任意同行とはどのようなものなのか。拒否できるかや逮捕される可能性、任意同行を求められた場合の対応方法等について元検事の弁護士が解説します。
・任意同行の意義
任意同行とは、捜査機関の求めに応じ、警察官等と共に警察署や交番等に行くことをいいます。
警察や検察から呼び出されて警察署や検察庁へ任意で出頭する場合とは、警察官や検察職員と共に特定の場所へ行くかという観点から区別できます(検察庁から呼び出しを受けたという場合にはこちらの記事をご参照ください。)。
特定の犯罪の疑いが既にある場合に、警察官等が被疑者等の元まで赴いて警察署等までの同行を求めるという場合も任意同行の一種ではありますが、元々犯罪の疑いがあった場合でなく、職務質問等をきっかけに犯罪等の疑いが生じて任意同行を求めるという場合が大多数かと思われます。
・法的根拠
任意同行の法的根拠としては3つの類型が想定できます。
警察官職務執行法(以下「警職法」といいます。)2条1項、2項は
1 警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、 若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪につ いて、若しくは犯罪が行われようと していることについて知つていると認められる者を停 止させて質問することができる。
2 その場で前項の質問をすることが本人に対して不利であり、又は交通の妨害になると 認められる場合においては、質問するため、その者に附近の警察署、派出所又は駐在所に 同行することを求めることができる。
と定めており、犯罪への関与等が疑われ職務質問をする場合に、その場での質問が被質問者に不利になる場合等に任意同行を求めることができるとされています。
警察法2条は
警察は、個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当ることをもつてその責務とする。
と定めています。
これは直接的に任意同行について規定したものではありませんが、犯罪の予防や市民の保護等も警察の責務とするものであり、そのような目的で任意に同行を求めることも適法と解されています。
刑事訴訟法198条1項は
検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、被疑者の出頭を求め、これを取り調べることができる。但し、被疑者は、逮捕又は勾留されている場合を除いては、出頭を拒み、又は出頭後、何時でも退去することができる。
と定めています。
これは任意に行う取調べ一般についての規定であり(取調べの注意点についてはこちらの記事をご参照ください。)、被疑者の居場所まで警察官等が赴いてそのまま警察署等への出頭を求める場合は任意同行の一種といえます。
以上のように任意同行の根拠はいくつかありえますが、実際にはこれらの根拠のいくつもが同時にあてはまる場合や、職務質問を続けるなどする中で犯罪の疑いが強くなっていき、別の根拠も当てはまるようになる場合などもあり、明確に区別することは困難な場合が多いのではないかと思われます。
ひとつの目安としては、質問等を受けるに当たって黙秘権を告げられるかという点が挙げられます。
刑事訴訟法上、捜査として任意の取調べを行うに当たっては黙秘権の告知が義務付けられており(黙秘権についての詳細はこちらの記事をご参照ください。)、黙秘権を告知された場合、被疑者として取調べを受けるという状況(ないしそれに準ずる状況)に至っているものと考えてよいでしょう。
・職務質問等に引続き任意同行を求めるパターン
犯罪が行われた、あるいは行われようとしているといった場合には警察官は警職法に基づき職務質問(職務質問についてはこちらの記事をご参照ください。)を行うことができるほか、多くの場合にはその場で職務質問を続けることが被質問者にとっても不利益となりうるところ、そのまま交番や警察署への任意同行を求めることもできる場合が多いと考えられます。
この場合においては、警察署等においてより詳細な質問や所持品検査等を行うことや、その間に逮捕状や捜索差押許可状等の発布を得ることも目的としていることが多いと思われます。
特に薬物の使用や所持が疑われる場合には、職務質問からの任意同行、所持品検査や採尿といった流れで犯罪が発覚することが多く見受けられますし、近年ではいわゆる受け子や出し子といった立場の犯人も職務質問や任意同行をきっかけとして犯行が発覚するケースが見受けられます。
警職法2条2項を根拠とする場合、犯罪を犯したという疑いなどが要件となりますが、1で説明したとおり警察法2条も任意同行の根拠となりえるところ、実際は警察官は非常に多くの場面で任意同行を求めることができるといってよいでしょう。
また、職務質問や任意同行の説得等を続ける中で疑いが強まっていき、刑事訴訟法を根拠とする犯罪捜査のための任意同行という性質を帯びてくるという状況も考えられます。
・もともと犯罪の疑いがあって任意同行を求めるパターン
職務質問等をきかっけとして疑いが生じるなどした場合だけでなく、既に犯罪の疑いがある場合に、被疑者等の居場所に捜査機関が赴き、そのまま警察署や検察庁への任意同行を求めるというケースもあります。
こちらについては、基本的には刑事訴訟法198条1項を根拠に出頭を求めているものと理解することができるかと思われます。
電話や手紙等での呼び出しが功を奏さず、とはいえすぐに逮捕等をするほどではないという状況で取調べ等を行うために任意同行をする場合も考えられますが、実は既に逮捕状が用意されており、警察署等に到着した段階で、あるいは取調べ等での反応等を踏まえて逮捕状を執行するというケースもあります。
