弁護士 上原 幹男
第二東京弁護士会所属
この記事の監修者:弁護士 上原 幹男
司法修習後、検事任官(東京地方検察庁、奈良地方検察庁等)。検事退官後、都内法律事務所にて弁護士としての経験を経て、個人事務所を開設。 2021年に弁護士法人化し、現在、新宿事務所の他横浜・立川にも展開している。元検事(ヤメ検)の経験を活かした弁護活動をおこなっている。
セクハラ、パワハラなど、職場における各種のハラスメント問題にお悩みの経営陣は多いかと思います。
ハラスメントの対象行為は拡大し、ハラスメントに該当するかの判断は難しくなる一方です。
また、被害の放置は、労働意欲の低下、生産性の悪化、信用の失墜につながりかねず、ハラスメント対策の重要性は益々高まっています。
被害の防止や解決のために、雇用主には各種の措置が義務付けられ、そのひとつとして、相談窓口の設置が要求されています。
ここでは、相談窓口の詳細を定めた厚生労働大臣の「指針」をもとに、どのような設置、運用が求められているのかを解説します。
目次
1. 相談の対象となるハラスメントとは
職場におけるハラスメント行為とは、労働者に対し、その意に反する発言や行動がなされることで、被害者の就業環境が悪化したり、言動への対応如何で解雇・降格・減給などの不利益な扱いを受けたりするものを指し、次のとおり各種の行為が法定されています。
- 性的な言動であるセクシャルハラスメント(男女雇用機会均等法11条1項)
- 女性労働者の妊娠・出産に関する言動であるマタニティハラスメント(男女雇用機会均等法11条の3第1)
- 育児休業、介護休業などに関する言動によるハラスメント。このうち特に、男性の育児休業に関するものは、パタニティハラスメントと俗称されています(育児介護休業法25条1項)
- 職場での優越的な関係を背景とした言動で業務上必要かつ相当な範囲を超えるパワーハラスメント(労働施策総合推進法30条の2第1項)
2. ハラスメント相談窓口の設置が義務
各ハラスメントに対する雇用管理上の措置の一環として、あらかじめ「相談窓口」を設置しておくことが、雇用主の義務とされています(男女雇用機会均等法11条1項、同11条の3第1項、育児・介護休業法25条1項、労働施策総合推進法30条の2第1項)。
また、厚生労働大臣は、相談窓口の設置等が有効適切に実施されるよう、必要な「指針」を定めるとされています(男女雇用機会均等法11条4項、同11条の3第3項、労働施策総合推進法30条の2第3項)
3. 相談窓口に関する各ハラスメントの根拠法、指針
相談窓口の詳しい設置・運営方法などは、この「指針」に記載されています。ハラスメントの種類毎に根拠となる法律が異なるため、複数の指針が定められていますが、その内容は概ね同じです。
ここで、各ハラスメントの窓口設置の根拠法(正式名称と略称)と各「指針」をまとめておきますので、御参考にしてください。
セクシャルハラスメント | |
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法律 | 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律 |
略称 | 男女雇用機会均等法 |
指針 | 事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針(平成18年厚生労働省告示第615号・平成28年8月2日厚生労働省告示第314号にて改正)※ |
※https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000605548.pdf
マタニティハラスメント | |
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法律 | 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律 |
略称 | 男女雇用機会均等法 |
指針 | 事業主が職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針(平成28年厚生労働省告示第312号)※ |
※https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000605635.pdf
育児休業・介護休業などに関するハラスメント | |
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法律 | 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律 |
略称 | 育児介護休業法 |
指針 | 子の養育又は家族の介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために事業主が講ずべき措置に関する指針(平成21年12月28日号外厚生労働省告示第509号・令和3年9月30日号外厚生労働省告示第366号により改正)※ |
※https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000851176.pdf
パワーハラスメント | |
