個人事業主にも顧問弁護士が必要なのでしょうか?
従業員を雇用している個人事業主はもちろんのこと、フリーランスなどのお一人で活動している個人事業主も、顧問弁護士を持つことは珍しくありません。
特に、今後ビジネスを大きくしていこうと考えている方は、法人成りをしていない段階から顧問弁護士をつけ、将来のトラブルを予防しておくことが有用です。
この記事では、個人事業主に顧問弁護士が必要な理由、その役割、費用、顧問弁護士の選び方など、個人事業主と弁護士の顧問契約に関する疑問にお答えします。
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経済活動・取引活動で、他者から損害賠償など何らかの法的な責任を追求される場合、あなたが、①会社の一員として活動するケースと、②個人事業主として活動するケースでは、あなた個人が責任を負うリスクに天と地ほどの違いがあります。
会社、すなわち法人は、それ自体が権利義務の主体となる法人格を有していますから、例えば、取引先と結んだ契約による責任は、その会社が負う責任であり、会社の従業員や役員は負わないのが原則です(※1)。
取引先と結んだ契約を会社が実行しないときは、履行を請求されるのは会社であり、履行できない場合の損害賠償を請求されるのも会社です。
会社は、財産から賠償金を支払うため、役員や従業員の個人資産から支払うわけではありません。支払わない場合に差し押さえられてしまう財産も、会社の財産であって、役員や従業員の個人資産ではありません(※2)。
※1:ただし、例外として、取締役など役員が、その任務を怠って、取引先のような第三者に損害を与えたときは、直接に賠償責任を問われる場合もあります(会社法429条1項)。また、例えば営業担当者が詐欺行為で取引先を騙して契約を結んだケースのように、会社が使用者責任(民法715条)を負担すると共に、従業員個人も損害賠償義務を負担する場合もあります。
※2:ただし、原因を作った役員や従業員が、取引先に賠償金を支払った会社から求償された場合には、個人資産で会社に支払うことになります。
他方、個人事業主の経済活動・取引活動によって生じた責任は、その個人が負担するしかありません。
契約を守れなければ、履行を請求されるのも個人ですし、履行できない場合の損害賠償を請求されるのも個人です。支払わなければ、最終的には、個人の財産が差押えを受けます。
賠償金などの債務を払いきれない場合、会社でしたら、会社更生・民事再生・破産といった債務整理手続の対象となるのは会社財産であり、役員や従業員の個人資産ではありませんが、個人事業主の場合は個人の資産が破産手続で処分されてしまいます。
このように、個人事業主の場合は、個人が法的責任をダイレクトにかぶる結果となるので、会社の一員として活動する場合よりも、法的リスクは高いと言わざるを得ないのです。
個人が責任を負う法的リスクはより高いのに、個人事業主には、会社のような法務部門がありません。
だからこそ、法的リスクを予防・回避し、また生じてしまったトラブルを早期に終息させるため、顧問弁護士の力を利用するべき必要性が高いのです。
顧問弁護士が、個人事業主のお客様から相談されることの多い法律問題には、次のようなものがあります。
まずは、その内容にかかわらず、取引先との契約書など、法的な書面の内容に問題がないか否かをチェックしてほしいという要望が非常に多いです。
以上のようなご不安も顧問弁護士がいれば、気軽に相談できますし、普段から個人事業主の業務内容をよく理解しているので、スピーディにチェックできます。
個人事業主の取引相手が、契約に違反することもあるでしょう。約束を守らないだけでなく、勝手な理屈で違反を正当化しようとする取引先もあります。
日ごろから、個人事業主のお客様の相談を受けている顧問弁護士であれば、このような疑問に対しても状況を把握して、的確なアドバイスを提供してくれます。
「取引先が契約した金銭を期限になっても支払ってくれない。どうも他にも不払いがあるようだ。まさか倒産するのでは?」これは、個人事業主にとって死活問題です。
信用が悪化した取引先に対する債権回収は、時間との闘いです。引き受けてくれる弁護士を新たに探している間に、状況はどんどん悪くなり、回収の可能性は減って行きます。
顧問弁護士がいれば、直ちに相談し、受任してもらい、仮差押え・仮処分などの債権保全手続を開始することが可能です。
取引相手が大きな企業などの場合、個人事業主が無理難題を押しつけられてしまうことがあります。
これらの行為は、取引先の経済的に強い立場を利用した不当な行為であって、優越的地位の利用(独占禁止法2条9項5号)として、独占禁止法や下請法に違反する可能性のあるものです。
また、令和5年に「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(いわゆるフリーランス新法)が制定されていますので、取引先の提示する内容がフリーランス新法に合致しているのかを確認し、条件改善を求めることも可能です。
定期的に顧問弁護士に相談し、正確な知識を得ておくことで、適切な交渉が可能になります。交渉だけで解決しない場合には、顧問弁護士から①取引先に違法である旨を指摘して是正させる、②公正取引委員会へ報告して行政措置を求めるなどの対処を早期に依頼できます。
個人事業主が顧問弁護士に相談するべき法的トラブルは、まだまだあります。
これらのトラブルは、初動が的確であれば大ごとにせずに済むこともあります。
顧問弁護士と、トラブルが生じてから弁護士に相談する場合との一番大きな違いは、トラブル発生時の対応速度です。
トラブルが生じてから弁護士を探す場合、弁護士を探し、相談を予約し、相談では弁護士にまず事業内容を説明して理解させ、そこからトラブルの内容を説明することになります。
初めて相談した弁護士とすぐに信頼関係を築くことができ、その弁護士が事業についてすぐに理解し、トラブルに対応可能なのであれば良いですが、そうでない場合、別の弁護士を探す必要が生じるかもしれません。
これに対し、顧問弁護士を持っておいて、自分の事業のことをよく理解してもらっておけば、時間を短縮することができます。
また、顧問弁護士がそのトラブルに詳しくなくても、顧問弁護士が付き合いのある、そのトラブルに詳しい弁護士と一緒に事件を処理してもらうこともあり得ます。
この場合も、トラブルが起きてから弁護士を自分で探すよりもとても早く、信頼できる弁護士にたどり着くことができます。
トラブルの対処は初動が早ければ早期に収束させることができることも多く、この時間短縮は大きなメリットになります。
顧問契約をするには、どのくらいの費用がかかるのでしょうか?
