秘密保持契約書(機密保持契約書/NDA)とは?書き方について弁護士がわかりやすく解説

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弁護士 上原 幹男

弁護士 上原 幹男

第二東京弁護士会所属

この記事の監修者:弁護士 上原 幹男

司法修習後、検事任官(東京地方検察庁、奈良地方検察庁等)。検事退官後、都内法律事務所にて弁護士としての経験を経て、個人事務所を開設。 2021年に弁護士法人化し、現在、新宿事務所の他横浜・立川にも展開している。元検事(ヤメ検)の経験を活かした弁護活動をおこなっている。

ビジネスシーンにおいて、企業秘密や個人情報を保護する要請は年々高まっており、取引にあたっては、秘密保持契約書(機密保持契約書)を作成する機会が多くあります。

この記事では、秘密保持契約の必要性や法的なメリットとは何かを解説した上、秘密保持契約書の具体的な記載例から、作成する際の注意点まで解説します。

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1.秘密保持契約書(機密保持契約書/NDA)とは?

1-1. 「秘密保持契約書」とは

秘密保持契約とは、自社の秘密情報を取引先などの相手方に開示するにあたり、特定の用途以外の利用や、第三者への開示を禁止する契約です。

秘密保持契約は「NDA」と呼ばれます。これは「Non-Disclosure Agreement」に由来しています。

1-2. 秘密保持契約書(NDA)の例

秘密保持契約書(NDA)の作成が必要となるのは、次のような場合です。

例1:自社の新製品の発売案内パンフレットを顧客に郵送する業務を、外部企業に委託する場合、自社の顧客情報(住所、氏名)を委託先企業に渡さなくてはならず、秘密保持契約が必要です。

例2:他社と技術提携して新製品を共同開発する場合や、業務提携して共同販売をする場合などは、互いの技術や商品等の情報を開示し合わなくてはならず、秘密保持契約が必要です。

例3:「M&A」すなわち企業買収や合併などを行うに際しては、対象となる会社の財務状況、資産、技術内容などの情報から、その実行可能性や実行条件を検討しなくてはなりませんから、まずは、秘密保持契約が必要です。

例4:自社従業員が、競合他社に引き抜かれたり、買収されたりして、自社の顧客情報や技術情報が漏れることを防止するには、自社従業員との間に、秘密保持契約が必要です。この場合は、通常、従業員から機密保持誓約書を差し入れさせます。

2.秘密保持契約書は作成したほうがいいのか?その必要性と目的とは?

A社が、その開発した製品について、B社に製造を委託したいと考えるときは、当該製品の製造に必要な情報をB社に開示して、製造が可能かどうか、どの程度のコストがかかるかなどを検討してもらう必要があります。このように他社に事業を委託しようという場合には、自社が保有する情報を相手に開示する必要があります。

また、A社がB社に対し、業務提携や共同研究を提案しようとする場合、A社の業務内容や技術情報をB社に開示しなければ、B社がその提案を検討することはできません。この場合、同様にB社側からも、自社の情報をA社に開示してもらわないと、A社としても交渉を前進させることができません。このように共同での事業や研究を検討しようという場合、互いに保有する情報を開示し合う必要があります。

しかし、これらの場合、①B社がA社から得た情報で、独自に製品を製造し、販売したというような情報を異なる目的に悪用してしまう危険、②B社がA社から得た情報を第三者であるC社に漏洩してしまうリスクが常にあります。

そこで、このようなリスクを減少させる目的で締結されるのが、秘密保持契約書です。

3.秘密保持契約書の5つのメリット

秘密保持契約書を締結する主なメリットは、次の5点です。

  1. 自社の秘密情報が、相手方から第三者へ流出することを防止できる
  2. 自社の秘密情報が、相手方によって目的外に利用されてしまうことを防止できる
  3. 情報が流出したり目的外利用がなされた場合に、秘密保持契約違反を理由に差止請求や損害賠償を請求することができる
  4. 自社が保護したい秘密情報の範囲を指定することができる
  5. 不正競争防止法の適用可能性を高めることができる

4.秘密保持契約書の最重要メリットとは

先に述べた5つのメリットの中で、非常に重要なのは、④自社が保護したい秘密情報の範囲を指定することができる、⑤不正競争防止法の適用可能性を高めることができるという点です。これには「不正競争防止法」という法律が関わっており、少々、詳しい解説が必要です。