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法律 | 労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律 |
略称 | 労働施策総合推進法 |
指針 | 事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年1月15日厚生労働省告示第5号)※ |
※https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000584512.pdf
4. 相談窓口の設置方法
では、「指針」に示された、相談窓口の設置方法を解説していきましょう。
4-1. 相談窓口は会社の内外に置ける
指針では、具体例として、次の設置方法があげられています。
【指針の具体例】
- あらかじめ、相談に対応する担当者を定めておく
- 相談に対応するための制度を設けておく
- 外部機関へ相談対応を委託しておく
会社の内部だけでなく、外部機関へ委託して相談窓口とすることができます。会社内部には相談窓口を置かず、外部だけを相談窓口とすることも可能ですし、会社内部と会社外部の両方に相談窓口を置くこともできます。
4-2. 相談の実をあげる体制が求められる
相談窓口の担当者や制度を形だけ整えるのでは無意味です。そこで指針では、相談窓口の機能が実質的に果たされるよう、次の留意点をあげています。
- 被害者が萎縮して相談を躊躇することもあるので、相談者の心身状況や被害の認識に配慮すること。
- ハラスメントが現実に発生している場合に限らず、発生の恐れがある場合や、ハラスメントに該当するか否か微妙なケースも含めて、広く相談に応じること。
指針では、窓口の充実を図る具体例として、次の取組み例があげられています。
【指針の具体例】
- 担当者と人事部門の連携が図れる仕組みとする
- 相談時の留意点などを記載したマニュアルを作成しておく
- 担当者の研修を実施する
また、当然ですが、労働者が窓口の存在を知らなければ相談できませんから、相談窓口の設置を労働者に周知徹底することも必要です。
4-3. 各ハラスメント窓口の一元化が望ましい
例えば、ある言動がセクハラであると同時に、マタハラや、パワハラでもあるという場合があり得ます。
このようにハラスメントは複合的に生じる場合もあることから、相談窓口は、あらゆるハラスメントの相談を一元的に受け付けられる体制が望ましいとされています。
5. 内部の相談担当者がするべきこと
相談担当者がなすべきことは格別「指針」に定められていませんが、次の各点に留意するべきでしょう。
- 事実を十分に聴き取ることに徹し、正確な記録を残すこと
- 相談によって不利益を受けることはないこと、相談内容が他に漏れることはないことを十分に説明して納得を得ること
- 会社の定める相談マニュアルを厳格に守ること
- ハラスメントに該当するか否かなど、相談者の判断、特に法的な判断を相談者に伝えることは控えること
6. 相談を受けて会社がするべきこと
指針では、相談を受けた会社がなすべき措置として以下の事項を定めています。
6-1. 事実関係の迅速・正確な把握
まずは、相談された事実関係を迅速かつ正確に把握しなくてはなりません。
なお、加害者への聞き取りの結果、加害者が密告者探しをしたり報復したりする危険があります。
加害者の聞き取りに際しては、このような二次被害が生じないよう、個別具体的な予防策を講じておくことが大切です。
【指針の具体例】
- 被害者と加害者の双方から聴取する
- 事実に争いがあるときは、第三者からも聴取する
- 事実確認が困難なケースは、紛争調整委員会(※)などの中立な第三者機関に紛争処理を委ねる
※個別労働紛争解決促進法に基づいて、都道府県労働局ごとに学識経験者等により組織された、紛争解決のあっせん・調停機関
6-2. 当事者の措置
事実確認ができたら、速やかに被害者、加害者に対する措置を行うことが求められます。
【指針の具体例】
- 当事者を引き離す配置転換、被害者の労働条件上の不利益の回復、被害者のメンタルヘルス不調への相談・対応、加害者の謝罪、関係改善への援助など
- 加害者への懲戒その他の措置
- 第三者機関の紛争解決案の実施
6-3. 再発防止の措置など
何よりも、二度とハラスメントが起きないよう対処することが重要です。
【指針の具体例】
- あらためて各ハラスメントを禁じ、厳正に対処することを、社内報・パンフレット・社内ホームページ等に掲載、配布する
- 各ハラスメント防止意識を啓発する研修、講習等を実施する
6-4. プライバシー保護の措置
【指針の具体例】
- あらかじめプライバシー保護に必要な事項をマニュアル化し、相談担当者にプライバシー保護の研修を実施するなどし、プライバシー保護の措置を会社がおこなっていることを社内報・パンフレット・社内ホームページ等で周知させる
6-5. 不利益扱い禁止の措置
【指針の具体例】
- 相談したこと、事実確認に協力したことを理由に、解雇や降格などの不利益な扱いを受けないことを、就業規則などで定め、その旨を社内報・パンフレット・社内ホームページ等で周知させる
7. 何故、ハラスメント相談窓口の外部委託が有効と言われるのか?
