黙秘すべきかどうかは、取調べ対応や裁判対応においてとても大切は判断です。
この記事では、元検事の弁護士が、黙秘権とは何か、黙秘できる場合、黙秘のメリットデメリット、について説明します。
執行猶予を得るための裁判の準備についてはこちらをご覧ください。
憲法38条1項は、
何人も、自己に不利益な供述を強要されない。
と定め、何人も自己が刑事上の責任を問われるおそれのある事項について供述を強要されないことを保障しています。
そして、現に捜査や訴追の対象となっている被疑者や被告人は、不利益な供述と利益な供述とを区別することが困難であり、不利益な供述に限って黙秘権を認めることとしたのでは、かえって不利益な供述を強要することとなってしまうおそれがあるため、刑事訴訟法は、被疑者・被告人につき、上記憲法38条1項の保障を拡張して、利益・不利益を問わず一切の供述を拒否できる包括的黙秘権を保障しています。
すなわち、被疑者については、刑事訴訟法198条2項が
前項の取調に際しては、被疑者に対し、あらかじめ、自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げなければならない。
と、「自己の意思に反して供述をする必要がない」供述拒否権の存在を前提としてその告知を定めています。
また、被告人については、同法311条1項が
被告人は、終始沈黙し、又は個々の質問に対し、供述を拒むことができる。
と定め、また、同法291条5項が、
裁判長は、第一項の起訴状の朗読が終わった後、被告人に対し、終始沈黙し、又は個々の質問に対し陳述を拒むことができる旨その他裁判所の規則で定める被告人の権利を保護するため必要な事項を告げた上、被告人及び弁護人に対し、被告事件について陳述する機会を与えなければならない。
と、裁判冒頭における裁判長による供述拒否権の告知を定めています。
黙秘権は、人格の尊厳に由来するものであるとされています。
供述をするかどうかの意思決定の自由は、人格の尊厳に由来するものであり、これを侵してはならないと考えられているのです。
事案を解明したい・罪を犯した者に反省させたいなどの考えから、犯罪の嫌疑を掛けられている者に対して真相を供述するよう求める志向が強くなるのは世の常であり、黙秘権を認めることでそうした志向を中和し、供述の強制によって人格の尊厳が侵されることがないようにしたものであるなどとも説明されるところです。
黙秘権は、求められた供述がどんな事柄であっても行使することが認められます。
最初から最後まで黙秘を続けてもよく、また、ある質問には答えて別の質問には黙秘するということも可能です。
ただし、氏名や住居などの人定事項については、基本的に供述を拒否できないと解されています。
また、黙秘権は、飽くまでも供述の拒否を保障する権利であって、虚偽を供述する自由まで保障したものではないことにも留意する必要があるでしょう。
捜査段階では、取調べが行われ、そこで供述した内容が供述調書に録取されたり、あるいは、録音録画下で取調べが行われていれば供述している場面自体が映像として記録されたりして、供述内容が証拠に残されることが通常です。
しかしながら、そうであるが故に、後に(特に公判段階に至って)記憶違いであったことに気が付くなどして以前とは異なる供述をした場合、供述が変遷している(前と変わっている)などと追及され、「記憶に従って真実を述べているのであれば供述が変遷するはずはないから、供述の信用性が乏しい」などと指摘されるといったことになり得ます。
そこで、黙秘権を行使することにより、弁護人との詳細な打合せに基づく記憶喚起等をする前の供述が証拠に残ることを防ぐことができ、ひいては、後に「供述が変遷しているから信用性が乏しい」などと指摘されるリスクをなくすことができます。
こうした点は、黙秘権を行使することのメリットと考えられるでしょう。
他方、黙秘権を行使すれば、供述をしないということになりますから、捜査機関等に対して当方の言い分を自ら供述することはできなくなってしまいます。
例えば、傷害事件を起こしてしまった場合において相手が挑発してきた・相手が先に暴行を加えてきたといった事情があるときや、相手の意思に反して性交をしたとの疑いを掛けられた場合において性交が意思に反していたとは考え難い前後の経緯があるときなどに、黙秘権を行使すれば、そのような事情や経緯を自らの口で捜査機関等に説明することはできなくなってしまいます。
また、黙秘権を行使するということになれば、少なくとも“素直に認めて反省の弁を述べるという態度をとってはいない”ということになり、相手方と示談を成立させることは難しくなるでしょう。
当方が犯罪をしたことを認めて反省する態度を見せていないのであれば示談に応じないという方が多いからです。
上記のように黙秘権の行使にはメリットとデメリットがあり、行使するのがよいのか供述するのがよいのかは、事案によっても異なります。
上原総合法律事務所は、元検事8名(令和6年9月30日現在)を中心とする弁護士集団であり、検事として多種多様な事件を処理してきた経験等を踏まえながら、黙秘権を行使すべき事案かどうかを含めてご助言をさせていただくことが可能です。
また、場合によっては、不適切な取調べを行っている捜査機関に対して抗議を行ったり、被害者との示談交渉を行ったりするなど、事案に応じて効果的な弁護活動をさせていただきます。
迅速にご相談に乗れる体制を整えておりますので、刑事事件に関するお悩みがある方は、ぜひ当事務所にご相談ください。経験豊富な元検事の弁護士が、迅速かつ的確に対応いたします。
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弁護士 上原 幹男
第二東京弁護士会所属
この記事の監修者:弁護士 上原 幹男
司法修習後、検事任官(東京地方検察庁、奈良地方検察庁等)。検事退官後、都内法律事務所にて弁護士としての経験を経て、個人事務所を開設。 2021年に弁護士法人化し、現在、新宿事務所の他横浜・立川にも展開している。元検事(ヤメ検)の経験を活かした弁護活動をおこなっている。
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