4-1. 不正競争防止法とは

不正競争防止法は、不正競争の防止及び不正競争に係る損害賠償に関する措置等を講じることで、公正な経済取引競争及びこれに関する国際約束の的確な実施を確保し、国民経済を健全に発展させることを目的とします(同法1条)。そのために、不公正な競争行為(不正競争行為)を列挙して禁止しており、その中には「営業秘密の侵害行為」があります(同法2条1項4号~10号)。

4-2. 不正競争防止法の「営業秘密の侵害行為」とは

「営業秘密の侵害行為」としては、7つの類型の行為が禁止されています。そのうちのひとつである、Aから、Aの営業秘密を知らされたBが、不正な利益を得る目的や、Aに損害を加える目的で、その営業秘密を使用し、他者に開示することも禁止行為とされています(同法2条1項7号)。

これは、まさに秘密情報を得た側による秘密の流出や目的外の利用を禁止するものです。この禁止行為に違反する場合は、刑事罰(同法21条1項、2項など)も予定される他、差止請求(同法3条)や損害賠償請求(同法4条)の対象ともなります。

4-3. 不正競争防止法の限界とは

このように、不正競争防止法で営業秘密の侵害を禁止し、違反に対して差止請求や損害賠償が定められているならば、わざわざ機密保持契約を結ぶ意味はないようにも思われます。しかし、それは間違いです。なぜなら、不正競争防止法で禁止される「営業秘密の侵害行為」の保護対象である「営業秘密」の範囲は限定的だからです。

4-4. 不正競争防止法の「営業秘密」の3要件

不正競争防止法で保護される「営業秘密」と認められるためには、①秘密管理性(秘密として管理されていること)②有用性(生産方法・販売方法その他の事業活動に有用な技術上・営業上の情報であること)③非公知性(公然と知られていないこと)の3要件(営業秘密の3要件)を満たす必要があります(同法2条6項)。

しかも、当該秘密が3要件を満たすことは、差止めや損害賠償を請求する側が立証しなくてはなりません。しかし、営業秘密は、まさに「秘密」であったが故に、どのように扱われてきたかを外部に示すことが困難で、特に「秘密管理性」の立証に行き詰まる場合があるのです。

4-5. 秘密保持契約書(機密保持契約書)の有用性

不正競争防止法による営業秘密の保護は万能ではありません。そこで、秘密保持契約書(機密保持契約書)を結ぶことが有用となります。それは次の理由によります。

(1)秘密保持契約では、その契約条項で、企業が守りたい秘密情報の内容・範囲を自由に定めることが可能です。営業秘密の3要件には縛られません(前記の秘密保持契約を締結する主なメリット④)。
(2)ある秘密情報を対象とした秘密保持契約を締結しておくことで、「営業秘密」の要件である「秘密管理性」を補強する材料として機能し、「営業秘密」であることを立証する有利な材料となります(前記の秘密保持契約を締結する主なメリット⑤)。

不正競争防止法が適用されれば、損害賠償請求にあたり、損害額の推定など損害額の立証の負担を軽減する制度(同法5条)を利用できますし、何より、同法違反を理由に刑事罰が課される可能性がありますから、秘密の流出、目的外利用に対する強力な抑制手段となります

4-6. 秘密保持誓約書の存在等から秘密管理性を認めた裁判例

実際に、秘密保持契約書が、不正競争防止法の適用に役立った裁判例があります。

A社が、その元従業員によって漏洩された営業秘密によって、B社らの商品販売などが行われたとして、不正競争防止法などに基づき、B社らに商品の販売差止や損害賠償を求めた事案です。
裁判所は、A社が、営業情報(商品の販売先業者名・販売数量・販売価格・仕入価格・利益額)を漏らさないよう、元従業員などに秘密保持誓約書を作成・提出させていたなどの事実を指摘した上で、商品の販売先業者名・販売価格・仕入価格が秘密として管理されており秘密管理性の要件を満たすと認定し、不正競争防止法の「営業秘密」に該当すると認め、損害賠償を命じました大阪高裁平成20年7月18日判決)。

