起訴猶予とは?元検事の弁護士が不起訴との違いや前科・前歴との関係、起訴猶予処分獲得のポイントについて解説

[投稿日]2024.09.20
[更新日]
弁護士 上原 幹男

弁護士 上原 幹男

第二東京弁護士会所属

この記事の監修者:弁護士 上原 幹男

司法修習後、検事任官(東京地方検察庁、奈良地方検察庁等)。捜査・公判の両面で多数の刑事事件 を担当。検事退官後、都内法律事務所を経て個人事務所を開設。2021年に弁護士法人化し、新宿・ 横浜・立川に展開。元検事(ヤメ検)として、捜査機関の思考・動き方を熟知した立場から、逮捕前 の対応・示談交渉・公判弁護まで一貫してサポートしている。

起訴猶予とは?

起訴猶予とは、検察官が行う終局処分の一つで、「被疑事実が明白な場合において、被疑者の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により公訴を提起しない処分」のことを言います。

言い換えますと、被疑事実、つまり被疑者による犯罪行為は認められるものの、様々な事情を考慮して不起訴とし刑事裁判を求めないこととする処分です。

起訴猶予の根拠となる条文は刑事訴訟法248条で、同条は「犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる」と規定しています。

犯罪行為が認められたとしても必ず起訴されるわけではなく、事件を起訴するかしないかについては検察官の広い裁量に委ねられているのです。

このように、起訴するか不起訴とするかにつき、検察官に裁量を認める制度は「起訴便宜主義」と言われています。

起訴猶予と不起訴の違い・関係は?

不起訴処分とは、検察官の行う終局処分のうち、公訴を提起しない処分のことを広く指します。

不起訴処分となった事件は、基本的に刑事裁判とはならず、刑罰も受けないこととなります。

「起訴猶予」というのは、その不起訴処分の理由の一つです。

不起訴処分には、様々な理由に基づくものがありますが、起訴猶予のほかの主なものとしては、嫌疑不十分(被疑事実につき、犯罪の成立を認定すべき証拠が不十分なときにする処分)嫌疑なし(被疑事実につき、被疑者がその行為者でないことが明白なとき、又は犯罪の成否を認定すべき証拠のないときが明白なときにする処分)が挙げられます。

起訴猶予処分は「被疑者による犯罪行為が認定できるとき」にされる処分である一方、嫌疑不十分や嫌疑なしは「被疑者による犯罪行為を認定すべき証拠が不十分又はないとき」にされる処分であるという点が大きく異なります。

起訴猶予処分は「被疑者による犯罪行為が認定できるとき」にされる処分ですので、被疑事実を認めつつ不起訴を獲得を目指すことができる一方、嫌疑不十分嫌疑なしは、基本的に、被疑事実を認めつつ不起訴を目指すことは困難ということになります。

※不起訴処分(嫌疑不十分)の獲得については嫌疑不十分とは?不起訴となるためのポイントや処分までの流れについて元検事の弁護士が解説の記事もご参照ください。

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起訴猶予は前科・前歴になる?

前科とは

前科とは、一般的に、刑事裁判で有罪判決となり刑が確定した事実をいいます。

令和8年6月30日現在、刑罰の種類としては、死刑、拘禁刑(かつての懲役・禁錮)、罰金、拘留、科料がありますが、これらの刑が確定した場合には、仮にその刑に執行猶予が付されていたとしても前科となります。

罰金科料は、原則として、身柄拘束を伴わない金銭の納付を求める刑ですが、これらの刑が確定した場合にもそれは前科となります

前歴とは

一方、前歴とは、一般的に、警察や検察等の捜査機関から犯罪を犯したと疑われて捜査の対象になった事実をいいます。

逮捕の有無は問いません

前歴は、犯罪を犯したと疑われて捜査の対象となっただけでつくことになりますので、たとえ検察官が不起訴処分としたとしても前歴となります

犯罪行為をしてしまったとき、前歴がつくことを防ぐためには、捜査機関に被害が申告される前に被害者と示談を結ぶなどして、捜査機関の介入を事前に防ぐしかありません

したがって、不起訴処分(起訴猶予を含みます。)とされた場合には、前科はつかないものの前歴はつくということになります。

前科は、各種法律によって資格制限の事由になりますし、前科がある状態で再犯に至った場合、一定の条件で、執行猶予の欠格事由(刑法25条)、累犯加重の事由(刑法56条)となり、通常よりも重い刑が科されることになります。

