商品を売りたいあまり、宣伝のなかで、つい、その性能を誇張したり、他より断然安いと言い切ってしまったりすることは、商売にはありがちです。
また、お客を集めたくて、不相応に高額な景品を配りたくなることもあるでしょう。
しかし、そうした宣伝や集客方法は、消費者の利益を害し、公正な競争を阻害する行為として法律違反となる場合があります。
そのような行為を禁止するのが景品表示法(正式名称:不当景品類及び不当表示防止法)です。
この記事では、景品表示法の中心となる「不当表示の禁止」と「景品類の制限・禁止」とは何かを説明し、景品表示法に違反した場合の法的責任、違反を避けるための対策などについて、わかりやすく説明します。
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景品表示法の目的は、消費者が自主的かつ合理的に商品やサービスを選択できる環境を守り、消費者の利益を保護することです(1条)。
もしも、商品を実際より高品質だと宣伝することを許せば、消費者は商品の品質を誤認し、より良い商品を選ぶ機会を失います。
また、もしも商品の購入者に不当に高額な景品を与えることを許せば、消費者は景品の魅力に誘惑され、やはり良い商品の選択が阻害されることとなります。
このような事態の防止は、消費者の利益を守ること、すなわち、不公正な競争をなくし、良質な商品の提供者が市場の勝者となる環境を作ることにつながります。
そこで景品表示法は、①消費者を誤解させる不当な広告などを禁止し(不当表示の禁止)、さらに、②過大な景品を規制しています(景品類の制限及び禁止)。
不当表示とは、商品・サービスの品質、内容、価格等を偽る表示のことで、以下の3種類に分けられます。
不当表示として禁止される行為を、具体例をあげて説明しましょう。
優良誤認表示は、商品やサービスの内容が、事実と異なり、①実際のものよりも、ものすごく良いものだと誤認させる表示、②同業他社の商品・サービスよりも、ものすごく良いものだと誤認させる表示です(5条1号)。
わかりやすく言えば、前者は現実と比較して「良い」と偽ること、後者は同業他社と比較して「良い」と偽ることです。
有利誤認表示は、商品やサービスの価格や数量などの取引条件が、事実と異なり、①実際のものよりも、ものすごく「お得である」と誤認させる表示、②同業他社の商品・サービスよりも、ものすごく「お得である」と誤認させる表示です(5条2号)。
わかりやすく言えば、前者は現実と比較して「お得」と偽ること、後者は同業他社と比較して「お得」と偽ることです。
消費者の判断を誤らせる表示は、品質の良さや価格の安さ等を示すものに限りません。
そこで、社会情勢に応じて消費者の適正な商品選択を妨げる表示に柔軟に対応できるようにするため、内閣総理大臣に不当表示を指定する権限が付与されています(景品表示法5条3号)。
なお、内閣総理大臣は消費者庁の主任大臣であり、景品表示法の運用は消費者庁が行っています。
例えば、ギフト商品カタログに、「手彫り木箱」が掲載され、その周囲にスウェーデン国旗の図柄とストックホルムの風景写真が配置されていた場合、消費者は北欧製の調度品と認識するでしょう。
ところが実際は国産品だった場合、優良誤認表示にも、有利誤認表示にも該当しませんが、消費者を誤認させて、その合理的な選択を阻害することは明らかです。
そこで、商品の原産国に関する不当な表示としてこのような行為は規制されています。
現在、次の7つの指定がなされています。これらを「指定告示」と呼びます(※)。
告示名 | 例 | |
---|---|---|
1 | 商品の原産国に関する不当な表示 | 日本製品に外国の国名や地名、国旗、外国の事業者・デザイナーの氏名、名称、商標を表示 |
2 | 無果汁の清涼飲料水等についての表示 | 果実・果肉が使用されていない清涼飲料水などに果実の名前を用いた商品名、果実の絵・写真・図案を表示 |
3 | 消費者信用の融資費用に関する不当な表示 | 貸金の実質年率を明瞭に記載しない表示 |
4 | おとり広告に関する表示 | 集客のため、実際には販売しない商品を広告に表示 |
5 | 不動産のおとり広告に関する表示 | 集客のため、存在しない不動産や販売しない不動産を広告に表示 |
6 | 有料老人ホームに関する不当な表示 | 土地・建物が、その有料老人ホームの所有ではないことを明瞭にしない表示 |