4-7. 秘密保持契約書と不正競争防止法の関係まとめ

秘密保持契約書と不正競争防止法について、わかりやすくまとめておきましょう。

  • 秘密保持契約書で、秘密の流出、目的外利用を禁止し、違反に対する差止請求や損害賠償を定めることができます。
  • 不正競争防止法の「営業秘密の侵害」によっても、差止請求や損害賠償請求は可能です。しかも損害の立証を容易にする制度を利用することができ、刑事罰もあるため、強力な抑制となります。
  • しかし、不正競争防止法の「営業秘密」として保護されるには、営業秘密の3要件を満たす必要があり、保護の範囲も限定的です。これに対し、秘密保持契約書では、保護する秘密の内容範囲を自由に指定できます。
  • また、ある秘密について、秘密保持契約書を結んでおくこと自体が、「営業秘密」の要件を満たすか否かの判断にあたり、情報を開示する側に有利に働くことがあり、不正競争防止法の強力な保護を受ける可能性が広がります。

5.秘密保持契約書は、いつ締結すべきか?

秘密保持契約は、相手に情報を開示する前に締結するべきものです。開示後に秘密保持契約を締結するのでは、開示から契約締結までの間は、秘密の流出・目的外利用の防止を十分なものとすることはできません(不正競争防止法による抑制はあります)。

なお、秘密保持契約の締結前に、相手に情報を開示してしまった場合には、できるだけ早く秘密保持契約を締結して、その後の秘密の流出・目的外利用を防止するべきです。

6.秘密保持契約書(機密保持契約書)の書き方

秘密保持契約書(機密保持契約書)の書き方について、主な記載例を示し、ポイントを説明します。

6-1. 秘密情報の定義

保護対象となる秘密情報の内容・範囲は自由に設定できますが、開示する側は広く、受ける側は狭く設定することを希望しますから、双方が納得できる内容・範囲でないと合意できません。なお、当該機密保持契約それ自体も秘密に含めることが通常です。

【記載例:秘密情報の定義】
(秘密情報)
本契約の「秘密情報」とは、文書、口頭、電磁的記録媒体その他有形無形を問わず、本目的のために、甲または乙のうち情報を開示する側(以下、「情報開示者」という)が、相手方(以下、「情報受領者」という)に対して開示した一切の情報、本契約の存在及び内容をいう。
ただし、次のいずれかに該当するものは、秘密情報から除外されるものとする。

  1. 情報開示者から開示を受けた時点で既に保有していた情報
  2. 情報開示者に対して秘密保持義務を負わない正当な権限を有する第三者から、情報受領者が秘密保持義務を負うことなく適法に入手した情報
  3. 情報受領者が独自の開発活動を行った結果取得した情報
  4. 開示を受けた時点で既に公知であった情報
  5. 開示を受けた後、情報受領者の責めに帰し得ない事由により公知となった情報

6-2.秘密保持義務とその例外

秘密保持義務は、秘密保持契約の中核的な規定です。
もっとも、第三者に秘密情報を開示することが必要な場合もあります。秘密情報の受領当事者に不可能を強いることがないよう、通常は、秘密保持義務の例外を定めます

【記載例:秘密保持義務とその例外】
(秘密保持)
第1項 
情報受領者は、秘密情報について厳に秘密を保持するものとし、第三者に対し、秘密情報を一切開示または漏洩してはならない。ただし、次のいずれかに該当する場合を除く。

  1. 本目的に関連して秘密情報を必要とする情報受領者の役員、従業員、情報受領者の依頼する弁護士、公認会計士、税理士、フィナンシャルアドバイザー等外部専門家に対し、合理的に必要な範囲で開示する場合
  2.  情報開示者が事前に書面により承諾をした場合
  3. 法令又は裁判所、政府機関 金融商品取引所その他情報受領者に対して権限を有する機関の裁判、命令、規則等により秘密情報の開示を要求され、合理的に必要な範囲で開示する場合

第2項 
前項第1号の規定に基づき、情報受領者が法律上の守秘義務を負う者ではない受領権者に秘密情報を開示する場合、情報受領者は受領権者に対し、本契約によって情報受領者が負う義務と同等の義務を課してその義務を遵守させ、受領権者に義務違反が認められた場合には、情報開示者に対して直接責任を負う。
第3項 
第1項第3号の規定に基づき、情報受領者が秘密情報を開示する場合、情報受領者は、情報開示者に対し、情報開示後速やかにその旨を通知する。

