公開日:2024年8月22日
この記事では、元検事の弁護士が、保釈の際に必要となる「保釈金」について、その金額や返還の可否、さらに没収される可能性やその条件など基本的な知識とともに実務におけるポイントを解説します。
Contents
保釈金とは、刑事事件において被告人が裁判所から保釈を許可された後、被告人が実際に身柄を解放される前に、納める金銭のことを指します。
正確には「保釈保証金」といいます。
保釈は、刑事訴訟法に基づく制度であり、被告人が一定の条件を満たすことで認められるものです。
保釈金は、裁判所に納付される保証金であり、被告人が保釈中に裁判所が指定した条件を遵守した場合、裁判終了後に返還されます。
ただし、条件に違反した場合や逃亡した場合には、保釈金が没収される可能性があります。
逮捕勾留された場合にどうやったら釈放されるのかについて詳しくはこちらをご参照ください。
保釈が認められるタイミングは、「起訴後」です。
逮捕され、検察官によって起訴されると、弁護側は裁判所に対して保釈の申請を行うことができます。
起訴前には、検察官の判断により釈放されることがありますが、これは「保釈」とは異なります。
起訴とは何か、被告人が執行猶予を得るためにするべき裁判の準備について詳しくはこちらをご参照ください。
起訴後、裁判所は、弁護人からの「保釈許可申請」を受けて、被告人を保釈してもよいかの判断をします。
この判断は、大まかに言うと「もし被告人を保釈したら、逃亡したり、証拠隠滅することはないか」という観点から決定されます。
この証拠隠滅には、物的な証拠を隠したり、壊してしまうこと以外にも、事件関係者と口裏合わせをして虚偽の事実を述べさせることも該当します。
したがって、まだ逮捕されていない共犯者がいるという事情や存在するはずの証拠がまだ見つかっていないという事情(たとえば殺人事件で使われた包丁がまだ未発見であるなど)があれば、保釈はされにくくなるという関係にあります。
これに対し、被告人が犯行を認めており、家宅捜索や犯罪現場の捜索などの捜査によって、客観的な証拠がすでに捜査機関によって収集されていて、関係者からの話も全て聞き終えているような場合には、被告人による証拠隠滅の可能性は低いと判断され、保釈がされやすい傾向にあります。
また、被告人に同居の家族がいる人(特に扶養家族がいる場合)や、社会的地位がある人などは、家族やその地位を捨てて逃亡してしまうことはないだろうと考えられるので、住居不定無職の方に比べて保釈されやすいという傾向にあります。
他にも、親などの同居親族が、被告人の裁判への出頭を誓約しているなどの事情も保釈がされやすい一つの事情になります。
弁護人からの保釈申請が行われると、裁判所は、起訴をした検察官に対して、当該被告人を保釈することについての意見を求めます。このことを「保釈求意見」と言います。
検察官は、当該被告人について
・保釈するべきでないと考える場合は「保釈不相当」
という意見を返します。
より強い意見を記載する場合「保釈は不相当であり、直ちに却下すべきである。」などと意見する場合もあります。
裁判所は、検察官の意見も踏まえて保釈の可否についての判断を下します。
検察官は、被告人の保釈についてかなり厳しく判断しますので、「保釈してもいい」という意見を述べることはあまりありません。
ですから、仮に検察官が反対したとしても、裁判官が保釈せざるを得ないくらい、保釈すべき事情を説得的に記載した保釈許可申請書を作成・提出する必要があるということになります。
裁判所が、被告人を「保釈」をすることを認める場合には、裁判所は被告人の経済状況や事件の性質、社会的地位などを総合的に考慮して保釈保証金の額を決めます。
保釈保証金は、被告人が逃亡するなどした場合には没収されることがあります。
したがって、被告人が「保釈保証金が没収されるリスクを犯してまで、逃亡や証拠隠滅はしたくない。」と思う程度の金額である必要があります。
一般的に、保釈金の相場は数百万円というところです。
ただし、被告人の経済状況や事件の性質等によっては保釈保証金が数千万円から数億円に達することもあります。
超大金持ちであれば「数百万の保釈保証金が没収されることなんてかまわないから逃げてしまおう。」と考えるかもしれませんし、時価3億円の宝石を盗んだ泥棒は、数百万円の保釈保証金が没収されたとしても盗んだ宝石が捜査機関に発見されなければ、3億円の利益を得ることができるので、盗んだ宝石をどこかに隠すという証拠隠滅をするかもしれません。
そのようなことがないように、被告人の経済状況や事件の性質等を考慮して、保釈保証金が高額になることもあるのです。
ちなみに過去、保釈保証金として20億円という金額が定められたこともありましたし、かの有名なカルロス・ゴーン氏の事件では、保釈保証金は計15億円でした。
一般的な事件であれば、保釈保証金は数百万円になることが多いです。
保釈金が高額で、被告人やその家族が支払うことが困難な場合には、「保釈支援協会」などの団体が保釈金の立替えを行う制度を利用することができます。
