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少年が少年を殺してしまった、などの重大事件について

少年同士のトラブルにより被害者が亡くなってしまったという報道がなされることがあります。
このような事件については大々的に報道がなされますし、人々の話題になります。

このような事件について聞けば、とても痛ましく悲しい気持ちになるとともに、犯罪の理不尽さ、法律による加害者の保護について、被害者の実名報道についてなど、多くのことを考えます。
きっと、似たような疑問を持ったことがある方も多いのではないかと思います。

刑事事件に関わることは、その人の人生における最も大きな出来事の1つです。
そして、非日常的な出来事であるため、事件の当事者だったり関係者でないとわからないことがたくさんあります。
そのため、周囲の第三者が、思いもよらず事件の当事者や関係者を傷つけてしまう事もあります。
事件に関わっていない方が、事件について考え、想像力を持つことは、有益だと考えます。

弁護士上原幹男は、元検察官であり、検察官としても弁護士としても刑事事件に関わり続けてきました。
その観点から、少年同士のトラブルにより被害者が亡くなってしまったというとても痛ましい事件に関連し、知っていること、考えることをお伝えします。

なお、この記事は、少年法による加害者の保護や実名報道等の議論が生じるテーマを扱っていますが、弁護士上原幹男及び上原総合法律事務所の意見・結論を表明することを目的するものではなく、意見を記載しているものでもありません。

1 事件に関わるということについて

多くの場合、事件は突然やってきます。
被害者側にとってはもちろん、加害者の家族にとっても突然のことです。
また、加害者にとっても、怒りで突発的にやってしまったことだったり、「殺したい」などと口で言っていてもまさか自分が犯行に踏み切れるとは思っていなかったりします。

そして、加害者も被害者もそれぞれの家族も、突然の事件自体に大きく動揺しますし、事件の存在を正しく認識して受け入れることすらも難しいです。
自分や家族が重大犯罪を犯してしまったこと、重大犯罪の被害に遭ってしまったことは、当初、現実感がなく、何度も「これは夢だろうか」「夢だったらいいのに」「どうすれば良いのだろう」などということを考えます。何も考えられなくなることも少なくありません。

しかし、社会は当事者が落ち着くのを待ってくれません。

捜査機関は捜査を開始しなければならず、加害者側からも被害者側からも話を聞きます。
重大事件であれば、報道機関が取材をし、家の呼び鈴を鳴らし、電話をかけ、カメラを向けてきます。

テレビをつければ、自分たちのことを扱ったニュースが流れます。
遺族の意思にかかわらず被害者の実名が報道されることもあります。

報道は、時間が経つにつれて減り、なくなっていきます。
ですが、報道が落ち着いた後も、周囲の人たちは事件のこと知っていて、被害者側も加害者側も「あの事件の人」と認識されます。それは、優しさであることも好奇心本位であることもありますが、いずれにせよ完全に事件前の状態に戻る事はありません。

重大事件に関わった人たちの環境は、事件を境に大きく、かつ不可逆に変化します。
それまで普通に暮らしていた人も、突如として、加害者側は「殺人犯とその家族」に、被害者側は「殺人被害者と遺族」になります。

2 犯罪被害に遭うという事について

少年事件に限らず、犯罪は本当に理不尽です。
被害者は、仮に何の落ち度がなくても、事件に巻き込まれてしまうことがあります。
被害者が亡くなるなどの取り返しのつかない結果が生じると、被害者やその周辺者には、とても強い怒りや悲しみが生じ、どうして良いのか分からなくなります。

加害者側・被害者側を問わず、弁護士上原幹男は、多くの事件で、「事件という悪い体験をしたことを消化して良い方向に活かすように工夫しよう」とお伝えします。
しかし、取り返しのつかない結果が生じてしまった事件については、事件のエネルギーが大きすぎて事件を消化できないため、そのような言葉をかける事自体が困難です。

このような場合、被害者やご遺族は苦しみながら時間を過ごすほかなく、極めて長い時間をかけて、同じ問いを繰り返しながら、少しずつ少しずつ事件を消化しなければいけません。