相談窓口は、会社の外部に委託することもでき、むしろ、それがハラスメント問題の解決、再発防止に有益だという意見があります。その理由を考えてみましょう。
7-1. 被害者が相談をためらう要因とは?
厚生労働省の委託事業として、令和2(2020)年10月に実施された「職場のハラスメントに関する実態調査の報告」によると、過去3年間に被害を受けたパワハラ被害者の約36%、セクハラ被害者の約40%が、被害を受けた後に「何もしなかった」と回答しています。
令和2(2020)年度 職場のハラスメントに関する実態調査報告書 ※
【ハラスメントを受けた後の行動 】 | ||
---|---|---|
パワハラ被害者 | セクハラ被害者 | |
何もしなかった | 35.9% | 39.8% |
【ハラスメントを受けた後、何もしなかった理由】 | ||
---|---|---|
パワハラ被害者 | セクハラ被害者 | |
何をしても解決にはならないと思ったから | 67.7% | 58.6% |
職務上不利益が生じると思ったから | 22.6% | 16.4% |
取り扱う窓口や担当部署の問題解決能力に疑問があったから | 3.9% | 2.5% |
取り扱う窓口や担当部署が公正に取り扱うと思えなかったから | 4.8% | 3.4% |
※https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000165756.html
しかも、何もしなかった理由として、パワハラ被害者の約7割、セクハラ被害者の約6割が、「何をしても解決にはならないと思ったから」と回答してします。
また、「職務上不利益が生じると思ったから」と回答した者も、パワハラ被害者の約23%、セクハラ被害者の約16%にのぼります。
これらに、「取り扱う窓口や担当部署の問題解決能力に疑問があったから」、「取り扱う窓口や担当部署が公正に取り扱うと思えなかったから」という回答も合わせると、被害者らは、相談窓口の能力や公正さに疑問があり、解決に役立たず、むしろ相談するとかえって不利益な取扱いを受けかねないと考えているようです。
7-2. 被害者が相談をあきらめるのは深刻な事態
会社のハラスメント相談が活況で良い筈はありませんが、被害が起きているのに被害者が相談をあきらめる状態は、もっと深刻な問題です。
このような状態を放置すれば、潜在化したハラスメントの蔓延で、職場環境が著しく悪化し、労働意欲の低下につながりますし、トラブルが激化してマスコミやネットなど外部に漏れれば、ブラック企業との悪いイメージを持たれ、会社の信用を失墜させる危険すらあります。
7-3. 相談窓口の外部委託で問題を解決
これを解決する一方策として、相談窓口を、公正で問題解決能力にすぐれた、信頼できる外部機関に委託することが検討に値します。
外部機関は様々ありますが、法律事務所を相談窓口とすることをお勧めします(誠に申し訳ありませんが、上原総合法律事務所では、現在、相談窓口の設置依頼はお受けしていません)。
適切な弁護士を選ぶことができれば、ハラスメント問題に対する深い知識と豊富な解決経験から、頼りになる可能性が高いと考えてよいでしょう。
8 お気軽にご相談ください
上原総合法律事務所では、現在、相談窓口設置依頼はお受けしていません(誠に申し訳ありません。)が、ハラスメントの予防や事件対応に関する企業様からのご相談をお受けしています。
外部窓口設置の際にどの窓口が良いかというご相談にも応じます。
ご入用の方はお気軽にご相談ください。