
弁護士 上原 幹男
第二東京弁護士会所属
この記事の監修者:弁護士 上原 幹男
司法修習後、検事任官(東京地方検察庁、奈良地方検察庁等)。検事退官後、都内法律事務所にて弁護士としての経験を経て、個人事務所を開設。 2021年に弁護士法人化し、現在、新宿事務所の他横浜・立川にも展開している。元検事(ヤメ検)の経験を活かした弁護活動をおこなっている。
刑事事件の捜査の過程で作成される供述調書とは何か、その法的な意義や作成の流れ、作成される場合の注意点等について、元検事(ヤメ検)の弁護士が詳しく解説します。
目次
第1 供述調書とは
供述調書とは、捜査機関(警察や検察)が、被疑者や被害者、参考人等から聞いた供述内容を記録し、刑事裁判において証拠として用いるための文書です。
刑事訴訟法198条3項で「被疑者の供述は、これを調書に録取することができる」と定められており、同項に基づいて、被疑者の取調べの際に作成されることが最も多いかと思われます。
被疑者や参考人等から話を聞いた取調官が、供述内容のうち必要と判断した部分を文章にまとめ、調書の内容を作成します。
その後、供述者が、できあがった調書の内容を確認して署名・押印(手の指で押印することもあります。)することで完成し、正式な供述調書となります。
第2 供述調書は重要な証拠?
供述調書は、検察が起訴・不起訴の判断をする場面や裁判所が有罪か無罪か、どのような刑罰を課すべきかを判断する場面等、刑事事件全般において非常に重要な証拠となります。
特に刑事裁判においては、被疑者や参考人等がどのような供述をしたのかが大きなポイントとなるため、供述調書は厳密に取り扱われています。
このように供述調書が重要視される理由は、刑事事件において有罪を立証する証拠の一部として検察側が提出することが多いためです。
特に、犯行を自白している内容を含む被疑者供述調書は有力な証拠として扱われ、刑事裁判の判決に影響を与えることが少なくありません。
刑事裁判では、供述調書が証拠として採用される場合とされない場合とがあります。
例えば、違法な取調べによって作成された供述調書は証拠として採用されません。
供述調書が証拠として採用され判決に影響を及ぼすためには、「任意性」「信用性」「必要性」が認められる必要があります。
刑事裁判を受ける人が法廷で調書の内容を否認した場合、その供述調書の信用性が争われることになります。
他方で、供述調書の内容や作成過程に問題があったとしても、証拠請求された供述調書について、証拠とすることに弁護人や被告人が「同意」してしまえば、その供述調書は有効な証拠として扱われてしまいます。
供述調書をはじめ、証拠に同意するかどうかは、その内容や、裁判にどのように影響していくかを見極め、弁護人と詳しく相談して慎重に検討 しなければなりません。
第3 供述調書の作成手順
前記のとおり、供述調書は、警察や検察といった捜査機関が取調べの中で作成するものです。
ここでは、具体的な作成手順について解説します。
⑴書かれる内容は?
供述調書には、一般に以下のような内容が記載されます。
被疑者や参考人等が供述した内容が全て記載されるわけではなく、取調官が必要だと判断した内容が文章の形で記載されることとなり、その文章は取調官が作成します。
このため、取調官によって供述内容のニュアンスが変えられてしまうこともあります。この点については、後記本稿「第4(1) ニュアンスにより印象が悪くなる」において詳述します。
- 事件の詳細(日時、場所、関係者、経緯等)
- 被疑者や参考人が供述した内容
- 供述の経緯や状況、供述した時の様子等
- 供述者の署名・捺印
なお、上記は事件等の内容に関する供述調書を作成する場合の内容ですが、中には被疑者の生立ちや来歴、家族関係や趣味嗜好等を網羅的に記載するいわゆる「身上調書」と呼ばれるものも存在します。
また、身柄が拘束された直後には、事件の内容についての被疑者の弁解を録取した「弁解録取書」が作成されますが、これも供述調書の一種です。
⑵どのようなタイミングで作成される?
前記のとおり、供述調書は、被疑者や証人の取調べの際に作成されます。
事件の初期段階から作成されることもあれば、話をするだけで終わり、後日の追加の取調べの内容も踏まえて作成されることもありますし、一日の取調べの中で何通も作成する場合もあります。
また、捜査の進展によって被疑者や参考人等の供述内容が変化した場合などには、同じような内容について複数回にわたって作成されることもあります。
⑶否認や黙秘したら作成されない?
