刑事事件における不同意性交等致傷について、刑法の解釈、従前の強制性交等致傷・準強制性交等致傷との違い、弁護活動のポイントなどを弁護士が解説します。
犯罪の成立要件と刑罰について学び、適切な対応策を知りましょう。
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不同意性交等致傷罪は、刑法177条により定められる不同意性交等罪の加重類型として、同法181条2項により定められている罪であり、「不同意性交等罪又はその未遂罪を犯し、よって人を死傷させた」場合に成立します。
ア 致傷罪の前提となる不同意性交等罪は、「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて」性交等を行うことを処罰する罪です。
つまり、
①同意しない意思を「形成」することが困難な状態
②同意しない意思を「表明」することが困難な状態
③同意しない意思を「全う」することが困難な状態
の3つのいずれかに、「させ又はその状態に乗じ」ることが要件とされています。
①同意しない意思を「形成」することが困難な状態とは、性的行為をするかどうかを考えたり、決めたりするきっかけや能力が不足していて、性的行為をしない、したくないという意思を持つこと自体が難しい状態をいいます。
②同意しない意思を「表明」することが困難な状態」とは、性的行為をしない、したくないという意思を持つことはできたものの、それを外部に表すことが難しい状態をいいます。
③同意しない意思を「全う」することが困難な状態とは、性的行為をしない、したくないという意思を外部に表すことはできたものの、その意思のとおりになることが難しい状態をいいます。
イ そして、被害者がそのような状態にあったかどうかの判断を行いやすくするため、刑法は、その原因となり得る行為や事由として、以下の8つの類型を例示しています(同法177条1項 により同法176条1項が準用)。
一 暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと。
二 心身の障害を生じさせること又はそれがあること。
三 アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること。
四 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること。
五 同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと。
六 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕させること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること。
七 虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること。
八 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。
「一 暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと」につき、「暴行」とは、人の身体に向けられた不法な有形力の行使をいい、「脅迫」とは、他人を畏怖させるような害悪の告知をいいます。
「二 心身の障害を生じさせること又はそれがあること」につき、「心身の障害」とは、身体障害、知的障害、発達障害及び精神障害であり、一時的なものを含みます。
「三 アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること」につき、「アルコール若しくは薬物」の「摂取」とは、飲酒や、薬物の投与・服用のことをいいます。
「四 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること」につき、「睡眠」とは、眠っていて意識が失われている状態をいい、「その他の意識が明瞭でない状態」とは、例えば、意識がもうろうとしているような、睡眠以外の原因で意識がはっきりしない状態をいいます。
「五 同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと」とは、性的行為がされようとしていることに気付いてから、性的行為がされるまでの間に、その性的行為について自由な意思決定をするための時間のゆとりがないことをいいます。
