ハラスメントとは|判断基準や労災認定基準などを元検事の弁護士が解説
上原総合法律事務所では、顧問先企業等から、ハラスメントについてご相談をいただきます。
昨今では多種類のハラスメントが定義されており、企業としては、これらに適切な対応をしていくと、とてもコストがかかります。
また、ハラスメントが発生したと判断すべきなのか迷う局面もあります。
ですが、パワハラをはじめとするハラスメントが存在する可能性を認識したら、放置しておくことは危険です。
ハラスメントは、労働災害や労働者の離職などの原因となり、会社にとって深刻な不利益をもたらしかねません。社内におけるハラスメントの発生をできる限り防止するとともに、万が一、ハラスメントが発生した可能性を認識した場合には、適切な事故対応に努める必要があります。
本記事ではハラスメントの種類とともに、会社において特に注意すべきハラスメントであるいわゆるパワハラについて、定義・判断基準・類型を説明するとともに、ハラスメントを受けた労働者が精神障害を負った場合の労災認定基準などを解説します。
セクハラ・マタハラ及びハラスメントを放置した場合のリスクについて詳しくはこちらをご参照ください。
セクハラ加害者に対する処分の方法について詳しくはこちらをご参照ください。
1. ハラスメントとは
「ハラスメント」とは、相手に対して肉体的または精神的な苦痛を与えて苦しめる行為をいいます。
1-1. ハラスメントの種類
ハラスメントにはさまざまな種類があります。以下に挙げるのは、近年問題になっているハラスメントの一例です。
- ①パワーハラスメント(パワハラ)
職場における優越的な関係を背景に行われるハラスメントです。
- ②セクシャルハラスメント(セクハラ)
職場において行われる、性的な言動を内容とするハラスメントです。
- ③マタニティハラスメント(マタハラ)
妊娠・出産・育児休業などに関連して行われるハラスメントです。
- ④モラルハラスメント(モラハラ)
精神的な嫌がらせを内容とするハラスメントです。職場のほか、夫婦間でもよく問題になります。
- ⑤ジェンダーハラスメント
性別に関する固定観念や役割分担意識に基づいたハラスメントです。
- ⑥スモークハラスメント
喫煙に関するハラスメントです。タバコの煙やにおいで非喫煙者に不快な思いをさせたり、非喫煙者に喫煙を強制したりする行為が該当します。
- ⑦スメルハラスメント
体臭・口臭・香水などによって不快な臭いをまき散らすハラスメントです。
- ⑧アルコールハラスメント(アルハラ)
お酒に関するハラスメントです。飲酒強要や飲み会への参加を強制することなどが該当します。
- ⑨テクノロジーハラスメント
ITに関する知識に乏しい人に対して行われるハラスメントです。
- ⑩リモートハラスメント
リモートワークに関連して行われるハラスメントです。オンライン会議の際に映ったプライベートな状況をからかったり、部下を過剰に監視したりする行為が該当します。
- ⑪音ハラスメント
不快な騒音を出すハラスメントです。
- ⑫ロジカルハラスメント
不必要に相手を論破しようとして不快な思いをさせるハラスメントです。
- ⑬マリッジハラスメント
結婚していない人を揶揄するハラスメントです。
- ⑭パタニティハラスメント
育児休業を取得する男性労働者に対するハラスメントです。
- ⑮リストラハラスメント
リストラの対象者に対して行われるハラスメントです。自主退職に追い込むために仕事を与えない、他の労働者との交流を断つなどの行為が該当します。
- ⑯カスタマーハラスメント(カスハラ)
顧客が店舗や会社の従業員に対して理不尽な要求をするハラスメントです。
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1-2. 事業主のハラスメント防止措置義務
事業主は、いわゆるパワハラ・セクハラ・マタハラについて、職場におけるこれらのハラスメントの発生を防止するため、雇用管理上必要な措置を講じる義務を負います(「パワハラ・セクハラ・マタハラについて」/労働施策総合推進法30条の2第1項、男女雇用機会均等法11条1項、11条の3第1項)。
ハラスメント防止措置を講じるに当たっては、厚生労働省が公表している指針を参考にしましょう。たとえばパワハラ防止指針では、以下の措置を講じることが求められています。
- ①事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
- ②相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
- ③職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
- ④①~③の措置と併せて講ずべき措置
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参考:
事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000605661.pdf
2. パワハラ(パワーハラスメント)について
会社がもっとも対策に力を入れるべきハラスメントの一つが「パワハラ」です。パワハラについて、定義・判断基準・類型を解説します。
2-1. パワハラ(パワーハラスメント)の定義・判断基準
パワハラに該当するのは、以下の3つの要件を満たす行為です(労働施策総合推進法30条の2第1項)。
- ①優越的な関係を背景とした言動であること
(例)上司対部下、集団対個人、専門的知識のある労働者対そうでない労働者
- ②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであること
※教育等の観点から必要な指導であれば、パワハラに当たらない
- ③労働者の就業環境が害されること
※平均的な労働者の感じ方を基準に判断する
