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株式会社ワールド航空サービスの雇用調整助成金不正受給疑惑報道・調査報告書についての概要と解説

1 報道の概要について

株式会社ワールド航空サービスが雇用調整助成金を不正受給していた疑いがあり、株式会社ワールド航空サービス特別調査委員会による令和3年11月18日付の中間報告書(以下「本件報告書」といいます。)が公表されたとの報道がありました。

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2 本件報告書について

同委員会は株式会社ワールド航空サービスが雇用調整助成金の受給にあたり

(i) 実際には従業員が勤務していたにもかかわらず、 休業したものとして雇用調整助成金の支給を申請し受給していた疑い
(ii) 実際には、 助成金の要件を満たさない教育訓練であったにもかかわらず、 要件を満たすものとして教育訓練に係る雇用調整助成金を申請し、 受給していた疑い

という2つの疑惑について調査するとともに、雇用調整助成金支給申請に関する関係者の認識についても調査しています。

そして、中間報告として

(i)については

事実に反する申請に基づき受給した雇用調整助成金が概ね1億7750万4000円に上るとする推認が不合理とまでは言い切れない。

(ii)については

ワールド航空が行った教育訓練が雇用調整助成金の目的に照らして不適切なものであったとは認めがたい。
雇用調整助成金支給申請に関する関係者の認識については法人としてのワールド航空に「故意」があり、雇用調整助成金支給要領において定義される「不正受給」と評価されるのかは現時点では明らかではない。

としています。

雇用調整助成金支給申請に関する関係者の認識について検討した上で、「法人としてのワールド航空に「故意」があり、雇用調整助成金支給要領において定義される「不正受給」と評価されるのかは現時点では明らかではない。」としています。

以下、これらについて、解説します。
なお、本記事は、雇用調整助成金について知りたい方に事例に基づいて解説することを目的とするものであり、株式会社ワールド航空サービスが不正受給をしたのかどうかについての判断を述べるものでも、本件報告書について評価しようとするものでもありません。

3「(i)実際には従業員が勤務していたにもかかわらず、 休業したものとして雇用調整助成金の支給を申請し受給していた疑い」について

上原総合法律事務所では、雇用調整助成金の不正受給をしてしまったかもしれない、というご相談を多数お受けしています。
雇用調整助成金の不正受給には複数の類型がありますが、その中で最もご相談が多いのが、この「実際には従業員が勤務していたにもかかわらず、休業したものとして雇用調整助成金の支給を申請し受給」したという類型です。

雇用調整助成金は、従業員を休業させた時に支払った休業手当を助成するものです。
そのため、従業員が働いていたにもかかわらずその時間を休業していたと記載された申請書を提出すれば、「事実に反する申請」として不正受給になり得ます。

このような申請は、雇用調整助成金が欲しいあまり事実に反するとわかっていながら嘘の記載をする場合だけでなく、誤って申請してしまうこともあります。
故意(わざと)なのか過失(わざとではない)なのかにより、「不正受給」としての制裁を受けるかどうかが変わってきます。

この点については下の「5 雇用調整助成金支給申請に関する関係者の認識について」で解説します。

4「(ii)実際には、 助成金の要件を満たさない教育訓練であったにもかかわらず、 要件を満たすものとして教育訓練に係る雇用調整助成金を申請し、受給していた疑い」について

雇用調整助成金は、従業員を休業させた場合だけでなく、教育訓練を受けさせた場合にも受給できます。
雇用関係助成金支給要領は、教育訓練を「職業に関する知識、技能又は技術を習得させ、又は向上させることを目的とする教育、訓練、講習等であって、所定労働日の所定労働時間内において実施されるもの」と定義した上で、どのような教育訓練であれば雇用調整助成金の申請が認められるのかを規定しています。
そして、雇用調整助成金を申請するためには、対象として認められる内容の教育訓練についての教育訓練協定書を会社内で作成した上で雇用調整助成金申請時に提出することとされています。
教育訓練についての雇用調整助成金が問題となる場合、主に、その教育訓練が本当に実施されていたのか、実施されていたとしてその教育訓練が雇用調整助成金の対象として認められるものだったのかどうか、が問題となります。

本件報告書においては

ワールド航空が雇用調整助成金の支給申請時に添付した教育訓練協定書では、教育訓練は「業務知識向上訓練及び製品の品質管理の専門知識の付与」を内容とするものとされ、「自宅等で行う学習形態として、オンラインを通してそれぞれがLIVE配信を視聴するもの」とされている。
ことを前提に