「六 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕させること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること」とは、いわゆるフリーズの状態、つまり、予想外の事態や予想を超える事態に直面したことから、自分の身に危害が加わると考え、極度に不安になったり、強く動揺して平静を失った状態をいいます。
「七 虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること」につき、「虐待に起因する心理的反応」とは、虐待を受けたことによる、それを通常の出来事として受け入れたり、抵抗しても無駄だと考える心理状態や、虐待を目の当たりにしたことによる、恐怖心を抱いている状態などをいいます。
「八 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること」につき、「経済的・・・関係」とは、金銭その他の財産に関する関係を広く含み、「社会的関係」とは、家庭・会社・学校といった社会生活における関係を広く含みます。
また、「不利益を憂慮」とは、自らやその親族等に不利益が及ぶことを不安に思うことをいいます。
ウ また、上記のとおり例示された8つの類型に加え、刑法177条2項は、“行為がわいせつなものでないとの誤信”や“人違い”をさせ又はその状態に乗じて性交等をした場合にも、同様に不同意性交等罪が成立することを定めています。
エ さらに、刑法は、一定の年齢に達していない相手方と性交等をした場合、上記類型等に該当するかどうかを問わず、性交等をしたことだけで不同意性交等罪が成立することを定めています。
すなわち、13歳未満の人と性交等をした場合には、上記類型等に該当するかどうかを問わず、不同意性交等罪が成立します。
また、13歳以上16歳未満の人と性交等をした者が、相手より5歳以上年長(年上)であった場合にも、上記類型等に該当するかどうかを問わず、不同意性交等罪が成立します。
致傷罪の前提となる不同意性交等罪の「性交等」とは、
・男性の陰茎を、
・女性である被害者の膣内に挿入する「膣性交」
・被害者(男女を問わない)の肛門に挿入する「肛門性交」
・被害者(男女を問わない)の口腔内(口の中)に挿入する「口腔性交」
・男女を問わず、陰茎以外の身体の一部(例えば指など)を、被害者(男女を問わない)の膣又は 肛門に挿入するわいせつな行為
・男女を問わず、何らかの物を、被害者(男女を問わない)の膣又は肛門に挿入するわいせつな行為
の全てをいうとされています。
不同意性交等「致傷」罪は、不同意性交等罪又はその未遂罪を犯して、性交等自体やその手段である暴行などによって被害者にけがを負わせた場合や、被害者が被害を免れようとしたためにけがを負った場合などに成立します。
例えば、
・不同意性交等罪における膣性交によって、被害者の処女膜を裂傷させた場合
・不同意性交等罪における性交等を行うため、それに先立って被害者に暴力を振るってけがを負わせた場合
・不同意性交等罪における性交等の最中に、助けを求めて叫ぶ被害者を黙らせるために暴力を振るってけがを負わせた場合
・被害者が、不同意性交等罪における性交等の被害を逃れるため、2階から飛び降りて逃げた際にけがを負った場合
などには、不同意性交等「致傷」罪が成立することになります。
不同意性交等致傷罪の法定刑は、
無期又は6年以上の懲役
であり、相当に重く、実刑になる可能性が高いといえます。
法定刑として無期刑が定められていますので、不同意性交等致傷罪の審理は、裁判員裁判により行われることになります。
不同意性交等致傷罪の公訴時効は、
20年
です(刑事訴訟法250条3項)。
ただし、被害者が被害時に18歳未満である場合、公訴時効の20年は、
被害者が18歳になる誕生日から起算する
ことになります(同条4項)。
例えば、12歳の人が不同意性交等致傷罪の被害に遭った場合、公訴時効はその被害者が38歳に達する日まで完成しない(38歳になる誕生日を迎えた瞬間=午前0時に完成する)ことになります。
不同意性交等(致傷)罪は、令和5年7月13日に施行された改正刑法(令和5年法律第66号)により、(準)強制性交等(致傷)罪が改められたものです。
膣又は肛門に陰茎以外の身体の一部又は物を挿入する行為は、改正前は「性交等」に該当せず(準)強制性交等(致傷罪)罪は成立しない(法定刑が低い「わいせつな行為」にしか該当せず(準)強制わいせつ罪しか成立しない)とされていましたが、改正後の不同意性交等(致傷)罪では「性交等」に該当することとされて同罪が成立することになりました。
また、13歳以上16歳未満の人と性交等をした者が、相手より5歳以上年長(年上)であった場合に、その相手の同意の有無を問わず、不同意性交等罪が成立することとなり、性交同意年齢が16歳に引き上げられました。
