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会社のお金や物を取ってしまったという人は自分が何罪になるのか心配になると思います。
会社のお金や物を取ってしまった場合、横領罪の成立が検討されます。
「横領」と辞書を引くと、「他人・公共のものを不法に自分のものとすること」などと書かれています。
例えば、友人から借りた物を無断で売ったり、会社の経理担当者が会社のお金を着服したりするなどという行為が横領罪になります。
横領罪には
・単純横領罪
・業務上横領罪
・占有離脱物横領罪
の3つがあります。
以下では、横領罪の各類型、窃盗や背任との違い、横領をしてしまったらどうすれば良いか、などについて説明をしていきます。
・「自己の占有する他人の物を横領」すると単純横領罪(刑法252条)
・「業務上自己の占有する他人の物を横領」すると業務上横領罪(253条)
・「遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領」すると占有離脱物横領罪(254条)
単純横領罪と業務上横領罪は、「業務上」かどうかが違います。
単純横領罪と業務上横領罪は他人に物を占有するように任されている、という特徴があり、他人からの信頼を裏切って物を横領してしまうという裏切り行為を罰していると言えます。
これに対し、占有離脱物横領罪は、「遺失物、漂流物その他占有を離れた」物の横領なので、信頼関係はそもそもありません。
以下、具体例を示しながら説明します。
業務上横領罪は、「業務上、自分が占有している他人の物を横領した」場合に成立します。
ここにいう「業務」とは、「社会生活上の地位に基づいて、反復継続して行われる事務」のことを言います。
例えば、飲食店の店長がお店のレジのお金をとった時に、業務上横領罪となることがあります。
これは、雇われ店長という社会生活上の地位に基づいて反復継続して行う経理事務が、「業務」と言えるためです。
「占有」とは、ものに対する支配のことを意味します。
「占有」という概念は多義的で、窃盗罪における占有とは「物に対する事実上の支配」のことをいうとされています。
現金を手で持っている場合、手で持っている人が現金を占有していると考えられますし、小売店のお店の中の商品はお店の人が占有していると言えます。
他方、横領罪においては、事実上の支配だけでなく物に対する法律上の支配も含む、とされています。
そのため、横領罪については、例えば
・ 登記を通じた不動産の支配
・ 銀行預金に対する支配
などといった占有が認められます。
業務上横領罪は、所有者に信頼をされて物を預かった人がその信用を裏切って横領することを厳しく罰する刑罰です。
そのため、所有者に信頼をされて物を預かったと言う「委託信任関係」がある場合にのみ業務上横領罪が成立すると考えられています。
「横領」と付く罪名の中で、最も重い法定刑です。
業務として所有者に信頼をされて物を預かった人がその信頼を裏切って横領をしてしまう犯罪であり、単純横領罪に比べると法定刑も重くなっています。
単純横領罪は、「自分が占有している他人の物を横領した」場合に成立します。
例えば、他人から借りている本やDVDなどを借りた人に返さずに自分の物にしたり、勝手に売却してお金を自分の物にした場合などです。
業務上横領罪同様、委託信任関係がある場合に単純横領罪が成立します。
なお、後で返すつもりだった場合でも、横領罪は成立し得ます。
例えば、企業秘密である資料等を一時的に持ち出し、複写した後に元の場所に戻したような場合です。
企業の許可なく複写すること自体が所有者でなければしてはいけないこと(※)なので、横領罪が成立し得ます。
※専門用語で不法領得の意思(他人の物を自分のものとして、その経済的用法に従って利用・処分する意思のこと)があったと評価できる、などと言われます。
占有離脱物横領罪は、「遺失物,漂流物そのほか占有を離れた他人の物を横領した」場合に成立します。
例えば、道端に落ちていた財布や道端に無施錠で停められていた自転車を自分の物にしてしまった場合などです。
占有離脱物横領で気を付けなければならない点は、捜査機関の捜査の結果、「窃盗」と判断される可能性があるということです。
例えば、公園のベンチの上に置いてあった財布を自分の物にした場合、実際は遺失物ではなく、持ち主はベンチに置いていただけで、すぐ近くのトイレに行っていただけであるなど、持ち主の占有が離れていないと判断された場合は「窃盗」として刑事処罰をされることになります。
窃盗罪の法定刑は「10年以下の懲役又は50万円以下の罰金」と、占有離脱物横領よりも刑が重くなります。
窃盗も横領も、他人の物やお金を自分の物にしてしまうという点では同じですが、犯行直前に誰が物を占有していたのか,が違います。
「占有」とは、ものに対する事実上の支配のことを意味します。
ここでは、持っていた、くらいの意味に捉えてもらって結構です。
・ 窃盗罪は「他人が占有する物を自分の物にする」犯罪
・ 横領罪は「自己が占有する他人の物を自分の物にする」犯罪
例えば、他人の持っているバッグの中から財布をスる行為は窃盗罪になります。
犯行直前に被害者がバックの中で財布を持っていた(占有していた)ので、 横領ではなく窃盗になります。
これに対して、 ブランドものの財布を他人から預かっている人がその財布を持ち主に無断で売り払ってしまったら、横領罪の問題になります。
この例ですと、 持ち主に無断で財布を売り払ってしまうことが犯罪行為になりますが、この直前で被害者ではなく犯人が財布を持っていた(占有していた)ので、 窃盗ではなく横領になります。
※ 占有は誰にあるのか?