6-3. 目的外使用の禁止

開示された秘密の漏洩や目的外使用を禁じることは、秘密保持契約の中核となる規定です。
目的外使用を禁止する規定を設けない場合、情報受領者が、第三者に開示することなく、秘密保持契約に定める目的以外のために、受領した情報を使用することは、通常、妨げられないこととなってしまいます。これを防ぐために、当該規定を設けることは重要です。

【記載例:目的外使用の禁止】
(目的外使用の禁止)
情報受領者は、秘密情報を本目的以外の目的で使用してはならない。

6-4. 秘密情報の返還・破棄

不要となった情報を相手に保持させたままでは、情報流出や不正利用の危険性が残ったままとなります。不要な情報の返還や廃棄を義務付ける必要があります。

【記載例:秘密情報の返還・破棄】
(破棄又は返還)
第1項 
情報受領者は、本契約が終了したとき又は情報開示者が要求したときは、情報開示者の指示に従い、本契約に基づき情報開示者から開示を受けた秘密情報を情報開示者に返還又は破棄する。
第2項 
前項の場合、情報受領者は、情報開示者からの請求があったときは、情報開示者に対し、秘密情報を返還又は破棄したことを証明する書面を交付する。

6-5. 損害賠償

あえて秘密保持契約書に損害賠償の条項を記載しなくとも、秘密保持契約の違反により損害が発生した場合には、民法の規定(民法415条)を根拠として、相手方に損害賠償を求めることができます。しかし、これを契約書にはっきり記載しておくことで、違反行為を抑制する事実上の効果が期待できますから、省略するべきではありません。

【記載例:損害賠償】
(損害賠償)
情報受領者が、本契約上の義務に違反し、これにより情報開示者に損害が生じた場合、情報受領者は、情報開示者に生じた損害を賠償しなければならない。

6-6. 差止請求

民法上、債務不履行に基づいて差止め請求することも可能と考えられていますが、差止めが認められるのは限定的となる可能性があります。
また、前述のとおり、「営業秘密の侵害」として、不正競争防止法に基づいて差止請求が認められる場合がありますが、それが認められない場合に備え、秘密保持契約書で差止請求の根拠規定を明記し、差止めが認められる可能性を高めておくことは有益です。

【記載例:差止請求】
(差止請求)
情報受領者が、本契約に違反する場合、又は違反するおそれがある場合、情報開示者は、その差止め又はその差止めを求める仮処分の申立てを行うことができる。

6-7. 有効期間

秘密情報の保持などについて期間を設けるためのものであり、秘密保持契約では必ず規定される条項です。
なお、有効期間を定める場合、有効期間満了後も、損害賠償や差止請求などに関する規定の効力を持たせるため、例えば下記の記載例第2項のような条項を設けることが考えられます。

【記載例:有効期間】
(有効期間)
第1項 
本契約の有効期間は、本契約の締結日から起算し、○年間とする。期間満了後の○ヵ月前までに、甲または乙のいずれからも相手方に対する書面の通知がなければ、本契約は同一条件でさらに○年間継続するものとし、以後も同様とする。
第2項 
前項の有効期間終了後も、第○条(損害賠償)、第○条(差止請求)の定めは、有効期間終了後〇年間、その効力を有する。

7.秘密保持契約書の作成の注意点

秘密保持契約書の雛形・記載例は、インターネット上や書籍で数多くみることができます。これらを参考にするべきではありますが、そのまま流用することは厳禁です。

実際に機密保持契約を締結する場合、その利害関係や配慮するべき事項は様々であり、どれほど信頼性の高い記載例であっても、必要な条項のすべてを網羅することはできませんし、当該事案には不適合な条項がある可能性もあります。

あくまでも雛形は参考にとどめてください。秘密保持契約で規定すべき内容について悩むときは、法律の専門家である弁護士に相談することがベストです。

8.お気軽にご相談ください

弁護士法人上原総合法律事務所では、秘密保持契約や不正競争防止法に詳しい弁護士が、事業主様からのご相談をお受けしています。
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