これらの点は、改正前後での特に大きな違いと言えるでしょう。
もっとも、上記の2点を除くと、改正の趣旨は、処罰されるべき“同意していない性交等”がより的確に処罰されるようになることを意図したものであるとされています。
すなわち、性犯罪の本質的な要素は、「自由な意思決定が困難な状態で行われた性的行為」であるとされているところ、改正前の(準)強制性交等(致傷)罪では、そのような本質的な要素を満たすかどうかを、「暴行」・「脅迫」、「心神喪失」・「抗拒不能」といった要件によって判断していましたが、これに対しては、それらの要件の解釈により犯罪の成否の判断にばらつきが生じ、事案によっては、その成立範囲が限定的に解されてしまう余地があるのではないかとの指摘がなされていました。
そこで、それらの要件を改め、「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態」という表現を用いて統一的な要件とすることとし、また、被害者がそのような状態にあったかどうかの判断を行いやすくするため、その原因となり得る行為や事由についても、具体的に例示されることとなったのです。
これらにより、不同意性交等(致傷)罪は、(準)強制性交等(致傷)罪と比較して、より明確で、判断のばらつきが生じない規定になったとされています。
上記のとおり、不同意性交等致傷罪は、相当に重い法定刑が定められている重大な犯罪です。
しかしながら、起訴前に被害者と示談ができ、被害者が宥恕して(許して)処罰を求めないなどの意向となれば、検察官がこれを尊重して不起訴処分とする可能性は十分にあります。
また、起訴された場合、実刑となる可能性が非常に高いといえますが、(起訴前に示談ができていなくとも起訴後に)示談ができ、被害者が宥恕等すれば、裁判官・裁判員がこれを尊重して執行猶予判決とする可能性も低くはありません。
したがって、弁護人としては、起訴前であれば不起訴・起訴後であれば執行猶予判決を目指し、被害者との示談成立に向けて交渉することが重要な活動となります。
もっとも、容疑を否認する場合、被害を主張している方と示談することは考え難いでしょう。
その場合、弁護人としては、嫌疑を掛けられてしまった依頼者様とよく打ち合わせ、主張に沿う証拠を丁寧に収集するなどしながら、検察官に無実であることを訴え、万が一起訴されてしまった場合でも、裁判で依頼者様の主張に沿う証拠の取調べを請求するなどしながら、裁判官に無罪を主張することになります。
そうした証拠としては、例えば、被害に遭ったとされる時点より前の経緯に関するものであれば、被害を主張している方が依頼者様に好意を寄せているメッセージ、依頼者様が被害を主張している方と2人きりになる前に同席していた知人による「被害を主張している方が依頼者様に好意を寄せているようだった」旨の証言、被害を主張している方が依頼者様と積極的にホテルに入っていく状況が記録された防犯カメラ映像等が考えられるでしょう。
また、被害に遭ったとされる時点より後の経緯に関するものであれば、被害を主張している方がその後も依頼者様に好意を寄せているメッセージ、依頼者様と被害を主張している方との親密な関係が継続していたことが分かる写真や動画等が考えられるでしょう。
ただし、これらは飽くまで一例にすぎず、事案によって異なりますから、よく打合せをさせていただき、事案に応じた証拠を探していくことになります。
性交中にたまたま怪我をさせてしまったという場合(例えば、相手の顔を勢い余って壁にぶつけてしまった場合など)、不同意性交等致傷罪は成立しません。
上述のとおり、不同意性交等致傷罪は、「不同意性交等又はその未遂罪を犯し、よって人に傷害を負わせたとき」に成立する犯罪です。
性交等自体がお互いの同意の上でなされているのであれば、不同意性交等罪は成立せず、当然、その致傷罪も成立しません。
また、お相手様が真に同意をして性交等に応じていたのであれば、後になってお相手様から「あのときの性交等は同意していなかった」と主張されたとしても、不同意性交等(致傷)罪が成立することはありません。
もっとも、警察がお相手様から不同意性交等(致傷)罪の被害申告を受けた場合、お相手様の話だけを聞いて捜査を開始せざるを得ません。
そのため、上記のようなあらぬ嫌疑を掛けられることになってしまった場合には、警察がまだお相手様の話しか聞くことができていない状態であることを念頭に置き、まずは、こちら側の言い分をしっかりと警察に話し、それに沿った証拠を提示するというのが、ベストな選択となることが多いでしょう。
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