被害者のけがが比較的軽傷である
  • 被害者との間で示談が成立している
  • 被害者が処罰を望んでいない
  • 被告人が真摯に反省をしている

 

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第4 危険運転致死傷罪と過失運転致傷罪

当初は、危険運転致死傷罪で立件あるいは起訴されても、より刑罰が軽い過失運転致死傷罪で起訴されあるいは有罪判決を受けることがあります。

例えば、飲酒運転中に人身事故を引き起こした場合であっても、危険運転致死傷罪が成立するには「アルコールの影響により、正常な運転が困難な状態であった」との要件を満たす必要があります
「アルコールの影響により、正常な運転が困難な状態」とは、「アルコールの影響により道路交通の状況等に応じた運転操作を行うことが困難な心身の状態」をいうとされ、「事故の態様のほか、事故前の飲酒量及び酩酊状況、事故前の運転状況、事故後の言動、飲酒検知結果等を総合的に考慮」して、そのような状態であったかどうかを判断するとされています(最高裁平成23年10月31日決定)。

事案に即して判断されることにはなりますが、例えば、飲酒運転中に10秒前後もスマートフォンによそ見をして事故を起こしたような場合には、およそ正常な運転者であれば前方をそれほど長い時間見ることなく運転するということは恐ろしくてできないはずであり、「アルコールの影響により、正常な運転が困難な状態」であったと評価できることが多いと考えられる一方、飲酒運転中であっても、蛇行したり物損事故を起こしたりといったおかしな運転をしていなかった中で、僅か数秒程度よそ見をして追突事故を起こしてしまったような場合には、「アルコールの影響により、正常な運転が困難な状態」であったとは評価し難く、危険運転致傷罪は成立しない(過失運転致傷罪が成立するにとどまる)と判断され得ると考えられます。

※いわゆる「飲酒運転」についてはこちら(飲酒運転について元検事の弁護士が解説|上原総合法律事務所)の記事もご参照ください。

こうした「正常な運転が困難な状態」との要件は、アルコールのみならず、薬や病気の影響の類型でも問題となります。

その他にも、例えば、速度超過の類型では「進行を制御することが困難な高速度」との要件を満たす必要がありますし、また、運転技能欠如の類型では「進行を制御する技能を有しない」との要件を満たす必要があります。

こうした要件との関係で、前述のとおり、危険運転致死傷罪で立件あるいは起訴されても、より刑罰が軽い過失運転致死傷罪で起訴され、あるいは有罪判決を受けることがあるのです

※過失運転致死傷についてはこちら(人身事故・死亡事故について元検事の弁護士が解説|上原総合法律事務所)の記事もご参照ください。

第5 危険運転致死傷罪の弁護活動

危険運転致死傷罪の弁護活動においては、量刑の軽減等を目指して、被害者あるいはそのご遺族に宥恕して(許して)もらえるよう、示談交渉をすることが重要な活動となります

※示談交渉についてはこちら(示談FAQ 示談交渉を熟知する元検事の弁護士が解説|上原総合法律事務所)の記事もご参照ください。

※執行猶予についてはこちら(執行猶予とはなにか?元検事の弁護士が拘禁(懲役・禁固)で実刑となる場合との違いなどついて解説|上原総合法律事務所)の記事もご参照ください。

また、弁護人において、被疑者・被告人等から事故状況やその前後の状況等について詳しく伺ったり、起訴後であれば検察官から開示される証拠を精査するなどして、前述のような危険運転致死傷罪の要件を当該事案が満たすものであるかを検討し、仮にその点に疑念があれば、消極事情を主張・立証するなどして、検察官や裁判官等に(危険運転致死傷罪ではなく)過失運転致死傷罪であると評価させることを目指すことも考えられます。

もし危険運転致死傷罪に該当するかに疑義があるような事案では、捜査段階から適切な資料収集と提出、捜査機関への主張を行う必要があるほか、取調べにおいてどのように対応するかも重要です

また、そもそも危険運転致死傷罪の成立を争う余地があるのかの判断も難しい場合が多いと考えられますし、危険運転致死傷罪で捜査を受けることとなった場合、早い段階で、刑事事件に精通していることはもちろん、検察が判断に当たってどのような事情を重視するか、どのような考え方をするかなどについても熟知した弁護士に相談することをおすすめします

第6 まとめ

危険運転致死傷罪は交通犯罪の中で最も重く処罰される罪であり、特に、被害者を死に至らしめた場合には、初犯であっても原則として実刑になる可能性が高いといえます。

しかしながら、弁護士が迅速に活動することで、刑の軽減、場合によっては執行猶予の獲得もありうるほか、そもそも危険運転致死傷罪ではなく過失運転致死傷での処分ともなりえます。

危険運転致死傷罪に該当し得る交通事故を起こしてしまったら、まずは早急に刑事事件に詳しい弁護士へ相談し、最善の対応を検討することが大切です

 

上原総合法律事務所は、元検事8名を中心とする弁護士集団で、迅速にご相談に乗れる体制を整えています。

刑事事件に関するお悩みがある方は、ぜひ当事務所にご相談ください。

経験豊富な元検事の弁護士が、迅速かつ的確に対応いたします。

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