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接客のある事業をしていると,従業員がお客様からの盗撮被害に遭うことがあります。
盗撮被害を受けたとき,会社が適切に対応できなければ従業員からの信頼を失ってしまいますし,会社自体にも損害が出る可能性があります。
この記事では,従業員が盗撮被害を受けたときに会社としてどう対処すべきかを説明します。
盗撮とは,撮影の対象の了承を得ずに、他人の姿等を撮影する行為のことを言います。
刑事事件になる盗撮行為としては女性の下着姿や裸の撮影が多いです。
他にも,顔や服を着た状態の後ろ姿の撮影も盗撮になりえますし,映画やライブなどの撮影も盗撮になる可能性があります。
このように, 盗撮にも色々な種類があり,行為態様によって法的規制が異なります。
例えば,
・公の場所でスカートの中など通常衣服で隠されている下着又は身体を盗撮した・・・
都道府県の迷惑防止条例
・家のお風呂に入っている裸の他人を盗撮した場合・・・
軽犯罪法
などで規制され,刑罰の対象となります。
また,刑罰の対象になる他,盗撮被害者は盗撮加害者に対して損害賠償請求などの形でお金の支払いを求めることができます。
以下では,会社の従業員に対して盗撮された場合の対策を,スカートの中などの隠されている部分を盗撮された場合と,それ以外の顔などを盗撮された場合に分けて説明します。
スカートの中など,人の通常衣服で隠されている下着又は身体を盗撮した場合には,まず,各都道府県の迷惑防止条例(※)に違反しないかを検討します。
迷惑防止条例は各都道府県で異なりますが,盗撮に関する規制は類似しています。参考までに,東京都の迷惑防止条例の盗撮について規定した部分は以下の通りです。
次のいずれかに掲げる場所又は乗物における人の通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機その他の機器を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置すること。
イ 住居、便所、浴場、更衣室その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所
ロ 公共の場所、公共の乗物、学校、事務所、タクシーその他不特定又は多数の者が利用し、又は出入りする場所又は乗物(イに該当するものを除く。)
(東京都迷惑防止条例第5条第1項第2号)
ここにいう「公共の場所」は,同条例第2条第1項に以下のように規定されています。
道路、公園、広場、駅、空港、ふ頭、興行場その他の公共の場所(乗車券等を公衆に発売する場所を含む。)
公共の場所で,人の通常衣服で隠されている下着又は身体を盗撮された場合,都道府県条例違反が成立し得ます。
また,犯人が盗撮をした場所が 室内であれば,犯人が盗撮目的で室内に侵入したことについて住居侵入罪や建造物侵入罪が成立し得ます。
※撮影できなくても条例違反になる可能性があるということです。
上記の条例は「次のいずれかに掲げる場所又は乗物における人の通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機その他の機器を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置すること」を規制しています。
下線を引いておいた「撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置すること」の部分があるため,人の通常衣服で隠されている部分にカメラを向けたり,人の通常衣服で隠されている部分を写そうとしてカメラを置いたりしただけでも条例違反になります。
そのため,盗撮犯人が「撮影できていない」 と言ったとしても,条例違反にならないわけではありません。
ただ,このような場合,撮影データという証拠が残らないため,犯人がカメラを向けたり設置したりしている様子を立証するための証拠が必要になります。
店内の防犯カメラ映像などに犯人の行動が記録されていればベストの証拠ですが,そのようなものがなくても, 犯人の行動を見ていた人の証言が証拠となります。
※迷惑防止条例の名前
迷惑防止条例の名前は,都道府県によって異なります。
例えば,東京都の条例は「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」ですし,神奈川県の条例は「神奈川県迷惑行為防止条例」です。
この記事では,各都道府県の正式名称にかかわらず,「〇〇県迷惑防止条例」と記載します。
盗撮行為を発見したら,まず, 逃げられないように犯人を捕まえる必要があります。
犯人に逃げられてしまうと,どこの誰かがわからなくなってしまい,警察に通報してもなかなか捕まえられない可能性があります。
また,盗撮したデータを消したり隠されたりして証拠がなくなってしまうかもしれませんし,最悪の場合,盗撮したデータをインターネットで拡散されてしまう可能性があります。
次に, 犯人を捕まえたら,警察に通報します。
警察に通報すれば,駆けつけた警察官が犯人の逃亡を防いでくれますし,証拠も確実に獲得し,最終的に盗撮データが消されたことまで確認してくれます。
また,犯人を捕まえた後に警察に通報せずに犯人と交渉をすると,開き直った犯人から「脅迫された」「恐喝された」などと言われて無用のトラブルになる可能性があります。
なお, 様々な事情から警察を呼ぶことに抵抗がある場合には,「脅迫された」「恐喝された」などと言われないよう,弁護士に相談しながら対処することを強くお勧めします。
このような現場での至急対応が済んだら,被害にあった従業員の心のケアをするとともに,犯人に対する損害賠償請求を検討する必要があります。
従業員のケアについては6に,損害賠償 ついてについては7に記載しています。
スカートの中などを盗撮した場合と違い,通常衣服で隠されている場所以外の部分を盗撮された場合には, 犯罪と言えるかどうかについて慎重な検討が必要になります。
