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弁護士 上原 幹男
第二東京弁護士会所属
この記事の監修者:弁護士 上原 幹男
司法修習後、検事任官(東京地方検察庁、奈良地方検察庁等)。検事退官後、都内法律事務所にて弁護士としての経験を経て、個人事務所を開設。 2021年に弁護士法人化し、現在、新宿事務所の他横浜・立川にも展開している。元検事(ヤメ検)の経験を活かした弁護活動をおこなっている。
「相手から突然殴りかかってきたので、身を守るために突き飛ばしたら怪我をさせてしまった」 「家族を守るために必死で相手を制圧したのに、なぜか自分だけが警察から取調べを受けた」
自分や大切な人の身を守るために「やむを得ず反撃した」にもかかわらず、警察から暴行罪や傷害罪の疑いをかけられ、納得がいかない・理不尽だと強い不安を感じていませんか?
法律には、違法な攻撃から自分や他の人の権利を守るための行為を犯罪としない「正当な防衛(正当防衛)」という制度があります。
しかし、実際には、先に手を出された側であっても「お互いに暴力を振るい合った(喧嘩)」として、逮捕・起訴されてしまうケースもあります。
また、実際の刑事事件では、「本当に正当防衛なのか」「過剰防衛ではないのか」が争点になるケースも少なくありません。
この記事では、正当防衛の意味や成立要件、過剰防衛との違い、実際に問題になりやすいケースなどについて、元検事(ヤメ検)の弁護士がわかりやすく解説します。
※傷害罪についてはこちら(傷害事件の弁護活動について元検事の弁護士が解説|上原総合法律事務所)の記事もご参照ください。
※暴行罪についてはこちら( 暴行について元検事の弁護士が解説|上原総合法律事務所)の記事もご参照ください。
目次
第1 正当防衛の基本概念と「無罪」になる理由
正当防衛とは、違法な侵害から自分や他人を守るため、やむを得ず行った行為について、違法性が否定される制度です。
刑法36条1項では
急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない
と定められています。
例えば
- 殴られそうになったため、自分の身を守ろうと相手を押し返した
- 刃物で襲われそうになり反撃した
- 家族に対する暴力を止めるため相手を制止した
といったケースでは、正当防衛が成立する可能性があります。
正当防衛が成立した場合、その行為は違法ではないと評価されるため、犯罪自体が成立しません。
そのため、捜査段階で正当防衛だとうかがわれる場合には不起訴(嫌疑不十分等)になりえますし、裁判で正当防衛と認められた場合には無罪になります。
※不起訴(嫌疑不十分)の獲得についてはこちら(嫌疑不十分とは?不起訴となるためのポイントや処分までの流れについて元検事の弁護士が解説|上原総合法律事務所)の記事もご参照ください。
※無罪の獲得についてはこちら( 無罪を勝ち取りたい|上原総合法律事務所)の記事もご参照ください。
もっとも、「自分を守るためだった」と主張すれば、必ず正当防衛が認められるわけではありません。
実際の刑事事件では
- 本当に危険があったのか
- 防衛のためだったのか
- 反撃が行き過ぎていないか
などが厳しく検討されます。
そのため、正当防衛が問題となる事件では、証拠関係や当時の状況整理が非常に重要になります。
第2 正当防衛が成立するための要件
実務上、正当防衛が認められるためには、以下の4つの要件をすべて満たす必要があります。
① 急迫不正の侵害
── 今まさに危険が迫っているか
② 防衛の意思
── 報復ではなく「守るため」か
③ 必要性
── 反撃するほかに手段がなかったか
④ 相当性
── 反撃が行き過ぎていないか
順に見ていきましょう。
1 急迫不正の侵害が存在すること
正当防衛が成立するためには、まず「急迫不正の侵害」が必要です。
これは
- 急迫性
- 不正性
- 侵害行為
の3つを意味します。
「急迫」とは、危険が現実に差し迫っていることをいいます。
例えば
- 今まさに殴りかかられている
- ナイフを向けられている
- 暴行が始まろうとしている
という状況であれば、急迫性が認められる可能性があります。
一方で、
- 将来的に危害を加えられそう
- 以前トラブルがあった
- 文句の言い合いになっている
という程度では、通常は急迫性が認められません。
さらに、相手を執拗に挑発した結果、暴力を振るわれそうになったような場合についても、自ら侵害行為を招いた(自招侵害などと言われます。)として、急迫性が否定されて正当防衛とはならないことがあります。
また、「不正の侵害」である必要もあります。
つまり、相手の行為が違法でなければなりません。
例えば、警察官による適法な逮捕行為に対して暴力で抵抗した場合、原則として正当防衛は成立しません。
なお、不正ではない危険が迫っている場合に、自分や他人の権利を守るために行動し、それによって害が生じたといった場合については、正当防衛ではなく緊急避難(刑法37条1項)により違法性が否定される可能性があります。
2 防衛の意思が明確であること
正当防衛が成立するには、「自分や他人を守るため」という防衛意思が必要です。
単なる仕返しや怒りによる暴力では、正当防衛は認められません。
例えば
- 危険を回避するために反撃した
- 相手の攻撃を止めるために押し返した
という場合には、防衛意思が認められる可能性があります。
一方で、
- 以前から恨みがあった
- 腹が立ったのでやり返した
- 相手を懲らしめたかった
という事情が強い場合には、防衛意思が否定されることがあります。
