誘導尋問とは?刑事裁判・取調べでのルールと対処法を元検事の弁護士が解説

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弁護士 上原 幹男

弁護士 上原 幹男

第二東京弁護士会所属

この記事の監修者:弁護士 上原 幹男

司法修習後、検事任官(東京地方検察庁、奈良地方検察庁等)。検事退官後、都内法律事務所にて弁護士としての経験を経て、個人事務所を開設。 2021年に弁護士法人化し、現在、新宿事務所の他横浜・立川にも展開している。元検事(ヤメ検)の経験を活かした弁護活動をおこなっている。

テレビの刑事ドラマやニュースなどで、「誘導尋問」という言葉を耳にしたことがある方は多いのではないでしょうか。 

現実の刑事事件においても、「誘導尋問」は、証言の信用性を左右しうるほか、供述調書の証拠能力や信用性にも李経を与え得る重要な法律問題です。

警察や検察の取調べで、不適切な誘導尋問によって事実と異なる供述調書が作られてしまうと、その後の裁判で取り返しがつかない不利益を被る危険性があります。

また、裁判において誘導尋問の影響で証言の内容が影響を受けてしまうおそれもあります。

この記事では、刑事事件を多く扱う元検事(ヤメ検)の弁護士の視点から、誘導尋問の意味や具体例、刑事裁判におけるルール、さらに取調べとの関係や対処方法について解説します。

第1 誘導尋問とは何か

1 誘導尋問の意味

誘導尋問とは、質問内容の中に尋問をする者が期待する答えが明示的ないし暗示的に含まれている尋問のことを言い、回答者の供述を特定の方向に誘導してしまう可能性があります

通常、証人や被疑者に対する質問は、本人の記憶や認識をそのまま語ってもらう形で行われることが望ましいとされています。しかし、質問の仕方によっては、質問者が想定している答えを前提にした形で回答を引き出したり、特定の回答をするよう示唆することも可能になりえます。このような質問方法が誘導尋問です。

例えば次のような質問が典型的な例です。

  • あなたは被告人がナイフを持っていたのを見ましたよね
  • そのとき被告人は怒っていましたよね
  • 被告人が被害者の胸部をナイフで刺したんですよね

本来であれば、上記のような内容は「被告人は何を持っていたのか」「被告人の様子はどうだったのか」「それから被告人はどうしたのか」などと、オープンな形で質問するのが望ましいとされています。

さらに言えば、「証人が被告人を目撃したか」か「被告人が何かを持っていたか」という前提から確認すべきでしょうし、それらを経ず「被告人がナイフを持っており、それを証人が目撃した」という回答を引き出そうというはじめの質問から誘導尋問であると評価できるでしょうし、それに続く質問も「被告人が憤激していた」「被告人が被害者を刺した」という回答を引き出そうと誘導しているものといえます。

裁判や取調べという、多くの人にとって慣れない緊張する場で、検察官や弁護人から「○○だったんですよね」という質問のされ方をすれば、実際の記憶や認識はそうではなくとも、「はい」と回答してしまいがちです

そういった悪影響を排除しようという観点から、誘導尋問については一定の制限が設けられているのです。

2 誘導尋問の具体例

誘導尋問は日常的な会話でも起こり得ますが、刑事裁判では特に問題となります。例えば次のような質問が挙げられます。

「あなたは事件当日、被告人が被害者に暴力を振るっているのを見ましたか」

この質問は、「○○という状況を見たか」という形式ですが、「はい」という回答を誘導するものと評価しえますし、さらには、「被告人が暴力を振るった」という事実がすでに前提かのように含まれています。

これに対し、誘導的でない質問は次のようになります。

「事件当日、現場であなたが目撃した内容を教えてください」

このように、証人自身の記憶に基づく自由な説明を促す質問の方が、証言の信用性を確保しやすいと考えられています。

裁判では、このような質問方法の違いが証言の評価に影響を与えることがありますし、尋問の方法についても一定の制限が設けられています。

3 誤導尋問との違い

誘導尋問と似た概念に「誤導尋問」というものがあります。誤導尋問も証言内容を誘導する性質のものであり、線引きは難しいですが誘導尋問の一種と位置づけられるでしょう。

誤導尋問とは、争いのある事実や、いまだ証言等に顕れていない事実を前提に含む尋問であり、回答者を勘違いさせてしまう可能性があります

例えば、そもそも殴ったか否かが争いとなっており、殴ったという証言もまだなされていないのに「被告人が被害者を殴ったのは右手でしたか左手でしたか」といった質問をすることは、「殴った」という、争いがあり、証言されてもいない事実を前提とするもので誤導尋問といえます。