また、転職活動の際に提出を求められる履歴書の「賞罰欄」には、前歴を記載する必要はありませんが、前科は記載しなければなりません。

申告しなかった場合、経歴詐称として採用後に懲戒処分を下されるおそれがあります

一方、前歴とは、単に捜査の対象となった事実を指すものですので、前歴による法的なペナルティーは設けられていません(なお、捜査機関に記録は残りますので、事実上、前歴があることが検察官が処分を決めるに当たって不利に働くことはあり得ます。)。

以上のとおり、前歴よりも前科の方がはるかに不利益が生じ得るものです(前科がつくということは、当然何らかの刑に処されるということでもあります。)。

捜査対象となった場合には、できる限り不起訴処分を目指し、前科がつかないように活動することが相当と言えます。

起訴猶予処分と前科・前歴の関係

起訴猶予処分となる、ということは、捜査対象となった上で、起訴されず処罰を受けることもなかったということを意味します。

すなわち、起訴猶予となった場合には「前歴はつくが前科はつかない」というのが結論になります。

起訴猶予と執行猶予の違い

起訴猶予とやや似た言葉に「執行猶予」がありますが、起訴猶予とは全く異なります。

執行猶予とは、有罪となり刑罰が科される場合に、その刑の「執行」が猶予される場合をいい、裁判官が判決で執行猶予を付すか、あるいは実刑(実際に刑務所に収監させる)とするかを判断します。

執行猶予が付された場合も有罪判決ですし、前科となります

※執行猶予の獲得については執行猶予を獲得するには?元検事の弁護士が執行猶予となるための弁護活動や条件について解説の記事もご参照ください。

起訴猶予になりやすいケース・パターン

起訴猶予となる割合

令和5年版犯罪白書によれば、令和4年に不起訴処分を受けた人員(過失運転致死傷等及び道交法違反を除きます。)は全体で14万6617人であったところ、そのうち起訴猶予を理由とした不起訴処分を受けたのは10万1437人でした。

起訴猶予が不起訴処分全体に占める割合は69.2%にも及ぶことになります。

ちなみに、2番目に多かったのは、嫌疑不十分又は嫌疑なしを理由とした不起訴処分であり、3万2017人で、全体に占める割合は21.8%でした。

また、起訴された人員及び起訴猶予された人員の合計に占める起訴猶予人員の割合は、64.8パーセントであり、検察官により犯罪行為が認定されたとしても、起訴猶予になる割合は6割を超えています

これらのデータから、不起訴処分の大半が起訴猶予を理由としたものである上、犯罪行為が認定されたとしても起訴猶予により終結する事件が多いことが分かります。

このことからすれば、不起訴処分を目指すに当たっては、「起訴猶予が見込まれる事案なのか」「起訴猶予となるためにはどのような事実が必要なのか」という観点から事案を分析することが必要不可欠と言えます。

起訴猶予となりやすい事案

起訴猶予となりやすい事案の特徴としては

  • 罪名自体が軽微である
  • 被害や犯行態様が軽微である
  • 示談が成立し、被害者が宥恕している(許している)
  • 動機・経緯に酌むべき点がある
  • 既に事実上の制裁を受けている

といったものが挙げられます。

また、

  • 心神耗弱やそれに準ずる状況がある
  • 過剰防衛や過剰避難、正当防衛や緊急避難に準ずる状況などがある

といった事情も比較的起訴猶予という判断に繋がりやすいと言えるでしょう。

いずれにせよ、当該事件の内容や証拠関係を踏まえ、起訴猶予という判断に繋がる事情をもらさずピックアップして適切に主張すること、可能であれば示談をすること(示談の内容も有利に斟酌されるものとすること)などが重要となってきます。

起訴猶予となりやすい人物像・被疑者像

起訴猶予となるか否かの判断には、事件そのものや被害者の意向などのほか、被疑者の俗人的な要素も影響します。

例えば

  • 前科・前歴がない/乏しい
  • 若年である
  • 指導監督してくれる家族等がいる
  • 安定した職業や社会的立場、家庭を有している
  • 育児や介護など、社会内で果たすべき役割が大きい

などといった特徴は、内容によって軽重こそあれ、基本的には起訴猶予となる方向に働く事情と考えられます。

共通しているのは、更生の可能性や再犯のおそれという点に影響しうる事情であるということです。

犯罪傾向が進んでいないほうが更生の可能性は大きいでしょうし(このことを可塑性に富む、などともいいます。)周囲の監督等がある場合や、本人に果たすべき役割や守るべきものがある場合のほうが再犯のおそれは低いであろうという発想は理解しうるかと思います。

