
弁護士 上原 幹男
第二東京弁護士会所属
この記事の監修者:弁護士 上原 幹男
司法修習後、検事任官(東京地方検察庁、奈良地方検察庁等)。検事退官後、都内法律事務所にて弁護士としての経験を経て、個人事務所を開設。 2021年に弁護士法人化し、現在、新宿事務所の他横浜・立川にも展開している。元検事(ヤメ検)の経験を活かした弁護活動をおこなっている。
目次
第1 公判前整理手続とは
1 公判前整理手続の目的と意義
公判前整理手続とは、刑事裁判を円滑かつ迅速に行うため、公判が始まる前に争点や証拠を整理するための制度で、刑事訴訟法316条の2以下に詳しく規定されています。
公判前整理手続では、裁判所が、検察官と弁護人の主張を聴き、真に争いがある点(争点)がどこにあるのかを絞り込むこととなります。
公判前整理手続では、広く弁護人に証拠が開示されるようになりますので、弁護人が早期に主張を明らかにしやすくなるというメリットがあります。
2 公判前整理手続が適用されるケース
裁判員裁判は、必ず公判前整理手続に付されることとなります。
裁判員裁判の対象となるのは「死刑又は無期の拘禁刑に当たる罪にかかる事件」又は「法定合議事件のうち故意の犯罪行為によって被害者を死亡させた事件」です(裁判員の参加する刑事裁判に関する法律2条1項)。
裁判員裁判の場合、裁判員となる方々に過度な負担をかけることのないよう、効率的に審理を進める必要がありますので、必ず公判前整理手続に付されることとなっているのです。
そのほか、裁判所が「充実した公判の審理を継続的、計画的かつ迅速に行うため必要があると認めるとき」には、広く公判前整理手続に付すことができます。
条文は以下のとおりです。
第316条の2 裁判所は、充実した公判の審理を継続的、計画的かつ迅速に行うため必要があると認めるときは、検察官、被告人若しくは弁護人の請求により又は職権で、第一回公判期日前に、決定で、事件の争点及び証拠を整理するための公判準備として、事件を公判前整理手続に付することができる。
(以下省略)
裁判員制度以外で公判前整理手続に付されるのは、事実関係に争いがある事件(いわゆる否認事件)が一般的です。
公判前整理手続では、検察官請求証拠のほかにも、一定の要件で検察官に証拠開示の義務が生じますので、検察官の手持ち証拠をできるだけ開示させ、それに基づき反論したいと考える弁護人が公判前整理手続に付すよう求めるケースが多いです。
第2 公判前整理手続の流れ
1 手続きの全体的な流れ
公判前整理手続は、概ね、以下のような流れで進みます。
①裁判所が事件を公判前整理手続に付する旨決定する
②検察官が「証明予定事実記載書面」の提出、証拠調べ請求、請求証拠の開示を行う
③弁護人が「証拠一覧表交付請求」、「類型証拠開示請求」を行う
④弁護人が「予定主張記載書面」の提出、証拠意見提出、証拠調べ請求、請求証拠の開示を行う
⑤弁護人が「主張関連証拠開示請求」を行う
裁判所は、必要に応じて②~⑤のプロセスを繰り返させるなどして、争点の整理を行うと共に、証拠の採否等を決定していきます。
そして、裁判所は、争点整理及び証拠の整理が終了した段階で、公判前整理手続を終了します。
終了する際、裁判所は、検察官及び弁護人との間で、事件の争点及び証拠の整理の結果を確認しなければならないとされています。
これから、②~⑤の手続について詳しく説明します。
2 検察官による「証明予定事実記載書面」の提出、証拠調べ請求、請求証拠の開示
公判前整理手続に付された後、まず、検察官において、公判期日において証拠により証明しようとする事実を記載した書面(「証明予定事実記載書面」といいます。)を裁判所と弁護人に提出します。
それと共に、証明予定事実を立証するための証拠の取調べを裁判所に請求し、その証拠を弁護人に開示します。
これにより、弁護人は、検察官の主張と請求証拠の内容を把握し、自らの主張を検討することが可能となります。
3 弁護人による「証拠一覧表交付請求」、「類型証拠開示請求」
検察官が「証明予定事実記載書面」を提出した後、弁護人は、公判における主張を検討するための基礎となる資料を入手しようと動くことになります。
資料を入手するためにまず行われるのが「証拠一覧表交付請求」、「類型証拠開示請求」です。
「証拠一覧表」とは、検察官が保管する証拠の一覧表のことであり、弁護人は、検察官に対し、この証拠一覧表の交付を請求できます。
弁護人は、検察官より証拠一覧表の交付を受けることにより「検察官がどのような証拠を持っているか」を知ることができ、証拠開示を求める上での手がかりとすることができるのです。