「ものに対する事実上の支配」を意味する占有という概念は、「ものを手で持っている」というようなシンプルな概念とは異なります。
例えば、小売店において店舗に陳列されている商品は誰も手に持っていなくても店舗の占有下にあると言えますし、 場合によってはお客さんがカートに商品を入れた後でもカートの中の商品の占有がまだお店にある場合もあり得ます。
また、会社の金庫に入っている現金について、会社に複数いる経理担当者のうちの金庫の鍵を持っている人の占有下にあるけれども、金庫の鍵を持っていない経理担当者の占有下にはないということもあり得ます。
このように、誰に占有があるのかということは、具体的な事情に応じて法的に評価されます。
そして、その法的な評価により、窃盗罪が成立するのか横領罪が成立するのかなどが変わってきます。
すでに述べたように、横領罪は「自己が占有する他人の物を自分の物にする」犯罪です。
これに対し、背任罪とは「他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加える」ことを言います(刑法第247条)。
横領罪も背任罪も、他人の信用に背く犯罪ですが、横領罪は「他人の物を自分の物にする」という行為であるのに対し、背任罪は「任務に背く行為」が犯罪となるという違いがあります。
背任罪の典型例とされるのは、不正融資です。
金融機関の融資担当役員が、内規に反して十分な担保を取らずに融資をした場合、 背任罪が成立し得ます。
この時、通常、融資担当役員がそのお金を占有していたとは言えないでしょうから、横領罪は成立しません。
※ 横領と背任の両方が成立しそうな場合
背任罪が成立する場合で、犯人が背任罪で問題となっている物を占有していたと言えるような場合、 横領罪も成立し得ます。
このような場合、より法定刑の重い横領罪のみが成立すると考えられています。
あの人はお金を着服した、と言う場合と、あの人はお金を横領した、と言う場合は何が違うのでしょうか。
「着服」を辞書で引くと、「人に知れないように盗んで(不正な手段を使って)、自分の物にすること。」などと書かれています。
日本語としての意味としては着服と横領は同じように見受けられます。
横領という言葉には、この日本語としての一般的な意味の他に、刑法に規定されている罪の名前としての意味があります。
すでに上で記載してきたように
・ 業務上横領罪
・ 単純横領罪
・ 占有離脱物横領罪
という3つの横領罪があります。
法律の要件を満たした場合には、何かを着服する行為が横領罪になるということになります。
横領してしまったら、多くの場合、警察に被害申告される前に会社や被害者から「横領していないか」と追及されます。
このタイミングで誠実に対応し、会社や被害者に許してもらうことができれば、警察沙汰を避けることができます。
実際に、上原総合法律事務所には警察沙汰になる前の事案のご相談いただき、和解で解決できている事案もあります。
和解をするためには、会社や被害者にご迷惑をかけていることをしっかり謝罪するとともに、横領被害を弁償する必要があります。
横領金額が多額ですぐに弁償できない場合には、会社や被害者に分割払いのお願いをしてお許しいただくこともあります。
会社や被害者に対していかに誠実に対応しても、許してもらえないこともあります。
このような場合、警察に自首することを検討するべきです。
横領事件の被害が警察に申告されると、多くの場合、警察は被疑者を逮捕します。
また、事件の内容によっては実刑(執行猶予がつかずに刑務所行きになること)の可能性があります。
自首することは必ず被疑者にとって有利に扱われますので、逮捕などの身柄拘束や実刑判決の可能性を下げることができます。
横領事件で逮捕されてしまった場合、横領をしたということを前提にすると、やるべきことは大きく分けて被害者対応と身柄対応の2つです。
まず被害者に対しては,誠実に謝罪と被害弁償をするべきです。