いずれにせよ、既に具体的な疑いがあるというパターンで、わざわざ捜査機関が出向いてきて任意同行を求められたという場合には、その日そのままかはさておき、いずれ逮捕される可能性もありうると考えたほうがよいかと思われます。
結論から述べると、任意同行はあくまで「任意」に警察署等への同行を求めるものであり、拒否することができるものです。
とはいえ、拒否すると告げれば捜査機関がすぐにあきらめて解放されるわけでもありません。
・職務質問等をきっかけに任意同行を求められた場合
まず職務質問等を受けて任意同行を求められたという場合、そもそも職務質問を受ける時点で警職法上の不審事由があると判断されていると考えられますし、さらに進んで任意同行まで求められているのであれば、疑いが強く抱かれるようになってきているものと考えられます。
この段階に至れば、応援の警察官が現場に現れる、パトカーも出動するなどの状況もありえますし、疑いが強くなればなるほど、引き留めたり同行を促したりする行為としても、より強度なものが許されるようになっていきます(他方で、警察官の行為が行き過ぎたものであれば、令状なしで「実質的逮捕」に至ったものとして違法と判断される場合もあります。)。
このような状況で強引に拒否しようとすれば、疑いをさらに強めたり、場合によっては公務執行妨害という犯罪を犯してしまうということにもなりかねませんし、逮捕状の発布を受けて逮捕しなければという判断に繋がっていく可能性もあります。
・もともと犯罪の疑いがあった場合
もともと犯罪の疑いがあったことを前提に、任意の取調べ等を行うために任意同行を求められているという場合も拒否は可能です。
この場合、単に取調べをしたいというだけであれば、合理的な理由があって日を改めてにしてほしいなどと誠実に申し出れば、これに応じてもらえる場合もあるかと思われます。
他方で、そもそも逮捕する予定で、場所を移してから逮捕状を執行したいという場合や、逮捕状を用意はしていて、被疑者の対応次第ではすぐに逮捕しようなどと考えている場合などについては、拒否すればすぐに逮捕状が執行され身柄を拘束されてしまうという可能性もあります。
また、当日には逮捕状までは用意していない場合であっても、任意の呼び出しに応じず、さらに被疑者のところに行って任意同行を求めてもこれに応じないといった状況となれば、もはや身柄を拘束するしかないと判断され、後日逮捕されるというおそれも否定できません。
・録音等の可否
任意同行に応じる場合、録音や録画を行うことは特段禁じられているわけではありません。
捜査機関側も録音等している場合もありますが、被疑者側の録音等していたことにより、違法な職務質問、任意同行等の状況が記録され、それが後に証拠となる場合もあります。
他方で、より「やっかいな」相手であると認識され、対応する警察官が増えたり、強硬に拒否する態度の現れと受け止められ、疑いが強まったり、逮捕状の請求や執行につながるといったデメリットもありうるところであり、違法であると感じられるような状況があればまだしも、特段の理由もなくいたずらに録画等したり、SNSへのアップなどをちらつかせたりするなどはおすすめはできません。
なお、警察署や検察庁においては施設内の録画等が禁じられているのが一般的であり、これらの施設に入ってしまえば、施設管理の観点から録画等が禁じられることとなります。
これは取調べ等に応じる場合も同様です。
・弁護士の付き添いの可否
任意同行に応じるに際し、弁護士も同行することも特段禁じられてはいません。
もちろん呼べる弁護士がいて、当該弁護士がすぐに即応できればではありますが、弁護士が職務質問等の現場に来て行動を共にするという例もあります。
ただ、警察署や検察庁に入り、取調べが始まってしまえば弁護士がその場に立ち会えるわけではないですし、逮捕状が執行されてしまえば、弁護士であっても即座にこれに抗うことは困難です。
・任意同行後、退出することはできるのか
任意同行はあくまで「任意」であり、いったん警察署等までの同行に応じたとしても、いつでも切り上げて退出することができます。
また、これは任意の取調べに至っている場合も同様であり、刑事訴訟法198条1項但書も「但し、被疑者は、逮捕又は勾留されている場合を除いては、出頭を拒み、又は出頭後、何時でも退去することができる。」と定めています。
ですので、例えば取調べ等の途中で退出して帰宅したり、一旦退出して弁護士と相談するといったことも可能です。
他方で、例えば薬物の使用や所持を疑っている場合などについては、捜査機関としてはその場で尿や薬物を押収することが不可欠になってきますので、なんとかその場に留めようと強硬に説得等をしてくるでしょう。
この場面でも、例えば部屋の入口を人垣で完全にふさぐなどすれば、実質的逮捕に至っており違法と判断されることもあろうかと思われますが、他方で被疑者側から強く接触等すれば公務執行妨害となる場合もあり、注意が必要です。
任意同行については、そのきっかけや疑われている内容等により様々なパターンがありえますし、あくまで任意で拒否できるはずのものであるものの、実際には拒否することが困難な場合もありえます。
また、任意同行後の取調べは済んだという場合であっても、後にさらに取調べを受けたり、場合によっては逮捕されるという可能性もあります。
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弁護士 上原 幹男
第二東京弁護士会所属
この記事の監修者:弁護士 上原 幹男
司法修習後、検事任官(東京地方検察庁、奈良地方検察庁等)。検事退官後、都内法律事務所にて弁護士としての経験を経て、個人事務所を開設。 2021年に弁護士法人化し、現在、新宿事務所の他横浜・立川にも展開している。元検事(ヤメ検)の経験を活かした弁護活動をおこなっている。
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