
弁護士 上原 幹男
第二東京弁護士会所属
この記事の監修者:弁護士 上原 幹男
司法修習後、検事任官(東京地方検察庁、奈良地方検察庁等)。検事退官後、都内法律事務所にて弁護士としての経験を経て、個人事務所を開設。 2021年に弁護士法人化し、現在、新宿事務所の他横浜・立川にも展開している。元検事(ヤメ検)の経験を活かした弁護活動をおこなっている。
目次
1. 身元引受人とは?制度の概要
身元引受人とは、刑事事件において、被疑者や被告人の釈放を求める際に、被疑者等が逃亡しないことや証拠隠滅をしないことを監督するなどと裁判所や検察に対して約束してしてくれる人物のことを指します。
身元引受人は、被疑者が逃亡や証拠隠滅をしないよう監督し、必要に応じて裁判所等へ報告する役割を担います。
具体的には、以下のような行動が求められます。
- 被疑者・被告人が指定された場所に居住し、適切な生活を送るよう監督する
- 逃亡や再犯を防ぐために助言や指導を行う
- 裁判所や警察から出頭を求められた際に、確実に出頭させる
以上のとおり身元引受人は、法的な制度ではなく、あくまで裁判所や検察が被疑者等の釈放を求められた際に、釈放を認めてもよいかの一つの判断基準となるものであり、釈放が認められやすくなるよう、被疑者側が能動的に準備するものです。
2. 身元引受人になれる人、向いている人
身元引受人となるにあたり、法律上特に制限があるわけではなく、ある意味で誰でもなることができます。
しかし、裁判所や検察が被疑者等の釈放をしても問題ないと考えられる人物でなければ身元引受人を準備する意味はありませんから、身元引受人として適切な立場の人を準備する必要があります。
たとえば同居の親族(特に親)は、しっかりと子を監督してくれるはずであることから、一般的に身元引受人として適切であると考えられます。
当たり前の話ですが、同じ暴力団組織に所属しているいわゆる兄貴分といった立場の人物は被疑者等の逃走や証拠隠滅を手助けする可能性も否定できず、適切とは言い難いでしょう。
他方で、例え両親であっても、わが子かわいさに逃亡させたり証拠隠滅に加担しそうと評価されるような人物であれば身柄引受人として適切とはいえないでしょう。
以下に身元引受人に向いている傾向の人をまとめたので参考にしてください。
- 安定した生活基盤があること: 住居があり、経済的に安定していることが求められる
- 被疑者・被告人と信頼関係があること: 身元引受人が被疑者の行動を監督し、社会復帰を支援できる関係性が必要
- 裁判所や警察に信用される人物であること: 犯罪歴がなく、身元がしっかりしていることが条件となる
(1) 家族
両親や配偶者、兄弟姉妹などが身元引受人として選ばれることが最も多く、裁判所等からも信用されやすいと考えられます。
(2) 友人
長年の付き合いがあり、被疑者・被告人を適切に監督できる関係性が認められれば、友人でも身元引受人になれます。
ただし、いくら付き合いが長くても、実際に顔を合わせる機会が少ないと考えられれば、監督が十分にできないのではないかという懸念も生じかねません。
(3) 上司
職場での信頼関係がある場合、上司が身元引受人となることも可能です。
特に社会的な信用がある人物であれば、裁判所等に対する説得力が増します。
例えば、プライベートの部分は両親が、ひとたび家を出て仕事をしている間は上司がそれぞれ監督するとなれば、監督能力が期待できるといえるでしょう。
(4) 彼氏・彼女
恋人関係でも、安定した収入や住居があり、信頼関係があると判断されれば身元引受人になれる場合があります。
ただし、家族や上司と比べると信用度が低く、認められにくいケースもあります。
同居しているかや付き合いの長さ、当人の立場などによって身元引受人としての信用度は様々です。
3. もし身元引受人を頼まれたら。引き受けるメリット・デメリットについて
メリットについて
一番のメリットは、身元引受人がいることで被疑者等が釈放される可能性が上がることです。
もちろん、身元引受人がいるという事情のみで釈放されるわけではないですし、身元引受人がいても釈放されないこともあります。
しかし、少なくとも身元引受人がいること自体が釈放についてマイナスな影響を与えることはありません。
さらに、仮に正式な裁判になった場合には、被告人側の証人として、被告人が再犯に及ばないことなどを証言し、「実際に身元引受人として被告人の監督を開始してから被告人の生活が改善した。」などと証言をすることができれば、裁判においても、執行猶予などより良い結果を得ることができる可能性が高くなります。
- 被疑者の早期釈放につながる
→ 勾留を免れ、被疑者本人の精神的・生活的負担が軽減されます。 - 釈放後の対応が円滑化
→ 裁判での証言や実際の生活支援などの支援体制を担保しやすくなる。 - 弁護士と協力しやすい