当委員会は、委員自らがワールド航空から提供された教育訓練に係る動画を39個選んで飛ばし飛ばしではあるが概略確認した。
その結果、いずれも、教育訓練協定書に添付されたカリキュラムの内容どおりに行われていると見受けられ、少なくとも当委員会は「業務知識向上訓練及び製品の品質管理の専門知識の付与」を内容とするものであることを確認した。ワールド航空が行った教育訓練が雇用調整助成金の目的に照らして不適切なものであったとは認めがたい。

とされています。

このように、疑いがかかったとしても、調査の結果として不適切ではないといえることも十分にあり得ます。
なお、この事案では、株式会社ワールド航空サービスが、実施した教育訓練を全て録画データで残していたため、「ワールド航空が行った教育訓練が雇用調整助成金の目的に照らして不適切なものであったとは認めがたい。」との調査結果に至ることができたと考えられます。
助成金の申請においては、申請の根拠となる証拠を残しておくことがとても大切であることがよくわかる事例だと考えます。

5 雇用調整助成金支給申請に関する関係者の認識について

雇用調整助成金を不正受給(※)していたというためには、「本当は受給要件を満たさないとわかりながら、会社が故意に(わざと)雇用調整助成金を申請した」といえることが必要です。
支給申請書に事実に反する記載があった場合であっても、その記載が誤ってなされた(わざとではない)場合には、不正受給にはならず、公表等の制裁も避けられることになります。

本件報告書では、代表取締役等に虚偽申請の認識があったかどうかについて、具体的事情を考慮に入れて検討した上で

法人としてのワールド航空に「故意」があり、雇用調整助成金支給要領において定義される「不正受給」と評価されるのかは現時点では明らかではない。

としています(なお、「「不正受給」と評価されるのかは現時点では明らかではない。」とされているのみで、不正受給ではないと断言されてはいません。)。

会社が大きくなればなるほど、経営者や管理職が現場の勤務実態を把握することは難しくなります。
また、勤怠管理者と雇用調整助成金申請担当者が異なることもよくあります。
そうすると、「現場の従業員が会社に報告せずに黙って出勤していた」、「現場の従業員が管理職に報告の上で出勤していたがそれが勤怠管理に反映されていなかった」、「雇用調整助成金申請担当者が誤って申請書を記載をした」、などの様々な理由で意図せずに誤った申請がされてしまうことがあります。

本件報告書においても、株式会社ワールド航空サービスの経営企画本部長が雇用調整助成金申請前の2020年3月の段階で各支店等に対し

休業計画を出したにもかかわらず、こちらへの連絡なく、出勤させた形跡(パソコンヘのログイン)がいくつかみられます。(上原総合において中略)出勤させることはもちろんのこと、会社パソコンの操作、個人パソコンやスマホからサイボーズ等へのアクセスは厳に慎むよう必ずご徹底ください。(上原総合において中略)」と通知し、休業管理の徹底について強く注意喚起していた。

と記載されており、少なくとも同社が休業管理の徹底をしようとしていたことがわかります。

上原総合法律事務所のクライアントの中にも、「誤って真実と異なる申請をしてしまった」という会社はたくさんあります。
このような場合、本件報告書のように、具体的事情に基づいて「故意と言わざるを得ないのか、誤ったと言えるのか」を詳細に調査し、説得的な情報に基づいて労働局に報告する必要があります。

※厳密には、不正受給は、雇用関係助成金支給要領において「偽りその他不正の行為(詐欺、脅迫、贈賄等刑法(明治 40 年法律第 45 号)各本条に触れる行為のほか、刑法上犯罪を構成するに至らない場合であっても、故意に支給申請書に虚偽の記載を行い又は偽りの証明を行うことが該当する。ただし、支給申請書に事実に反する記載があった場合であっても、当該記載誤りが故意によらないものと認められる場合は不正の行為には該当しない。)により、本来受けることのできない助成金の支給を受け、又は受けようとすること。」と定義されています。

6 雇用調整助成金について不安がある方はお気軽にご相談ください

上原総合法律事務所では、雇用調整助成金の不正受給をしてしまったという会社、不正受給かもしれないけれどもよくわからないという会社、不正受給に関与してしまったかもしれない社会保険労務士の方などからのご相談を多数お受けし、メディアにも多数取り上げられています。
不正受給かどうかの事実調査、報告書作成、労働局・捜査機関対応等について、独自のノウハウを構築しています。
雇用調整助成金について不安を持っている方は、お気軽にご相談ください。

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弁護士 上原 幹男

弁護士 上原 幹男

第二東京弁護士会所属

この記事の監修者:弁護士 上原 幹男

司法修習後、検事任官(東京地方検察庁、奈良地方検察庁等)。検事退官後、都内法律事務所にて弁護士としての経験を経て、個人事務所を開設。 2021年に弁護士法人化し、現在、新宿事務所の他横浜・立川にも展開している。元検事(ヤメ検)の経験を活かした弁護活動をおこなっている。

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