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特に②の「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」であるかどうかについては、厚生労働省のパワハラ防止指針において、以下の要素を考慮すべき旨が示されています。
- (a)当該言動の目的
- (b)当該言動が行われた経緯や状況(当該言動を受けた労働者の問題行動の有無や内容・程度を含む)
- (c)業種・業態
- (d)業務の内容・性質
- (e)当該言動の態様・頻度・継続性
- (f)労働者の属性や心身の状況
- (g)(言動を受けた労働者と)行為者との関係性
など |
2-2. パワハラ(パワーハラスメント)の6類型
厚生労働省のパワハラ防止指針では、パワハラの類型として以下の6つが示されています。
- ①身体的な攻撃
暴行および傷害行為を意味します。
(例)殴る、蹴る、物を投げつける
- ②精神的な攻撃
脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言を意味します。
(例)人格を否定するような言動、必要以上に長時間にわたる厳しい叱責、他の労働者の面前での威圧的な叱責、他の労働者にも届くように罵倒する内容のメールを送信する
- ③人間関係からの切り離し
隔離・仲間外れ・無視を意味します。
(例)仕事から外して長期間にわたり別室に隔離する、集団で無視して職場で孤立させる
- ④過大な要求
業務上明らかに不要なことや、遂行不可能なことを強制する行為を意味します。
(例)高すぎる目標を課して未達となった際に厳しく叱責する、私的な雑用(お茶くみなど)をさせる
- ⑤過小な要求
業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じる行為や、仕事を与えない行為を意味します。
(例)退職させる目的で管理職経験者に簡単すぎる業務を行わせる、気に入らない労働者に対して仕事を与えない
- ⑥個の侵害
私的なことに過度に立ち入る行為です。
(例)職場外でも継続的に監視する、私物の写真を撮影する、労働者の了解を得ずに性的指向や性自認などを暴露する
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3. ハラスメントと労災認定基準
ハラスメントの結果として労働者が精神疾患を発症してしまった場合、労災として取り扱われることがあります。
悪質なハラスメントを受けた労働者は、精神疾患を発症するリスクが高まると考えられています。
厚生労働省が公表している精神障害(精神疾患)に関する労災認定基準では、対象疾病の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められることが労災認定の要件とされています。
ハラスメントに関しては、以下の事情が認められる場合には、心理的負荷の評価を「強」とする旨が示されています。
- ①パワハラ・モラハラ関連
- ・部下に対する上司の言動が、業務指導の範囲を逸脱しており、その中に人格や人間性を否定するような言動が含まれ、かつ、これが執拗に行われた場合
- ・同僚等の多人数が結託して、人格や人間性を否定するような言動が執拗に行われた場合
- ・治療を要する程度の暴行を受けた場合
- ・左遷された(明らかな降格であって配置転換としては異例なものであり、職場内で孤立した状況になった)場合
- ・非正規社員に対する仕事上の差別、不利益取扱いの程度が著しく大きく、人格を否定するようなものであって、かつこれが継続した場合
- ・客観的に、相当な努力があっても達成困難なノルマが課され、達成できない場合には重いペナルティがあると予告された場合
- ②セクハラ関連
- ・強姦や、本人の意思を抑圧して行われたわいせつ行為などのセクシュアルハラスメントを受けた場合
- ・胸や腰等への身体接触を含むセクシュアルハラスメントが継続して行われた場合
- ・胸や腰等への身体接触を含むセクシュアルハラスメントを受け、行為は継続していないが、会社に相談しても適切な対応がなく改善されなかった、または会社への相談等の後に 職場の人間関係が悪化した場合
- ・身体接触のない性的な発言のみのセクシュアルハラスメントを受け、発言の中に人格を否定するようなものを含み、かつ継続してなされた場合
- ・身体接触のない性的な発言のみのセクシュアルハラスメントであって、性的な発言が継続してなされ、かつ会社がセクシュアルハラスメントがあると把握していても適切な対応がなく、改善がなされなかった場合
など |
参考:
心理的負荷による精神障害の認定基準について|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001z3zj-att/2r9852000001z43h.pdf
4. まとめ
ハラスメントについては、上記の他、会社が注意すべきポイントがたくさんあります。
上原総合法律事務所では、労働問題に詳しい弁護士が、ハラスメント対応に関する企業からのご相談をお受けしています。
専門家にご相談いただくことで、今後の対応がはっきりしたり容易になったりするはずです。
お困りの方は、お気軽にご相談ください。
セクハラ・マタハラ及びハラスメントを放置した場合のリスクについて詳しくはこちらをご参照ください。
セクハラ加害者に対する処分の方法について詳しくはこちらをご参照ください。
この記事の監修者:弁護士 上原 幹男
司法修習後、検事任官(東京地方検察庁、奈良地方検察庁等)。検事退官後、都内法律事務所にて弁護士としての経験を経て、個人事務所を開設。
2021年に弁護士法人化し、現在、新宿事務所の他横浜・立川にも展開している。元検事(ヤメ検)の経験を活かした弁護活動をおこなっている。
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