「類型証拠開示請求」とは、未だ開示されていない検察官手持ち証拠のうち、一定の類型に該当するもの(「類型証拠」といいます。)の開示を求めることを言います。
類型証拠については、刑事訴訟法316条の15に規定されており、
1号 証拠物
2号 裁判所又は裁判官の検証の結果を記載した書面
3号 実況見分調書等
4号 鑑定書等
5号 証人予定者の供述調書等
などが挙げられています。
類型証拠開示請求を受けた検察官は、
①刑事訴訟法316条の15に規定する一定の類型に該当する証拠であること
②特定の検察官請求証拠の証明力を判断するために重要であると認められること
③証拠の重要性の程度その他の被告人の防御の準備のために当該開示をすることの必要性の程度並びに当該開示によって生じるおそれのある弊害の内容及び程度を考慮し、開示が相当と認められること
の要件を満たすとき、これらの証拠を開示しなければならないとされています。
弁護人は、証拠一覧表や開示された類型証拠を基礎にして、公判における主張を検討していくことになります。
4 弁護人による「予定主張記載書面」提出、証拠意見提出、証拠調べ請求、請求証拠の開示
弁護人は、開示された証拠等を見て主張を検討した上、公判期日において証拠により証明しようとする事実その他の公判期日においてすることを予定している事実上及び法律上の主張を記載した書面(「予定主張記載書面」といいます。)を提出します。
また、検察官請求証拠に対する意見を裁判所に提出するとともに、証拠の取調べを裁判所に請求し、その請求した証拠を検察官に開示します。
弁護人が請求した証拠について、検察官はそれに対する意見を明らかにしなければならないとされています。
5 弁護人による「主張関連証拠開示請求」
弁護人は、予定主張記載書面を提出して主張を明らかにした後、主張関連証拠開示請求を行います。
主張関連証拠開示請求とは、開示されていない検察官の手持ち証拠のうち、弁護側の主張と関連する証拠の開示を求めることを言います。
刑事訴訟法316条の20に規定されており、弁護人は、
①請求対象の証拠を識別するに足りる事項
②弁護側の主張と請求対象の証拠との関連性その他の被告人の防御の準備のために当該開示が必要である理由
を明らかにして請求しなければならないとされています。
主張関連証拠開示請求を受けた検察官は、
①弁護側の主張との関連性の程度
②被告人の防御準備のために当該開示をすることの必要性の程度
③当該開示によって生じるおそれのある弊害の内容及び程度
から、開示が相当と認められる場合は、弁護人にその証拠を開示しなければならないとされています。
第3 証拠制限
公判前整理手続に付された事件については、証拠制限に注意しなければなりません。
証拠制限については、刑事訴訟法316条の20に規定されており「やむを得ない事由」によって公判前整理手続で請求することができなかったものを除き、公判前整理手続終了後には証拠調べを請求できないとされています。
公判前整理手続の終了後にも無制限に新たに証拠を請求できるとすると、公判前整理手続で争点整理及び証拠整理を実施した意味がなくなってしまうため、このような制限がされているのです。
ただし、「やむを得ない事由」がある場合には、証拠調べ請求はできますので、公判前整理手続終了後に発生した証拠(例えば、公判前整理手続終了後に示談をした場合における示談書等)については、公判前整理手続終了後にも請求することができます。
第4 公判前整理手続のメリット
公判前整理手続に付することによって、検察官による証拠開示の範囲が広がりますので、弁護人が的確な主張がしやすくなるというメリットがあります。
また、争点の整理が行われますので、検察官の主張を事前に詳細に知ることができるというのもメリットと言えます。
公判前整理手続に付された場合、公判自体の回数は減ることとなりますので、裁判期間を短縮できる可能性があることもメリットと言えるでしょう。
ただ、何年にもわたって公判前整理手続が行われているような事件も存在しており、公判前整理手続の長期化が社会問題となっていることには注意が必要です。
第5 お気軽にご相談ください
公判前整理手続は、裁判員裁判の導入に伴い、裁判を迅速かつ適正に進めるために導入された制度です。
今後も、ますます活用されていくこととなるでしょう。。
刑事裁判は、被告人やその家族、関係者にとっては不安の大きいものですが、弁護士と連携し、適切な対応を取ることで良い結果へとつなげることができます。
上原総合法律事務所は、元検事 8名を中心とする弁護士集団で、迅速にご相談に乗れる体制を整えています。
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