これについては、日本弁護士連合会が2009年10月に実施したアンケート調査があります。
そこでは、顧問料の範囲でできる相談内容が、A:「調査不要ですぐに回答できる内容の相談」に限るパターンと、B:「相談方法。調査の要否を問わず、相談調査を含めて月3時間程度の相談」であれば顧問料の範囲とするパターンに分けて、顧問料の月額が調査されました。
その結果、どちらのパターンでも、顧問料は月額3万円または5万円が多い結果となっています。
中小企業との顧問契約における相談の範囲と顧問料月額(※) | ||
---|---|---|
A:電話、FAX、メール等による相談で、調査を要せず、すぐに回答できる内容のものまでは月額顧問料の範囲とする場合 | B:相談方法(電話、FAX、メール、面談など)や調査の要否にかかわらず、月3時間程度(調査時間・相談時間を含む)の相談については月額顧問料の範囲とする場合 | |
2万円以下 | 7.7% | 4.9% |
3万円 | 40.0% | 33.5% |
5万円 | 45.7% | 52.7% |
6万円以上 | 7.6% | 4.9% |
※「2009年度アンケート結果版・中小企業のための弁護士報酬の目安」(日本弁護士連合会)より
顧問契約で受けることのできるサービスの範囲ですが、上のアンケート結果にもあるように、①法律相談(回数や時間等に制限があるのが一般的)、②法的な書面のチェック、③簡易な法的書面の作成(枚数や字数に制限があるのが一般)などです。
相談した案件の処理を受任する場合、顧問料とは別個に着手金などの費用が必要となりますが、顧問契約をしているお客様には、費用の割引を実施している事務所が多いようです。
顧問料の範囲に含まれるサービスの内容は、個々の弁護士、個々の顧問契約によって異なりますから、契約にあたっては、よく内容を確認しましょう。
個人事業主が顧問弁護士を選ぶ際、どのような点に注意するべきでしょうか。
顧問弁護士は、普段から細かなことを気軽に相談できる弁護士を選ぶべきです。
相談をするときに、予約の上で事務所に行かなければいけないという場合、日程調整が生じてしまいますし、気軽に相談できません。
顧問弁護士への相談の多くは、わざわざ対面でする必要はなく、チャットツールで足ります。チャットツールで足りるような細かい相談もできる、というのが顧問弁護士の大きな利点だ、と考えることもできます。
チャットツール(最低でもメール)で相談できる弁護士を選ぶことを強くお勧めします。
些細なことを気軽に相談できることが大切ですので、相談者と相性が合う弁護士を選ぶことをお勧めします。
個人事業主の方自身との相性でも結構ですし、普段顧問弁護士に相談するのが従業員の方であれば、その従業員の方と相性の良い弁護士を選ぶべきです。
最後に、個人事業主の顧問弁護士は、中小企業向けの企業法務を多く取り扱っている弁護士が望ましいです。個人事業主は、法人ではないだけで事業を行っていますので、個人事業主に関する相談の多くは企業法務です。
企業法務の中にもとても広い業務領域があり、極めて専門的な法領域に特化している弁護士もいますし、高度に専門的な内容は答えられませんがそれ以外の企業からの相談はなんでも答えます、という弁護士もいます。
大企業の中には、専門分野ごとに相談する弁護士が違う、ということがままありますが、個人事業主にとって必要なのは何でも答えてくれる弁護士です。
そして、中小企業向けの業務を取り扱っている弁護士であれば、何でも答えてくれるはずです。
上原総合法律事務所では、企業法務全般と、いわゆる危機管理領域における高度な専門サービスを提供しています。
顧問先とのコミュニケーションは、チャットツール、メール、電話、zoom、対面でのご相談を、必要に応じて使い分けています。
顧問弁護士をご検討の方は、お気軽にお問い合わせください。
上原総合法律事務所の顧問弁護士の料金についてはこちらをご参照下さい。
弁護士 上原 幹男
第二東京弁護士会所属
この記事の監修者:弁護士 上原 幹男
司法修習後、検事任官(東京地方検察庁、奈良地方検察庁等)。検事退官後、都内法律事務所にて弁護士としての経験を経て、個人事務所を開設。 2021年に弁護士法人化し、現在、新宿事務所の他横浜・立川にも展開している。元検事の経験を活かした弁護活動をおこなっている。
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