「やっていないのですが、示談した方が良いのでしょうか?」
刑事事件の弁護士をしていると、頻繁にいただくご相談です。
原則論から言えば、「やっていないのであれば示談する必要はない」です。
ですが、それだけでは必ずしも依頼者のためにならないことがあります。
この記事では、何が真に依頼者のためになるのか、という視点で考えたときに、「やっていなくても示談すべきかどうか」について、考え方や、示談の方法・注意点を説明します。
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例えば電車内の痴漢が疑われている事件では、痴漢だとして捕まった人が、「私は何もしていない。被害者に触れてもいないし、痴漢があったかどうかも知らない。」ということがあります。
また、不同意性交が疑われている事件では、「性交はした。だが、お互い合意の上でしたのであって、無理やりはしていないので、犯罪をしたつもりはない。」ということがあります。
さらには、詐欺が疑われている事件では、「話の内容に真実と違うことがあったが、わざとではない。そのため、故意の詐欺だと言われるのは納得いかない。」ということがあります。
いずれも、加害者とされている人は、自分は犯罪をしたつもりがないのに、捜査への対応を強いられていますし、間違って逮捕や起訴されてしまうのではないかと恐れています。
そして、被害者とされている人(または組織)がいる事案では、被害者とされている人と合意ができて被害届が取り下げられるなどすれば、事件が終わりになります。
このような場合に、「やっていないのに示談するかどうか」が問題になり得ます。
示談して(自称)被害者が、事件を許すことにすると、事件は終了になり、被疑者は事件から解放されます。
事件からの解放が、示談のメリットです。
「やっていないのだから当然の結果だ」とも思えます。
しかし、実際に捜査の対象となると、警察官や検察官に呼び出され、場合によっては長時間の厳しい取調べを受け、逮捕や起訴されるかもしれないという恐怖にさらされます。
他のことが手につかなくなるという方も少なくありません。
事件から解放されることはとても大きなことです。
また、捜査が継続し、万が一にも逮捕・起訴・有罪となった場合には、仕事を失ったり報道されたりするリスクがありますし、民事訴訟などで損害賠償請求をされて対応を余儀なくされるリスクもあります。
このような事件から生じる一切のリスクがなくなるという意味でも、事件から解放されることには大きな意味があります。
ほとんどの事案で、示談するためには示談金が必要になります。
やってもいない事件で示談金を支払わなければならないこととその納得いかない感情が、示談のデメリットです。
「示談したらやったことになりませんか?」「示談しようとするとやったのではないかと思われませんか?」という質問をいただくこともありますが、「やっていない」ことを前提とした示談交渉をすれば、やったことにはなりません。
なお、まれに「やっていない」のに「やった」ことを前提に示談をして事件を終了にすることもありますが、このような場合でも、前科にはなりません。
そのため、「やっていない」のに「やった」ことを前提に示談をしても実害はありません。
やっていないのに示談をするかどうかは、個別具体的な判断を必要としますし、弁護士によっても判断が異なり得ます。
上原総合法律事務所代表弁護士上原幹男の考え方は「依頼者の人生を全体として見たときに、示談をする方が有益かどうかで判断すべき」というものです。
例えば、依頼者が事件により精神的に追い詰められていて、このままでは精神を病んでしまいそうだという場合には、示談のデメリットよりも事件からの解放を優先し、示談をおすすめします。
他方、依頼者にとっては納得のいかない行為をしないことが大切であるという場合には、「やっていない」ことの証拠を収集し、捜査機関に伝え、示談せずに不起訴を目指します。
依頼者が、示談することも受け入れ得るし、示談しなくても耐えられる、という状態であれば、示談しなかったときに事件がどれだけ長引くと思われるか、などを考慮しながら対応を決めます。
依頼者の人生のために全体として最適な結果を目指すべきだと考えますので、やっていないけれども示談をする、という選択は、決して悪い選択ではないと考えます。
なお、示談せずに捜査対応をする場合、年単位で時間がかかることがあります。
このような場合、時間と共に環境や考えが変化するため、できるだけ時間の経過による変化を見越すとともに、ときには変化により対応を柔軟に変えることが大切だと考えます。
示談をする場合、必ず弁護士を介することをお勧めします。
「やっていない」事件の示談交渉は、「やった」事件よりも格段に難しくなります。
「やった」事件では謝罪することができますが、「やっていない」事件ではやっていないので謝罪することはできません。
また、「やっていない」と言えば、「やった」ことを前提としている自称被害者はよく思いません。
ご本人や友人などの代理人が交渉すると、トラブルが激化したり、脅迫したと言われたりする危険があります。
必ず経験豊富な弁護士を介して示談してください。
弁護士を選ぶ際には、できれば直接対面で相談し、信頼できそうな弁護士かどうかを判断することをお勧めします。
「やっていない」ことを前提に示談をする際には、特有の注意点があります。
まず、示談交渉において、代理人が、「やっていない」という依頼者の言い分を明示することです。
依頼者が「やっていない」という主張なのに、代理人が自称被害者に対して「やった」と認めるかのような話をしてしまうことがあります。
このような場合、後になって実は「やっていない」という主張だということがわかった際に、代理人への信頼が失われ、感情的な対立が激しくなり、示談成立が困難になります。
「やっていない」という主張なのであれば、代理人がその旨を伝えることが誠実です。
また、示談書の記載方法が問題になります。
「やっていない」ことを前提とする示談では、示談書に「やった」と書くことはできません。
かといって、「やっていない」と書けば、自称被害者側が示談に応じません。
ケースバイケースにはなりますが、自称被害者側も加害者とされた側も納得できる記載方法を工夫する必要があります。
さらには、事件の見通しに関する説明の仕方も慎重になる必要があります。
代理人が高飛車に「この事件は被害届を取り下げなくても不起訴になります」などと言って高圧的に示談しようとして、自称被害者が「代理人に示談を強要された」などと述べる事案があります。
実際に不起訴にするかどうかは検察官が決めるもので、代理人に決定できるものではありません。
「やっていない」ことを前提とする示談は、自称被害者側にも不本意なものなので、不必要に断定的な言い方や高圧的な言い方をしないように気をつける必要があります。
上原総合法律事務所で、元検察官の弁護士を中心とする集団です(2024年9月1日現在で元検察官弁護士8名)。
検察官としても、弁護士としても、刑事事件を専門的に取り扱い、さまざまな示談を取り扱ってきました。
依頼者のために最善の解決策を共に模索します。
お困りの方は、お気軽にご相談ください。
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