
弁護士 上原 幹男
第二東京弁護士会所属
この記事の監修者:弁護士 上原 幹男
司法修習後、検事任官(東京地方検察庁、奈良地方検察庁等)。検事退官後、都内法律事務所にて弁護士としての経験を経て、個人事務所を開設。 2021年に弁護士法人化し、現在、新宿事務所の他横浜・立川にも展開している。元検事(ヤメ検)の経験を活かした弁護活動をおこなっている。
目次
第1 書類送検とは
書類送検とは、警察等が捜査を終えた後、被疑者(いわゆる容疑者)の身柄を拘束せずに事件の書類と証拠を検察へ送致する手続のことをいいます。
「書類送検」とは法律上の用語ではなく、いわゆるマスコミ用語ですが、ここでは報道等で馴染みのある「書類送検」という言葉で説明していきます。
書類送検の場合、逮捕による身柄拘束を伴い、被疑者の身柄ごと検察に送致する「身柄送検」(なお、「身柄送検」も正式な法律上の用語ではありません。)とは異なり、被疑者は、身体の自由を制限されることなく、いわゆる在宅事件として捜査を受けることになります。
このため、被疑者は、自宅で生活したり学校や職場に通ったりと通常どおりの生活を送ることができます。
一般に、比較的軽微な犯罪や証拠隠滅・逃亡のおそれが低い場合に書類送検が行われることが多いです。
第2 書類送検されたら前科がつく?
書類送検されたからといって、必ず起訴されるわけではありません。
事件を担当する検察官が、受領した書類や証拠を精査したり直接被疑者や関係者から話を聞いたりして、起訴するか不起訴処分とするかを決めます。
その結果、不起訴となれば、刑事罰を受けることなく事件が終結します。
前科とは、起訴されて有罪判決が確定した場合に記録されるものです。したがって、たとえ書類送検されたとしても、検察官が不起訴処分にすれば前科はつきません。
なお、いわゆる略式手続で罰金となった場合にも前科はつきますので、注意が必要です。
不起訴処分の一般的な種類としては、以下のものがあります。
・嫌疑なし:犯罪を行った証拠がないため不起訴になったもの。
・嫌疑不十分:犯罪を行った疑いはあるが、証拠が不十分なため不起訴になったもの。
・起訴猶予:証拠上犯罪は認められるが、情状を考慮して起訴しなかったもの。
※前科、略式手続や起訴猶予等については下記の記事もご参照ください。
・前科について
なお、書類送検された事実は「前歴」として警察のデータベースに記録される可能性があります。
「前歴」とは、犯罪の疑いをかけられたことがあるという記録です。
一般に公表されるものではありませんが、警察の内部データとしては残ります。
第3 書類送検後の逮捕もありえる?
一般に書類送検後に逮捕されるケースは多くありません。
ただし、以下のような状況では逮捕されることがありえます。
1 新たな証拠が発見された場合
書類送検後に重大な証拠が見つかり、事件の重大性が増した場合。
2 被疑者に逃亡や罪証隠滅の高度なおそれが生じた場合
書類送検後、被疑者に逃亡や証拠隠滅の高度なおそれがあると判断された場合に、逮捕等の必要があると判断される可能性があります。取調べの呼出しを無視して応じないなどしていると、このような状況に陥る恐れも否定できません。
第4 書類送検後の流れ
検察に書類送検された後の一般的な流れは、以下のようになります。
1 検察による事件の精査
事件を担当する検察官が、警察から送られてきた書類や証拠をもとに事件を精査します。この時、手元の書類や証拠に不足があると判断したら、警察に捜査の補充を依頼することもあります。また、検察官が必要だと判断したら、被害者や目撃者等事件の関係者から追加で話を聞き、調書を作成することもあります。
2 被疑者の呼び出し
事件を担当する検察官が必要だと判断した場合、被疑者を呼び出して直接取調べを行います。
この際、検察官が供述調書を作成することもあります。
検察官は、事件を起訴した場合、刑事裁判において被告人(*起訴された被疑者のことを被告人といいます)が有罪であることを立証する責任を負います。
仮に被疑者が警察の捜査段階で事件を認めていたとしても、起訴後、刑事裁判になった段階で否認に転じる可能性はゼロではありません。
そのような場合でも、検察官は有罪を立証する責任を負うので、たとえ被疑者が警察で事件を認めていたとしても、自ら被疑者を取り調べて、その供述が信用できるか否か、問題になりうるとことはないかを検討することが一般的です。
※検察庁から呼び出された場合や取調べ、供述調書の注意点等については下記の記事もご参照ください。
・検察庁からの呼出しについて
・取調べについて
・供述調書について
3 起訴または不起訴の決定
前述したような捜査を経て、検察官は、最終的に被疑者を起訴するか不起訴にするかを判断します。
起訴された後、不起訴になった後の具体的な流れは後述のとおりです。
略式手続
裁判官が書類を見て判断し、罰金刑となる。裁判所で裁判を受ける必要はないが、この場合にも前科がつく。
起訴
刑事裁判へ進む。有罪判決が出れば罰金刑や懲役刑等の刑事罰を受けることとなり前科がつく。
不起訴
刑事罰を受けることなく事件が終了する。この場合、前科はつかない。
※刑事裁判や略式手続については下記の記事もご参照ください。
・刑事裁判について
・略式手続について
第5 書類送検に対する弁護活動
事件が検察に書類送検された場合、弁護士がどのような弁護活動を行うかが、不起訴処分を獲得し刑事罰・前科を回避するため非常に重要となります。
1 不起訴処分とするよう意見を出す
検察官に対し、被疑者に反省の姿勢や更生の意思があること、親族のサポート等があり再犯に及ぶ可能性も低いことなどを示し、不起訴処分を求める意見を出します。
2 示談交渉のサポート
被害者がいる場合、示談を成立させることで不起訴処分を獲得し、刑事罰を回避することができる可能性が高まります。刑事事件で示談する方法については下記で詳細に説明しておりますので、併せてご覧ください。
3 取調べ対応のアドバイス
検察の取調べにおいて不利な供述をしたり、被疑者の経験や記憶と異なる内容の供述調書を作成されたりすることがないよう、取調べを受ける前に対応についてアドバイスをします。
取調べに対する具体的な対応については下記で詳細に説明しておりますので、併せてご覧ください。
4 裁判を見据えた準備
刑事裁判に進む可能性が相応に高いと見込まれる場合には、裁判を見据えた弁護方針を策定し、しっかりと準備を尽くします。
このように、弁護士のサポートを受けることで、不起訴処分を得る可能性が高まり、刑事罰を回避できる可能性が増します。
第6 お気軽にご相談ください
書類送検とは、身柄を拘束されずに事件の書類と証拠が検察に送られる手続です。
前述したとおり、書類送検されたからといって必ずしも前科がつくわけではなく、不起訴処分となることも十分にありえます。
また、書類送検後に新たな証拠が発見されたり逃亡のおそれがあると判断されたりした場合、逮捕に至ることもあります。そのため、書類送検後も慎重に行動することが重要です。
弁護士のサポートを受けながら示談交渉を進めるなど、適切な弁護活動を行うことで不起訴処分を獲得し、刑事罰・前科を回避できる可能性が高まります。また、弁護士に相談しながら慎重に行動することにより、書類送検後に逮捕されるような事態を避けられる可能性も高まります。したがって、書類送検された場合は、すみやかに弁護士に相談して適切な対応を取ることが望ましいでしょう。
上原総合法律事務所は,元検事8名(令和6年10月31日現在)を中心とする弁護士集団で,迅速にご相談にのれる体制を整えています。
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