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個人の犯罪は、業務と関係しない限り、仕事に関係がありません。
ですが、生徒の身近にいる存在であることや生徒に模範を示して指導すべき立場にあることから、社会は、一般の方による犯罪よりも教師による犯罪をより厳しく非難するように思われます。
また、文部科学省の調査によると、令和元年に懲戒処分を受けた教職員は4677人(そのうちわいせつ行為等273人、体罰550人)となっており、前年の5978名よりは減ったとはいえ、多くの教職員が懲戒処分を受けています。
こうした中、懲戒免職の処分歴を検索できる「官報情報検索ツール」の情報期間が40年に延長され、今年にはわいせつ行為により懲戒免職となった教師が免許の再交付を申請した際の拒否権限を教育委員会に与える「教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律」が成立するなど、教師の不祥事に対する処分はより厳しくなっています。
そのため、懲戒免職を受けた場合、再び教師として復帰することは難しくなるどころか、再就職すら難しくなり、ご本人はもちろんのこと、ご家族の生活にも大きな影響を与えることになります。
ですが、教師といえども職場を離れれば一個人です。誤りも犯しますし、犯罪を犯してしまったために生活ができなくなってしまっては困ります。
犯罪を犯した教師やそのご家族からは、教師としての特殊性に基づいた似通った質問をいただきます。
この記事では、犯罪を犯してしまった教師やそのご家族からよくいただく質問について、ご説明します。
ほとんどの場合、刑事事件を起こしてしまった教師やそのご家族からは、学校に連絡が行くのか、という質問を受けます。
通常、警察から直ぐに学校に連絡が行くことはありません。
ただ、職務と関係のある犯罪(例えば職場の児童に対するわいせつ行為など)では連絡されると考えられますし、捜査上必要があれば、警察官は学校に連絡します。
捜査の必要性がある場合とは、個々の事案によりケースバイケースですが、例えば、「事件の日時には学校で勤務していたため犯罪をしていない」と弁解した場合には、アリバイの有無を明らかにするため、学校への連絡が必要になります。
報道がなされる可能性があるか、という質問もなされます。
どのような場合に実名報道がなされるのかについては、明確な基準は公表されていません。
一般に、警察は逮捕したときに公表すべき事案をメディアに伝える、検察は逮捕された被疑者が送致されてきた時や起訴されたときに、公表すべき事案をメディアに伝えている、と言われます。
教師の場合は、社会的関心が高く話題性があり、生徒の模範となるべき存在の教師による犯罪は重大性もあり、教師でない一般の方と比べて実名報道がなされる恐れが高いと言えます。
上原総合法律事務所では、残念ながら、報道を確実に防ぐ方法は無いと考えています。
ですが、報道されることによる不利益やその根拠を具体的に伝え、メディアに氏名等を伝えないように弁護士から警察官や検察官に申し入れをする事は、一定の意味があると考えられます。
警察官や検察官は自身の権限と判断で行動するため、弁護士の意見を必ず聞き入れるわけではありませんが、説得力のある意見には理解を示してくれます。
実際に、申し入れをした結果、報道されてもおかしくない事案が報道されなかった事案は多々存在します。
また、報道のタイミングは逮捕時、送検時、及び起訴時が多いため、逮捕、送検時に報道がされていない場合、弁護活動により起訴を避けることで、報道リスクを最小限に抑えることは可能です。
仮に実名報道された場合には、ネット記事についてインターネットの管理者に対し削除請求を行うことができます。【ネット上での誹謗中傷、名誉棄損等】
ただ、教師は、警察や検察がメディアに情報を流さなくとも、実名報道される可能性があります。
それは、文部科学省において、あらかじめ「懲戒処分に関する処分基準の作成及び懲戒処分の公表に関する取組状況一覧」で公表基準が定められているためです。
原則:原則として被処分者の氏名及び所属名(学校名)も公表
例外:わいせつ行為被害者が公表しないことを求めている時など
とされています。
懲戒免職である場合は、原則実名公表となるため、懲戒免職処分を避けるための活動が必要となります。
実際、東京都において、懲戒免職処分者は例外を除き実名公表され、停職以下の処分では実名公表が避けられています。
教師が仕事を失うのは、以下の2つの場合です。
それぞれについて、解説します。
欠格事由とは、教師になることができない条件のことです。
学校教育法第9条は、禁錮以上の刑に処せられた場合には「教員となることができない」と規定しています。
そのため、「禁錮以上の刑に処せられた」教師は、公立学校、私立学校の教師を問わず、教師として仕事をすることができなくなりますので失職します。
「禁錮以上の刑に処せられた場合」とは、裁判で死刑、懲役・禁錮の判決を受けたという意味です。執行猶予付も含まれますが、罰金刑は含まれません。
そして、これら判決を受けると、教師となる資格を失うと共に、教員免許も失うことになります(教師職員免許法5条1項3号)。
また、公立学校の教師であれば、地方公務員の資格も失います(地方公務員法16条1号)。
そのため、当然、他の学校でも教師を続けることはできなくなります。
更に、禁錮以上の刑に処せられることは、他の国家資格の欠格事由であることも多いです。そのことから、他の国家資格を取得した上で、再出発を図ることも難しくなります。
では、再び教壇に立つことも、他の国家資格で仕事をすることもできないのでしょうか。
この点、一定期間経過後は、教員免許の再取得や国家試験の取得を行い、教師に戻ることも他の国家資格者として仕事をすることも、法律上可能です。
例えば、執行猶予付きの禁錮・懲役の判決を受けた場合であれば、執行猶予期間経過後は、刑の言い渡しの効果が将来に向かって消滅します(刑法27条)。