攻撃を受けたといった場合には、それに対する怒りの感情などもあって当然であり、防衛の意思と怒りなどが併存していても防衛意思はあると判断されるのが通常ですが、攻撃を受けたのに乗じて積極的に害を加えてやろうという意思(積極的加害意思などと言います。)のみで攻撃した場合には、防衛意思が否定される可能性もあります。
もっとも、防衛意思については内心の問題ですし、先述のとおり怒りや加害意思と併存しているような場合もあって判断は難しく、実際の事件では、当時の発言や行動、暴行の態様などから総合的に判断されます。
3 防衛行為の必要性があること
防衛行為には必要性が求められます。
つまり、危険を回避するために一定の反撃が必要だったといえることが重要です。
例えば
- 相手に押さえつけられたため振り払った
- 殴られたため防御した
といった行為には必要性が認められる可能性があります。
しかし
- 逃げられる状況だったのにあえて留まって反撃した
- 相手の攻撃が止まっていた
- 反撃しなくてもおよそ危険がなかった
という場合には、防衛行為の必要性が否定される可能性があります。
刑事事件では、「本当に反撃する必要があったのか」が重要な争点になることが少なくありません。
4 防衛行為の相当性について
正当防衛では、防衛行為の内容が相当である必要があります。
つまり、相手の攻撃に対して、防衛手段が行き過ぎていないことが求められます。
例えば
- 軽く押された程度なのに刃物で反撃した
- 相手を制圧した上、そのまま骨を折るなどした
という場合には、相当性が否定される可能性があります。
防衛行為の相当性は
- 攻撃の危険性
- 使用された道具
- 力の差
- 当時の緊迫状況
などを総合的に考慮して判断されます。
現実には、突然襲われた場面で冷静な判断をすることは容易ではありません。
そのため、裁判では当時の状況を具体的に検討したうえで判断されます。
急迫不正の侵害に対し、防衛行為を行ったものの、相当性を欠く過剰なものであったという場合には、次に説明する過剰防衛が問題となります
第3 正当防衛が認められないケース
1 過剰防衛とは何か
上記4つの要件のうち、①〜③の要件は満たしているものの、④の相当性が認められる限度を超えて、行き過ぎた反撃をしてしまった場合を「過剰防衛」と呼びます。
刑法36条2項は
防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる
と定めており、過剰防衛(防衛の程度を超えた行為)について刑の減軽または免除ができるとされています。
つまり、過剰防衛では完全に無罪になるわけではありません。
あくまで裁判官の判断で、刑が軽くなったり、免除される可能性がある、ということです。
【過剰防衛と判断されやすい典型例】
- 相手が攻撃をやめて倒れ込んだり、逃げ出したりしているのに、執拗に追撃を加えた
- 相手は素手なのに、こちらは即座に危険な凶器を使って大怪我をさせた
もっとも、突然の襲撃によって強い恐怖や混乱状態にあった場合には、その事情が考慮されることもあります。
また、過剰防衛となってしまう場合であっても、起訴するか否かの段階で、その他の事情なども考慮して起訴猶予という形で不起訴となる可能性もあります。
※不起訴(起訴猶予)についてはこちら( 起訴猶予とは?元検事の弁護士が不起訴との違いや起訴猶予獲得のポイントを解説|上原総合法律事務所 )の記事もご参照ください。
2 誤想防衛・誤想過剰防衛
法律上のやや複雑な問題として、「誤想防衛」や「誤想過剰防衛」と呼ばれる状況があります。
誤想防衛とは、客観的には正当防衛の成立要件を満たしていないのに、満たしていると誤信して防衛行為に及んだ場合をいいます。
例えば、ハイタッチしようとしていただけなのに殴られると誤信して相手を突き飛ばした場合などが考えられます。
誤想防衛の場合、正当防衛とはなりませんが、犯罪をすることについての故意がない(錯誤がある)として処罰されない可能性があります。
誤想過剰防衛とは、正当防衛の成立要件の有無について誤信していた上、相当性を欠く過剰な防衛行為を行ってしまったような場合を言います。
上記のハイタッチしようとしていただけなのに殴られると誤信した例において、刃物で反撃したような場合は誤想過剰防衛に当たる可能性があります。
このような誤想過剰防衛の場合にも、刑法36条2項で刑の任意的減免の対象となると考えられています。
3 通常の犯罪としての処罰(正当防衛も過剰防衛等も認められない場合)
単なるケンカなど、正当防衛や過剰防衛が認められない場合には、通常の犯罪として処罰され、刑法36条による違法性の阻却や刑の減免はありません。
具体的には
- 暴行罪
- 傷害(致死)罪
- 殺人(未遂)罪
などが成立することがあります。
例えば、反撃によって相手に怪我をさせていれば傷害罪(15年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金)、怪我がなくても暴行罪(2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金)が適用され、最悪の場合は逮捕・勾留されて社会生活を失うことになりかねません。
特に、刃物など危険な凶器を使用したケースでは、殺人(未遂)等の重大事件として扱われることもあります。
また、「自分が先に挑発した」「喧嘩を仕掛けた」という場合には、正当防衛の主張が難しくなることがあります。
そのため、事件直後から適切な対応を取ることが重要です。
※傷害罪についてはこちら( 傷害事件の弁護活動について元検事の弁護士が解説|上原総合法律事務所 )の記事もご参照ください。
※暴行罪についてはこちら(暴行について元検事の弁護士が解説|上原総合法律事務所)の記事もご参照ください。
第4 正当防衛に関するよくある質問
1 相手を傷つけた場合も正当防衛は成立する?
