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令和4年7月7日、侮辱罪の法定刑が引き上げられ、侮辱罪厳罰化が実施されました。
報道によると、侮辱罪が厳罰化された目的はインターネット上の誹謗中傷対策を強化するためである、とのことです。
インターネットが普及する以前は、一般的な個人が自分の言葉を社会に広く伝える方法はありませんでした。
ところが、インターネットが普及し、メディアや著名人でない個人の発言が広く拡散される可能性が発生しました。
現在、インターネット上での誹謗中傷は、書いた人が軽い気持ちでしたことだとしても、被害者をとても傷つけてしまうことがあります。
実際に、恋愛リアリティー番組『テラスハウス』に出演中だったプロレスラーの木村花さんがネット上で誹謗中傷を受けて亡くなりました。
この事件は、社会に大きなショックを与えました。
インターネット上での誹謗中傷は厳しく処罰されるべきものとして社会に認知されつつあるように思われます。
厳罰化以前は、侮辱罪の法定刑は「拘留又は科料」(※)とされていました。
この侮辱罪の法定刑に、令和4年7月7日から「1年以下の懲役・禁錮または30万円以下の罰金」が加えられました(刑法231条)。
これにより、侮辱罪の時効は1年から3年に延長されます。
科料とは、千円以上一万円未満の裁判所の定める金額を国に収めなければならないことをいいます(刑法17条)。
今回、侮辱罪の厳罰化について動画を作成いたしました。
5分ほどの動画ですが、記事の内容をよりご理解いただけると思いますので、是非ご覧ください。
どのような場合に罪を犯したと疑われる人を身柄拘束できるかは、その罪の法定刑により違います。
侮辱罪のように拘留又は科料に当たる罪については、被疑者・被告人が定まった住居を有しない場合又は正当な理由がなく出頭要請に応じない場合に限り、逮捕することができます(刑事訴訟法199条1項但書)。
また、拘留又は科料に当たる罪は、定まった住居を有しない場合に限り勾留できます(刑事訴訟法60条3項)。
このような条件下では、捜査機関が身柄拘束したいと感じても、実際に逮捕・勾留することは困難でした。
これに対し、厳罰化により侮辱罪の法定刑に「1年以下の懲役・禁錮または30万円以下の罰金」が加わると、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある時に逮捕が可能になります(刑事訴訟法199条1項本文)。
勾留についても、この厳罰化が実現すれば「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき」や「逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき」に可能となります(刑事訴訟法60条1項2号・3号)。
インターネット上の誹謗中傷は、傷害事件などと違い、インターネット上という性質上、犯人の姿や声がわからない、という特徴があります。
そのため、証拠隠滅をする余地も大きく、「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある」場合も多いと思われます。
侮辱罪厳罰化により、捜査機関が侮辱罪の被疑者・被告人を身柄拘束できる範囲は大きく広がるといえます。
侮辱罪の法定刑が軽く、(1)で述べたように身柄拘束も困難でした。
そのためか、これまで、侮辱罪での立件は多くありませんでした。
また、「拘留または科料」と法定刑が軽いことは、そもそも侮辱罪を立件する必要性を感じづらいという感覚があったかもしれません。
「拘留または科料」と法定刑が軽いことは、捜査の難易度と関係がありません。
捜査機関は、法定刑にかかわらず、被疑者被告人がその罪を犯したと認められるに足りる程度に十分な証拠を収集する責任があります。
この証拠収集にはとても労力がかかります。
大きな労力をかけて証拠収集しても、侮辱罪では被疑者被告人が拘留または科料にしかならないのだとすれば、「捜査する必要があるのか」という感覚があってもおかしくないと考えます。
しかし、侮辱罪厳罰化により、状況は変わり得ます。
法改正により侮辱罪が厳罰化されることは、侮辱罪をこれまでよりも重大と考えるという立法者のメッセージと受け取ることもできます。
また、法定刑に懲役刑が加わったことで、侮辱罪を繰り返せば確実に刑務所行きになります。
さらに、身柄拘束しやすくなるため、捜査もしやすくなります。
こうしたことから、捜査機関が侮辱罪の立件により積極的になる可能性が高いと考えられます。
現在も、インターネット上の誹謗中傷に対する損害賠償請求は多数行われています。
インターネット上の誹謗中傷が許されない、誹謗中傷に対する損害賠償をすることができる、という社会の認識は日々強化されているように思われ、インターネット上の誹謗中傷に対する損害賠償請求はこれからも増えていくものと考えられます。
侮辱罪厳罰化は、この傾向を後押ししうるものです。
捜査機関が侮辱罪の立件に積極的になれば、まず捜査機関に刑事手続をお願いしてから損害賠償請求もするという対応が可能になります。