経過後は「禁錮以上の刑に処せられた者」に該当しなくなるため、教員免許の再取得が可能となります。
ただ、通常、執行猶予は年単位で付されるため、その間、教員免許が失われる影響から生活に様々な支障が生じることは容易に予想されます。
そのため、まず第1に禁錮以上の刑を避けられるように対処することが重要です。
禁錮以上の刑を避けられ、罰金刑や不起訴処分であったとしても、懲戒処分を受けることになります。
公立学校と私立学校、それぞれについて解説します。
公務員である教師が罪を犯せば、信用失墜行為に該当します(地方公務員法33条)。
信用失墜行為とは、全体の奉仕者として、職務に関連した非行はもちろんのこと、職務に関係ない非行も含めて、公務員全体として不名誉な行為を意味します。
刑事事件になるような行為は、まさに不名誉な行為に該当します。
信用失墜行為自体には罰則規定はありませんが、このような行為は同時に「国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行があった場合」に該当しますので、懲戒処分を受けることとなります(地方公務員法29条1項3号)。
懲戒処分には、重い順に、免職、停職、減給、戒告の4種類があります。
教師の場合、都道府県教育委員会から懲戒処分を受けることになります。
懲戒処分の種類をどのように決めるかについては、文部科学省から「令和元年度公立学校教職員の人事行政状況調査結果等に係る留意事項について(通知)」が発出されています。
この通知では、他校を含む児童生徒へのわいせつ行為に対し、原則として懲戒免職、退職手当は不支給という厳しい対処方針が示されています。
そして、通知に基づき各教育委員会では具体的な「懲戒処分の基準」を定めています。
東京都の「教職員の主な非行に対する標準的な処分量定」に基づき説明します。
これによると、交通事故や占有離脱物横領(道端で拾った財布を拾った)などを除き、刑法犯を犯した場合、ほとんどで懲戒免職又は停職になることが示されています。
あくまでも目安とはいえ、何も対処しなければ、厳しい処分が下される可能性は高いと考えられます。
公立学校の教師が懲戒免職処分を受けた場合、当然仕事を失いますし、教員免許も失効することになります(教師職員免許法10条1項2号)。
つまり、他の学校においても教師として仕事をすることができなくなります。
次に、どのようにして懲戒処分が決定されるのでしょうか。
懲戒処分基準によれば、処分量定の決定に当たっては、
①態様、被害の大きさ及び司法の動向など社会的重大性の程度
②職責、過失の大きさ及び信用失墜の度合い
③勤務態度及び職員固有の事情のほか、非違行為後の対応等も含めて、総合的に判断する
と定められています。
これらに記載された懲戒処分で考慮される事項は、おおむね刑事処分が決める際にも考慮されるものです。
そのため、欠格事由の関係性から刑事処分が軽くなるように対処することが、懲戒免職を避ける上でも重要と言えます。
私立学校の場合はそれぞれの学校法人が定めた就業規則に基づき懲戒処分が決められることになります。
公立学校の教師の懲戒基準がそのまま適用されることはないと思われますが、参考にした上で処分が決められると考えられます。
また、私立学校の教師であっても、公立学校の教師において懲戒免職処分となる理由(例えば、性犯罪など)で解雇された場合には、教員免許が取り上げられることになります(教師職員免許法11条1項)。
私立学校の教師においても同様に、懲戒解雇を避けることが重要です。
公立学校、私立学校の教師を問わず、懲戒免職(解雇)の処分を受けると教員免許を失います。そのため、教師の仕事も失うことになります。
なお、懲戒免職による失効の場合、失効から3年後に再取得が可能となります(教師職員免許法5条1項4号、5号)。
ただ、3年後に法律上は再取得が可能となるものの、前に述べたとおり、公立学校の教師であれば「官報情報検索ツール」で懲戒免職処分歴の照会が行われることから、再度、教師として採用されることは難しいと考えられます。
一度懲戒免職処分を受けることになれば、再び教壇に戻ることは難しいため、懲戒処分に当たる行為を行ったのなら、懲戒免職とならないよう対処を講じる必要があります。
懲戒処分等の基準において免職の可能性がある非行の多くは、性的行為、セクシャル・ハラスメント、傷害、横領、詐欺、窃盗、傷害など、被害者が存在するものです。
そして、処分の量定を決めるにあたっては、司法の動向や非違行為等の対応などが考慮されることから、被害弁償を行うなどして示談を成立させることで、不起訴処分を獲得することで、厳しい懲戒処分を避けられる可能性があります。
そして、懲戒免職を避けられれば、懲戒処分時の実名公表も避けることができます。
上原総合法律事務所は元検事の弁護士が複数在籍しています。
それぞれの事案に即して、自首、示談交渉、執行猶予の獲得、減刑など迅速かつ的確な弁護活動を行いますし、刑事事件に伴う困りごとへのアドバイスも行っています。
教師に対する懲戒処分は一般の公務員よりも重い傾向があるため、早期に対処する必要があります。これまで、多くの教師や公務員の方からご相談を受けています。
上原総合法律事務所では、迅速にご相談をお受けできる体制を整えています。刑事事件でお困りの方、懲戒処分の検討でお困りの学校関係者の方は、お気軽にご相談ください。
■税込25,000円/1時間(電話・ZOOM・ご来所全て同額)
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弁護士 上原 幹男
第二東京弁護士会所属
この記事の監修者:弁護士 上原 幹男
司法修習後、検事任官(東京地方検察庁、奈良地方検察庁等)。検事退官後、都内法律事務所にて弁護士としての経験を経て、個人事務所を開設。 2021年に弁護士法人化し、現在、新宿事務所の他横浜・立川にも展開している。元検事(ヤメ検)の経験を活かした弁護活動をおこなっている。
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