相手を負傷させた場合でも、正当防衛が成立する可能性はあります。
重要なのは
- 本当に危険があったのか
- 防衛のためだったのか
- 行為が必要かつ相当だったか
です。
そのため、「怪我をさせたから必ず犯罪になる」というわけではありません。
一方で、結果が重大であるほど、捜査機関は慎重に判断する傾向があります。
2 防衛行為が過剰とされるケースとは?
過剰防衛とされやすい典型例としては
- 相手が倒れた後も暴行を続けた
- 相手が逃走した後に追いかけた
- 素手の相手に刃物を使用した
などがあります。
もっとも、実際にはその場の緊迫状況や恐怖心も考慮されます。
そのため、個別事情によって結論は異なります。
3 喧嘩における正当防衛の判断はどのようなものか?
喧嘩では、正当防衛が認められにくい傾向があります。
なぜなら、双方が攻撃意思を持っているケースが多いためです。
特に、
- 互いに殴り合っていた
- 挑発し合っていた
- 一度離れた後に再度争った
という場合には、単純な防衛行為とは評価されにくくなります。
もっとも、喧嘩中であっても、一方的に危険な攻撃を受けた場合などには、正当防衛が認められる余地があります。
第5 正当防衛の主張に必要な証拠
1 初動対応の重要性
正当防衛を主張する場合、初動対応が極めて重要です。
例えば
- 防犯カメラ映像
- 目撃者の証言
- 怪我の写真
- 現場状況
などが重要証拠になることがあります。
しかし、防犯カメラ映像などは時間が経つと消去されることがあります。
また、事件直後の供述内容は、その後の裁判でも重視されます。
そのため、安易な供述を避け、必要な証拠を保全するためにも、早期に弁護士へ相談することが重要です。
2 弁護士への早期相談のメリット
正当防衛が問題となる事件では、早期に弁護士へ相談することが重要です。
弁護士は
- 供述方針の整理
- 証拠保全
- 捜査機関への対応
- 正当防衛の成否についての法的検討
などを行います。
また、逮捕・勾留された場合には、早期釈放に向けた活動も重要になります。
正当防衛事件では、初期対応によって結果が大きく変わることも少なくありません。
第6 緊急避難との違い
正当防衛と似た制度に「緊急避難」があります。
緊急避難とは、現在の危険を避けるためにやむを得ず行った行為について、一定の場合に違法性を否定する制度です。
もっとも、正当防衛と異なり、相手の「不正な侵害」が必要ではありません。
例えば
- 火災から逃げるため他人の建物へ立ち入った
- 災害時にやむを得ず他人の物を壊した
などが典型例です。
第7 正当防衛が問題となる事件は上原総合法律事務所へ相談を
正当防衛は、自分や他人を守るためにやむを得ず行った行為について、刑事責任を否定する重要な制度です。
もっとも
- 急迫不正の侵害
- 防衛意思
- 必要性
- 相当性
などの要件を満たす必要があります。
また、防衛行為が行き過ぎた場合には、過剰防衛として処罰される可能性もあります。
正当防衛が問題となる事件では、初動対応や証拠確保、取調べにどう対応していくかなどが極めて重要です。
上原総合法律事務所は、元検事8名を中心とする弁護士集団で、迅速にご相談に乗れる体制を整えており、経験豊富な元検事の弁護士が、迅速かつ的確に対応いたします。
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