供述調書は、前記のとおり捜査機関(警察や検察)が、被疑者や参考人等から聞いた供述内容を記録するものです。
このため、被疑者が被疑事実を否認した場合にはそのとおりの供述調書が作成されます(とはいえ、否認を続けている段階では中々供述調書を作成しないこともあります。供述調書を作成するか否かは基本的に捜査機関の判断であり、作成してほしいと被疑者側から求めても必ず作成されるものではありません。)。
取調官が不合理な弁解だと感じた時などには、取調官のどのような質問に対し被疑者がどのように回答したのかをそのまま問答形式で供述調書に残すこともあります。
一方、被疑者が黙秘権を行使して供述を拒否した場合は、供述調書が作成されないこともあります。
ただし、前記否認の場合と同様、取調官のどのような質問に対して被疑者が黙秘したのかを問答形式で供述調書に残したり、ただ「被疑者は黙秘した」といった内容の調書を作成したりすることもあります。
例えばですが、下記のような内容の供述調書が作成されることもあります。
-
問 あなたは〇月〇日、〇〇さんの家に行ったか
答 行っていません。
-
問 〇月〇日に限らず、〇〇さんの家に行ったことはあるか。
答 一度も行ったことはありません。
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問 〇〇さんの家のタンスからあなたの指紋が検出されたが、心当たりはあるか。
答 黙して語らず。
第4 署名・押印する前に注意すること
前記のとおり、供述調書は、供述者が署名・押印をすることで供述調書としての効力を持ちます。
このため、内容を十分に確認しないまま供述調書に署名・押印してしまうと、後々不利な証拠として扱われる可能性があります。
特に、自白を内容とする被疑者の供述調書や、検察官の取調べにおいて作成された供述調書は、後の裁判で供述調書と違う内容の話をしても、供述調書が証拠として採用され、その内容に基づいて事実関係が認定されてしまう可能性が小さくなく、特に注意が必要です。
ここでは、供述調書に署名・押印する前に気をつけるべきポイントについて解説します。
なお、取調べにおける注意点については下記の記事や動画もご参照ください。
元検事の弁護士が取調べにどのように対応すべきか解説|上原総合法律事務所
⑴ニュアンスにより印象が悪くなる
供述調書の文言は、取調官が作成するため、微妙にニュアンスが変えられることがあります。
例えば、自分の発言の意図とは異なる表現が使われたり、書かれている内容そのものは間違っていなくとも前後の一部が省略されていたりすると、供述の印象が大きく変わることもあります。
場合によっては、自分の発言よりも印象が悪くなることもありえます。
このため、供述調書の細かい表現まで確認し、納得できる形に修正してもらうことが重要です。
⑵黙秘権を行使する
憲法や刑事訴訟法で、被疑者には黙秘権が認められています。
つまり、被疑者には、取調べにおいて何も話さない権利があるので、無理に供述調書の作成に応じる必要はありません。
特に、不利な内容が含まれる供述調書が作成される可能性がある場合は、弁護士と相談した上で対応することが大切です。
⑶署名押印拒否権がある
供述調書への署名・押印は強制ではありません。
このため、供述調書に記載された内容に納得できない場合は、署名・押印を拒否する権利があります。
署名・押印を拒否した場合、捜査機関はその事実を記録しますが、後の裁判で供述内容の信用性を争う材料にもなりえます。
⑷納得できない時は訂正申立て
供述調書の内容に納得がいかない場合、訂正を申し立てることができます。
たとえば、事実と異なる点や誤解を生む表現がある場合、取調官に対して修正を求めることができます。
修正が認められない場合には、前記のとおり供述調書への署名・押印を拒否することも検討すべきです。

第5 元検事の弁護士によるアドバイス
供述調書の作成に関する元検事の弁護士によるアドバイスとして、以下の各ポイントが挙げられます。
1.取調べでは冷静に対応すること
取調べでは、感情的にならず冷静に対応することが重要です。
焦って発言してしまうと、その言葉尻を捕らえられ、供述調書に不利な内容が記載されてしまう可能性があります。
2.不用意な発言を避けること
取調官は供述内容を詳細に記録します。
軽い気持ちで話した内容でも後の裁判で重要な証拠として扱われる可能性があるので、不用意な発言や曖昧な記憶に基づく発言は避け、自分自身間違いないと思える内容についてのみ話すべきです。
また、取調官の質問に端的に答えることも有効な方法です。
例えば、「はい」「いいえ」だけで回答できる問いに対しては、そのいずれかだけを答えるなど、必要最小限度の回答に留めることが無難かもしれません。
3.弁護士の助言を受けること
供述調書を作成する前に、弁護士に相談し適切な助言を受けることが重要です。
特に、有罪になれば重い刑事処罰が科されうる重大事件では、供述調書が有罪・無罪を左右する要素になる場合もあり、供述調書を作成する前の段階から弁護士と相談をし、適切な対応を取るべきです。
4.供述調書の内容を慎重に確認すること
前記のとおり、調書に署名・押印する前に、必ず内容をよく確認し、不適切な記述がないかチェックすることが大切です。
事実の相違だけでなくニュアンスが異なるところがないかについても慎重に確認することが重要です。
5.黙秘権や署名押印拒否権を適切に行使すること
前記のとおり、被疑者には黙秘権や署名押印拒否権が認められています。
このため、無理に供述する必要はなく、供述調書の内容に納得できない場合や修正を求めても取調官が応じない場合等には署名・押印を拒否する選択肢もあります。
以上の各ポイントを踏まえ、供述調書の作成に対し適切に対応することが、刑事事件の結果に大きな影響を与えます。
第6 お気軽にご相談ください
上原総合法律事務所は、元検事 8名を中心とする弁護士集団で、迅速にご相談に乗れる体制を整えています。
多くの所属弁護士が検事として供述調書を作成してきた経験を有するので、捜査機関の目線から供述調書の作成に対するアドバイスをすることができます。
刑事事件に関するお悩みがある方は、ぜひ当事務所にご相談ください。経験豊富な元検事の弁護士が、迅速かつ的確に対応いたします。
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