逮捕前からこれらのことをしていてもしてしていなくても、逮捕後に改めて誠実な謝罪と被害弁償の申し入れをするべきです。
身柄対応は、逮捕されてる方が釈放されるための活動です。
以下のことを裁判所に伝えていって身柄解放を目指します。
横領事件では被害者側に書類などの形で証拠が残っていることも少なくなく、しっかりとした対応をしていけば早期に釈放されることもありえます。
無実の場合、無実の罪を着せられることのないように対処する必要があります。
まずは、横領をした被害金額全額を返金することや被害品を返還することが大切です。
その上で、被害者や会社に迷惑をかけたことに対する慰謝料を支払ったり、謝罪や反省の意思を伝えたりしていくことで、被害者や会社から許してもらえる可能性があります。
横領した額が多額の場合、一括で返せないこともあります。このような場合、分割払いのお願いをします。
家族などの保証人をつけることで分割払いが本当に支払われる状況を作れると、分割払いを受け入れてもらえることがあります。
令和2年における横領に関して,以下のような統計が出ています(令和3年版犯罪白書より)。
公判請求され、令和2年に第一審が終結した事件475件のうち、
約54%が全部執行猶予判決
となっています。
横領をした期間や被害金額、被害弁償や示談ができているかなど、個別の事情で判断されますが、公判請求されたうちの半数以上は執行猶予判決となります。
被害金額が数百万円を超えてくると、実刑の可能性が高まってくると考えられます。
なお、業務上横領のように、業務上の立場を利用して犯罪を行う場合、その社会的立場や影響等も勘案して判決が言い渡されます。
例えば、郵便局員が1年10か月にわたり切手等を着服したという事件では、全額被害弁償を行い、前科もなく、謝罪や反省の態度がみられ、家族が今後の監督を誓約していましたが、実刑判決が言い渡されました。
上原総合法律事務所においては、横領の事案について、横領をした被疑者側・横領された被害者側の双方の事案を扱っております。
被害者側・ 加害者側双方の事案を取り扱ってる事で、どちらの立場の気持ちも分かり、これが弁護活動を円滑にしています。
参考になる事例をご紹介します。
【事案の概要】
ある飲食店の雇われ店長(依頼者、と言います。)が、店長として管理していた毎日のお店の売上から少しずつお金を抜き続け、合計数百万円になってしまいました。
異動により店長が変わり、新店長が犯行に気づきました。
そのため、会社が依頼者を問い詰め、解雇しました。
依頼者は、会社に「 被害弁償します」と申し出たところ、会社から「こちらから連絡するから待ってくれ」と言われたままになっていました。
そうしたところ、 突然警察がやってきて逮捕勾留されたため、ご家族が弁護士に相談しました。
【弁護活動】
弁護士は、まず依頼者と面会して状況を把握した後、会社に対して被害弁償の申し入れをするとともに、裁判所に対して「逮捕前から被害弁償の申し入れをしていたんだけれども、会社に待てと言われたから待っていた。
弁護士から会社に対して被害弁償を申し入れたのでこれから交渉する。被疑者は依頼者は横領の事実を否定するつもりもないし、事実を全て話している。」と伝えて勾留に対する準抗告をしました。
すると、準抗告が認容され、依頼者は釈放されました。
その後、依頼者には裁判が終わるまでの間働き続けてもらい、そのお金も使って会社に被害弁償をし、示談が成立し、実刑判決を避けることができました。
【事案のポイント】
横領事件に限らず、被害者側の「連絡するから待っていてくれ。」という言葉に従って待っていたら加害者にとって事態が悪化したというケースは少なくありません。
これは、当然のことですが、被害者は必ずしも加害者のために行動してるわけではないからです。
被害発覚直後などは、特に、被害者側は混乱しています。
横領事件では、被害発覚直後の段階では被害額がいくらなのかもわからないことも少なくありません。