7 | 一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示 | 消費者が事業者の宣伝であることを判別することが困難な、いわゆるステルスマーケティング(ステマ)表示 |
※指定告示の詳細は、次の消費者庁サイトで閲覧できます。
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/public_notice
ステルスマーケティング規制とは、「その他誤認されるおそれがある表示」のひとつとして告示された表示で、令和5(2023)年10月1日に施行された新しい規制です。
わかりやすく言えば、あたかも宣伝・広告ではないかのように表示したり、宣伝・広告であることを隠したりする表示です。
典型的には、事業者がSNSのインフルエンサーなどに依頼し、商品の宣伝であるにもかかわらず、そのインフルエンサーの個人的なレビューと装って発信してもらう場合などです。
また、宣伝・広告と表示していても、それがわかりにくければ、やはり不当表示に含まれます。
例えば、宣伝であることを、消費者が認識できないほどの短時間だけ表示したり、長時間の動画の末尾にだけ宣伝と表示したりする場合です(※)。
※「『一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示』の運用基準」(令和5年3月28日消費者庁長官決定)
もうひとつの規制が、「景品類の制限及び禁止」です。
わかりやすく言えば、過大な景品を認めると、消費者が惑わされ、低品質の商品や割高な商品を購入してしまう危険があるため、景品の内容を規制しているのです。
そこで、景品表示法では、内閣総理大臣は、景品類の①最高額、②総額、③種類、④提供の方法、⑤その他景品類の提供に関する事項を制限するだけでなく、⑥景品類の提供自体を禁止することができる旨を規定しています(法4条)。
これを受けた告示によって、以下の具体的な規制がなされています。
商品・サービスの利用者に景品を提供する方法のひとつに「懸賞」があります。
「懸賞」とは、景品をもらえる者や景品内容を、①くじ引きのように偶然性を利用して決める提供方法、または、②ある行為の優劣または正誤によって定める提供方法を指します(※1)。
例えば、次のような場合です。
また、懸賞のうち、次に説明する「共同懸賞」以外の場合を「一般懸賞」と呼んで区別しています。
一般懸賞には、「個々の景品の上限額」と「景品総額の上限額」の両方に規制があります。
各上限額は、景品が付随する商品・サービスの取引価額を基準として、下のとおり定められています(※2)。
【一般懸賞の限度額】
取引価額 | 個々の景品の上限 | 景品総額の上限 |
---|---|---|
5,000円以上 | 10万円 | 懸賞に係る取引の売上予定総額の2% |
5,000円未満 | 取引価額の20倍 | 同上 |
※1・※2:告示「懸賞による景品類の提供に関する事項の制限」(昭和52年3月1日公正取引委員会告示第3号)
懸賞のうち、複数の事業者が参加する場合を「共同懸賞」と呼び、景品類の提供については、一般懸賞と比べて緩やかに制限されています。
「共同懸賞」には、次の3つのかたちがあります(※1)。
1 一定の地域における小売業者又はサービス業者の相当多数が共同して行う場合
例 「〇〇市商工会議所主催!〇〇市観光祭り!」での懸賞
2 ひとつの商店街に属する小売業者又はサービス業者の相当多数が共同して行う場合(ただし、お中元、年末等の時期で、年3回を限度とし、かつ、年間通算して70日の期間内で行う場合に限る)
例 「〇〇地下商店街の歳末大売り出し」での福引き券
3 一定の地域において一定の種類の事業を行う事業者の相当多数が共同して行う場合
例 秋葉原電化製品大感謝祭!総額1000万円プレゼント!!」での懸賞
共同懸賞も「個々の景品の上限額」と「景品総額の上限額」の両方に次のような規制があります。
【共同懸賞の限度額】※2
取引価額 | 個々の景品の上限額 | すべての景品の総額 |
---|---|---|
金額に係わらず | 30万円 | 懸賞に係る取引の売上予定総額の3% |
※1・※2:「懸賞による景品類の提供に関する事項の制限」(昭和52年3月1日公正取引委員会告示第3号)
懸賞によらずに、消費者に景品を提供することを「総付景品」と呼びます。
例えば、次のような場合です。
総付景品は、景品価格の上限が規制され、景品が付随する商品・サービスの取引価額を基準に下のとおり定められています(※1)。