店舗内などで盗撮された場合,盗撮目的で店舗等に入る行為が住居侵入罪や建造物侵入罪に当たり得ます。
また,服の上からお尻や胸を執拗に盗撮した場合には,迷惑防止条例で取り締まられることがあります。
迷惑防止条例には,人の通常衣服で隠されている場所の盗撮でなくても,「卑わいな行為」を規制しています。
例えば,東京都の場合,「公共の場所又は公共の乗物において、卑わいな言動をすること」が禁止されています。(東京都迷惑防止条例第5条第1項第3号)
そのため,通常衣服で隠されている場所以外の部分の盗撮が「卑わいな行為」と言える場合,条例違反で刑事事件とすることができます。
顔などを盗撮された場合,犯罪に該当するのであれば,まず犯人を捕まえて警察に通報し,その後に,被害従業員の精神のケアをするとともに犯人に対する損害賠償請求を検討する,という基本的な流れは3(2)と同様です。
これに対し,犯罪に該当しない場合,刑事事件として警察の手を借りることができないため,より慎重な対応が必要になります。
特に,盗撮行為が被害従業員に対する愛情や憎悪・逆恨みなどに基づく場合,被害従業員がさらに被害に遭う可能性が高くなります。
会社には従業員が安全に働けるよう配慮する義務があります(※)。
そのため,業務中に盗撮被害にあった従業員がさらに被害に遭う可能性がある場合,会社は,更なる被害を防ぐために適切な対応を講じる必要があります。
安全配慮義務違反の結果として従業員がさらに被害にあった場合,従業員は犯人だけでなく会社に対して損害賠償請求することが可能になります(※※)。
そのため,更なる被害を防ぐことは,会社にとって必須であると言えます。
安全配慮義務といった法的観点以外からも,会社は更なる被害を防ぐよう対策を講じるべきです。
事件があったときに守ってくれる会社なのかどうかは,従業員の会社に対する信頼に大きな影響を与えます。
この影響は,被害従業員本人だけでなく,会社の対応を見ている他の従業員にも及びます。
会社が従業員を守るための行動を取るかどうかは,会社が従業員のことを大切に思っているかどうかをはっきりと示します。
会社が従業員を守る姿勢を見せることができれば,盗撮被害という嫌な事件をきっかけに会社の結束を強くすることも可能です。
※安全配慮義務
以下のように,法律上,会社(使用者)は従業員(労働者)に対する安全配慮義務を負っています。
労働契約法第5条
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
労働安全衛生法第3条第1項
事業者は、単にこの法律で定める労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない。また、事業者は、国が実施する労働災害の防止に関する施策に協力するようにしなければならない。
※※会社が安全配慮義務を果たさなかったらどうなるか?
安全配慮義務違反の結果として従業員がさらに被害にあった場合,従業員は犯人だけでなく会社に対して損害賠償請求することが可能になります。
加害者が従業員だった場合,一般的には,当該従業員を雇用し続けることはできないと考えることでしょう。
従業員との雇用契約を解消する方法は
・懲戒解雇
・普通解雇
・自主退職
など複数存在します。
盗撮をした場合でも,会社側がなんらの制限もなく自由に処分を決めることができるわけではありません。
例えば,懲戒解雇を行おうとしても,そもそも就業規則に懲戒解雇ができる旨の規定がなければ懲戒解雇はできません。
懲戒解雇ができる場合でも,解雇予告が必要であるということもあり得ます。
どのような処分が可能か,また各処分においてどのようなメリットやデメリットがあるかという点は個別具体的な事案と会社の就業規則がどのように定められているかによるということになります。
解雇に際しては,手続を誤ると解雇自体の有効性を争われたり,未払い賃金の支払いを求めて訴訟を起こされるというリスクも存在しますので,慎重な対応が必要です。
盗撮被害にあった方の心理状況は様々です。
実害がないとして全く気にしていないように振る舞う方もいますし,とても深く傷つく方もいます。
本当は傷ついていることに自分で気がついていない方もいますし,気丈に振る舞っていても内心では深く傷ついている方もいるため,安易に事態を軽視することは控えるべきです。
周囲の方は,被害者を支える必要があります。
被害直後は心理的に不安定になっていることもあり得るため,理解して受け入れる必要がありますし,被害状況を思い出すことでさらに傷つくこともあるため,いたずらに被害状況を何度も聞くことは避けるべきです。
また,必要に応じ,医師の診察を受けたり,カウンセリングを受けたりすることが有用です。
どこに相談して良いかわからない被害者本人の方は,都道府県にある被害者支援センターなどにご相談することをお勧めします。
盗撮行為が発覚した場合,まず,被害者から犯人に対して損害賠償請求することができます。
被害者本人の請求できる損害は,慰謝料はもちろんの事として,犯行の結果として仕事を休まなければいけなくなった場合の休業損害などです。
また,会社から犯人に対して損害賠償を請求することが可能です。
会社からのご相談においては,特に以下のような事態に対する請求ができないかをご相談いただきます。
・事件の影響で従業員が辞めてしまった
・事件の影響でお店を開店できなかった
・事件の影響で来客が減った
会社から犯人に対しての損害賠償をする際には,犯行と会社に生じた損害の因果関係を立証が困難になることがあるため,事件直後から証拠を収集しておけるようにしておくことが大切です。
上原総合法律事務所では,従業員が盗撮被害にあった会社からのご相談をお受けしています。
上原総合法律事務所は,元検事5名が在籍(2022年9月現在)し,刑事事件に関する独自の専門ノウハウを有し,犯罪被害に遭った企業の問題を解決し続けています。
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