被害者側に「連絡するから待っていてくれ。」と言われたとしても、加害者側は定期的にご迷惑にならない範囲で被害者側に連絡を取り続けることが必要です。
本件では、逮捕前には 弁護士が入っていなかったため、このような適切な対応が取れませんでした。
逮捕後は、弁護士が「連絡をお待ちしていた」という加害者側の事情を会社にお伝えするとともに、依頼者が誠実に対応したため、最終的にお許しいただくことができ、執行猶予も得ることができました。
【事案の概要】
飲食店を経営する会社で、店舗の従業員から「店長が横領をしていると思われる」という通報がありました。
そこで会社役員が調べてみたところ、店長が売上の記録を修正し、本来あった売り上げをなかったことにして会社に過少な売上を申告し、差額を横領することを繰り返していること分かり、弁護士に相談しました。
横領金額は1000万円近くにのぼっていました。
【弁護活動】
弁護士がお話を伺ったところ、会社としては、「お金を返してくれて会社を辞めてくれるのであれば警察沙汰にしなくて良い。ただし、誠意を見せないのであれば警察沙汰にして刑務所に入ってもらいたい」ということでした。
そこで、早期の債権回収と誠意ある対応を得ることを弁護目標を目標に設定し、加害者側と交渉しました。
加害者側は、当初、連絡が途絶えがちでしたが、「誠意ある対応がなければ警察沙汰になるリスクがある」ということを伝えてからは誠実な対応をするようになり、結局親族がお金を集めて被害金額の半分程度を一括で支払い、残額を一年かけて分割で支払うことで合意しました。
1年間かけてしっかりと被害弁償はなされ、警察沙汰にはなりませんでした。
【ポイント】
この事件は、加害者側に弁護士が連絡した当初に加害者側が不誠実な対応をしがちだったけれども、誠実な対応に変更することができた、というのがポイントです。
加害者側は加害者側で事件発覚直後混乱しているため、正常な判断ができないことがあります。
本件では、加害者に誠実な対応を取らせて思案を円満に解決する、というのも被害者側の弁護士の仕事といえる事案でした。
加害者側の弁護士の立場も多数経験しているため、加害者側の心理がよくわかり、加害者を諭して誠実な対応に導くことができたのが事案解決のようになったと思っています。
上原総合法律事務所は、元検事(いわゆる「ヤメ検」)の弁護士が多数在籍しており、業務上横領などの複雑な事案の調査や対応も得意としています。
それぞれの事案に即して
・ 自首
・ 示談交渉
・ 執行猶予の獲得
・ 減刑など
迅速かつ的確な弁護活動を行いますし、刑事事件に伴う困りごとへのアドバイスも行っています。
上原総合法律事務所では、迅速にご相談を受けられる体制を作っています。
社内で横領があるかもしれないと考えた経営陣の方や、落ちていた財布を警察に届けることなく自分のものにしてしまった、会社のお金を着服してしまったなど、横領に関する犯罪で警察に呼ばれたり、逮捕されたり、会社をクビになってしまうかもしれないなどの不安を抱えている方は、お気軽にご相談ください。
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※事案の性質等によってはご相談をお受けできない場合もございますので、是非一度お問い合わせください。
横領事件の解決事例(勾留阻止、示談成立させて執行猶予とした事例)
弁護士 上原 幹男
第二東京弁護士会所属
この記事の監修者:弁護士 上原 幹男
司法修習後、検事任官(東京地方検察庁、奈良地方検察庁等)。検事退官後、都内法律事務所にて弁護士としての経験を経て、個人事務所を開設。 2021年に弁護士法人化し、現在、新宿事務所の他横浜・立川にも展開している。元検事(ヤメ検)の経験を活かした弁護活動をおこなっている。
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