このような支援を受けることで、経済的に困難な状況にある被告人でも、保釈が可能になる場合があります。
ただし、保釈金の支援を利用するには審査をクリアする必要がありますし、手数料を支払わなければいけません。
また、当然ですが、立替えを受けた保釈金は、裁判終了後に返還されると同時に、支援協会に返済しなければなりません。
保釈許可決定が出たとしても、裁判所が定めた保釈保証金を支払った後でなければ、被告人が実際に「保釈」されることはありません。
保釈保証金は、特に何の問題も生じなければ、最終的には返ってきます。
しかし、一部の場合には、没収され、返金されないことがあります。
このことを法律上、保釈保証金の「没取」といいます。
被告人が保釈中に逃亡せず、また証拠隠滅などの行為を行わなかった場合、つまり保釈保証金が没取されなかった場合には、保釈保証金は裁判終了後に返還されます。
保釈保証金が返還されない(没取される)主な理由は
②判決確定後、執行のための呼出に応じないまたは逃亡した場合
以下、詳しく説明します。
保釈が取り消されるのは以下のような場合です。
被告人が保釈中に裁判所の呼び出しに応じないときのことを指します。
逃亡した場合または逃亡する準備をしていることが発覚した場合等です。
前記のカルロス・ゴーン氏は逃亡してしまったので、15億円の保釈保証金は没取されました。
被告人が保釈中に証拠を隠滅する行為を行った場合、または証拠隠滅をしようとしていた場合等のことを指します。
被告人が事件の関係者に対して、脅迫するなどした場合がこれに当たります。
保釈の際に、裁判所は、被告人が住む住居を限定することや、その他の条件(例えば特定の人に会うことを禁じるなど)を付すことがあります。
これらの条件に違反したときにも保釈が取り消される可能性があります。
ただし、法律は「保釈を取り消す場合には、裁判所は、決定で保証金の全部又は一部を没取することができる。」と定められています。
以上の場合であっても、必ず保釈が取り消されるわけではありませんし、保釈が取り消されたとしても必ず保釈保証金が没取されるわけではありません。
たとえば、裁判所から、「保釈中は親と一緒に実家で生活するように」という条件を伏せられていた場合に、誤って「裁判所に無断で二泊三日の旅行に一回行った」くらいで保釈が取り消されて保釈保証金が没収されるという可能性はそう高くはありません。
※ とはいえ可能性は0ではありませんし、保釈が取り消される可能性もあるので、旅行をしたい場合には必ず事前に裁判所の許可を得るべきです。
事案にもよりますが、お盆に実家に帰省する等の旅行は許可が下りることが多いです。
なお、保釈の条件に違反してしまった場合、弁護士が適切に事情を説明して交渉することで保釈金没取を避けられることがあります。
保釈された被告人の裁判が終結し、被告人に有罪判決がでてその判決が確定すると(控訴等されずに一定期間経過した場合判決が確定します。)、被告人はその刑の執行を受けることになります。
被告人が刑の執行のための呼び出しを無視したり、逃亡した場合は、検察官の請求により保釈金の全部または一部が没取されます。
この没取は、①の場合と異なり、「保証金の全部又は一部を没取しなければならない。」と定められています。
保釈保証金を没取されると、その金額は返還されず、被告人やその家族にとって大きな経済的損失となります。
なお、「没取」された場合には、保釈保証金は、国庫に帰属します。
保釈金が返還されるタイミングは、裁判が全て終了し、判決が確定した後です。
具体的には、判決の言い渡しの日の翌日から14日後までに、被告人、検察官双方が控訴しなければ判決が確定します。
そして、判決が確定した後、(前記のとおり、執行のための呼出しに応じ、逃亡などしなければ)保釈金は返還されます。
通常、判決が確定したあと数日で返還されますが、裁判所によって返還時期が異なることがあります。
保釈金は、被告人が裁判中に一時的に自由を得るための重要な手段ですが、その金額や返還条件、没収のリスクについては十分に理解しておく必要があります。
特に、保釈中に被告人がどのような行動を取るかが、最終的に保釈金が返還されるか否かに大きく影響します。
保釈を申請する際には、弁護士に相談し、適切な対応を取ることが求められます。
上原総合法律事務所は、元検事8名(令和6年8月7日現在)を中心とする弁護士集団で、迅速にご相談に乗れる体制を整えています。
刑事事件に関するお悩みがある方は、お気軽にご相談ください。経験豊富な元検事の弁護士が、迅速かつ的確に対応いたします。
弁護士 上原 幹男
第二東京弁護士会所属
この記事の監修者:弁護士 上原 幹男
司法修習後、検事任官(東京地方検察庁、奈良地方検察庁等)。検事退官後、都内法律事務所にて弁護士としての経験を経て、個人事務所を開設。 2021年に弁護士法人化し、現在、新宿事務所の他横浜・立川にも展開している。元検事(ヤメ検)の経験を活かした弁護活動をおこなっている。
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