また、刑事手続が進行する可能性が上がると、刑事手続を避けたい加害者が早期に損害賠償する可能性が上がります。
これまでは損害賠償請求をする手間や費用が大きかったため、泣き寝入りした方が良いと考える被害者も少なくありませんでした。しかし、今後、厳罰化により、加害者が早期に損害賠償請求に対応するようになれば、被害者としても加害者にしっかり責任をとらせようと考えやすくなります。
このように、侮辱罪厳罰化はインターネット上の誹謗中傷に対する損害賠償請求を増加させる可能性が十分にあると考えられます。
インターネット上で他人を誹謗中傷してしまった方は、まず、その書き込みを削除するべきです。
削除すれば必ず侮辱罪での捜査や損害賠償請求を避けられるというわけではありませんが、書き込みが残っていれば被害が拡大し続けるため、加害結果が拡大し続けることになります。
加害結果が拡大すれば、加害者の罪や損害賠償の範囲が拡大し得ます。
書き込みを削除することは、被害者のためになるのはもちろん、自分の罪による害を増やさないという意味で、加害者のためにもなります。
誹謗中傷したことが被害者に発覚した場合、被害者や、被害者からの通報を受けた警察・学校・職場などから連絡が来ることがあります。
この場合、被害者に誠意を尽くし、示談交渉をするべきです。
示談をして許してもらうことができれば、事件を終了させることができます。
多くの場合、示談で事件を終結させるのが、加害者にとっても被害者にとっても望ましい解決です。
被害者が示談に応じてくれない場合や被害者の連絡先がわからない場合などには、警察に自首(加害者自ら犯罪事実を捜査機関に申告すること)することも有益です。
自首をすれば、必ず有利な情状になり、刑が軽くなったり、身柄拘束(逮捕・勾留)を避けられる可能性が上がったりします。
ただ、自首をすれば確実に警察沙汰になりますし、一人で自首することに躊躇するかもしれません。
自首するかどうかは家族でよく話し合い、必要に応じて弁護士に相談することをお勧めします。
誹謗中傷された方の多くは、まず、書き込みをなくして欲しいと考えます。
そのため、webサイトの管理者などに誹謗中傷の削除を請求します。
また、書き込みをした加害者がわかっている場合には、加害者に対して直接削除を求めることもできます。
誹謗中傷加害者に責任を取ってもらうためには、加害者を特定しなければいけません。
そのためには、サイト管理者やSNS運営会社などから発信者のIPアドレスなどの情報を開示してもらい、携帯電話会社やインターネットプロバイダ会社から発信者の氏名、住所の情報を開示してもらう、などといった手続を行います。
加害者が特定できれば、(3)刑事告訴 や(4)民事上の損害賠償請求 といった手段を取ることができます。
誹謗中傷の内容が侮辱罪などの犯罪に該当するものであれば、刑事事件として告訴することが可能です。
ご自身で警察に行くことで告訴を受け付けてもらえることが多いですが、うまくいかない場合には弁護士とともに警察に行くこともあります。
誹謗中傷を受けた被害者は精神的に大きなダメージを受けますし、学校や職場に行けなくなることも少なくありません。
このような損害に対し、主に金銭での賠償を求めていくことが可能です。
損害賠償請求する方法は、裁判所に訴えることも可能ですし、当事者間で話し合うことも可能です。
当事者間で話し合う場合には、お互いに感情的になって脅迫や暴力行為などの別の犯罪が発生しないように注意が必要です。
上原総合法律事務所では、「インターネット上での誹謗中傷の被害に遭っている、書き込みを削除してほしい」、という被害者側のご相談とともに、「インターネット上で誹謗中傷してしまったが後悔している、自分が書いてしまった書き込みを消したい」、という加害者側のご相談にも対応しています。
加害者が軽い気持ちで行ったことでも、被害者には大きなダメージを生じさせます。
上原総合法律事務所では、迅速にご相談に対応できる体制を整えています。
被害者の方はしっかり救われるようお力になりますし、後悔している加害者の方には誠意を尽くす方法をお伝えします。
インターネット上の誹謗中傷についてお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
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※事案の性質等によってはご相談をお受けできない場合もございますので、是非一度お問い合わせください。
弁護士 上原 幹男
第二東京弁護士会所属
この記事の監修者:弁護士 上原 幹男
司法修習後、検事任官(東京地方検察庁、奈良地方検察庁等)。検事退官後、都内法律事務所にて弁護士としての経験を経て、個人事務所を開設。 2021年に弁護士法人化し、現在、新宿事務所の他横浜・立川にも展開している。元検事(ヤメ検)の経験を活かした弁護活動をおこなっている。
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