また、証人は「被告人は被害者を蹴った」と証言していたのに「殴った」ことを前提に質問するような、事実や従前の証言と異なる前提に立った尋問も、誤導尋問と一種と言えるでしょう。

誤導尋問は、回答者の記憶を混乱させ、事実とは異なる証言を誘導してしまうおそれも大きいため、裁判手続において単なる誘導尋問よりも厳しく制限されます

第2 刑事裁判における誘導尋問のルール

1 主尋問では原則禁止

刑事裁判では、証人尋問は通常「主尋問」「反対尋問」「再主尋問(再反対尋問)」という流れで行われます。また、裁判官から「補充質問」がなされる場合もあります。

主尋問とは、証人を申請した当事者が最初に行う尋問のことです。
この主尋問では、原則として誘導尋問が禁止されています

刑事訴訟規則第199条の3第3項

第百九十九条の三 主尋問は、立証すべき事項及びこれに関連する事項について行う。

2 主尋問においては、証人の供述の証明力を争うために必要な事項についても尋問することができる。

3 主尋問においては、誘導尋問をしてはならない。ただし、次の場合には、誘導尋問をすることができる。

一 証人の身分、経歴、交友関係等で、実質的な尋問に入るに先だつて明らかにする必要のある準備的事項に関するとき。

二 訴訟関係人に争のないことが明らかな事項に関するとき。

三 証人の記憶が明らかでない事項についてその記憶を喚起するため必要があるとき。

四 証人が主尋問者に対して敵意又は反感を示すとき。

五 証人が証言を避けようとする事項に関するとき。

六 証人が前の供述と相反するか又は実質的に異なる供述をした場合において、その供述した事項に関するとき。

七 その他誘導尋問を必要とする特別の事情があるとき。

4 誘導尋問をするについては、書面の朗読その他証人の供述に不当な影響を及ぼすおそれのある方法を避けるように注意しなければならない。

5 裁判長は、誘導尋問を相当でないと認めるときは、これを制限することができる。

その理由は、証人自身の記憶に基づく供述を引き出すことが重要だからです。もし主尋問で誘導尋問が広く認められてしまうと、質問者の意図によって証言内容が左右される可能性があります(特に、主尋問は証人を申請した側=証人の味方であることが多く、証人が質問者に迎合・忖度して証言内容を合わせる危険性も高いといえます。)。

そのため、主尋問では次のような質問が基本となります。

  • 事件当日、どこにいましたか
  • そのとき何を見ましたか
  • 被告人と被害者の様子はどうでしたか

このように、証人が自由に事実を説明できる形の質問が求められます。

【例外として許されるケース】

 ただし、証人の経歴(「あなたは○○会社の社員ですね?」等)や争いのない事実を前提として確認する場合、証人が緊張で記憶を整理できない場合の補助的な質問など、争点に直接関わらない部分や特に必要のある場合には例外的に許容されることがあります。

2 反対尋問では「広く認められる」

反対尋問とは、相手方が申請した証人に対して行う尋問です(例:検察側の証人に対し、弁護士が質問する)。
この尋問の目的は、証言の信用性を検証することにあります。

反対尋問では誘導尋問が広く認められています

なぜなら、反対尋問の目的は「証言の矛盾や嘘を暴き、信用性を検証(弾劾)すること」だからです。「先ほど午後7時と言いましたが、警察では午後8時と話していましたよね?」といった誘導的な質問をぶつけることで、証言のほころびを明らかにします。

ただし、威圧的な質問や不相当な質問については、裁判長が制限することがあります。

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第3 警察・検察の取調べと誘導尋問の危険性

1 取調べで誘導的質問が問題になる理由

警察や検察の取調べでは、誘導尋問、誘導的な質問は禁止されていません

しかし、強い誘導によって供述が作られてしまうと、その供述の信用性が疑われることになりえます。

例えば、取調官から次のような質問・発言が繰り返される場合があります。

「本当はあなたがやったんだろう」
「被害者を突き飛ばしたに決まってるだろう!」

このような心理的圧力を長時間受け続けると、人は「はい、私がやりました」と、記憶と違うことでも迎合して供述を変えてしまう危険性があります(これを「虚偽自白」と呼びます)。

そのため、取り調べにおける誘導的質問は、供述の信用性はもちろんのこと、供述が任意になされたかどうか(供述の任意性)という点でも問題になることがあります

2 供述の任意性と証拠能力

刑事裁判では、供述が証拠として認められるためには「任意性」が必要とされています

任意性とは、強制や圧力によらず、自由な意思で供述が行われたことを意味します

もし取調べの過程で極めて強い誘導や威圧的な取調べが行われていた場合、その供述は任意性を欠くとして証拠能力が否定される可能性があります。

また、任意性がないという判断にまでは至らなくとも、強い誘導を受けたことで引き出された供述等は信用できないとして、信用性が否定される可能㋔性もあります。

近年では、取調べの録音・録画(可視化)が進んでいますが、対象となる事件や場面は一部に限られており、密室での不当な誘導尋問リスクは依然として残っているほか、録音録画がされている中で不当な取調べがなされていたという事例も散見されます。