「なぜ自分だったのか」

「なぜうちの子だったのか」

「もしタイミングが少し違ったら被害に合わなかったのか」

「もし事件当日の予定を別の予定にしていたら被害に合わなかったのに」

「なぜ被害に遭わなければいけなかったのか」

「なぜ加害者は五体満足で生きているのか」

弁護士やその他の関係者は、専門性によりお力になることのほかには、寄り添うことしかできません。

3 なぜ法律により加害者である少年が保護されるのか

少年は、少年法という法律で保護されています。
そのため、加害者である少年の実名報道が規制されていますし、身柄拘束や刑罰についても、成人と比べて保護されています。

被害者側の気持ちを思うと、加害者が保護されることにとても理不尽を感じます。
この当事者の気持ちは避けがたいものです。

この問題は、「被害者側視点からすると法制度がおかしいように感じる」という問題です。
これは、少年事件のみならず、刑事手続全体で存在します。
この点を考えると、刑事手続が犯罪という理不尽を処理するために国家により作られ、裁判所により運営されている制度であり、本質的に事件を解決することはできない存在だということがよくわかります。

例えば、殺人罪の法定刑は死刑又は無期若しくは5年以上の懲役です。しかし、人ひとりを殺した事件では、裁判所は懲役10年程度を刑罰とすることが多いです。
この結論に納得できる被害者のご遺族は多くないと考えますし、そもそも、どんな刑罰を下したとしても亡くなった方は帰って来ません。

また、諸外国を見ると、死刑制度を廃止している国も多く、日本でも、死刑制度を廃止するかどうかは度々議論がなされます。

現行の刑事手続は、完全なものでも、唯一無二のものでもなく、刑事手続が犯罪という理不尽を処理するために国家が作り、運営しているものです。

4 被害者側の実名報道の必要性

加害者側の少年は、少年法の規制により実名報道を避けられています。
ですが、亡くなった少年の氏名や学校名は、広く報道されます。

「なぜこのような被害者側の方が保護されないという事態が起きるのか」、という質問を受けることがあります。

この問題については、加害者側と被害者側を比較して被害者側が保護されていない、という問題提起をするよりも、なぜ実名報道がされているのか、と考える方が問題の本質に近づけます。

被害者側についても加害者側についても、実名報道の是非は長年にわたって議論されています。

法律的なことをいうと、最高裁判所が

     「報道機関の報道は、民主主義社会において、国民が国政に関与するにつき、
      重要な判断の資料を提供し、国民の「知る権利」に奉仕する」ので、
     「事実の報道の自由は、表現の自由を規定した憲法二一条の保障のもとにある」

と判断しており、法律で実名報道を規制することは報道の自由の制限になるため、憲法上保証されている報道の自由を制限するだけの重大な理由が必要となります。

加害者の実名報道については少年を保護するなどの目的で、少年法が

     家庭裁判所の審判に付された少年又は少年のとき犯した罪により
     公訴を提起された者については、氏名、年齢、職業、住居、容ぼう等により
     その者が当該事件の本人であることを推知することができるような記事又は写真を
     新聞紙その他の出版物に掲載してはならない。

と規定していますが、これも罰則などは規定されていない弱い規制になっています。
そして、被害者側については、法的な報道規制は見当たりません。

実名報道を許すべきか許さないべきかという議論には、多様な議論があります。
賛否のいずれにも積極的な論拠があります。

一般の方がこの問題で認識すべきは、報道機関は実名報道することを選択し、その結果として、日々、被害者等の実名が社会に知れ渡っている、ということです。この点を改めて認識することは、事件の当事者が近くにいるときに想像力を働かせる上で役に立つ、という意味で意義があると考えます。

報道機関には実名報道する法的義務はありませんので、実名報道すべきではないと考えた事案については実名報道しません。
実際に、少年法の規制の対象外であっても自主的に加害者の実名報道を避けていることもあります。
これに対して、実名報道がされている報道については、誰が被害にあったのかが知れ渡り、インターネットを介して半永久的に記録されているとわかりつつ、報道機関は、あえて被害者の実名を報道しています。

そして、私たちの前には日々そのニュースが通り過ぎています。

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