→ 法的手続きや日程調整で、弁護士と一体的にサポート可能。 - 家族・被疑者との信頼強化
→ 危機時に力になった経験が、家族関係や信頼感の維持に寄与。
デメリットについて
一方、デメリットとしては、身元引受人となる方自身の精神的な負担等がありうるところです。
仮に「私が監督してちゃんと出頭させます!」と約束したのに、被疑者等が釈放後逃げてしまい、裁判所にも捜査機関にも出頭しなくなった場合、非常に気まずい思いをすることでしょう。
しかし、身元引受人がいたのに被疑者が逃亡したという理由で身元引受人自身が裁判所から罰せられたり、捜査機関等に対して何らかの責任を負うというものではありません。
もちろん十分な監督ができなかったという評価にはなり、以後、身元引受人として適格を欠くとされてしまうことはあるでしょう。
- 精神的負担: 被疑者・被告人の生活を監督する責任が生じ、ストレスを感じることがある
- 道義的責任: 被疑者・被告人が逃亡した場合、身元引受人として裁判所から事情を問われる可能性がある
4. 身元引受人が必要となる時
身元引受人が必要となるタイミングは以下のとおりです。
(1) 逮捕後に釈放される時
逮捕後、身元引受人がいることで、被疑者が逃亡や証拠隠滅をする可能性は乏しいと判断され、釈放される可能性が高まります。
(2) 勾留を阻止したい時
勾留を避けるためには、身元引受人が被疑者の監督を約束することが有効です。
裁判所が「身元引受人がいれば逃亡の恐れがない」と判断すれば、勾留が回避される場合があります。
(3) 保釈を求める時
裁判所が保釈を認める際には、身元引受人の存在が重要視されます。
監督責任を果たし、被告人の出頭を確保できる人物であることが求められます。
(4) 執行猶予をつけたい時
裁判において身元引受人がいることで、裁判所が「更生の見込みがある」と判断し、執行猶予がつく可能性が高まります。
被告人の社会復帰を支援する姿勢を示すことが重要です。
5. 身元引受人を引き受ける際の判断ポイント
1.被疑者との関係性の強さ
以上で解説してきたとおり、身元引受人となることに大きなデメリットはないといってよいでしょう。
それでも、精神的な負担が生じたり、場合によっては裁判に証人として出頭することになりうる以上、自分が身元引受人として責任を全うすることができるほどの関係性があり、少なくとも自分は被疑者等を信用できるという場合に身元引受人を引き受けましょう。
2.自分の時間的余裕・ライフスタイル
被疑者等本人が釈放後に、捜査機関や裁判所からの連絡に応じない場合、身元引受人に直接連絡がくる可能性もあります。
平日日中に裁判所や捜査機関から携帯電話に電話が来ること自体を避けたい方は、身元引受人となることを避けたほうが無難かもしれません。
3.代替支援者の有無(親族・第三者で補えるか)
身元引受人として最も適切なのは、同居の親族です。
このことから、自分の立場よりも身元引受人としてふさわしい人物がいる場合、その方に身元引受人になってもらったほうが、被疑者等にとってもよい可能性があります。
※「頼まれたから」と安易に承諾せず、自身との関係性・生活との調整が可能か、総合的に判断することが重要です。
6. よくあるQ&A
Q1. 友人でも身元引受人になれる?
A:はい、法律上制限はありません。 ただし、身元引受人としての信用度はあまり高くないと評価される場合が多いかもしれません。
Q2. 身元引受人は保釈保証金を支払わなければいけない?
A:そんなことはありません。 身元引受人はあくまで釈放された場合の監督等を約束するものです。
Q3. 勾留中も被疑者と連絡取れる?
A:身元引受人か否かは関係なく、原則は警察署等で面会が可能ですが、警察官の立会や時間制限はありますし、接見禁止がついていれば面会等もできません。
Q4. 身元引受人を引き受けた後に辞退できる?
A:基本的には後に撤回することは困難です。辞退したい場合は、早期に捜査機関・弁護士へ相談すべきでしょう。
Q5. 身元引受人になった後被疑者が逃げたら罰則はある?
A:被疑者等が逃亡したというだけでは身柄引受人に罰則はありません。ただ、逃亡を助けたり、証拠の隠滅等に加担した場合などは罪に問われることもあります。
7.お気軽にご相談ください
身元引受人は、刑事事件において被疑者・被告人の社会復帰を支援する重要な役割を担います。
しかし、精神的・経済的負担があることも理解し、慎重に判断する必要があります。
適切な対応を行うことで、身元引受人としての責務を果たすことができます。
上原総合法律事務所は、元検事 8名を中心とする弁護士集団で、迅速にご相談に乗れる体制を整えています。
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