【総付景品の限度額】
取引価額 | 景品の上限額 |
---|---|
1,000円以上 | 取引価額の20% |
1,000円未満 | 200円 |
また、来店者にもれなく配るとか、購入商品の内容を問わずに店舗での購入者全員に配るといった、取引価格にかかわらない配布形態の場合は、原則として取引価格を100円とみなし、200円が上限額となります(※2)。
※1:告示「一般消費者に対する景品類の提供に関する事項の制限」(昭和52年3月1日公正取引委員会告示第5号)
※2:通達「『一般消費者に対する景品類の提供に関する事項の制限』の運用基準について」昭和52年4月1日事務局長通達第6号
特定の業種については、その業界の商取引における実情を考慮した特別の規制が適切な場合があります。
そこで、次の各業種については、別途の規制がされています。
①新聞業、②雑誌業、③不動産業、④医療用医薬品業、医療機器業及び衛生検査所業
例えば、雑誌の誌上でアンケートやパズルの回答などを募集し、懸賞によって景品を提供する場合、個々の景品の価額は3万円が上限とされています(※)。
※告示「雑誌業における景品類の提供に関する事項の制限」(平成4年2月12日公正取引委員会告示第3号)
景品表示法に違反した場合、以下のような処分を受けます。
消費者庁は、違反事業者に、①違反行為の差止め、②再発防止策の実施、③差止めや再発防止策の実施の公示、④その他必要な事項を命じることができます。
これが「措置命令」です(7条1項)。
措置命令に違反した場合、違反行為者は2年以下の懲役刑または300万円以下の罰金刑に処せられます(36条1項)。
情状により、この2つの刑が同時に科されることもあります(同2項)。
また、違反行為者が、法人の代表者・従業員、個人事業主の従業員などの場合、その法人・個人事業主も、3億円以下の罰金刑を科されます(38条1項1号)。
さらに、法人における措置命令違反行為では、命令違反行為の計画を知りながら、その防止措置を怠った法人代表者や、命令違反行為を知りながら、その是正措置を怠った法人代表者も、同じく3億円以下の罰金刑を科されます(39条)。
優良誤認表示、有利誤認表示に対しては、違反行為を抑止するための行政上の措置として、これらの不当表示にかかる商品・サービスの売上額の3%の「課徴金」の支払が命じられます(8条)。
景品表示法では、規制内容を行政に委任している部分が多く、行政府(内閣府、公正取引委員会、消費者庁など)が、社会情勢に応じて、規制内容や運用方針を策定、改訂してきました。
これらは「指針」や「運用基準」などの名称で公開されており、「ガイドライン」と総称されています。また、内容は消費者庁のサイトで確認することができます(※)。
景品表示法は、違反行為を防止するために必要な管理体制の構築を事業者に義務付けており(景表法26条1項)、これを受けて、「事業者が講ずべき景品類の提供及び表示の管理上の措置についての指針」(平成26年11月14日内閣府告示第276号)が定められています(※)。
※https://www.caa.go.jp/notice/assets/representation_cms216_220629_04.pdf
この指針は、例えば、不当表示を未然に防止するために、事前にどんな情報管理をしておくべきか、また、万一、不当表示が明らかになった場合にどのように対応すべきかなどについて、詳細な対応例を示しています。
実務上、ぜひ参考にし、積極的に採り入れるべきものです。
ただし、景品表示法の規制内容はガイラインも含めて理解する必要があるため詳細かつ複雑であり、これに対応する上記「管理上の措置」も規制内容を十分に理解したうえで、実務上もうまくワークするものを構築する必要がありますから、景品表示法に関する専門的な知識と経験をもつ弁護士の助力を得ることがベストでしょう。
弁護士 上原 幹男
第二東京弁護士会所属
この記事の監修者:弁護士 上原 幹男
司法修習後、検事任官(東京地方検察庁、奈良地方検察庁等)。検事退官後、都内法律事務所にて弁護士としての経験を経て、個人事務所を開設。 2021年に弁護士法人化し、現在、新宿事務所の他横浜・立川にも展開している。元検事(ヤメ検)の経験を活かした弁護活動をおこなっている。
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