この点も、起訴猶予に向けて斟酌されるべき事情を適切に主張することが必要ですし、更生や再犯防止のための環境を整備するとともに証拠化することも必要となってきます。

起訴猶予になるまでの流れ

在宅事件の場合

在宅事件であれば警察が一定の捜査を終えた時点で検察に事件が送致され、多くの場合は検察官による被疑者の取調べや一定の補充捜査などが行われます

こういった捜査が遂げられ、起訴するか否かの判断しうる状況が整った段階で、被疑事実は認定できるものの処罰するまでの必要はないと判断された場合には起訴猶予処分となります。

在宅事件の場合、明確な期限等は基本的になく、いつまでに処分が決まるかは必ずしも明らかではありませんし、検察官の繁忙度等によってもスケジュール感は変わってきます。

強いて言えば、異動等の前までには処理すべきといった事実上影響しうるような事情はあるものと考えられます。

身柄事件(逮捕・勾留された事件)の場合

身柄事件については、検察への送致や勾留請求までの時間制限があるほか、勾留も延長含め20日までと明確な制限があります(なお、再逮捕等の可能性はあります。)。

この場合、検察官は基本的に勾留の満期(実際には決裁や手続の問題もあるため、やや前倒しの判断になります。)までに起訴するか否かを判断します

公判請求する場合には勾留満期までに起訴して被告人としての勾留が続くことがほとんどですが、起訴猶予とする場合には処分保留で釈放され、後日あらためて起訴猶予となるという扱いが一般的です。

なお、いったん起訴されてしまった場合には、その後に示談が成立するなどしてもまずもって公訴は取り消されるようなことはありませんので、起訴不起訴が決まる前までに迅速に対応することが必要です。

起訴猶予となったかはどうすれば分かる?

身柄、在宅のいずれについても、起訴猶予になったことは検察から積極的に知らせてはくれないのが一般的です。

方向性がかなり固まっている場合には、最後の取調べの際に不起訴とする見込みであることを告げられることもありますが、その場合もいつ実際に不起訴になったかなどは分かりません。

不起訴となったかを確認した場合には、弁護人から検察に対し問い合わせてもらうのが一番確実でしょう

また、求めれば「不起訴処分告知書」という、不起訴とした旨の書面の発行を受けられます。

起訴猶予を獲得するためのポイント

起訴猶予の根拠となる条文は刑事訴訟法248条ですが、同条は「犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる」と大まかな基準を規定するのみで、具体的にいかなる基準で起訴猶予にするのかについては検察官の広い裁量に委ねられています。

検察官は、個々の具体的事件に応じ様々な事情を考慮して起訴猶予にするのか否かを判断していますので、どのような点が起訴猶予を獲得するためのポイントとなるかについて一概に述べることは困難ですが、基本的には、被害の大きさ、被害者の処罰感情の大きさ、被害弁償の有無、前科前歴の有無、反省の態度の有無などが考慮されます。

以下、具体的なポイントについて解説していきます。

弁護士を介して被害者と示談交渉をする

窃盗や傷害、痴漢や盗撮、あるいは不同意性交等や不同意わいせつなど、被害者のいる事件については、示談は非常に大きなポイントとなります。

被害者との示談交渉は、被害者は基本的に被疑者本人と連絡をとるのを拒みますし、示談交渉自体がトラブルの種になりかねず、被疑者本人で行うことはまずもって困難です

しかし、弁護人であれば、被害者が警戒を解いて連絡をとってくれる可能性は高いですし、捜査機関に被害者の意向確認を打診し、捜査機関は、被害者の承諾を得られればその連絡先を開示してくれます

示談の成否はもちろん、示談の内容として、被害者の宥恕が得られているか(許されているか)具体的な意向示談金の額や支払条件その他の条件等も起訴猶予となるかについて影響しうる事情です。

示談するのであれば、その内容も検察に斟酌されるであろう内容となっているかについても留意が必要であり、検察の考え方なども理解した弁護人のサポートを得ることが望ましいでしょう。

事件の特徴、内容を踏まえた的確な主張をする

起訴するか起訴猶予とするかについては、幅広い事情が影響します。

しかし、思いつく事情を手あたり次第に主張しても検察官の判断に強い影響を及ぼせるとは限りません。

弁護人の意見書等の中には、「犯行態様は悪質でない」「結果は軽微である」「動機や経緯に酌むべき事情がある」「反省していて再犯のおそれはない」などと、どんな事件でも定型的に主張しているだけではないかとも思えるようなものもありますし、こういった主張は効果的とは言えません。