そのため、供述調書がどのような状況で作成されたのか、その前提としてどのような取調べが行われ、どのような経緯でどのような供述がなされたのかは、裁判において重要な争点となることがあります。

第4 誘導尋問に直面したときの対処法

〇裁判における対処法

裁判の主尋問において誘導尋問がなされた場合、通常は反対の当事者から異議が出され、質問が撤回されたり、質問が変更されたりします。

他方、誘導的ではあっても争点とは遠い内容であったりすれば、あえて異議を出さないという場合もありますし、自白事件ではそもそも事実関係に争う意はないのが通常ですので、大部分が誘導尋問ということもあります。

他方、誘導尋問に当たるかや、誘導尋問だとして例外的に許される場合に当たるかなどに争いがある場合には、双方が意見を述べ、裁判官がその尋問を制限するか判断するという場合もあります。

尋問をされている側としては、誘導尋問がなされた場合にも、安易に流されることなく、自身の記憶と認識に従って証言等することが重要です。

〇捜査段階・取調べにおける対処法

もし、あなたやご家族が警察の取調べを受けることになった場合、以下のポイントにご留意ください。

※取調べへの対応方法一般についてはこちら( 元検事の弁護士が取調べにどのように対応すべきか解説|上原総合法律事務所)の記事もご参照ください。

1 誘導に乗らない・署名を拒否する

誘導的な質問に対して、警察のペースに合わせて「はい」と答える必要はありません。事実と異なる前提で話が進められそうになったら、「それは違います」とはっきりと否定してください

また、自分の言ったことと違う内容や、ニュアンスが歪められた供述調書を出されても、絶対に署名・指印をしてはいけません。一度署名してしまうと、後から裁判で覆すのは極めて困難となりかねません。

また、理解できない内容の調書や、具体的に言語化できないけれども違和感があるといった調書に署名することも避けるべきです。

2 「黙秘権」を行使する

日本の刑事手続では、「黙秘権(不利益な供述を強制されない権利)」が保障されています。 誘導尋問が執拗に続く場合や、どう答えていいか分からない不安な状況では、「何も話さない」という選択が有効な防御手段となる場合もあります

ただ、黙秘権の行使は万能ではなく、黙っていればそれでよいという場面は限定的であり、特に不起訴を目指すという方針であれば積極的に弁解や主張を行うのが望ましい場合もあるため、刑事事件はもちろん、捜査機関の判断傾向等にも詳しい弁護士と相談するのが望ましいでしょう。

3 一日も早く弁護士を呼ぶ

刑事事件では、初動の対応がその後の人生を左右します。 早い段階で弁護士がつけば、取調べに対する具体的なアドバイス(どこまで話し、どこから黙秘すべきか、どのような主張をしていくべきか)を受けることができます。また、違法・不当な取調べに対しては、弁護士から捜査機関へ強く抗議することも可能ですし、供述の任意性や証拠の問題点について、裁判で適切に主張することも可能です。

取り調べの方法や証拠の内容によっては、無罪や不起訴につながる可能性もあります。

他方、録音録画下で不正確な供述をしてしまったり、問題ある内容の供述調書に署名等してしまえば、これを覆すことは容易ではありません。

そのため、刑事事件に巻き込まれた場合には、できるだけ早く弁護士に相談することが重要です。

第5 まとめ

誘導尋問とは、質問の中に答えの方向性を含めることで回答を誘導する尋問方法をいいます。
刑事裁判では、主尋問では原則として誘導尋問が制限される一方、反対尋問では原則認められ、主尋問でも一定程度認められています。

また、警察や検察の取調べにおいても、誘導的な質問が供述の任意性や信用性に影響を与える可能性があります。そのため、供述がどのように得られたのかは、裁判において重要な争点となることがあります。

刑事事件では、取調べへの対応や供述の扱いが結果に大きく影響します。不安がある場合には、できるだけ早く刑事事件や取調べの手法等に詳しい弁護士に相談することをおすすめします

上原総合法律事務所は、元検事8名を中心とする弁護士集団で、迅速にご相談に乗れる体制を整えています。

刑事事件に関するお悩みがある方は、ぜひ当事務所にご相談ください。経験豊富な元検事の弁護士が、迅速かつ的確に対応いたします。

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