事案によっては、犯行態様の悪質さは認めつつ、先行する被害者の落ち度が大きく経緯には酌むべき点があるといった主張をすべき場合もあるでしょうし、結果の重大性は争わず、偶然の事情も絡んで結果が拡大したという事情を協調すべき場合もあるでしょう。

結局のところ、まさにその事件の内容や証拠関係に応じた、的確な主張をピックアップするとともに、説得的かつ検察官の判断に影響しうるような形で主張する必要があるのです。

そのためには、苦し紛れにこじつけたりするのではなく、反省すべき点は認めつつ、被疑者にとって斟酌されるべき事情を取捨選択しなくてはなりません

検察官は、起訴猶予とする場合には、そのように判断する事情を挙げた上、上司(次席検事や副部長など)の決裁を受けます。

そのような具体的な手続も念頭に置きつつ、検察官が不起訴にしやすいような事情を揃え、提示するという観点も重要であり、こういった視点も有する弁護人のサポートは非常に有用です。

証拠関係等も踏まえた主張をする

起訴猶予処分は、被疑事実(被疑者が犯罪をした事実)は証拠上認定できることが前提となる処分です。

しかしながら、実質的には証拠上、立証上の問題があるか否かといった点も起訴猶予処分となるか否かに影響することがあります。

中には、立証にやや難があることを主たる理由とするような起訴猶予(嫌不的起訴猶予、嫌疑不十分的起訴猶予などと言われることもあります。)もありえますし、供述調書等は存在するものの、被害者や参考人の証人出廷にハードルがあることなどが考慮される場合もあります。

被疑事実を争う場合、嫌疑不十分や嫌疑なしを想定した主張をなすことが王道ではありますが、いわば嫌疑不十分と起訴猶予の折衷的な処分もありうることも念頭に置いておかなくてはなりません。

また、犯罪として成立はするものの、過剰防衛や過剰避難となる場合、厳密には要件は満たさないものの正当防衛や過剰防衛に近い状況がある場合心神耗弱となる場合やそれには至らないまでも精神疾患等が犯行に一定の影響を与えたと考えられる場合自首ないし自主的な出頭と評価できる場合など、単なる情状としてではなく、事実や評価レベルで主張すべき事情がある場合もあり、事実関係や証拠関係も的確に踏まえた主張を検討すべきでしょう。

更生・再犯防止の環境等を整える

起訴猶予とするか刑事処罰を与えるかという判断においては、「処罰がなくとも十分に更生できるか、再犯に及ばないか」という面も考慮されます。

前提として前科前歴や事件の内容から犯罪傾向や常習性等も判断されるほか、更生や再犯防止のための状況が整っているかも重要です。

この点、事実関係を争わないケースでは、ほぼ全ての被疑者が「反省している」「もう絶対にしない」などと言います。

しかし、検察官は、そのように述べていた被疑者が実際には再犯を繰り返す場合があることを経験として知っており、ただ「常習性はないし、反省していて再犯のおそれはない、更生の意欲がある」などと主張するだけでは響きません。

時には常習性や依存性、衝動を抑えがたい面があることなどを認めつつ(むしろ被疑者が自分自身の問題を把握することこそが更生の出発点となるケースもあります。)、これに対処する方策(専門機関の治療など)を行っていることを主張すべき場合もありますし、そこまでではなくとも、家族の指導や一定の行動制限など、具体的な対策を伴った主張の方がより説得的といえるでしょう。

事件の内容等は事後的にはどうすることもできませんが、環境整備等は事後的に行うことができます

事件の内容や被疑者自身の問題も踏まえた上で、処罰まではせずとも更生できるだろう再犯はしないだろう検察官が評価するような環境を整え、主張することが肝要です

解決事例

弊所においては、

などの解決事例を有しております。

これらの解決事例はほんの一部であり、弊所は起訴猶予に向けた弁護活動をすることで、多くの事件を解決に導いてきました。

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上原総合法律事務所は、元検事8名を中心とした弁護士集団で、迅速にご相談に乗れる体制を整えています。

所属弁護士全員が刑事事件について熟知し独自のノウハウを有しており、具体的な事案につき「起訴猶予の獲得を目指せる事案なのか「目指せる事案だとして起訴猶予を獲得するためにどのような事情が必要なのか」をアドバイスすることが可能です。

弊所は、これまで「罪を犯してしまったが示談等して事件をなるべく穏便に解決させて再出発したい」「事実を争うつもりはないが、捜査機関に事情をわかってもらって不起訴としてほしい」といった方々の弁護をし、多くの事件を解決に導いてきました

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